第49話 剣術大会3
控え室に戻った俺だったが、さっきの試合が気になって何となく外に出て歩いていた。
「あのゴッズの目、どこかで見たことがあるんだよな」
異常な攻撃力や、悪魔憑きなど気になることは色々あったが、その中でも去り際のゴッズの視線がいやに頭から離れなかった。
前にどこかで見たような……。
「主様」
「うぉっ……て、グリューネスか」
人気のない通路だったので油断していた。
考え事しながら歩くのは良くないな。
「順調に勝ち進んでいるようだな。さすがは主様だ」
「ああ、ありがとう」
彼女が会場のどこかにいるのは知っていたが、やはり魔王なだけあってステータス画面がないと見つけられないな。
「ちょうど良かった、少し聞きたいことがあってな」
俺はさっきのゴッズ先輩の状態を聞いてみた。
「ふむ、異常な攻撃力に悪魔憑きか……」
「何か分かるか?」
「いやすまぬ、聞いたことがない」
元魔王とはいえ、グリューネスでも分からないか。
「そうか、グリューネスにも分からないなら、現状お手上げだな」
「役に立てず申し訳ない。だが、そうだな……」
グリューネスが顎に手を当てて考える。
「攻撃力500越えとなると、まるでモンスターのようだ。悪魔憑きという響きといい、迷宮産の魔道具が関係しているやもしれぬな」
「魔道具か……」
その可能性もありそうだ。
まあ、ゴッズは再起不能だろうし、今は次の試合に備えるか。
――
――
「さあ!! 剣術大会もいよいよ大詰め!! ついに決勝戦がやってきたぁ!!」
人目につかないように待っていた俺だが、さすがに決勝戦ともなると会場の熱気に圧されていた。
ここから少し見えるだけでも、席がすし詰め状態だ。
日本に比べて人口が少ないとはいえ、一斉に集まると圧巻の迫力だな。
「今年の剣術大会を締めくくるのは!! 我らがローズ騎士団長と、この大会始まって以来のダークホース、冒険者セージだ!!」
司会がそう言うと、意外にも観客の声はおさまった。
嵐の前の静けさみたいな感じか?
俺とローズがコロシアムの中央へ出る。
「この場で手合わせできることを光栄に思います、セージ殿」
試合前にローズが声をかけてきた。
「どちらかというと、俺が挑戦者側な気がするんだけどな」
「ご冗談を。大会の戦績からすればそうかもしれませんが、わたくしは彼我の実力差を十分に理解しているつもりです」
強いな……。
この決勝の舞台に相手を尊重するような言動や、物腰柔らかに佇んでいる様子からは、さすが歴戦の騎士団長といった風格が表れている。
しかし同時に、彼女の口調や仕草がどこか高揚しているように思えた。
「そうは言いつつ、俺にはローズが楽しそうに見えるんだけどな」
「やはり見抜かれました」
俺の言葉にローズが笑う。
「強者との手合わせは、騎士の誉れ。この高ぶりはわたくしにも抑えることが出来ません」
「そういうものかな」
俺の力はチートスキルのおかげだから、実力者に対して申し訳ない気持ちになってしまう。
いや、今そんなことを考えるのは、真剣な相手に失礼か。
「それじゃあ、俺も全力でいかせてもらう!」
「望むところです!」
言葉を交わし終えた俺たちは、それぞれ武器を構える。
「両者準備が整ったようです!! さあ、泣いても笑ってもこれが最後の戦い、会場の皆さん準備は出来ましたか??」
司会の言葉に、観客が静まる。
「それでは決勝戦…………始め!!!!」
その言葉と同時に、俺たちは地面を蹴りだした。
「「はあぁぁぁぁ!!!!」
最初の一撃で全てを決める。
俺はそのつもりだったが、どうやら向こうも同じようだ。
「「はぁ!!」」
だが、俺たちを待っていたのは、予想外の結末だった。
"ガツンッッ!!!!"
「「……!!」」
俺とローズが一斉に後ろへ飛び退く。
俺たちの刃は、中央で佇む侵入者によって防がれてしまっていた。
「よぉ、てめえら」
侵入者が口を開く。
「この俺様を差し置いて決勝なんざ許さねえぜ」
それは、巨大な剣を両手に構え、変わり果てた姿をしたゴッズだった。




