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第32話 VSカイル

 俺は街の外で新たな技を試して遊んでいた。


「はぁ!! 《夢想剣・華月》!!」


 大木に向かって刀を横に振るう。


 目の前にある木には傷一つ付かず、奥にある大木だけが音もなく崩れ落ちる。


「ふぅ……次だ」


 林を抜けて巨大な岩のある場所まで走る。


「《現誠剣・昇陽》!!」


 巨岩に向かって刀を縦に振るう。


 蹴ろうが殴ろうが、びくともしないであろう岩を、俺の刀が粉々に打ち砕く。


「ふぅ……」


 取りあえず、一通り試した所で刀を収める。


「使ってみてようやく分かったが、両方とも面白い技だな」


 夢想剣・華月は、物体と生物の意識の隙間をかいくぐって攻撃する技だ。


 だから奥にある大木だけを斬る事ができる。


 そして現誠剣・昇陽は、物体と生物の意識を直接破壊する技だ。


 意識が破壊されれば、モノは形を保てなくなる。


「そして、どっちの技を使っても……。

同じことが出来るんだよな」

 

 試しに、二つの技を連続で放ってみる。


 方法は違うのに、結果的に同じことが出来る技なんて本当に面白い。


「はっはっはっ! やるじゃねぇかセージ!」


 林の影から拍手をしつつ、声の人物が姿を現す。


「……カイルか」


 少し前に誰か来たのは分かっていたが、カイルだったのか。


「良いねぇ、剣術大会に推薦した甲斐があったぜ」


「ああ思い出した、余計なことをしてくれたな」


 俺は高みの見物を決めこむつもりだったのに。


「おいおい怒ってんのか? まあ、気楽にパーっとやりゃあ大丈夫だって」


「他人事だと思って……俺は大勢の前に出るのが苦手なんだよ」


 経験があるのは、学生時代のスピーチくらいだからな。


 ちなみに、社会人時代はノーカウントだ。

 みんなお互いを見てなかったからな。


「そう言うなって! 俺が出られない分、お前には頑張って欲しいんだよ」


「出られない? 何の話だ」


「ああ、セージは知らねぇのか。

その年の優勝者は、次の年だけ出られなくなるんだよ。

だから、俺の今年の役は解説だな」


「なるほど」


 毎年同じチャンピオンを生まない様にするためか。


「はぁ……それで? 前回の優勝者様が俺に何の用だ。見ての通り遊んでたんだが」


「ははっ! あれで遊んでたのかよ! まあ遊んでたなら良いだろ。俺と勝負しようぜ!」


「は、いきなり勝負? 何のだよ?」


「勿論、剣での勝負だ」


「剣で……か」


 冗談……かと思ったが、本気で言ってるような雰囲気だ。


 俺の腰に差さっている刀を見やる。


「そんなことをしたら、お前から借りてる刀がボロボロになるぞ」


「はあ? そいつはもうお前のもんだよ、刀なんて使える奴は少ねぇからな」


 いつから俺の物になってたのか。


 まあいい、なら貰っておこう。


「大体、勝負してどうするんだ。

お互いに傷が付いてたら、アリスに何を言われるか分かったもんじゃないぞ」


 最悪の場合、しばらく口を聞いて貰えなくなるかもしれない。


「セージが優勝しちまったら来年は戦えねーだろ? あと、どっちに傷が付こうが怒られるのは俺だけだろうぜ」


「どうしてだ?」


「鈍感な奴には分かんねーよ。つーか家まで行って気付かねぇのは、流石に俺もどうかと思うぜ?」


 またよく分からない話を……。


 経験の差がみんな同じだと思うなよ。


「はぁ……それで勝負の方法は?」


「ああ、そうだったな」


 カイルがこちらに数歩近づいてくる。


「ここら辺で良いだろう。

どっちかが一本取ったら勝ちだ、開始の合図は適当で行くぜ」

 

 そう言って袋から剣を取り出して、鞘を放り投げる。


 あれは魔法の袋か。


 アイテムボックスの魔法を使っている奴が少ないと思ったら、そう言うことだったんだな。


 俺も腰の刀に手を掛ける。


「ふぅ……」


 気持ちを入れ換えて、最初の一撃を放つために集中する。


 刀技LV10が俺に最適な(すべ)を教えてくれるので、ただ感じるだけで良い。


 ――居合い斬り。


 最初の一太刀に全てを掛ける一撃必殺の技で、カイルの攻撃をねじ伏せるイメージを描く。


 次に繋げる必要はない、全力を出し切れば勝てるはずだ……!


「来い、セージ!!」


 カイルの声に反応して、身体が飛び出す。


 俺の脳から肩、肘、手首、指と命令が伝わって全身から込められた力が刀に乗る。


「……!」


 しかしカイルを見れば、何故か無防備に突っ立っているだけで動こうともしていない。


 思わず一瞬躊躇して、動きが止まってしまう。


「甘ぇ!!」


 しまった……誘われたか!!


 カイルのだらりと垂らしていた腕が、一瞬で近くまで迫る。


 僅かな隙を狙って放たれた刃は、もうすぐ目の前まで来ていた。


 このままでは斬られる……!!


「くっ……!」


 危機的状況に、思考が一瞬で加速する。


 避ける、無し。

 ガード、無し。

 反撃、 有り。


「これしかない!」


 先ほど中断された居合いを、衝撃波のスキルで無理やり再始動させる。


 常人の身体では耐えられ無いだろうが、チート性能の俺だからこそ出来る荒業だ。


 放たれた刀はカイルの剣を弾こうと真っ直ぐに伸び……。


 そして空振りした。


「だから甘ぇんだよ!!」


 カイルは俺の刀が剣に迫る一瞬、手首で剣の向きを変えて俺の刀を回避していた。


 最初から予想していなければ出来ない反応だ。


 そして最初の勢いそのままに、俺の首目掛けて剣を振る。


「取ったぁぁぁ!!!!」


 カイルが気合いと共に、回避不可能な距離にまで迫った剣で一本を取りに来る。


 後少し、俺より早く剣を突きつければカイルの勝利だ。


 そして、俺の首筋数センチ手前まで剣が迫り……。


「《現誠剣・昇陽》」


 その一瞬で勝敗が決した。


「なっ……!? は……!?」


 静寂に包まれた空間の中で、戸惑ったカイルの声だけが辺りに響く。


 カイルの剣先は、俺の首筋から離れた場所にあり、俺の刀はカイルの首元を正確に捉えて止まっていた。


「ははっ、俺の負けか……」


 驚愕の表情から一転、カイルがニヤリと笑うと剣を地面に落とす。


 そして、俺も剣を下に降ろした。


「なあ、最後の技……何だったんだ?」


「現誠剣・昇陽。物体と生物の意識を破壊する技だ」


「はーん、なるほどな!」


 その説明だけで分かったらしい。


「つまり避けられたんじゃなくて、俺の攻撃が()()()()()ってことか」


「一応避けはしたが、まあそう言うことだ」


 最後の一瞬、カイルが俺に向けていた意識の中で、俺との距離感だけを破壊した。


 だから、俺の首に剣を突き付けられなかったのだ。


「いやー久しぶりに負けたぜ! 全く悔しいな!」


「いや……」


 俺は冷や汗を拭っていた。


 何か一つでも間違えれば、一本取られていたのは俺の方だったろう。


 チート性能にチートスキルを使ってこれでは、あまり勝った気がしない。


「何辛気臭ぇ顔してんだよ! もっと喜ぼうぜ!」


「はぁ……」


 負けたというのにカイルは心底楽しそうだ。


 まったく、この男には敵わないな。


「これなら大会も大丈夫そうだな! よし、今日は俺の奢りだ! パーっと飲みに行こうぜ!」


「……はは、そうだな」


 その後、街の大衆酒場で飲んでいたのだが、酔ったカイルは意外としつこかった。


 やれ心が甘いだの、動きが単調だの。


 まあ、その間ずっと楽しそうだったから別に良いか。

 俺たちは、朝日が昇るまで飲み明かした。

お読みいただき、ありがとうございます。


セージ君はいつになったらカイルのステータスを見るのでしょうか(笑)


ステータスを見ることで化ける人も、実はチラホラ居ます。


作中で少し垣間見えている部分もありますので、ぜひ予想してみてくださいね。

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