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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第一章『異界からの来訪者』
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第五話「情報整理」

「……なるほど、つまり紅葉さんも私と同じく異世界人だと」


 しかも、彼女、瑠璃とは違う世界からの異世界人なのである。


「まぁそういう可能性も予想してましたから、別に私は驚いたりしませんけど」


 とはいえ、目の前の少女、御砥鉈瑠璃にとっては異世界移動は割と当たり前の事で特に驚く様な事ではないらしい。その為、瑠璃の関心は別の方向へ向く。


「しかし、記憶喪失の異世界人ですか……。それだけだとまるっきり情報がないですね……。そういえば、私はネイヴっていう種族なんですけど、紅葉さんは何の種族なんです? その辺は覚えてませんか? というか記憶はどの辺まであるんです?」

「うーん……自分の事以外は大体覚えてる気がするんだけど……」


 実際に紅葉は周囲の物の名称や概念、言葉の意味などは正確に覚えている。ただ、自身に関する記憶だけがすっぽりと抜け落ちているのだ。


 所轄エピソード記憶喪失というやつだろう。


 しかし、それでいて種族の事と聞かれると、紅葉には更なる違和感があった。紅葉はその違和感をゆっくりとまとめ、言葉にして吐き出していく。


「種族……は、獣人で妖怪で精霊で神族で魔族で龍族だった気がする……」

「やっぱり頭打ちましたか?」


 実際の所、紅葉はライカンセリウと呼ばれる種族だが、ネイヴもライカンセリウもその種族の固有名詞であり、獣人そのものはこの世界ではbeastvolkビーストフォルクと総称されており、その中でも人の特性に近いものはfurryファーリー、獣の特性に近いものはanthroアンスローという区分が行われている。また、ファーリーの中でも特に瑠璃や紅葉の様な人の躰を主軸に獣としての要素が付加されたものはfyarbeastフュアビーストとして分類されているが、それらの事柄は紅葉には知る由もない。


[実際の所、紅葉はライカンセリウと呼ばれる種族だが、ネイヴもライカンセリウもその種族の固有名詞であり、獣人そのものはこの世界ではbeastvolkビーストフォルクと総称されており、その中でも人の特性に近いものはfurryファーリー、獣の特性に近いものはanthroアンスローという区分が行われている。また、ファーリーの中でも特に瑠璃や紅葉の様な人の躰を主軸に獣としての要素が付加されたものはfyarbeastフュアビーストとして分類されているが、それらの事柄は紅葉には知る由もない。]


「あ、私の種族はライカンセリウっていうみたい。後、獣人の事はビーストフォルクって言って私達みたいにほぼ人族種なのはフュアビーストっていうらしいね」


 ……はずだったのだか、中空に浮かぶ文章は紅葉の本来持つ知識の量を超えて様々な事実を紅葉に教えていた。


 それを聞いて瑠璃は首をひねりながら顎に手を当てて思案する。


「んー、聞いた事がありませんね。ライカンセリウだけでなくフュアビーストなんていう種族の分類も初耳です。ビーストフォルクは物質界語でビーストが獣ですからフォルクがたぶん人とかそういう意味なんでしょうけど……」


 そこまで言った所で瑠璃は紅葉の話し方からある事実に気付く。


「……というか、みたいっていう事はそれも中空に書かれてる文章とやらに書いてあるって事ですか?」

「なんなんだろうね、これ」


 中空の文は中空の文である。


 しかし、本当にこの文章は一体何なんなのだろうか? 通常は紅葉を中心に、その周囲の状況を俯瞰して記している様だが、紅葉にはそれに思い当たる節が無い。


(ログみたいなものかな?)


 そこで紅葉はふと気付く。


「あれ? 私の考えた事も表示されてる……」

「表示? 何の話ですか?」


(ふむ)


「あー、瑠璃? 何か頭の中で考えてみてくれない? なんかの食べ物とか」

「はぁ……?」


 瑠璃は怪訝そうに紅葉を見ながらも言われた事柄を実行する事にする。


/(と言っても何か食べ物ねぇ……ハンバーグ……)/


[]


 しかし、中空の文には瑠璃の考えた事柄は表示されない。


「えっと、考えてる?」

「えぇ、とても考えてます」


 瑠璃は半眼で睨み付けるかのようにじとーっと紅葉を見つめる。実際、瑠璃は紅葉の言った通り食べ物の事を考えたのだが、残念ながら他人の思考は中空の文には表示されない様だ。


「あぁ、他人の思考は読めないのか……」


 予想に反した中空の文の挙動に首を傾げる紅葉に瑠璃は眉を顰めながら答え合わせをする。


「……読心術の類ですか? 今夜は狗鍋って考えたんですけど」

「食われる!」


 瑠璃の考えていたのは狗鍋だった発言に紅葉は少し冷や汗をかいて後ずさる。冗談である事はわかりながらも、瑠璃の眼力と迫力に気圧されたのだ。とはいえ、瑠璃はここで嘘をついた。先程考えていた食べ物は狗鍋ではなくハンバーグだったからだ。


「食べないで下さ~、って、ん? ハンバーグ?」

「! ……どうしてそれを?」


 紅葉の発言の直後に瑠璃の顔色が変わる。いや、正確には半眼だった瞳が驚いた様に大きく見開かれ、今度は疑う様に紅葉をじろじろと見始める。


「いや、書いてある……狗鍋は嘘で正解はハンバーグだって……え? もしかして正解?」

「えぇ……単に頭を打っておかしくなった、というわけでもないみたいですね……」

「……変な子扱いしないでー」

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