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第31話 恋のライバルと勝者

 アリス邸を出てから、俺達は冒険者ギルドに向かっていた。


 のだが……。


「うふふ、セージさん。

そのコート、とてもよくお似合いですよ?」


「そ、そうか」


「プレゼントした甲斐(かい)がありました」


「ああ、ありがとう」


 二人で冒険者ギルドに向かっているのは良いのだが、このやり取りはもう3回目になる。


 館に居た時も合わせれば5回目だ。


「それでアリス」


「はい?」


「何で俺の腕にしがみついてるんだ?」


「はい!」


 いや、はいじゃないんだが……。


 頼むから会話をしてくれ。


「離してくれないか」


「セージさん。古今東西、妻が夫の側を離れることがありますか? いえ! ありませんよね!」


 見事な反語だが、普通にあるだろう。


 というか妻って何の話だ。


「ですから、これで良いのですよ」


「……」


 どうやらアリスは少し壊れてしまったらしい。


 まあ、冒険者ギルドは目の前だしもう良いか。


ーー


ーー


 ギルドに着くと、入り口の側には軽い人だかりが出来ていた。


「ああ、今年も剣術大会の季節ですね」


「剣術大会?」


「はい。一年に一度、闘技場で剣の腕を競うんです。

去年はカイルが優勝しましたね」


「へぇ、面白そうだな」


 時間があったら見に行きたい。


「やっぱり、セージさんも出場したいですよね」


「ん? 俺は見に行く方だが」


 冒険者試験の時は頑張ったが、俺が目指すのはスローライフだ。


 そんなに目立ったら、またこき使われてしまう。


「そうなんですか?」


「ああ、適当に見学でもするさ」


ーー


ーー


「来たな、セージ。剣術大会の登録はやっておいたから心配するな」


「は?」


 ギルドに入って早々、受付に居たギルマスからそう告げられる。


 何言ってんだこの人。


「ああ! アリスさんずるいです! セージさんから離れて下さい!」


「私の旦那さまから離れろなんて、無茶を仰らないでください……!」


「何が旦那様ですか! セージさん困ってますよ!」


「ああっ!」


 エリサとアリスが揉み合った末、ようやくアリスが俺の腕から離れる。

 

 意外とやるな、エリサ。


 と、それよりも聞き捨てならない台詞を今さっき聞いたばかりだ。


「何で俺が剣術大会に出ることになってるんだよ」


「それはお前さん、カイルが推薦したからに決まってるだろう。

アラクネクイーンを3体同時に相手した実力、大勢の前で披露しろってな」


 あいつ……余計なことしやがって。


 というか、カイルはどこに居るんだ。


「まあカイルは良いとして、俺は出ないぞ。

ついさっき、見学する事に決めたからな」


「ああ分かってる、大会の開催日は一週間後だ。

それまでに準備しておけよ」


 話聞いてないな、このジジイ。

 出ないって言ってるだろうが。


 まあ、それはいいとして……。


「昨日は旦那さまと楽しい一夜を過ごしました……。

もう、あんなことやこんなことまで……」


「そっそそそ、そうなんですか!? セージさん!?」


 こっちはこっちで変に盛り上がってるな。


 依然として、アリスは壊れたままだし。


「そんな事実は全く無い。

それよりエリサ、このアラクネクイーンの爪を換金してくれ」


 早く換金してこの場を立ち去りたい。


「そうですよね! セージさんがそんなことをするはずがありませんよね! 

分かりました、少々お待ち下さい!」


 アラクネクイーンの爪3つをエリサに渡すと、足早に奥に消えていく。


 そして、アリスが暴走する間もなく一瞬で戻ってきた。


「速いな……」


「はあ、はあ……頑張りました!」


 ずっしりと重い袋を受けとる。


「ありがとう、それじゃあまたな」


 エリサを見習って俺もドアへ向かって駆け出す。


「あ!! セージさん!?」


「お待ち下さい!! 旦那さま!?」


 聞かない聞かない。

 ここにいても厄介事に巻き込まれるだけだ。


 俺は敏捷性65に感謝しながら、ギルドを後にした。


ーー


ーー


~ギルド受付前~


「うー!!」


「むー!!」


 セージの居なくなった受付では、以前にも見たような睨み合いが行われていた。


「そういえば、セージに伝え忘れた事があったな」


「「えっ!」」


 ギルマスの言葉に二人が反応する。


「私がセージさんに伝えます! サモンズギルド長!」


「いえ、旦那さまの事は私にお任せください!」


「お前ら、揃いも揃って……」


 二人の勢いに、ギルマスが呆れたように首を振る。


「まあいい、森樹のダンジョンについてだ。

高ランクの魔物が低層に現れた件で、騎士団と合同の調査を行うことになった。それをセージの奴に伝えて欲しい。以上だ」


「「はい!」」


 それだけ伝えると、ギルマスが階段へと歩きだす。


「はは、あいつは女で苦労するな」


 そう言って少しだけ面白そうに笑うと、二階へ上がっていった。


「アリスさんはもう十分堪能しましたよね!」


「いえ、旦那さまの事は全て私が担当します」


「うぬぬ!」


「むむむ!」

 

 残された二人の方では、負けられない戦いが始まっていた。


「……! そういえばエリサさん」


 とその時、アリスが何かを思い出したように不敵な笑みを浮かべる。


「な、何ですか」


「あのコートを着ていたセージさん、素敵でしたね」


 エリサの身体がピタリと止まる。


「スタイルの良いセージさんにゴシックコートの組合せ。

それに高級な金属をあしらった装飾の数々。

さながら、大貴族の子息のようでした」


 エリサの額から冷や汗が流れる。


 感想を言う暇が無かったが、確かにエリサもそのコートを纏ったセージに見とれていた。


「え、ええ、素敵でしたね」


「誰かが差し上げた物ではないでしょうかね?」


「……まさか!?」


 驚愕の顔に変化したエリサに、アリスの指が突きつけられる。


「そう! あのコートは私がプレゼントした物なのです!」


「!?」


 エリサが膝から崩れ落ちる。


「あ、あんな素敵なものを……負けた」


「ふふん♪」


 下を向くエリサと、上を向くアリス。


 勝敗は決したようだ。


「では、私はこれで失礼します」


 そう言ってアリスがギルドを去る。


「うぅ……」


 しばらく立ち直れず、手を床についているエリサに、一人だけ空気の読めない人物が近づく。


「あ! エリサさん! セージ師匠を見かけませんでし……モガッ!」


 近づく……はずだった。


「師匠ー!! セージししょー!!」


 その前に、空気の読める冒険者達に連れられていった。


「ふ……ふふふ……諦めませんよ……」


 エリサが立ち上がる。


「絶対に諦めませんからね! 待っていてください、セージさん!」


 そう言って受付を放り出したまま、ギルドの奥へ走っていった。

 

お読みいただき、ありがとうございます。


感想に返信しようとしたら、間違って削除してしまいました。

削除してしまった方、申し訳無いです。

またお願いします( ノ;_ _)ノ


それと私事ですが、リアルで急な引っ越しが決定してしまい、落ち着くまで毎日投稿が継続出来そうにありません。


出来るだけ物語が進むようにしますので、ご理解頂ければ幸いです。

少しずつ書いていきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 返信に礼! [気になる点] いやいや!登場人物は老若男女…さらに人外も問わずです!サモンズは続投でいいと思います…作品内部で20年経つなら代替えがおこるでしょうがね!(笑) …ただ…私個…
[気になる点] いやー(そうしないと話が進まないのは分かるけども)、勝手に登録されるのはいただけないな…。
[気になる点] アリスが立ち上がる。 エリサ かな?
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