邪宗・蓮鳥教 その三
迎えた三日後の朝、傘岡駅の大手口にある電停の一つ、西傘岡線の乗り場へ集合した真樹と坂東は、七分間隔でやってくる通勤ラッシュ対応の二両編成の市電を二、三本見送り、新聞スタンドで買った朝刊へ目を通していた。やがて、象のあくびのような警笛とともに、濃淡緑のツートンカラーをした越州鉄道の急行電車がホームへ入ってくると、二人は新聞を小脇に抱えて鞄を提げ、乗降口の丸いしるしが入った箇所へ陣取った。
「やっぱり、九時前だと空いてますね」
自分たちの他に数えるほどしか客のいない車内を、坂東は物珍しげに見回している。きれいになでつけた髪から漂う整髪料の香りが、半分開け放たれた窓から入る風にふかれ、真樹の鼻をくすぐる。
「西傘岡まで行くような連中は、一本前で終わってるらしいですよ。うちのバイトが、友達がよく乗り損ねるとか話してましたっけ……」
網棚の上に使い古しのボストンバックを上げ、膝の上には革のカメラバックをのせた真樹は、麻の背広の胸元を広げ、しきりにカンカン帽子で風を送っている。まだ六月になったばかりというのにいきなり気温が上がり、真樹は早くも夏バテの兆しを見せていたのだった。
「――で、ここから先はどういう経路でしたっけ?」
布のブラインドを開けきりながら坂東が尋ねると、真樹はカメラバックの中へ入れてあったJTBの時刻表を出し、後ろの方に載っている私鉄のダイヤを確かめた。市電こそ省かれているが、大きな会社の時刻表ならば、市電に相互乗り入れをしている越州鉄道のダイヤくらいはきちんと載っているのである。
「九時一分発の急行で傘岡駅前を出て、乗り換え地点の越鉄西傘岡に着くのが十五分後だから――」
そこまで真樹が言いたけたところで、発車を告げる年季の入ったベルがホームに鳴り響き、開けっ放しになっていたドアがスッと閉じた。そして、足元から吊りかけモーターの鈍い音を響かせながら、越鉄の急行電車は軌道敷の上を足早に、隣を走る自動車やバスを追い抜きながら、悠々と大手通りを西進しはじめたのだった。