第38話 レイネードと偏屈な鍛冶屋1
「師匠、何だか嬉しそうですね!」
「ああ、ちょっと稼いで来たからな」
ダンジョンから出た後、レイネードが居たので声を掛けてみた。
金に余裕も出来たし、師匠らしい事でもしてみようか。
「レイネード、この後暇だったら飯でも食べに行くか?」
「え、ご飯ですか!? 行きましょう!!」
飯という言葉を聞いて、その場でくるくると回りだす。
……喜びを表現してるんだろうか。
「どこに行きましょうか! 屋台のパン屋さんとか屋台のお肉屋さんがありますよね。それに屋台の丼もの屋さんも捨てがたいですし……」
屋台ばっかりじゃないか……。
「いや、今日はレストランに行こうと思ってる」
「れ、レストランですか!? あの、ちょっと新米冒険者にはお高いかなぁって思います……」
「大丈夫だ、今日は俺が出すから好きなだけ食べると良い」
「そ、そんな悪いですよ!」
実は前から狙っていた店がある。
一人で飲食店に入るのは苦手なので、レイネードに来てもらえるとありがたい。
「良いって。師匠なんて呼ばれながら、それらしい事もしてないしな」
「…………ありがとうございます、ではお言葉に甘えさせて貰いますね!」
――
――
「これは……すごいです……!」
「ああ……凄いな」
俺達の目の前には、人の頭三個分くらいの大きさの焼き魚がそれぞれ一尾ずつ置かれていた。
「火は通ってるんだろうか……」
大きささえ気にしなければ普通の焼き魚に見えるが、何よりそのサイズが規格外だ。
試しにナイフを入れてみる。
「通ってるな……」
適当な所を切り分けてみたが、芯まで真っ白でよく火が通っている。
「美味しそうですね! 食べていいですか!」
「ああ」
とにかく食べてみなければ分からない。
二人で手を合わせる。
「「いただきます」」
まずは無難に白身に手を付ける。
「ん!? これは……本当に焼き魚なのか……!?」
第一に出てきた感想がそれだ。
しかし悪口ではない。むしろ、良い意味で期待を裏切られた気持ちになっているくらいだ。
「焼き魚とも蒸し魚ともムニエルとも違う……魚の形そのままなのに、味付けが中まで染み込んでる」
魚の良質な油が店独自の味付けと融合して、脳まで蕩けさせるような深い味わいになっている。
「はふっはふっ。
うーん!! とっても美味しいです!!」
見れば、レイネードも美味しさに感激していた。
この世界、いやこの街だけかもしれないが、やはり料理の水準は日本より高いようだ。
「こんな美味しい料理を食べられる日が来るなんて……うぅ……ぐすっ」
「お、おいおい。そんなに感動することか?」
レイネードは食べながら涙を流していた。
まあ確かに美味しいとは思うが、大げさな奴だな。
「だって、家じゃいつも黒パンに味の薄いスープばっかり何ですよ! それだって早く食べないと弟達に持ってかれちゃいますし!」
「弟?」
「はい! お父さん、お母さんに、後は弟がいっぱいいますね!」
なるほど、いわゆる大家族という奴か。
それで食費が削られてるんだろうな。
「だから、こんなに美味しいお魚は初めて食べました! たまにご馳走として食べる屋台のお料理より美味しいです!」
「まあ、なら良かった」
さっき屋台を連呼してたのは、そのせいだったのか。
レイネードの基準では屋台の料理がご馳走らしいので、まあそれも仕方ないだろう。
「よーし! 大事に味わって食べますね!」
「いや、別にメニューの好きなのを頼んで良いんぞ」
そこまで喜んでくれるなら、むしろ遠慮されるとこっちが困る。
「本当ですか!? やったー!!」
その後、レイネードが満足するまで料理を注文し、全て平らげた所で店を出た。
――
――
「ありがとうございました! 師匠!」
「どういたしまして」
二人で2万ダットと少しか……。
美味しさの割に安かったな。
「そう言えば、どうして俺を師匠なんて呼ぶんだ?」
ふと気になったので聞いてみる。
特に師匠らしいことはしていないので、前から気になっていた。
「うーん、そうですね……。さっき弟達の話はしましたよね?」
「ああ、大家族だと言ってたな」
「はい。
ですから、お父さんもお母さんも私達を食べさせるのに必死で、無理して働いてるんです」
「……」
日本の番組でも見たことがあるな。
ただ、こっちは異世界なだけにもっと切実な金の問題があるだろう。
スラムのような所があるのを見ると、低所得層の水準が低いのも分かるしな。
「だから、私が冒険者になって皆にお腹いっぱいご飯を食べさせてあげたいんです! その為には強くならないと!」
「それで俺に弟子入りか?」
「はい! 冒険者試験の時に見た師匠の魔法は凄かったですから! 私には全然分かりませんでした!」
「……まあな」
あの時に使ったのは魔法とは違うので、分からないのは仕方がない。
というか、出来れば誰にもばれないで欲しい。
「ですからセージ師匠の背中を追いかければ、いつか私も高ランク冒険者になれるんじゃないかって、そう思って……!」
「そうか」
レイネードの頭に手を置く。
「ふぇ? 師匠?」
「お前も大変だな」
そのまま弱めにぐりぐりと頭を撫でる。
まるで妹でも出来た気分だ。
エル? ……イレギュラー過ぎるのでノーカウントにしておこう。
「まあ、俺の出来る範囲で色々と手伝うさ。……師匠としてな」
「ありがとうございます!
……ああ!? 今認めてくれましたね!!」
「……まあな」
おそらく共感してしまったんだろう。
俺も前世ではさんざん苦労してきた。
自分の為か他人の為かという違いはあるが、この際それはいい。
身近で苦労してる人を見てしまったら放っておけないだろう。
「嬉しいです! じゃあ正式に弟子になった記念に、師匠の困り事を私が解決しましょう! 何でも言ってください!」
「何でもって……」
そもそも、弟子が師匠を助けるってどうなんだ?
いや、待てよ……。
「レイネード、優秀な鍛冶屋を知らないか? 雑貨屋でも良い」
モンスターの素材を売り払うよりも、有効活用したいと思っていた。
地元民のレイネードなら何か知ってるんじゃないだろうか。
「知ってますよ! 私の知り合いのお爺さんが鍛冶屋を営んでますね! 何でも、街一番の腕前らしいですよ!」
「……まじか」
ビンゴだ。
いきなり当たるとは思わなかった。
まあ、出来れば早く見つけたいと思っていたのでありがたい。
「ただ……」
「ただ?」
と、そこでレイネードが不安そうな顔をする。
「そのお爺さん、気難しい事で有名らしいんですよ」
「気難しい……?」
気難しい、そして鍛冶屋と言えば……あれか。
異世界でよくある"偏屈なドワーフの鍛冶屋"。
しかしこの街で異種族はほとんど見かけないので、ドワーフである可能性は低いだろう。
「何か、作って貰うのに条件があるのか?」
「はい、お爺さんが気まぐれで依頼を受けるそうなんですが、どうやったら作ってもらえるのかハッキリしてないらしくて……私が行くと優しくしてくれるんですけどね!」
「レイネードが行くと優しい……」
「はい! とっても優しいですよ! 気難しいなんて、私はただの噂だと思ってます!」
よく分からないな。
まあ、レイネードは楽天家気質な所があるから、受け入れられ易いのかも知れない。
「とりあえず行きましょう!」
「ああ」
レイネードの家の近くに工房があると言うので、二人で向かった。
お読みいただき、ありがとうございます。
あれ……レイネードさん。
今、何でもするって言ったよね?
ちょっとそこの宿に泊まっていこう!
大丈夫! 休憩だから!
ほんの先っちょだけだから!
と、欲望剥き出しにならなかったセージ君は聖人か何かだと思っています。




