表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

第9話『本格的始動!、心深く閉じ込めた想い』

陽介にとって決断の一週間がやってきた。



 先週、明智と出会いエステの事を深く知る事になり、如何に自分がしてきた事が、偽りの奮起だったかを思い知った。

 肌に関して、美容に関しても何かも知識が不足していた。

施術すれば、変われる、変わるだろう、

何処かでそう思っていたに違いない。


でも、今の陽介は違う、少なからず肌に関して

知識は得た、あとはこれをどう使いこなしていくかだ。



yes or no 選択次第でこれからが決まる。




決断まで残り6日目


 陽介は会社から帰宅すると、近くの本屋に向かった。

そこは有名な本屋で、「神野國谷」という。

 その建物は8階相当の高さで、其々の階で

ジャンルが別れている。

例えば、1階は漫画、2階はライトノベルの様に仕切られている。


「さてと、アレは何階にあるんだろうか?、やっぱり女性誌の近くか?」


「いや、まてよ、、専門的な知識何だから、ジャンル的には専門誌か、、店員に聞いてみた方が早いな。」


陽介はとある本を探していた。

明智と出会い知識を得た事で、もっと知りたくなったのだ、肌の事を。

陽介は手隙な店員を探して、声を掛けてみた、

メガネを掛けた40代位の太った男性だ。


「あのう、美容に関する本って何階にあるんですか?」


 「それでしたら5階にありますよ。」


「ありがとうございます。」


 無愛想な感じでその店員は答えた。

学生の頃アルバイトで、接客業をしてきた陽介からしたら、彼の態度は気に障った。

 いくら自分が忙しくても、お客さんから尋ねられたら、笑顔で返事するものだ。

そう陽介は教わってきたし、やってきた。

だからこそ、会社では、部長、課長に可愛がられている。


「あの態度は無いよな、忙しくても聞かれたら笑顔で、詳しく客に教えるものだ。」


「5階にあるだけじゃ、数万とある専門誌の中でどう探すんだ?、、もっと気を使わないと。」


「愚痴っても仕方ないか、確かストレスは美容の天敵と聞いたことがある、、俺の方こそスマイルだな。」


「人の振り見て我が振り直せだな、、亡くなった婆ちゃんがよく教えてくれたっけ。」


「おっ、といけない早く買って帰らなきゃ。」


 陽介は急いで5階に向かった、各階に上がるには手段が複数ある、エレベーターを使うか、エスカレーターか、階段で行くか。

 陽介は目の前にある、エスカレーターに乗り

立ち尽くして待つのは嫌だったので、一気に駆け上がった。


 5階のフロアに来た陽介は、広大な広さに驚いた。

見渡す限り本棚、本が沢山あり、この中からお目当ての物を探すのは至難の業だ。

時間を浪費する訳にはいかないので、

また店員を探す事にする。


 フロアをうろうろしながら、手隙の店員を探す、フロア内には結構な数の客が居た。

陽介はその客の波をかき分け店員を探す。

 そこに一人の女性店員が目に留まった、

メガネを掛けた、おさげ髪の10代位の女の子だ。

アルバイトだろうか?一抹の不安があるが、

今は声を掛けるしかない状況だ。


「あのう、美容に関する本ってどの辺りにありますかね?」


 「美容に関する本ですか?、、あ!、それでしたら、こちらです、ご案内します。」


「ありがとう!助かるよ。」


 アルバイトに一見見えてしまったが、話してみると受答えがしっかりしていて、先程の店員とは違い、客に対する接客が完璧だった。

 最近の若い子達は、きちんとしてるんだなと

陽介は感心した。


店員は陽介を目的の場所まで連れて行き、

会釈をすると、またフロア内に消えていった。


「よし、探すとするか。」


「あ行~わ行まで分かれてるから、欲しい本の頭文字はエステ、美容、肌だから、あ、ば、は行だな。」


陽介はその3行を徹底的に探した。

色々タイトルがあり、どの本が詳しく記載されているか判断に困った、表表紙、裏表紙を見ても解らない。


「まいったな~、、どの本が良いんだろうか?、、漫画本とか、エロ本なら、書いてある内容が大体見当つくけど。」


「これじゃあ、当たりか、外れか解らないよな。」


 陽介は暫く考え込み、周りをよく見渡した。

すると、1冊だけ少しずれて飛び出している、本を見付けた。

その本のタイトル名は 『美肌検定古文書』という本だった。


「これだ!、見付けた、きっとこれに違いない、名前が物語ってるよな。」


陽介は本を手に取ると、5階にあるレジに向かい

購入した。


店を出て寄り道もせず、真っ直ぐ帰宅し、

部屋に入るなり、買ってきた本を読んだ。

書いてある内容はこうだった。



社団法人日本エステ協会が、この春から作った、「美肌検定(L)」本。化粧品や肌のお手入れに関する情報が氾濫している今、そもそも美肌とはどのような肌なのか、肌の為に本当に良いことは何なのか?

皆さんと考えていく、究極の1冊です。



扉ページから、大層な物言いだったが、

内容はとても勉強になる事ばかり書いてあった。


「凄いな、、知らないことばかりだ。、、明智さんが言ってた事も書いてあるな。」


「買って良かった、、あの店に通うにせよ、通わないにせよ、知識は宝だ。」


その夜、陽介は夜通し本を読んだ。

何も知らなかった頃の陽介とは違う、今は心強い味方がいるのだから。


══════════════════


決断まで残り3日目




 陽介は会社帰り一人の老婆に道を聞かれ、心配なので着いて行くことにした、目的地まで送り届けた陽介は、知らず知らず、いつもとは違う道に出てしまった。

 途方に暮れてる陽介は辺りを見回すと、そこに看板が見えた『サウナあります』

銭湯の看板だった。


「早く帰って今日も、パソコンを使って肌の知識を広げよう。」


 「もしもし、そこの人。」


「ん?、、俺ですか?」


 「つかぬことを聞きますが、、『株木町』はどこにありますかのう。」


「株木町ですか、それならその道を真っ直ぐ行って、左に曲がれば大きな看板が見えますよ。」


 「さいですか、孫が働いてるのを聞いて心配になって様子を見に来たんじゃ。」


「なるほど、、何処に行きたいんですか?、住所とか解りますか?。」


 「ここへ行きたいんじゃ。」


「ああ、この店ですね、お孫さんホストなんですね、、それは心配だ。」


「あの町はお年寄り一人じゃ危ないですから、案内しますよ。」


 「さいですか、有難いですじゃ。」


暫く歩いていくと、株木町の看板が見えてきた。

株木町はホストやキャバクラ、風俗などに色々な店舗が引き締めあっている場所だ。

陽介でさえ、訪れた事は無い。


「さぁ、着きましたよ、、お孫さんに会えると良いですね。」


 「かたじけないのう、あんたいい男だ、、これは年寄りの独り言と思って聞いて欲しいんじゃが、もし迷いがあるなら、、自分の思った事を正直にした方がええぞぞ。」


 「なに、うちの息子があんた位の頃にな、同じような顔をしていたからのう、、気になってのう。」


「凄いなお婆ちゃん、、確かに今悩みあるよ、正直戸惑ってる、、トラウマになってるからさ、、でも少し楽になったよありがとう!。」


 「ほんに、ありがとう、、真っ直ぐ生きんしゃい。」


「はい、お婆ちゃんも元気で、、。」


陽介は老婆と別れると、駅に急いで向かった。


「あれ?、、どこだ?ここ、、。」


「さっきとは違う道に出ちゃったな、、。」


「まいったな、、携帯で調べようにも電池が無い。」


「仕方無いな、誰かに道を聞くか、、道案内して、自分が迷子になるって世話ないな。」


「ん?、、なんだろうあの看板、、銭湯の様だけど、、サウナありますか、、そういえば、美容で大切なのは汗をかくこと、老廃物を流すことだったな。」


「よし、汗かいてるし、折角だから入って行くか。」


 陽介は銭湯のサウナに入る事にした、番頭に代金を渡すと、男湯のロッカールームに向かい、上半身裸になり、下半身はタオル一枚になって男湯に入った。


この時間帯は、お年寄りが多いみたいで、

周りにはおじいさん達が体を洗ったり、湯に入ってあたたまったりしていた。

隣は女湯だが、敢えて触れないでおこう。

現実は残酷なのだから。


 陽介は体や頭を洗うと、近くの湯に浸かり

30分程してから出た。

銭湯の温度は約42℃ある、熱いように思えるが、この温度こそ殺菌効果が最も得られる

温度らしい。


猫舌ならね、猫体の陽介は長湯出来なかった。

目的であったサウナ室を見つけ陽介は初めて入ってみた。


 サウナ室に入ると物凄い高温が襲ってくる、

中に居たおじいさんは汗をだらだらかき腰掛けていた。

陽介は高温に戸惑い、中々座れずにいた。

それもその筈。

 サウナ室内は低いところで摂氏70~80℃、高いところだと90℃ 腰かけている足元は約70℃、腰の辺りは80℃。になるらしい。


サウナ初心者の陽介には流石にきつい。

周りの年寄りが怪訝な顔をしているので、陽介は腹をくくり腰掛けた。


「あちぃー、、焼けるように熱い。」


「息を吸う度喉の奥が焼けるようだ、、。」


「水が欲しい、、。」


 入ってまだ15分しか経っていないものの

陽介はダウン寸前だった。

サウナは飲酒の後に入ると脱水症状を起こすらしい。

 酒が苦手な陽介はシラフな状態なので危険は無いが、みるみるうちに水分が失われた。


だが、良いこともある、汗を沢山かいた事により、老廃物が汗と共に流れ落ちていった。


「うぁ、、こんなに汗をかいたのは初めてだ、、汗をかくって大切な事だな。」


その後頑張って2時間近く入った。

サウナから出た陽介はフラフラで、千鳥足にも似た感じだった。

でも、外へ出た時にそれは、無駄じゃない行為に思えた。


外は冬の凍り付くような寒さで、体に突き刺す痛みだが、それすら今の陽介には心地良かった。

体の毛穴が閉じた感じがして、爽やかな体感に包まれていた。


「うぉー!、、風が気持ちいい、、なんかいつもとは違う、、これが風を感じるってやつなんだな、サウナ最高!。」


陽介は心地良さを感じながら、通行人に道を聞いて、帰路へ着くのだった。


═══════════════════


決断の最終日。


 この時陽介の心は決まっていた、ここ数日、本を買ったり、おばあさんにアドバイスをもらったり、サウナに入ったり、自分なりに頑張った。  

 答えを出す前に、もう一度自分を試してみたかった、本気でこの先自分磨きをやっていく、

覚悟があるかどうかを。


陽介は携帯を右手に取り、あの店、明智が居る

リ・アースに電話をした。


♪プルルルッ プルルルッ


二回程コールが為った後、誰かが受話器に出た。


「もしもし、リ・アースの明智です、どちら様でしょうか?」


 「漆原です、先週そちらに体験しに行った。」


「ああ!、漆原さん、待っていましたよ~、、それで答えは出ましたか?」


 「はい!、俺、、自分磨き本気で頑張ります、ですから、よろしくお願いします!」


「分かりました~、頑張って行きましょう、

では、早速予約を取りましょうか?、、いつ頃にしますか?」


 「では、来週の月曜日、19時にお願いします。」


「了解しました~、、12月1日木曜日19時にお待ちしていますね。」


 「よろしくお願いします!」


ガチャ ツー ツー


「よし、これで、準備は整った、あとは、気合いだけだ。」


「時枝、清瀬、、そして、、夢の中の女の子、

必ず俺は変わってみせる!。」


陽介は右拳を高く上に突き上げ、改めて誓った。




一方、エステ店リ・アースでは陽介との電話の後、明智が女性スタッフ相手に談笑していた。




 「電話、例のこの前の彼からだったんですか?」


「そうよ、やっぱりアタシが睨んだ通り来たわね!、、だって私が勧めたんだから。」


 「あれ?、、明智さん、あの時悪口言ってませんでしたっけ?」


「そうですよぉ~、、私が来るって言ったんですよぉ~、当たっちゃた~♪」


「何よ!○○、私が施術して、、良かったら来たのよ。」


「はい、はい、明智さんが正しいですよ。」


「明智さん~、怒らないでくださぃ、シワが増えますよぉ~」


「!」


「そ、そうよね、、あたしったらお馬鹿さん、取り敢えず今週木曜日19時に彼来るから。」


「暫くは私が担当するわね、そのうち○○と○○、にも担当してもらうから覚えておいて。」


「この前来た時に解ったけど、結構荒療治が必要ね彼。」


「先ずは、キメを作るまで肌を再生させないとね、、他も色々改善するところが多々あるけど、それは後回しね。」


「でも、、彼は逸材になるかもしれないわ、1回の施術で、あんなに結果が出るなんて、ごく希よ、、正直私もビックリしたわ、、。」


 「そんなに凄かったんですね、会うの楽しみですね。」


「私もぉ会うの楽しみですぅ~♪」



こうして、それぞれの日常が過ぎていった。


そして、12月1日。陽介の自分磨き

記念すべき1回目が始まる


═══════════════════


自分磨き編 



12月1日木曜日当日。

会社から帰宅すると、急いで着替え、

コートを羽織、陽介は、リ・アースに向かった。


この日の為に勉強し、気合いも入れてきた。

あとは、自分の体を信用するだけだ。

体は生きている、俺だけのものじゃない。

一緒に成長して行こう、変わって行こう。


 陽介は、自問自答していた。

否、体と対話していた。

 花を育てる時に可愛がったり、話し掛けてやると、その花は綺麗に咲き答えると云う。

きっと体も同じなのだろうと思う陽介だった。


「よし、着いた、、行くぞ!」


 気合いを入れ陽介はエレベーターに乗り、店のある3階で降りた。

 相変わらず、可愛らしい字で書いてある看板が

目立っていた。

 まさか、明智が書いたものじゃないだろうか?

だとしたら人は見掛けによるかもしれない。

何て事を考えながら、扉を開け、中に入り呼び鈴を鳴らした。


「はーい、漆原さんお待ちしてました~。」


 「こんばんは、本日からよろしくお願いします。」


「はい、こちらこそお願いします。」


「では、本日は、前回と一緒でフェイシャル、顔の手入れと、リンパの凝りをほぐすのと、

また、個室で、肌の勉強をしましょう!。」



 「よろしくお願いします。」


「では、着替えたら、そこの突き当たりの部屋に来てくださいね。」



 「分かりました。」


 陽介は、前回同様、バスローブを羽織、紙パンツを履き、突き当たりの部屋に向かった。

歩いていて解ったが、10部屋位あった。

 他の部屋からは、男の悲痛な叫びが聞こえる、中には女性スタッフと話してる客もいる。

羨ましい、陽介は思ってしまった。


「では、仰向けになって下さいね。」


 「はい。」


 施術は前回同様だ、顔にスチームを当て、汚れを浮き出させて、美顔器で顔全体をほぐして、ついでに首の懲りも取ってくれた。その後に保湿クリームを塗った。

 ただ、前回と違った点は鼻の毛穴の汚れを取る為に初めて見る機械を使っていた。

 先端が細い筒状みたいな感じの物で、勢いよく吸い付いては、離れ、吸い付いては、離れを繰り返した。


「今度はうつ伏せになって下さいね、サービスで背中の凝りをほぐしますから。」


 「ありがとうございます。」


「凄い、随分凝ってますね、、お仕事は何してるんですか?。」


 「会社員です、デスクワークが多いので、椅子に座ったままですから背中が、猫背でして。」


「なるほど~、確かに猫背になりますね、姿勢もお肌にとって大事ですからね、、どういう風に大事か教えますね。」


「猫背になると、背中にある大きな筋肉「僧帽筋」が硬くなります。その僧帽筋が硬くなると血流が悪くなってコリが出きます、僧帽筋には表情筋を助けるような役割があるので、これが硬くなると、表情筋も正常に動かなくなり、顔のたるみやくすみを招くことになりますよ。」


「また、猫背になると血流が悪くなって肌荒れを起こしたり、肌の老化現象が加速することにつながりますから、日頃のケアが必要不可欠です。」


 「なるほど、背中ってそんなに大事だったんですね、知らなかった。」


「そうよ、体は繋がっているんです。」


「はい、終わりました、、では着替えたら、この前の個室に来てくださいね。」


陽介は施術が終わると、急いで着替え

例の個室に向かった。



そこには前回同様、モニターが置かれていた。

明智は座り陽介を待っていた。


「今日は、肌についてもっと勉強しましょう。」


 「はい、お願いします!」


「いくら肌を綺麗にしても、老廃物を取らなければ、意味がありません、、老廃物を取り除く方法は、、施術後に水分補給をして、排尿や汗で、外に出さないと駄目です。」


「老廃物を体外へ促すためには1日2リットルの水分を小まめに取る事が大事ですからね。」



「それと、食事も大事。

老廃物を対外へ排出する食物繊維を豊富に含む食品は(玄米・豆・きのこ・ごぼう・レンコン等)があるわよ。」


 「なるほど、水分と、食事も大事なんですね。」


 「でも、普段から卵や、納豆等食べていますから、その辺は大丈夫です。」


 「実は先週サウナに行ってきまして、汗をかいてきました、やっぱり汗をかくことは大事なんですね。」


「偉いですよ、そうです!、、とても大事です、汗から排出される量は3パーセント、、排尿と排便からは70パーセントなんです。」


「だから出すことは大切なことなんですよ、

便秘も大敵、肌荒れするし、嫌なことだらけよ。」


 「肌を維持するには、そんなに気を使わなきゃいけなかったんですね。」


「今日はこれくらいにしましょうね。」


陽介はフロントに向かい、来週の予約を入れた。


「次は2週間後ね、、間を空けないと、逆に肌を傷つけちゃうからね、今漆原さんの肌は、長い眠りから覚めそうな感じだから、ゆっくりケアしないと、ビックリしちゃうから。」


 「分かりました、確かにそうですね、では2週間後にお願いします。」


「はい、お待ちしてます。」



明智は帰る陽介を見送った。


帰りがけ陽介は、自販機でミルクコーヒーを買った。

コーヒーはブラックより、ミルクを入れる派の陽介。


「今日も勉強になったなぁ~、、本当に明智さんは良い人だ、、今までの担当はあそこまで親身になって教えてくれなかった。」


「まぁ、不満は無いが、、強いて言えば、時々出るあのオネェ言葉はなんだろうか、、。」


「個性?、癖?、、うーん、そうだな、深く考えないようにしよう。」


「しっかし、、寒いな~、後1ヶ月もないんだな、、今年も終わりか、、クリスマス、、また今年もシングルマス、、サミシマスだな。」


「来年こそは!、彼女作ってやるーーっ!」


陽介の魂の叫びは真冬の空に虚しく響いた。


一方リ・アースではいつもの談笑が始まっていた。


「お疲れ様~。」


 「お疲れ様です。」


「お疲れ様ですぅ~。」


「今日影山さん来てたみたいだけど、どうなの?、、bodyの方は順調?」


 「そうですね、、ちょっとリバウンドしたみたいです、暴飲暴食したらしいので。」


「あらそうなのね。」


「そっちはどうなの?○○、確かヘアーよね?」


「佐々木さんわぁ~、、順調に生えてきてますよぉ~、、ただ、、最近抜け毛が多いなぁ~って。」


 「あらあら、それはお気の毒ね。」


「明智さんわぁ~どうなんですかぁ、例の人。」


「こっちも順調よ、寧ろ、順調過ぎるくらい。」


「本当に彼の肌の変わり様は凄いわ、何でも肌のケアを若い頃にしてこなかったらしいのよ。」


「信じられる?化粧水も、日焼け対策すらしてこなかったのよ。」


「ええっ!、、そうなんですかぁ~、、びっくりですぅ~。」


 「なるほど、だから、ケアを始めたから急激に肌が活性化したんですね?。」


 「そうね、、私も長く『エステティシャン』やってきたけど、あんなに早く成長する人間は初めてだわ。」


「明智さんがぁ、、褒めるなんてぇ~ますます会ってみたいですぅ~♪」


「そのうち会わせるわよ、、年末に向けて忙しくなるから、そ・れ・に、、私もプライベートも忙しくなるから。」


「また、アレですか、、出会いですか?。」


「そうよ、女は咲き乱れるのよ、、貴女達も良い人作りなさいな!。」


「私はぁ~、、まだいいかなぁ~。」


「まぁ、○○じゃ無理でしょうね。」


「明智さん、ヒドイですぅ~。」


「二人ともそろそろ帰りますよ、、閉店時間過ぎてます、、。」


こうして陽介の自分磨き初日の夜は更けていった。


═══════════════════


三回目の施術の日



陽介の自分磨き初日から、三回目がやってきた。

会社から帰宅すると、いつものように店に向かい、リ・アースに到着した。

流石に三回目となると、慣れたものだ。


フロントに行き呼び鈴を鳴らす。


明智が出てきて、いつものやり取りが行われ、

今日も明智なのかなと、思っていた矢先

挨拶だけで、意外にも明智は早退した。


「こんばんは、今日もよろしくお願いします。」


 「はい、こんばんは、、悪いわね、今日は私用事あるの、、だから違う者が担当するわね。」


 「いつもの様に着替えて、奥の部屋に行って

ベッドで仰向けになっていてね。」


「分かりました、、明智さん以外か、、誰なんだろう、、。」


 陽介はロッカールームで着替え、奥の部屋に行き仰向けに寝てると、一人の見知らぬ女性が入ってきた。

 年は30代位で茶髪の長髪を後ろにしばっていて、声は化粧品販売をしてそうな、上品な感じの声色だった。



「本日担当します、東村です。よろしくお願いします。」


 「こちらこそよろしくお願いします。」


「漆原さんの事は、明智さんから聞いてますよ、、だから任せて下さい。」


「今日は新しい機械で、肌をほぐしますから。」


 東村はそう言うと、明智と同じ手順で

施術を進めていく。

 一つ解った事がある、例えやってる事が同じでも、肌に触れた指の感覚や、指の動かし方は

当たり前だが違う、でも逆にいつも明智だから凄く新鮮に感じた。


「今年も終わりですね、初詣とか行くんですか?」


 「俺は初詣行った事ないんですよ、、昔から神社はあまり好きじゃなくて。」


「そうなんですか、珍しいですね、でも

分かります、、わたしも混んでて行くの嫌になりますから、大体友達に誘われるんですけどね。」


 「ですよね、、若い頃はよく付き合わされました、、初詣の映るテレビを観ると悲惨に思えます。」


「では、新しい機械を使いますね、、それで今日は、もう一人担当が居まして、その子が施術を担当します。」



「呼んで来ますので、暫くお待ちくださいね。」


「はい、分かりました。」


東村はその場をを離れた。


「もう一人か、、どんな子なんだろう。」


「しかし、やっぱり女性にしてもらうと、癒されるな。」


 陽介が期待しながら待っていると、カーテン越しに声がして、その声の主が入ってきた。

なんとも可愛らしい声だ、アニメ声に近い、

しかも、声だけ聴けば10代の高校生に聴こえる。

見掛けは20代前半位で、長い髪をお団子に巻いていた。


「失礼しますぅ~。」


 「はい。」


「本日担当します、神楽坂ですぅ。」


 「よろしくお願いします。」


「はぁい、、こちらこそお願いします。」


 「可愛らしい声ですね。」


「本当ですかぁ~、嬉しいですぅ。」


 陽介は思わず声を掛けた、声が可愛く、顔も可愛い。

だが、何処かで見たような、懐かしい感じがしたのは気のせいか。

よく見てみると、やっぱり可愛い。

 いや、そうじゃない、夢のあの子にそっくりだった。

陽介が絶望したあの時に、手を差しのべてくれた、あの子に。


「どうかしましたかぁ~?」


「いや、何でもないです、、ただ、、可愛いなと。」


「ありがとうございますぅ~。」


「さっさく、新しい機械を使いますね~」


神楽坂は陽介の顔に美顔器みたいな機械に先が吸盤状になってる物を取り付けた。

心電図に使うような物だ。

付け終わり、電源を入れると、ドクドクと

吸盤が動き出す、まるで心臓の動きみたいだ。


「不思議な感じがしますね、、なんか心臓みたいです。」


「心臓ですかぁ~?、、面白いですね、、これは顔の緊張をほぐしてぇ、電気によって奥に化粧水等を浸透させる効果があるんですよぉ~。」


「凄いですね、初めてやります。」


「それはそうですよぉ~、今日初めてなんですからぁ。」


「それもそうですね。」


「はぁい終わりました、後は保湿して、終わりです。」


「ありがとうございました。」


「ではぁ、着替えて、予約して行って下さいね。」


「はい、予約出来ましたぁ~。」


「またいらしてくださぃ。」


「はい、、今日はありがとうございました。」


可愛い子に見送られて嬉しいのは、男の性である。


 陽介は神楽坂の可愛さにやられ、終始どぎまぎしながら、帰路に着いた。

部屋に入った陽介は、エイトイレブンで買ってきた、肉弁当を食べながら、先程の神楽坂とのやり取りを思い出していた。


「可愛かったな~、声も可愛し、オタク受けしそうだったな。」


「それにしても、、夢の中のあの子に似ていた。、、瓜二つってやつだったな。」


「だけど、当たり前のようだが、仕草も、声も、喋り方も違う、、。」


「不思議な経験だな、、こんな偶然あるんだろうか。」


「まぁ、考えても仕方無いや、風呂入って、早く寝よう、、おっと、水分採るの忘れちゃダメだな。」


陽介はあの日以来、水分を欠かさず採っている。


「明日は、年の瀬だから特に忙しいぞ、、頑張らないとな!。」


陽介はまたあの子の夢が見れると良いなと思いながら就寝した。


時は陽介が帰った後の時間に遡る。


エステ店リ・アース。


営業時間 平日PM 12時~20時迄

     土日祝祭日 PM 11時~19時迄


「ただいま~、、今帰ったわよ。」


 「お帰りなさい、外寒くなかったですか?」


「寒いわよ~、、でもハートはポカポカよ!。」


「お帰りなさぁい~、、お土産ないんですかぁ~?」


「あるわけないじゃない、、『未歩』あなた、子供っぽい口調直しなさいって私何度も言ったわよね?」


「確かに言われましたけどぉ~、、これが私なんだからぁ、、しょうがないじゃないですかぁ~。」


「キーッ!、そうやってぶりっこして、、言うこと聞かない子には、もうあげません!」


「ヒドイですぅ~、、やっぱりお土産あったんじゃないですかぁ~。」


 「まぁ、まぁ、明智さんも未歩に厳し過ぎますよ、お茶入れたから、二人とも食べましょ。」


「また、そうやって、『洋子』は未歩を甘やかすんだから!。」


「わぁい~、お土産、これ有名なケーキ屋さんのケーキですよぉ~。」


三人は明智が買ってきたケーキを頬張りながら陽介の話をした。


「で、今日漆原さん、どうだった?」


 「今日は明智さんに言われた通りに、新しい機械を使ったんですけど、、凄いですね、、言ってた通りでした、直ぐに効果が出てきて、正直びっくりしました。」


「でしょ?、、私が見抜いた逸材よ!、彼はもっとこれから変わるわよ。」


「未歩は、一緒にやったんでしょ?どうだった?。」


「私はぁ~、そうですね~、、二人とは印象がちがくてぇ~、、不思議な変な人に思えました。」


「え?」


明智と東村は目を見合わせて、キョトンとした。


「あらいやだ、また未歩の天然爆弾が炸裂したわ、、。」


 「いつもの、、事ですよ、、。」


「何か悪いこと言いましたぁ?」


「いや、、良いのよ、、未歩あなた、、うん、いいの、、真っ直ぐ生きなさい。」


「?」


 「そろそろ片付けて帰りますよ二人とも。」


「はぁい~。」


まさか、陽介が可愛い、可愛いと言っていた。神楽坂未歩に影でこんな事を言われているとは思わないだろう。

現実とは残酷である。


══════════════════


それから時は流れ、2年の半の月日が経った。



 陽介が自分磨きを始めてから2年半、季節は夏に差し掛かっていた。

その頃には、色黒だった陽介の肌は徐々に白くなっていた。

しかも、肌の施術だけではなく、明智の勧めもあって、bodyのケアも始めたのだ。

 主にbodyのケアは内臓脂肪を、改善する事。

内臓脂肪とは体脂肪のうち、おなか周りについた脂肪である。

その脂肪を専用の機械で、お腹をほぐして、体質改善を促す。



 陽介は前にも増して、リ・アースに通うのが楽しみになっていた。

その理由は二つある。

一つは、2年も通えた事、変わっていく自分が誇らしく思えた。

 二つ目は、あの可愛い子が担当になってくれたことだ。

この頃になると明智は忙しいらしく。

殆んど担当が神楽坂未歩だった。

 そして、程術にbodyがプラスされ、予約は一週間に1回になっていた。

だから、通うのが楽しかった。


 逆に1年目は、東村洋子が担当していた。

東村とは話が合い、世間話をする仲までなっていた。

 2年目に入ると、すれ違う程度になっていたが、陽介を見掛ける度に話し掛けてきたという。


 では、肝心の神楽坂未歩というと。

第一印象は、不思議な変な人だったが。

陽介の変わり様は勿論、2年半も通い、しかも  

 無遅刻無欠席という、リ・アース始まって以来の快挙を成し遂げていたので、陽介に対する見方が変わっていた。


 それはどうしてか、エステに通う者は何かのきっかけで、始める者が多い。

例えば、周りより老けて見えるとか、青髭が目立つ、髭が濃い、肌がニキビだらけ、等、自分で気付くか、誰かに指摘されるかである。


 通い始めは良いが、効果が得られないと、

段々不安になり、それがやがて、苛つきに変わり、挫折し、去って行く。

エステをすれば変われると思っている者が大半だ。

 でもそれは大きな間違いで、実際には食事制限や、筋トレや、化粧水、クリームに至っても

本人のやる気、変わる気、毎日の手入れがあってこそ。


エステはあくまでも、その手伝いをする手段であり、エステティシャンは客のメンタルや、体や肌のサポートをする立派な職業である。



 認定エステティシャンの合格率は80%程で、認定校で指定のカリキュラムを終了させるか、エステサロンでの実務経験3年以上が必要になるらしい。

大体の者が合格出来る。

だが、本当に客を癒せるのは一握りだと云う。


そんな、自分磨きが長続きしない、出来無い者が多い中、陽介は2年半も通っていたので、店では有名で、神楽坂未歩の中でも、不思議な変な人から不思議な人に印象が変わっていたのである。


また、呼び方にも変化が現れ、明智が陽介の事を漆さんと略した為に、リ・アースではそう呼ばれるようになった。



「こんにちは~」


「こんにちわぁ~、待ってましたよぉ。漆さん。」


「今日は『よもぎ』に入った後にぃ、bodyして、フェイシャルしますぅ。」


 「よろしくお願いします!」


「では着替えた後にぃ、いつもの場所で待っていてくださぁぃ。」


陽介はいつもの個室に向かった、先程神楽坂が言っていた、よもぎとは何か?


 よもぎ蒸しとは韓国の温熱美容法だ。 専用の椅子は真ん中がくり貫かれていて、そこに座りマントを被り、首だけ出した状態にする、汗をもっと出す為に首にタオルを巻き付ける場合もある。


 良い匂いのハーブ蒸気でゆっくり身体を温め、内外からハーブの成分を取り入れる

全身を低温の霧でじっくり温め、発汗を促進させ、身体を芯から温め、余分な水分や老廃物等を排出させる。


ハーブの煙の熱が当たる為、お尻がもの凄く熱くなる、最初の頃陽介はそれが苦手だった。

現在は温度調節が出来る事を知った事により、

鬼に金棒である。


「漆さん、熱くないですかぁ?」


「は、はい、大丈夫です。」


「熱かったら言ってくださぁぃ。」


「このくらい、大丈夫ですよ、はっはっは。」


「後、15分ですぅ、また様子見に来ますね。」


「はい、頑張ります。」


男という生き物は、異性の前では格好付けてしまう生き物である、ましてや、それが可愛い子となると尚更だ。


 陽介は神楽坂に対し恋愛感情は持っていなかった、実際には初対面の時に一目惚れしたのだが、あの頃は自分磨きする事に必死だった、変わりたい、変わってみたい。

そういう想いが、その想いを奥深くに閉じ込めたのだろう。

 神楽坂は陽介にとって高嶺の花

きっと彼氏が居ると思って諦めていた節も否めなかった。


「神楽坂さんいつ見ても可愛いな~、そこら辺のアイドルより、可愛い。」


「やっぱりエステティシャンだけあって、オーラが違うな。」


「それにあのポワポワした、雰囲気に喋り方、可愛い声。」


「きっとオタク受けするに違いない。」


等と陽介が思っていると、神楽坂が様子を見に来た。


「漆さん、どうですかぁ?、汗かきましたぁ?」


「はい、上半身、下半身が汗が凄くて、、顔周りは、相変わらず、少ないです。」


「そうですかぁ、、じゃあ、もう10分入りましょう、、頑張って下さいねっ!」


「はい!頑張ります!」


再度、神楽坂はその場を離れた。


「ああ、可愛いな~、、癒される。」


「一週間の疲れが飛ぶな~。」


 よもぎに入れば誰しも汗を、ダラダラかく訳ではない。

陽介の様に上半身、下半身がかきやすく、顔周りがかきづらい者も居る。

逆も然りだ。

その日の体調や水分量等様々である。


「はぁい、終わりです、次はbodyしましょう、仰向けになってくださぁぃ。」


 「は~い。」


 bodyの施術は、『テクトロン』と呼ばれる吸盤状の物を体の、主に腹回りに4ヶ所~5ヶ所に付ける、付けられた吸盤から、高周波の電気が流れ、上下に重圧がかかり、慣れない者だと腹痛の時お腹が痛くなる感じに錯覚するだろう。

 そして、このテクトロンは、客の状態、取り組んでいるメニュー合わせ、高周波のレベルが変えられるのだ。


 普通の人間はレベル1~3迄は耐えられるが、4~5になると中々きつい。

レベルが上がるほど重圧倍になる。

でも、その分脂肪は燃焼され、太った体型の者は痩せる事が出来る。

勿論、本人の努力次第である。


 この頃の陽介はレベル3.5が限界だった。

痛みに強い陽介だが、如何せん、この未知の感覚にまだ慣れずにいた。

テクトロンの要する時間は20分

終わった頃には吸盤後が、身体中に残る。

だが、不思議な事にビリビリ痺れていた

あの感覚が嘘の様に無くなるのだ。


 終わると、直ぐにシャワーに案内される。

テクトロンを使用した後は、誰でも滝のような汗をかくのだ。

 それもその筈、汗をかく為に毛布に包まれ、

体の自由も効かない、そのうえ、あのビリビリした重圧を20分耐えないといけない。

だからこそ汗を沢山かく。


 神楽坂はbodyをしている間に、フェイシャルを同時にする。

出来るエステティシャンは、先を読みながら仕事をする。

 意外にも神楽坂はテキパキしていて、動きも早いし、施術の腕も抜群だ。

普段のポワポワした雰囲気からは想像がつかない。


「凄いですねぇ~、漆さん、、鼻の毛穴の角質が減ってますよ~」


「本当だ~、大分減りましたね。」


神楽坂は取れた角質を陽介に見せた。

この行為は恐らく客に戒める為なのだろう。

あなたの角質はまだありますよと。

二人にとっては毎度恒例行事だった。


「次に保湿クリーム塗りますねぇ~。」


「はい、お願いします~」


 陽介はクリームを塗られのが好きだった。

塗る時に、可愛らしいその小さな指が、鼻を掠めたり、頬に触れたり、とにかく丁寧で、癒される。

自分でクリームを塗ってもそうはいかない。

余計な力が入ってしまうからだ。


「はぁい、終わりです。」


「着替えたらフロントで予約してくださぁぃ。」


 「分かりました。」



「今日もお疲れ様でしたぁ~、また来週おまちしてますねぇ~。」


笑顔の神楽坂に見送られて、陽介は店を後にした。


「ああ、、今日も可愛いかったな~。」


「すげぇ、癒された。」


「あ!、、そういえばこの後、久し振りに笹山と飯を食うんだったな。」


「おっと、いけない、いけないまた、笹山に奢らされるところだった。」


陽介は笹山と待ち合わせた、水池駅に向かった。

bodyのケアを終えたばかりで、体は頗る快調だ。


駅に着くと、待ち合わせの改札に向かい、

笹山を待った。

20分遅れで笹山が現れ、悪びれた様子も無しに、いつもの様にふざけ始めた。


「陽介先輩~、、待ちました?」


 「ああ、待ったよ20分もまたせていただきました。」


「そうですか~、、先に店に行ってくれてれば良かったのに。」


 「あのな、お前が改札が良いって言ったんだぞ!。」


「あれ?、、俺そんな事言いましたっけ?」


 「おい、いい加減にしないと、怒るぞ。」


「やだなぁ、先輩冗談ですよ、、さっ、行きましょ、行きましょ。」


二人は店に向かい歩きだした。

途中笹山はふらふらと店に入っては出ての、奇行を繰り返したが、その度、陽介は全力で止めた。


「なんでお前は関係無い店に入っては出てを繰り返してるんだ?。」 


 「え?、、それは先輩が止めるのが面白いからに決まってるからじゃないですか。」


「おい、、お前な、、。」


 「とにかく行くぞ、俺は腹が減ったんだ。」


 やっと店に辿り着いた、陽介、笹山が入店した店はラーメン屋だった。

店内夜21時、沢山の客で賑わっており、OL や、サラリーマン、家族連れが多数。

 陽介達は店内の座敷に案内され、お冷やをもらい、メニューを見た。


「陽介先輩~、何食べるんですか?」


 「俺か?、そうだな、ラーメンには俺は五月蝿いぞ。」


 「特に、チャーハンだな、チャーハンを食べればその店の味が解る。」


「じゃあ先輩はラーメンとチャーハンですね、、俺は、五目ラーメンにします。」


 「じゃあ、俺は塩ラーメンと半チャーハンだな。」


「あれ?先輩半チャーハンって、、ダイエットですか?」


 「あのな、俺は痩せてるの、太った事は一度も無いの!」


「そうなんですか~、、それより早く頼みましょう。」


暫くして、注文が運ばれてきた。

陽介は腹が減っ手仕方がなかったので、笹山を無視して全力で食べた。


「ああ、、旨い。」

「美味い、、チャーハンうまいぞ。」


「うんうん、この濃厚な味が心地良いハーモニー、、口に広がるこんがり感。」


「素晴らしい、良い仕事してますね~。」


 「先輩、陽介先輩!、、あのう、、聞いてます?」


「塩ラーメンも旨い!、、味の秘密はダシだな、、面も細過ぎず、太すぎず、、。」


 「先輩、、陽介先輩、、こら!、漆原!!」


陽介の箸が止まり我に帰った。


 「あのう、先輩。」


「あ?、、お前今呼び捨てしたな?」


「覚悟は出来てるか?、、笹山ちゃん。」


 「すいません、、大事な事を思い出して、陽介先輩に聞いていただきたいんですよ。」


「なんだよ、、その大事な事って。」


 「あのですね、、大変言いづらいんですが、、。」


「早く言えって、、大事な話なんだろ?」


 「分かりました、、言います!、、財布落としました!。」


「は?」


 「ですから、財布落としたんです、、だから、今日奢って下さーい!。」


「嫌だ、断る。」


 「どうしてですか、可哀想な後輩が無線飲食で捕まって、挙げ句牢屋に入れられ、哀れな最後を遂げても構わないんですかぁー!。」


 「あんたに流れてる血は何色だぁー!。」


「赤色だよバカヤロー!、自業自得だろ!財布失くしたって、当たり前だろ来る途中にあんなにふざけていたんだから。」


「逆立ちまでしていたからな、お前。」


「その時にでも落としたんだな、きっと。」


 「…」


「あれだな、良くある店の手伝いをして、ラーメン代払うしかないな。」


失意の笹山はなんとか陽介に奢らせる為に、この場を切り抜ける為に、打開する為に探した、何か無いか?、見落としてるところは無いか?

そして、見つけた、活路を、再起を、嘘ではなく、御世辞でも無い、この事を伝えれば。


「あれ?話変わりますけど、陽介先輩、肌白くなりました?、、それに綺麗になってますね、、前より若返ったんじゃないですか?」


 「ん?なんだ唐突に。」


 「おお、そう見えるか?、、そうだろ?

そのあれだな、、自分磨きというかな、手入れをするようになってな。」


 「なんていうか、一皮剥けたみたいな、下は剥けてるけどな!、、ってなんて事言わせるんだ!。」


「本当ですよ~、、社内の女子から評判良いですよ先輩。」


「皆口々に言ってますよ~、、陽介先輩は変わったって。、、いや~こんな素敵な先輩を持って俺は幸せな後輩だな~。」


 「お!そうか?、、そうだろ、、なんか気分良くなってきたな、、よし!今日は仕方無いな奢ってやるか!。」


 「財布失くしたんだから仕方無いもんな帰り掛け交番も寄ってやるから安心して食え。」


「ありがとうございます~、、陽介先輩!、、一生付いていきます。」


「ああ~良かったちょろくて。」


 「ん?、、なんか言ったか?」


「いや、何でもないです~。」


 笹山は何とか切り抜けた、実際笹山は変わったってきた陽介に対し、凄いと思っていた。

正直あんなに老けていて、おっさんに見えたのに。

 人の印象とは変わるものだ、変わらないのは

笹山はいつまでも、陽介の手のかかる後輩だということ。

 店を出た二人は、交番に寄り紛失届けを出そうとしたが、親切な誰かが財布を交番に届けてくれたらしい。


笹山は安堵しながら改札を出ていった。

陽介も帰りがけ、今日採ってしまったカロリーを消費する為、走って家に戻って行った。


═════════════════════


自分磨き三年目 季節は夏




三年目のとある日ちょっとしたハプニングが起きた。

いつもの様に陽介は、リ・アースを訪れていた。

今日も神楽坂かなと、ワクワクしながら、

扉を開けた。


「こんにちは~。」


「…」


応答が無い、誰も居ないんだろうか?

陽介は仕方が無いので、スリッパに履き替えると、待合室で待った。

すると、気配に気付いたのか、神楽坂が出てきた。


「すいません~、、おまぁたせしまぁしたぁ~。」


「いえ、いえ、大丈夫ですよ、、。」


「それではぁ、きがえてぇきてぇください。」


「はい、分かりました。」


 何やら神楽坂の様子がおかしい、いつも通りポワポワした感じに見えるのだが、拗音がいつもより多目の様な。、、気のせいだろうか?

それに何だろう?この違和感は。

陽介は一応、着替えを済ませ部屋に向かった。



「しょれでわ、仰向けになってくらぁさぃ~。」


 「ん?、はい。」


「かおの汚れとりましゅね~。」


 「!」


「あれぇ、うごかないでくらぁさぃ。」


 「か、神楽坂さん?、、どうしました?。」


「何がどうしたんれすかぁ~?。」


 「あ、あのう、もしかして、、酔ってます?。」


「私がよってりゅっていいたいんれすかぁ~。」


 「だ、駄目だ、、完全に酔ってる。」


 「大丈夫ですか、、明智さん呼んできましょうか?。」


「そうれすよ~、、酔ってますよぉ~、、それの何が、わるいんれすかぁ~!。」


 「怒らないで下さい、、ほら水を飲んで。

何があったんですか。」



「きのう~、、明智さんと、、飲んで、それから記憶がなくてぇ~、、気がついたらぁ~、、店にいたんれすよ~。」


「あ」


 陽介は察した、置いていかれたんだと。

普段面倒見が良い明智だが、この酔っている状態を見ると、明智の苦労が解る。

 幸いにもこの日陽介が一番で、後の客は3時間程経たないと来ないらしい。

不幸中の幸いというやつだ。


「それなら良かったですね、俺は気にしないので、ゆっくり、無理せず、してくださいね。」


「やさしいれすねぇ~、、漆さんわぁ。」


「しょれでわ、続きをしますぅ、、よ。」


呂律は回ってないが、流石エステティシャンの事はある。

どんな状態、どんな状況だろうと、体が覚えているのだろう、指先がいつもと変わらなく動いている。


「しょうら、、今二人きりれすよ~、漆さんと~、、。」


「!」

 

「ほ、本当ですか!」


「ほんとうれすよぉ~、、明智さんわぁ~、、今日おそいんれすよ~。」


 神楽坂の発言に陽介は、ビックリし、戸惑った。

今まで店で二人きりになる事など無かったのだ必ず誰かしら居るのが当たり前だった。

けれど今は二人きりに、、そんな異常事態。

 恋愛ドラマや、アニメ、ラブコメに至るまで、この流れは王道である。

だが、奥手の陽介には早すぎる展開だった。


「二人きり、、二人、、。」


「さぁ、、後は、、bodyだけれすよぉ~

スイッチ、、、オン!。」


 テクトロンのスイッチを押すと、神楽坂は疲れたのかベッドに伏せて寝てしまった。

一人残された陽介は身動きも取れない。

 毛布にくるまれて、手すら動かせない。

まさに生殺し状態である。


「あのう、神楽坂さん?、、ん?、寝ちゃたのか、、。」


「寝顔可愛いなぁ~、、そうか、、飲み過ぎたんだな~、、きっと、、。」


「普段ポワポワして、テキパキしてるから、、逆にこういう姿見れるのは新鮮で良いなぁ。」


「寝かせといてあげよう、、。」


 陽介は神楽坂を暫く寝かせる事にした。

時より聴こえる寝息が可愛らしく、陽介は癒された。

 普通の男なら不埒な事を考えるのだが、陽介は違っていた。

 あくまでも、リ・アースの可愛いエステティシャンの女の子で、自分磨きのサポートをしてくれる女の子。

陽介の中で神楽坂はそういう存在だ。

そう、高嶺の花。


20分して、テクトロンの修了ブザーが為る。

その音に反応して、神楽坂が目を覚ます。


「お早うございますぅ~。」


「はい、おはよう。」


「頭がガンガンしますぅ~。」


「大丈夫ですか、、またお水飲んだ方が良いですよ。」


「はぁい、行ってきます~。」


 どうやら仮眠を取ったことにより、酔いが少し覚めたみたいだ。

神楽坂は水を飲みに出ていった。

暫くして、神楽坂は戻ってきて、失態を知り陽介に謝った。


「そんな感じだったんですかぁ、、すいませんでしたぁ。」


 「良いんですよ、、たまにはありますよ、、こんな事誰だって。」


「本当にすいません~。」


「それでは着替えて下さいね~。」


 「はい。」


 陽介はロッカールームに行き、着替えようと

した時、中に人影があった。

客だろうかと、陽介がこっそり中を覗いてみると、そこには先程別れた、神楽坂の姿があったのだ。

何やら中で動き回っている。

 きっとまだ酔っていて、陽介を驚かそうとしてるに違いない、そう思った陽介はわざとその、可愛いらしい、イタズラに引っ掛かってあげる事にした。


陽介は知らない振りをして、カーテンを開けた案の定神楽坂が、飛び出してきて陽介を驚かせた。


「わぁっ!」


 「うああ!!、、驚いた!」


「えへへっ、びくりしましたかぁ?」


 「うん!、、びっくりした。」


「やったぁ~、、大成功!!」


陽介はわざと驚き、それを見た神楽坂は、無邪気にはしゃぎながら、その場で二、三度跳び跳ねた、とその時、足を滑らせ体勢を崩し、脚を捻ってしまった。


「痛っ!」


 「大丈夫ですか!」


「痛いよぉ、、。」


「ちょっと、、脚触りますよ。」


「ここですか?、、それともここ?」



 「ちがぃますぅ、、そこじゃないです~。」



 予想もしなかった展開に陽介の心臓はドキドキしっぱなしだった。

段々脈拍が早くなり、その音がハッキリ聴こえてくる程だ。

 しかも、神楽坂の体勢が女の子座りをしている為、デルタゾーンが見えてしまい、淡いピンク色の下着が見えてしまった。


アニメや、ドラマ、等の主人公ならこの後

ムフフな展開が予想されるが。

陽介はそれどころじゃなかった。



でも、下半身は正直だった。



「痛ったーい!、、そこですぅ。」


「ここですね、、ハンカチありますか?、、

ここを、こうして、、固定して、はい!出来上がりです。」


「暫く安静にしてくださいね。」


「ありがとうございますぅ~。」



 その後、陽介は神楽坂に応急措置をして、東村が来るのを待った。

東村が出勤してきたので一部隠して事情を説明した。

陽介は神楽坂がイタズラをしたのを伏せて、ただ躓いて、捻った事にしてあげたのだ。


痛々しい、神楽坂に見送られ陽介帰路に着いた。


陽介は部屋に帰り、悶々としていた。

 王道の流れなら、色んな展開になっていただろう。

だが、敢えて陽介はそれを選ばなかった。

 それで良い、それで良いんだと言い聞かせた。

自分が変わる手助けを一生懸命してくれている、そんな神楽坂にそういう事は求めてはいけないと。


 ただ、触れた脚の感触は女の子特有の柔らかさがあり、その時に感じた香水のほのかな香りは陽介の鼻を暫くくすぐっていた。






この時からだろう、俺が彼女を仲間から、

一人の女性として意識しだしたのは。

心深くに閉じ込めていた何かが、溢れだそうとしていた。

この気持ちは何だろうか?

俺はその日一睡も出来なかった。


═══════════════════



さて、自分磨きを始めて3年の陽介、周りからの反応も変わり、おまけに神楽坂未歩とのちょっとした密室ハプニングもあり。


これから二人はどうなっちゃうの!?

夢の中の女の子は?


作者は一言、言いたい!陽介そこ代われ!と


…………


はい!、、それでは次話でまた、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ