第66話 老執事
「くそっ! もう城下まで警備の手が回ってるのか……!」
「お兄ちゃん、どうするの?」
城壁を越えた俺たちをだったが、冒険者ギルドに向かおうとしたすぐ後に、警備の兵に出くわした。
慌てて隠れてから話を盗み聞きしてみると、どうやら俺たちを探しているらしい。
さてどうしたものか……ん?
向こうからこっちに誰か来るな。
「遅くなってしまい申し訳ございません、セージ様」
「私の結界を使って、アリス様からメッセージを受信致しました。ここからは私たちにお任せください」
「セバスさんとメリエッタさん、二人とも来てくれたか」
現れたのはアリスの使用人の二人だった。
有事の際には、アリスの魔法を使って二人に伝言を頼む事になっていたが、最高のタイミングだ。
まあ二人とも、ここまで大事になるとは予想していなかっただろうけどな。
「それではセージ様、こちらへ」
セバスさんに促されて、路地の裏へと足を進める。
どうやら二人は城下の生活が長いだけあって、街の地理に詳しいようだ。
このまま無事にギルドまでたどり着ければ良いんだけどな。
――
――
「見えました、冒険者ギルドでございます」
セバスさんが指差す方向には、冒険者ギルドの屋根が見える。
二人に案内された俺たちは、ただの一人に見つかることなくここまで来れた。
俺のマップを使っても良かったんだが、どこから発見されるか分からなかったので、正直ありがたい。
等と考えていると、曲がり角から話し声が聞こえてくる。
"おい、この辺りから音がしなかったか?"
"ん? 少し確認してみるか"
どうやら、たまたま近くに居た兵士に足音を聞かれてしまったらしい。
あと少しだというのに、こうなったらやるしかない……。
そう思いインベントリから黒刀を取り出そうとするが、セバスさんに止められる。
「ここはお任せください、セージ様」
「セバスさん?」
「私の事はお気になさらず、さあ冒険者ギルドへ」
「……すまない、頼んだ!」
セバスさんに背を向け、エルを背負い直してからメリエッタさんと一緒に兵士の居ない方へ走り出す。
あの人ならきっと大丈夫だろう、王女の使用人を任されるくらいだからな。
それよりも、折角稼いでくれた時間を無駄にしてはいけない。
俺はステータス画面のマップを開いた。
――
――
「行きましたか」
主の想い人がこの場を離れたのを確認した後、セバスが通りに姿を表す。
「ん、誰だお前!? ……って何だ、王女様の使用人か」
「たまに屋敷から出るの見たことがあるな」
「おやおや、この老骨をご存知とは誠に光栄でございます」
セバスが慇懃に頭を下げると、兵士の二人が嘲笑したように口を開く。
「しかしお前さんも大変だなぁ? お転婆なお姫さんのお守りをさせられてよ」
「詳しくは知らねぇが、反逆者にたぶらかされたそうじゃねぇか。一国の王女が情けねぇなぁ?」
ガハハと笑う二人に、セバスが礼を解く。
「私はそうは思いません。アリス様は健気で人一倍努力家な上、人を見抜く力がございます。その婚約者であるセージ様は、これからの世の中を大きく変えることでしょう」
セバスの真剣な口調に、二人が一瞬怯む。
「ふ……ふんっ! 隠居したような歳のジジイが調子に乗りやがって!」
「チッ……あくまで反逆者の味方をするってんなら、少し痛い目にあわせてやらねぇとな?」
そう言って、腰に差した剣をそれぞれ引き抜く。
なかば脅しの抜刀ではあろうが、逆らうなら容赦しないと言った雰囲気を感じる。
「そうですか……それなら遠慮は要りませんね」
セバスが懐から数本の刃を取り出す。
暗殺者が使用する暗器と呼ばれるものだ。
「私も、かつてはミズダットの悪夢と呼ばれた男。ダレアス国王陛下に敗れて以来アリシア様の護衛を勤めて参りましたが、これが最後の仕事となるでしょう」
セバスの気迫に、兵士達が一歩下がる。
「さあ、死なないように全力で防いでみなさい!」
そう宣言した瞬間、無数の刃が兵士たちに襲い掛かった。




