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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第一章『異界からの来訪者』
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第六話「協調協力」


 時刻は昼前、午前九時頃。記憶も無い上、見知らぬ異世界。


 セオリーの如く目の前に美少女は存在するが、現地人ではなく、さっき来たばかりという別世界の異世界人。


 そんな明らかに王道ではない気配がプンプンする中、紅葉の状況をある程度理解したミステリアス系異世界人猫耳美少女こと御砥鉈瑠璃は、顎に手を当て、腕を組み、現状と自身の知る情報とを合わせて考えつつ、口を開く。


「ふぅむ。おかしな力の使える頭のおかしな異世界人ですか……。最近色んな世界で多発してるらしいですけどその一種ですかね?」


 正解。その本来であればメタ視点にすら入り込みかねない情報を瑠璃はいとも簡単に言い当てる。


 それだけでも彼女の異常イレギュラーさが垣間見えるが、中空の文章を読む紅葉でなければわからない彼女の奇行はまだ続く。


「まぁ、紅葉さんが頭がおかしい子かどうかについてはこの際どうでもいいです。唐突ですが暫く私と一緒に行動しませんか?」


 普通であれば、異世界ものの御約束。可愛い女の子が異世界に不慣れな自分を案内してくれるナビゲートイベント。一度その手を取れば様々なその世界の情報が教えられ、チュートリアルの様に指定地点まで順調に事が運ぶ事だろう。


-error-介入log―////////警鵠旻:?###世階環廠########//////-error-error-error-//////


 だが、これはおかしい。


 普通、自分の世界であってもそこまで詳しく知っている者はあまりいない。そして、そんなに親切な者もあまりいない。美少女の数の少なさは言わずともがな。それが、運良く助けてくれて、運良く手伝ってくれて、運良く懐いてくれる。そんな事は、『在り得ない』。


 もしそれが一度ならば、それはただの偶然だろう。


 もしそれが二度ならば、それはきっと奇跡だろう。


 だがそれが三度ならば、それ以降はずっと『誰かが仕組んだ必然』だ。


 元々ナビゲート役が用意されている召喚者やいずれかの神格がお膳立てした転生者の類であればともかく、紅葉の場合にそれは在り得ない。


 ならばそれはきっと―//////#楷入廃叙###//////-safety-


[紅葉の場合にそれは在り得ない。ならばそれはきっと―]


(……………………ふぅん?)


[理性値判定-1D4/-1D8、下方、1D4ロール、結果3、理性値3消失]。


 唐突に中空の文章に書き足された警告文。


 とはいえ、その必然は紅葉にとっては都合の良いものの様なので、紅葉は軽くスルーし、瑠璃の手を取る。


「いいよー。不束者ですがよろしくお願い致します。ちなみに理由は聞いても?」


 その反応は瑠璃にとっては都合の良いものであると同時に何か驚くべきものでもあったらしく、瑠璃は一瞬頭部の猫耳をピクっと動かした後、掴んだ紅葉の手を引いて密着し、口元を紅葉の耳元に近付けてそっと呟く。


「周りを見てください。何か気付きませんか?」


 そう言われた紅葉は周りをゆっくりと見回し、観察する。


 そこで見えるのは目覚めた時と同じ、人影のまばらな簡素な商店街の一角。


 何か注目すべき点があるかと言われれば、綺麗に管理されている様に見えるのに、ほとんどの店のシャッターが降ろされているという点ぐらいだろうか。活気があって然るべき状況で、活気が無い。というか人がいるべき状況で、人がいない。


 稀に見かける人々も何故か少数で固まって動き、街中だというのに鎧を着こんで剣や銃、その他様々な武器で武装している。


 よく見れば開いている店もそのほとんどが機械管理の無人販売店である。


 それだけでも確かに異様だが、紅葉にはその身に沁みついた記憶によらない経験則によりもう一つ理解出来る事がある。


「そういえば……。街中なのになんか落ち着く。緊迫してるというか、いつもの戦場みたいな感じがする……?」

「えぇ、それです。……って、今何かおかしな事言いませんでした?」


 紅葉のどうという事は無い普通の感想に瑠璃は密着した紅葉の背後で顔を顰めるが、多少驚きはしても特に問題は無い為、すぐさま咳払いしてお茶を濁しつつ話を続ける。


「こほん、……まぁいいです。そして、そういう事です。この場所、見かけ上はのどかな雰囲気に偽装されてるんですが、街にいるのは完全武装した上位種族ばかり、店も自動販売店以外は全てが閉鎖されている。これは明らかな緊急事態、または軍事態勢の様相です」


 血の匂いも硝煙の匂いもしなかったので解り難かったが、その雰囲気は確かに紅葉の知る市街地戦や対テロ戦の様相と酷く似ていた。


「そして、そんな状況下で一人でいるのは危険ですが、現地のシステムを知らない間は何処で地雷踏んで街ごと敵対されるかわかりません。場合によっては些細な会話から私達が敵と見做され、軍隊と敵対しなければならなくなる時もあるでしょう。それに対して同じ異世界人の貴女が相手なら会話の最中にこの世界の地雷を踏み、密告されて狙撃される、みたいな事は避けられます。そうした点を考えると、今現在一緒に行動するなら貴女が一番安全なんですよ。もちろんそれは貴女にも言えるはずです」


 そうして瑠璃は理由を説明した後、密着した紅葉からゆっくりと離れる。内緒話は終わりという意味だろう。


 紅葉から離れた瑠璃はベンチから立ち上がって猫らしく伸びをする。


 そんな瑠璃に対し、なんとなくまだ密着していたかった紅葉は瑠璃にそっと後ろから伸し掛かかりつつ、今後の話題を話す。


「ふむ。まぁ、理由は解ったし、やっぱり異論はないけど、これからどうする? 何処かのギルドにでも登録しに行く?」


 それは紅葉の知る異世界系ゲーム知識の王道から推論した答えだったが、半分以上冗談であったそれは当然ながら蹴られ、ついでに伸し掛かりが馴れ馴れしかったのか紅葉自身も軽く振り払われつつ、瑠璃が振り返ると同時に尻尾ではたかれる。


「いや、まずは役所に届け出でしょう。事故による転移なら緊急避難が適応されると思いますし、私みたいに次元の歪みを渡って流れ着いた場合でも入国手続きが必要でしょう。文明LVが低くてそういう制度の整備されてなさそうな場所ならそんなの無視で良かったんですけど、此処ってたぶん何処かかなり文明LVの高い法治国家の都市みたいですし、早めに正規の手続き済ませないと最悪不法入国扱いで公僕に捕まりますよ」


 都市があるなら国があり、国の運営は大抵組合等ではなく役所による。ここにファンタジックな世界観など存在しない。


「まぁ安心してください。これだけ文明レベルが発展していて街の人達もいきなり襲ってこない所を見ると、異世界人だからと言って邪険にされたり、いきなり逮捕なんて事は無いと思いますよ」


 そう言いつつ、瑠璃が掌で再度周囲を見回してみる様に促すので、紅葉が再度周囲を見渡すと、確かに、自分達の様な獣人の他に、アンドロイドかサイボーグだと思われる人型に身体の一部が機械となった種族や、身体の一部が別生物になっている合成種族の様な種族がかなりの比率で存在し、それどころか紅葉が元居た世界では御伽話の中の存在として扱われていた背中に虫の様な羽が生えた妖精と思われる種族や、その外見からエルフやウィンディーネと思われる精霊種、また、それらと比べるとそう比率は高くないものの、天使や魔神、鬼や龍人と思われる種族もちらほらと存在していた。


 ……ちなみに、それ以外にも何か頭以外は人型なのに頭だけが豆腐だったり、茸だったり、寿司だったり、はたまた何かの植物だったりという謎生物や見てるだけで正気度が削られそうなよくわからない何かもいるが、それについて、紅葉は見なかった事にした。


「なるほど、共存関係が既に成立してる、と」

「多種族系の世界ではそう珍しい事でもないですけどね」


 そうした状況を瑠璃は事も無さげに言うが、そこで紅葉は見なかった事にしておいたものをちょっとだけ見て瑠璃に問う。


「ちなみにああいうのも?」


 その視線の先には先程から熱心に同じところでぐるぐるとパントマイムしながら何かの踊りを踊っている頭が大トロ寿司で体が人間の珍妙な生物がいる。


「……きっと、そういう生物なんですよ。いや、私は初めて見ましたけど」


 それを見た瑠璃は露骨に目を逸らしながらそれっぽい事を言うので、紅葉もやっぱり見なかった事にした。[理性値判定回避]


 しかし、それは賢明な判断である。


 瑠璃や紅葉自身以外にも、この世界の謎は極めて多いのだ。

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