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第7話 俺、人助けして逃げる

「取りあえず、ここに座ってくれ!」


「ああ」


 連れてこられた建物の中では、数人の兵士たちが作業していた。


 マットが入ってくると皆一斉に敬礼していたので、やっぱり偉いのだろう。


 案内された椅子に座る。


「その石に触れてくれ、すぐに終わるからよ」


「こうか?」


 何の変哲も無さそうな石に、右手を添える。


「ああ、それでいい。そのまま少し待っててくれ」


 そう言ってマットが部屋を出ていく。


「ふぅ……。疲れたな」


 体が疲れた訳ではないが、精神的に結構来ている。


「西洋風の鎧か……」


 ふと辺りを見回してみると、兵士たちが(せわ)しなく動いている。


 今さらだが、日本では見たことの無い鎧は珍しいな。

 いや、日本の鎧も博物館でしか見たこと無かったか。


 しばらく辺りを眺めていると、マットが戻ってきた。


「待たせたな。これがセージの許可証だ」


 名刺サイズの板を渡される。


 これが許可証か。

 金属で出来ているので、ずっしりとした質感があるな。丈夫そうだ。


「許可証はこの国ならどこに居ても使えるぞ。

……それでな?」


 マットが声を潜める。


「いきなりでアレだがセージよ。お前さん、騎士団に来る気はねーか?」


「騎士団?」


 本当にいきなりだな。

 てか、見ず知らずの奴を勧誘して良いのか?


「さっきの体(さば)き、ただもんじゃねー事は分かる。

槍は得意じゃねーみたいだが、お前なら近衛部隊にだって入れるかも知れねぇ」


「近衛部隊……」


 近衛と言えば、王様直属の部下というイメージがあるな。


 というか、槍を使い慣れていないのはやっぱりバレるのか。流石は本職だ。


「どうするかな」


 すぐに決めてしまうのは良くないかもな。


「ああ……まあセージなら冒険者としてやっていく道もあるんだし、無理にとは言わねぇよ」


「冒険者か……」


 やっぱりあるんだな、冒険者。


 俺のイメージでは、自由に生きられる職業と言えば冒険者がまず候補に来る。


 良いな、冒険者。

 ほどほどに稼いでスローライフ!


「かあ、目を輝かせやがって! やっぱり冒険者志望か!

最近の若い奴は冒険者をやりたがるよなぁ!」


「そうなのか?」


「ああ、騎士団なんてお堅い職を目指す奴は、今時少ねーのよ! 俺が十代の時は国を守りたいって奴が多かったのになあ」


 まるで日本みたいだな。

 どこの世界でも、流行りの仕事はあるものだ。

 

「ところでセージよ。

その許可証に書かれたスキル何だが、ステータス画面ってどんなスキルなんだ?」


「はっ?」


 許可証を見てみる。


 性別、年齢、名前の下にステータス画面と書かれているな。


 勝手に人のスキルを書き写さないで欲しい。

 いや、異世界に個人情報なんて無いか……。


「そうだな、俺のスキルはステータスを表示して

…………表示させるスキルだ」


「それだけか?」


「……ああ」


 正直に言おうか迷ったが、変にチートスキルの存在を知られるのはマズイかもしれない。


 ステータス画面の詳細は隠しておこう。


「なるほど! 天は二物を与えないっていう事だな!」


「まあ、俺には体術があるからな」


 誤魔化せたか。

 

 というか、この世界にもことわざがあると言うのが驚きだ。

 いや、自動的に日本語に翻訳されただけか。


「まあ、騎士団の件で気が向いたら何時でも俺を訪ねてくれ。

俺は普段、王城の門に居ることが多いからな。

分かりやすいぜ!」


「分かった」


 本職は内壁の門番なんだろうか……まあ似合ってるな。


「じゃあなセージ、気を付けて行けよ」


「ああ」


 扉を開けて外に出る。


 そんなに長居したつもりは無かったが、空は茜色(あかねいろ)に染まっていた。


「どうするかなぁ、もう夕方か」


 今晩の宿も決まってない。

 それに金もない。


「騎士団の話を蹴ったのは、まずかったかなぁ」


 安定した職業は魅力的だ。

 だが、騎士団なんてブラックなイメージしかない。


 前世で馬車馬のように働いてた俺としては、自由がある仕事を一番に考えたい。


「取りあえずは冒険者ギルドにいくか」


 マップを開いて冒険者ギルドを探す。


 ギルドの場所は街の中央にあった、地図上でも分かるくらいに大きい。


「よし、北に歩いていけば辿り着けるだろう」


 と、足を一歩踏み出した瞬間だった。


「てめぇ! 俺の服が汚れちまったじゃねぇか!」


「ご、ごめんなさい……」


 門の詰め所より少し離れた路地から、どなり声が聞こえる。


 見ると痩せ細った男が、フードを被った……顔は見えないが女の子か? に文句を言っているようだった。


「てめぇみたいな小汚ねぇガキがぶつかってくるんじゃねぇよ!」


「……」


 子供が着てる服は、作りとしては簡単だが清潔さがある。


 どう見ても痩せた男の方が汚ならしい。


「おいおい、こりゃあ弁償だよなぁ?

おめぇ、金持ってんのかぁ!? ああ!?」

 

「……!」


 また何ともありがちな展開だ。


 日本でも、こういうことはあった。

 だが、大抵は周りに止められて収束する。


 取りあえずは仲裁しに行くか。

 

「おい、何とか言えや!!」


「きゃあ……!?」


 男が女の子の手を掴んで引っ張り上げる。


 おいおい、流石に子供に対してやりすぎだろ!


 と思って走り出そうとした所で違和感を感じた。


「そういえば、どうして誰も止めようとしないんだ?」


 そう、通行人たちは二人のやり取りを横目で見ては、何事も無かったかのように通りすぎていくのだ。


 その間にもあの子が虐められ続けている。


「おい、何とか言えやぁ!」


「やめて……!」


「ん……? おいてめぇ、中々可愛いツラしてんじゃねーか。金なんて要らねぇから俺の家に来いよ」


「いやぁ……!」


 なんだこれは、胸糞が悪い。

 見て見ぬふりをするこの街の住人も、あの男も嫌いだ。


 異世界って、本当は嫌な場所なのか?


 いや待て、早とちりするな。

 マットは良い奴だっだろ、一旦落ち着け。


「ふぅ……」


 二人のもとまで歩き出す。


「おい、その子が嫌がってるだろ。

手を離したらどうだ糞野郎が」


「ああ? んだてめぇは?」


 痩せた男がこちらを向く。


 苛ついて荒い言葉遣いになったせいか、振り向いた男が睨み付けてきた。


 正直、怖いな。


 近くで見て初めて気付いたが、男には生傷が多く付いている。

 どう見ても堅気(かたぎ)の人間じゃない。


 だが、今の俺は恐れよりも怒りの方が強い。

 こういう時までヘタレを発揮しなくて、本当に良かったと思う。


「さっき、その子を誘拐しようとしてるように見えたんだが?」


「あ? てめぇには関係ねーだろ! 俺を誰だと思ってるんだ! 俺はあのハンスだぞ!」


 ハンスと名乗った男はそう言うと、懐からナイフを取り出してくる。


……なるほど、こんなに危険な世界なら人を助けようとは思わないよな。


「死ねぇ!」


"パゴンッ!"


「うげっっ!!」


 もう我慢の限界だ。

 思わず平手打ちしてしまった。


 強めの平手打ちをまともに喰らったせいか、吹き飛んだハンスはピクリとも動かない。


「……さすがにやりすぎたか? 確かにビンタの音じゃなかったもんな」


 普通はもっとパシン! とか軽い音が出るはずだ。


 騒ぎを聞いて、無関心だった街の人達が集まってくる。


「お、おい……こいつは……!」


「なぁそこの兄ちゃん、これはあんたがヤったのかい?」


 まずいぞ……どんどん人が増えてくる。


「ああ、何の騒ぎだこりゃあ?

ってセージじゃねぇか! 一体どうしたんだ!?」


 ちくしょう、マットまで出てきたか。

 正当防衛とか成り立つんだろうか……。


「……マット」


 ああ、もうどうにでもなれ!


 俺は気絶した男の首根っこを掴むと、そのままマットへ投げつける。


「どおりゃぁぁ!!」


「うおっ、何すんだ! って、こいつはハンスじゃねぇか!」


 勢い良く投げつけたが、マットが正確にキャッチする。


「うるさい! そいつはロリコンの誘拐犯だ!

兵士なら、そのくらいちゃんと捕まえろ!」


 言いたいことだけ言って走り出す。

 虐められていた女の子はここに居ると大変なので、ついでに背負って行くことにした。


「お、おい! ()()()()って何だ!? ちょっと待て、待てぇぇ……!!」


 全力で走ったおかげで、マットの声がすぐに遠ざかっていく。


「ははっ! 色々あったが、案外スッキリするもんだな」


 走りながら、随分と気持ちが軽くなった自分に気がつく。


「あの……」


 ずっと黙っていた女の子が、後ろからおずおずと声を掛けてきた。


「ん、どうかしたか?」


「あの……ありがとうね、お兄ちゃん」


 ありがとう……か。

 そんなことを言われたのは久しぶりだな。

 

「ああ、どういたしまして」


 悪くない……。

 いや、正直に言うと最高だ!


「よし、走るぞ! しっかり掴まってろよ!」


「うん!」


 後先考えずに行動したが、結果的には良かったな。


 そう思いながら、俺は身体能力をフルに使って街中を走り抜けた。

お読みいただき、ありがとうございます。


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