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第65話 王城脱出

「逃がすな!!」


 宰相の号令に、貴族の私兵達が包囲網を形成して俺たちを取り囲む。


「退けやぁー!!」

「どくニャ!!」


 その敵の包囲を突破するために、まずはカイルとメリーに敵の懐へ切り込んでもらった。


「アリスとレイネードは攻撃魔法を準備してくれ、合図したら頼む」

「お任せください!」

「了解です、師匠!」


 二人が了承するのを確認してから、期を窺う。

 敵を排除しなければいけないのは間違いないが、スローライフを送る為に殺すのは厳禁だ。

 ここからは慎重に行動する必要がある。


 カイルとメリーが敵をなぎ倒して道が出来上がったのを確認する。


「よし今だ! 扉を破壊するぞ!」

「はい!」

「行きますよー!」


 二人が同時に杖を扉へ向け、その先端からそれぞれの属性魔法が放たれる。


 アリスの高度な氷魔法と、杖で強化されたレイネードの炎魔法が渦を巻くように交差し、咆哮した竜の腭のように扉を食い破る。


「おっし! 先行ってるぜ!」

「どんどん敵をブッ倒すニャー!」

「二人とも、出過ぎては行けませんよ」

「師匠も早く行きましょう!」


 先に外へ出た四人に続いて、俺もそちらへ向かう。


 途中でマットを見かけたが、宝石だらけの腕輪を持ったまま戦いに巻き込まれないよう右往左往している姿を見て、思わず笑ってしまった。


 最後にチラリとローズの方を見れば、剣を床に突き刺して不動の姿勢を貫いていた。

 どうやら先程言ったように、俺たちを妨害する意思は無いようだ。

 俺もローズを仲間だと認識しているので、戦わずに済むのはありがたい。


「き、さ、ま、らぁぁぁ!!」


 背後から聞こえてくる怒声を背に、俺は仲間の後を追った。


――


――


「ちっ、キリがねぇな!」


 追い付いた先では、戦闘が開始されていた。


 どうやら、既に城全体に指令が行き渡っているらしく、次から次に兵士がやってくる。

 王国騎士団も加わり、数の暴力が押し寄せる。


「したかねぇ……セージ、先に行け!」


 カイルが叫ぶ。


「良いのか?」

「ああ、迎えに行かなきゃならねぇ奴らがいるだろ、後で合流しようぜ!」

「すまない、冒険者ギルドでまた会おう」


 一瞬出来た隙を掻い潜って、俺は包囲網を突破した。


――


――


「しかし、本当にキリがないな」


 一人で王城を突っ走っていたが、次から次に兵士達がやってくる。

 騎士団だけではなく、貴族の私兵もこれだけ王城にいると言うことは、貴族派閥の力は相当な物なのだろう。


「お?」


 と、そんな無駄なことを考えていると、窓が開け放たれた部屋を見て妙案を思い付く。


「あそこから飛び降りれば、近道出来るんじゃないだろうか?」


 確認のために窓に近づき、外を見下ろしてみる。

 階数にして、6階建のマンションくらいあるだろうか。

 普通の人間にしてみれば、自ら死にに行くような高さだ。


「まあ、チートスキルがあるし何とかなるか」


 考えている間に、部屋の外から複数の足音が聞こえてくる。

 あまり時間をかけても、脱出に手間取るだけだろう。

 俺は窓の外へ飛び出した。


 "飛び降りたぞ……!"

 "馬鹿を言え! 窓枠にしがみついているはずだ!"


 後ろから兵士達の声が聞こえたが、すぐに距離が離れて聞こえなくなる。


「こういうの、一度やってみたかったんだよな」


 激しい浮遊感を感じながらも、インベントリから黒刀を取り出す。

 これまでの俺であれば、気を失う程の恐怖を味わっていただろうが、覚悟を決めたおかげか今は好奇心の方が強い。


「さて行くぞ! 《現誠剣・昇陽》!」


 着地の瞬間に、刀技を使って自分自身の勢いを破壊する。


 しかし、いくらチートスキルと言えども、流石に概念的な物には効果が薄いらしく、脚に感じたことの無い衝撃が走り抜ける。


「ぐっ!」


 数秒間耐えた後、強ばった身体を解きほぐしていく。

 軽く足を動かしてみたが、大したダメージは残っていないようだった。


 流石はチートステータスだな。


「しかし、見上げるような高さから飛び降りて無傷とは、今更ながら人間辞めてるな……ん?」


 と、向こうから誰か走ってくるのが見える。

 もう追い付かれたか?


「お兄ちゃーん!」


 兵士かと身構えたが、やってきたのはエルだった。


「エル!」

「会いたかったよ!」


 両手を広げてこちらへ走って来たエルを受け止める。

 最高のタイミングだ。


「良いところに来たな、エル」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「この国を出る。一緒に来てくれ」

「え!?」


 俺の言葉にエルが動揺して口元をおさえる。


 いきなりのことで驚いているのだろう、この街にはエルの実家もあるし、無理強いするわけにはいかない。

 もちろん、俺としては来て欲しいところだが。


「行くよ! これでお兄ちゃんと一緒に旅が出来るね!」

「いや旅って……」


 無用な心配だったようだ。


 それならここにいる必要はない。

 走りやすいように、エルを背中に抱える。


「そう言えば、どこに向かうの?」

「バラチカ西部国、と言うところを目標にしているが、先に冒険者ギルドに向かう」

「みんなと合流するの?」

「そうだ」

「そっか、それじゃあ早く冒険者ギルドに向かわないとね」

「ああ、しっかり掴まってろよ」

「うん、お兄ちゃん!」


 エルが俺の体をしっかりと掴んだのを確認してから走り出す。

 何だかエルとどこかに行くときは、抱えて走ってばかりいる気がするが、まあ今更だな。


 俺は城門を飛び越えると、そのまま冒険者ギルドへ向けて走り出した。

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