EX6話 ローズ
「騎士団の精鋭達よ我らの勝利だ!」
「「「おおー!!」」」
ローズが勝どきを上げると、それに続いて騎士団全員が剣を掲げる。
神が差し向けたモンスターの群れがミズダット王国を襲撃したのは、もう三日も前の事である。
それがようやく終わった。
大軍勢を退けた安心感からか、俺もほっと一息付く。
今回は同じ神であるセシルが不在だったので、中々に辛い戦いだった。
まあ、緊急で俺とローズだけがミズダットに帰ってきたので、それも仕方ないか。
「それではセージ殿、こちらへ」
考えていると、いつの間にか周りは静かになっていた。
呼ばれたのでそちらへ行く。
「今回もこの方のおかげで難を逃れる事が出来た! 皆、英雄セージ殿に感謝を捧げよ!」
「「「おおー!!」」」
「「「ありがとう!!」」」
割れんばかりの歓声に、少しばかり照れくさい気持ちになる。
まあ、たまにはこう言うのも悪くないか。
「本当にありがとうございました、セージ殿」
「まあ、当たり前の事をしただけだ」
「騎士団を代表してすぐにでもお礼をしたいところですが、すぐに差し出せる物が無く、申し訳ありません」
「いや、いいって」
ローズが頭を下げようとしたので、慌てて止める。
彼女も俺たちと一緒に行動していたので、むしろいきなり帰ってきてすぐに騎士団を指揮したローズの方に褒美を与えたいくらいだ。
「ですが……」
「おっ! だったら俺に良い案があるぜ!」
なおも食い下がろうとするローズを遮って、マットが手を上げる。
「おいマット、また変な事を言うんじゃないだろうな」
「いやこれは最高の案だって、褒美として団長を嫁にすればいいんだよ!」
「はぁ……」
「はぁぁぁ!?!?」
溜め息を吐いた俺とは対照的に、ローズが叫び声を上げる。
やっぱり変な事じゃないか。
「何を言ってるんだマット」
「いやいや、団長がセージの事が好きなら良いんじゃねえの? 戦う前にセージの名前呼んでたし、お慕いしていますとかなんとか……」
「貴様ぁぁぁぁ!! それ以上言うなぁぁ!!」
「うぉっ!?」
ローズが鞘に収まった剣を振りかぶって、大上段からマットへ斬りかかる。
慌てて避けたマットだが、ビュンッという鋭い音から恐ろしい一撃だったことが分かる。
鞘付きでも切り裂かれていたんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。
「団長が褒美って良いんじゃないか?」
「確かにな!」
「いいぞー、貰われちまえー!」
「おー!」
「団長ー! 幸せを祈ってまーす!」
マットが襲われている間に、騎士団の中から賛同の声が上がる。
半ば悪ふざけのようなものだろうが、だんだんと声が大きくなっていく。
「ローズ」
「へっ、ひゃい!?」
収まりが付かなそうなのでローズを呼んでみたが、顔を真っ赤にしながら慌てて返事を返してきた。
普段一緒にいる時もそうだが、何とも分かりやすいというか大げさな反応をするものだ。
俺は気持ちを切り替えて、ローズの目を見つめる。
「もし良かったら、俺と結婚してくれないか?」
「……!!!!」
「「「うぉーー!!!!」」」
俺の言葉に、周りから歓声が上がる。
ローズはあまりの衝撃のせいか、何かを言おうとしてその度に失敗しているようだ。
それをじっと待つかのように、少しずつ歓声が収まっていく。
「……ぁ……よ……よろしく……お願いします」
消え入りそうな声でそう呟いたローズに、先程よりも大きな歓声が上がった。
「おめでとうー!!」
「次は誓いのキスだー!!」
「いいぞーー!!」
「「「キース! キース!」」」
「いやお前ら小学生か……」
突如始まってしまったキスコールに、さすがに恥ずかしい気持ちになってくる。
そしてローズを見れば、限界を超えてしまったのか、目を回して気を失っていた。
「あ、団長が気絶してるぞ」
「やりすぎたか?」
「ヤバイな」
「よし、急いで帰ろう」
先程の熱気はどこへやら、騎士たちがそそくさと王城の方へ逃げ帰っていく。
「セージ、悪いけど団長を宿屋に運んでおいてくれ! 後は分かってるよな?」
その中で、マットがニヤニヤしながら親指を立てて去っていった。
言いたいことは理解したが、腹が立つ顔をしていたので何も聞かなかったことにする。
「んうぅ……?」
「気が付いたか」
ちょうど両腕で抱き抱えて、お姫様だっこの状態になった瞬間に、ローズが目を開ける。
「あ……申し訳ありませんセージ殿」
「いや良いって、疲れてるだろ」
「……ありがとうございます」
申し訳なさそうにしながらも、ローズが俺の腕の中で落ち着く。
まったく、婚約して最初に介抱するとか、どんなレアケースだよ。
「それじゃあ、宿屋まで行くか」
「あ、あの……!」
歩きだそうとした俺を、ローズが服を引っ張って止める。
「どうした?」
「その……もう少しこのままで居たいのです」
そう言ってから、ローズは俺の首に手を回してきた。
ローズから伝わる高い体温から彼女が緊張しているのが分かるが、俺も黙ってそれを受け入れる。
いくら婚約したとはいえ、二人きりで居られる時間は多くないだろうからな。
ローズが良いと言うまで俺もこうしていよう。
俺たち以外誰も居なくなった草原で、しばらくの間そのまま時を過ごした




