第2話 貴方が不幸なのは我々のせいです
「本当に、申し訳ございませんでした」
「……」
……状況を整理しよう。
事故に遭って一面真っ白な空間に来た
と思ったら、羽の生えた美女が土下座してた。
……我ながら訳がわかんないな。
「あー何だ、取りあえず頭を上げてくれ。
俺は交通事故にあったと思うんだが……」
「はい、貴方は深夜2時過ぎにトラックと正面衝突をして亡くなりました」
「!?」
やっぱりそうか。とすると……。
「そうか、つまりここは天国か?」
推測だが、雲の上と言えば天国くらいしか頭に浮かんでこない。
「そう……ですね、
今の日本の常識で考えれば正しいと思います。
そう思って頂いて構いません」
はっきりしない言い方だ。
もしかして本当は違うのだろうか。
「本当は天国ではないと?」
「い、いえ!! 名前が違うだけですよ。
ここの正式名称は天界の第七転生地区にある
"異世界"支部です」
「何だって!?」
今、異世界と言ったのか!? それに転生地区とも言っていた!
「それは本当か!? 俺が、俺が異世界に転生できるということか!?」
「え!? あの……近いです、うぅ……」
「えっ、ああすまん、つい」
だ、ダメだ、異世界と聞いてつい興奮してしまった。反省しなくては。
「取り乱して本当に申し訳ない、続きを話してくれないか?」
「い、いえ、嫌ではなかったですから! むしろ嬉しかったですし……。あっ、話の続きですね! はい、実は続きをお話しする前に一つ言っておかなければならないことがあるんです」
何だろうか。
「もしかして、さっき土下座していたことか?」
「……はい、お察しの通り私が謝っていた理由についてです」
やはりそうか、しかしブラック企業で鍛えられた俺のメンタルは、並大抵のことでは傷が付かない気がする。
「まず、私たちは人間が言うところの神という存在で、ここは天界と呼ばれる場所です」
ああ、それは何となく察した。
というか他にも神がいるんだな。
「それで?」
「はい、それで……貴方は自分の人生が不幸だとは思いませんでしたか?」
「それは……そうだな」
自分の不幸エピソードを人に語ってもしょうがないと思うが、俺は人よりも数倍は不幸な人生を送ってきたと思う。
「だが、結局は俺の努力が足りなかったということだろう。仕方なく受け入れるさ」
「違います! 貴方は十分努力してきました!!」
今までより数倍の大声で叫ばれたので、ついつい驚いてしまう。
「ち、違うとは?」
「……日本では現在、生まれた時の幸運値が設定されています。
前世と今世で良い行いや努力をした人には、幸運値の上昇修正が行われるんです」
ありがちな話だとは思うけど本当にそんなシステムがあったのか。
てっきり妄想の産物だと思ってたよ。
「そうか、神々もしっかりとシステムを作ってくれてるんだな。それで俺の幸運値はいくらだったんだ?」
「……2です」
……は?
「今、何て言ったんだ?」
「天界のシステムでは、善悪に応じて0から999までの幸運値が決められます。
貴方の場合は、それが生まれた時から2で固定されていたんです。我々の手違いのせいで」
まさか、そんな事があるのか。
「つまり、俺がどれだけ努力しても結果が出なかったのは、その幸運値のせいだと言うのか……」
「はい、本当に申し訳ございません」
頭が真っ白になる。さっきと同じ姿勢で頭を下げる女神様の姿が、どこか遠くに見える。
「どのように罵って頂いても構いません。
覚悟は出来ております」
「え?」
罵る? なんだろう、それは違う気がする。
確かにこの場面では怒るのが普通なのかもしれない。
でも、それ以上に俺は別の感情でいっぱいだった。
自然と涙を流してしまう程に。
「な、涙を流すのも理解できます。煮るなり焼くなり好きにしてください」
「い、いや泣いてしまって申し訳ない。
悲しい気持ちはあるが、それよりも嬉しいんだ」
「嬉しい……ですか?」
「ああ、こんな風に誰かに頑張りを認めて貰ったり、自分の努力が足りない訳じゃないって言って貰えるのは初めてでさ」
そう、俺は嬉しいのだ。
声に出して初めて気が付いた。
「だから女神様が謝ることはないって。
それにさっきの言い方だと悪いのは女神様じゃないだろ?」
「えーと、幸運値の担当は別の地区ですので、確かにそうですが……」
「ならもう気にしなくて大丈夫だ。俺の為に本気で謝ってくれた女神様に、悪口なんて言えないしな」
そう言ったら女神様が少し笑った。
「やはりお優しいのですね。前世で見ていた通りのお方です」
見られていたのか、何だか恥ずかしいな。
「その言い方だと、やっぱり俺には来世があるのか?」
前世って言ってたし。
「はい、説明が遅くなりましたね。
こちらの支部では異世界への転生を担当しております。
誠治様には魔法のある世界へ行って頂きたいと考えております」
やっぱりそうか!
「本当か! それは楽しみだ!
異世界物の小説はたくさん読んでたから、やりたい事がいっぱいあるんだよ!」
いわゆるテンプレと呼ばれるものだな、つい憧れてしまう。
そしてそれが叶うと考えるだけで、ワクワクが止まらない。
「ふふっ、存じておりますよ。
異世界では幸運値を最大にしておきますので、そういった事も起こりやすくなると思います」
「それはありがたいな!」
幸運値最大は、どんな気分なんだろうな。
「そう言えば、貴方の上司の方も転生されるみたいですよ?」
「ああ、部長か……」
まあ、俺が死んだんだし部長もそうか。
「それで、部長の転生先は?」
「砂漠です」
はい? 砂漠で人間は生きられないだろう。
「もしかして、人間じゃないとか?」
「はい。来世はサボテンになるそうですね」
「さ、サボテン!?」
動物ですらないのか!?
「彼を担当していた女神が、貴方に対する仕打ちに怒ってサボテンにすることに決めたようです」
「ま、まじか……」
流石にサボテンは同情しそうになるが、部長の自業自得なので心を痛める事もないだろう。
「そうでした! 貴方への説明がまだでしたね」
「ああ、大体想像が付くな。転生場所と年齢と能力だけ教えてくれないか?」
何も知らずに行くのも楽しそうだけどな。
「流石は話が早いですね。
場所は草原で、年齢は十七歳。スキルは口で説明するのは難しいので向こうで右手を振り下ろして下さい」
「年齢が若いのは嬉しいな。スキルはメニューでチェックしろってことか」
さっそくテンプレだな。
「それと、一番近いのは王都になりますので、是非神殿によってください。
私の像に手を合わせれば精神世界で会うことができますので」
「それは嬉しいな」
向こうでは奉られてるのか。
余裕が出来たら行ってみよう。
「他にご質問はありますか?」
「いや無いな。何から何まで本当にありがとう」
感謝を伝えたくて頭を下げる。
「いえ、私なんて……あ、でもスキルは頑張って作りましたので有効活用してくださいね?」
「ああ、ありがとう」
「ふふっ、それでは送りますね」
女神様がどこから取り出したのか、杖を持って詠唱を始める。
「……の彼を輪廻の理に従って導きたまえ!『転生』」
詠唱が完了したのか、俺の足元が光り出す。
ああ、そう言えば。
「一つ聞き忘れていた」
「何でしょう?」
「女神様の名前を教えてくれ。必ずまた会いに来るから」
名前も知らないんじゃ困るからな。
「そうでしたね、私の名は『セシル』です。必ずまた会いに来て下さいね」
「ああ、必ず」
そう言った途端、足元の光りが大きくなり、俺を包んでいく。
徐々に景色が見えなくなっていくなか、最後に"良い旅"をという声が聞こえた。
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