第36話 エリサとデート4
「セージさん! 応援を連れて来ましたよ!」
「エリサ……よくこんなに連れて来られたな」
洞窟から出た俺達は、冒険者に囲まれていた。
見れば、ギルド長のサモンズさんもいる。
「セージか。まあ、お前さんと騎士団長がいるなら心配は要らないと思ってたが、中はどうなってる?」
「モンスターだらけだったな。この間倒したアラクネクイーンも1階層に居た」
魑魅魍魎とはあれの事を言うのか。
まあ、塞いだから暫くは大丈夫だろう。
「そうか……お前ら! 聞いての通りだ! 中は魔窟と化してるだろうが、気合い入れて突入するぞ!」
「「「おおー!!」」」
サモンズさんの掛け声で冒険者たちが雄叫びを上げる。
ひとまず終わったんだが、また入るのか?
「その必要はありません。サモンズ殿」
「必要無い? どう言うことだ、ローズの嬢ちゃん」
「すでに終わっているからです」
ローズが言うも、サモンズさんはよく分からない様子だ。
「終わってる?」
「はい、1階層の通路はセージ殿の魔法によって塞がれました。
魔物が押し寄せてくる心配はありません」
その言葉で冒険者達がポカンとした表情になっている。
まあ、せっかく気合いを入れたのに終わってましたってんじゃ、そんな反応になるか。
少し悪い気がするな。
しかし、サモンズさんだけは話を聞いて口角を吊り上げながら質問してきた。
「ほう、どうやって塞いだ?」
「ストーンウォールを使った、適当に連発してたらちょうど塞がったな」
「ストーンウォール……くくっ」
サモンズさんが下を向いて小刻みに震えていたが、耐えられなくなったのか大声で笑いだした。
「だっはっは! そんな方法は初めて聞いたぞ!
強度は問題無いだろうな?」
「はい。わたくしも触って確かめましたが、腕力で破られるとは思えない頑丈さでした」
「そうか、なら問題ない。全く、お前さんはいつも俺の予想を超えてくるな」
「……そうか?」
「ああ、だが今回は命懸けの作戦だった。それを未然に防いでくれたんだから、本当に感謝している。
報酬は期待してくれて良いぞ」
そう言って、俺の肩を叩く。
やっぱり、この人は現役でやった方が良いんじゃないか?
普通に痛い。
「そう言えば、合同調査はどうなるのでしょうか?」
「お、おいっ! 今その話題は……」
ローズがサモンズさんに問いかけると、途端に焦りだした。
というか合同調査? 何の話だ。
「調査って何の事だ? ローズ」
「はい、先日のアラクネクイーンの件で騎士団と冒険者が合同で調査を行うことになっていたのですが、ご存知ありませんでしたか?」
「ああ、知らなかったな」
剣術大会に合同調査か……。
全く忙しい一週間だ。
「ん?」
ふと、ギルマスの方を見れば、何だかよく分からない顔をしてこちらを見ていた。
よく見ればエリサも似たような表情をしている。
「あーあ、アリスの奴遅かったか」
「あれだけ楽しみにしていましたからね、流石に可愛そうです」
遅かった? 楽しみ?
「何の話だ」
「いや、良いんだ。こっちの話さ」
「はい。アリスさんに会ったら優しくしてあげて下さいね」
「?? まあ分かった」
その後、魔法で塞いだ通路を全員で見に行って、各自準備をすると言うことで解散した。
――
――
「そう言えば、二人で出掛けるって話だったのに何だが悪いな」
すっかり夕日に染まった街を歩きながら、二人で今日の出来事を思い出す。
「いえ、仕方がありませんよ。オーガが現れてダンジョンからモンスターが溢れそうだったんですから」
「ああ、何とかなったようで良かった」
エリサは特に気にしていないようだが、俺の方は気にしてしまっていた。
「せっかくの休みだったのに、本当に済まないな」
「いえ、良いんです……あ、でも気になるなら」
エリサが少し先まで歩いてから振り向く。
「私の家でご飯を食べて行ってください!」
「家で?」
「はい!」
最近は女の子の家ばかり行ってる気がするんだが、大丈夫だろうか?
段々と違和感が無くなっていくことに、少しは焦りを覚えた方が良いかもしれない。
まあ、今日は良いか。
「それじゃあ、ご馳走になるかな」
「やったぁ! ダンジョンの事は箝口令が敷かれると思いますが、セージさんはこの街を救った英雄なんです! 誰にも感謝されないなんておかしいですからね。
私だけでも頑張って料理を作りますよ!」
「ああ、ありがとう」
英雄扱いされたら困るんだけどな。
まあ、気遣いは素直に嬉しいし、今日の所はご馳走になるか。
――
――
「ふぅ、ご馳走さま」
「どうでしたか……?」
「ああ、美味しかったよ」
「本当ですか! 良かった……!」
案内されたエリサの家は、素朴な一軒家だった。
セキュリティはしっかりしてるが、独り暮らしで心細い印象を受ける。
「アリスさんのお家の料理と比べて、私の料理じゃ満足出来ないかと思ってたんです」
「そうだな、確かにアリスの家の料理は旨かった」
「……ですよね」
エリサが少し肩を落とす。
「だが、料理は作ってくれた人の気持ちこそが大事だと思うんだ。そう考えれば、さっきの料理には俺を労おうとしてくれたエリサの気持ちが十分入ってた。だからとても美味しかったぞ」
「セージさん……」
口下手なりに表現してみたんだが、伝わっただろうか。
「ありがとうございます。セージさんはやっぱりセージさんなんですね」
「それは褒めてるのか?」
「勿論です! ……惚れ直しちゃったくらいですから!」
「そんな冗談を言って……」
見れば、今の発言で耳まで赤くしている。
「無理して俺をからかってもしょうがないぞ」
「そ、そうですね、無理して伝わりもしないことを言うのはしょうがない事でした」
エリサが自嘲気味に溜め息を吐いて、首を振る。
よく分からないが……。
しかし、顔を上げると穏やかな表情に変えて俺に言う。
「私はセージさんの優しい所が好きです。だから、さっきの言葉は嬉しかったですよ」
「そうか」
上手く伝わったなら良かった。
その後、他愛もない話をしたり、下らない遊びをしながら楽しい時間を過ごした。
――
――
「今日はありがとうな」
「いえ、私からお誘いしましたし」
すっかり日が暮れてしまった外に出ながら、エリサに別れの挨拶を告げる。
「それじゃあ、またな」
「あの……セージさん……!」
「ん?」
歩きだそうとした所で、エリサに呼び止められる。
「い、いえ、何でも無いんです! 気を付けて帰ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
慌てた様子で手を振るエリサに違和感を覚えるが、そのまま宿まで歩きだす。
最近は女の子と同じ部屋で寝たりしていたが、こういう穏やかなのも良いもんだな。
青春というのはこういうものだったんだろうか。
「いや、年齢的には今が青春か……」
軽く自嘲しながら訂正する。
どうやら、未だに前世で青春を味わえなかった事を引きずっているらしい。
トラウマレベルだ。
だが、今日一日でそのトラウマも少しは解消出来た気がする。
「ありがとうな、エリサ」
心が暖かくなるのを感じながら、俺は宿に向かった。
――
――
~エリサの家、玄関~
「はぁ……言えなかったな」
セージが帰った後の玄関で、エリサがドアに背を預けながら溜め息を吐いていた。
(セージさんに会うまで、もしかしたら一生恋なんてしないかもと思ってたのに)
「はぁ……」
再び溜め息を吐く。
どうにも気分が乗らないが、それでも靴を脱いで部屋へ戻ろうとする。
(さっきまであんなに幸せだったのに、今はこんなにも苦しいなんて)
重くなる足を気合いで引きずっていたエリサだったが、ふと足元が濡れていることに気がついた。
「ふぇ……え? 私……」
自信の顔に手を当ててようやく気が付いた。
初めて味わった幸せが過ぎ去ってしまったのが悲しかったのだろう。
エリサは無意識に泣いていた。
(私ったら、いつからこんなに弱くなっちゃったんだろう。ほんの少し、会えなくなっただけなのに……)
己の弱さに自嘲する。
そして耐えられなくなって振り向く。
「セージさん……!」
エリサが、閉められた玄関のドアへ向かって走り出す。
そして、靴も履かずに扉を開けた。
が……。
「……」
そこにセージの姿は無かった。
(セージさん……)
エリサは頬に流れる涙も気にせず、口を開く。
「私、セージさんの事が好きです。
だから……だからまた遊びに来てくださいね」
先ほど告げられなかった言葉の続きを言うと、エリサは涙を拭って部屋へ戻っていった。
お読みいただき、ありがとうございます。
初恋は叶わないとよく言いますが、エリサには幸せになってほしいものです……。
まあ、セージ君が幸せにするんですがね( ・∀・)
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