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囮と決意


くそ。


ひとり心の内で歯軋りする。


なにをしているんだ僕は!


リサは、初めから僕だけでなく能力がない男女2人もここに残らせようとしていた。


だが、彼女は周りから少なからず良い印象は持たれていない。それをみんなの前で言ったところでデインをはじめとする人たちに反対されることがわかっている。


自身だけでは押し通すには至らなかった。


だから、彼女は待っていたのだ、僕の方から「使えないのがいる」という言葉を。


自分からはいうことなく間接的に自身の主張を、

また、その事実を改めてみんなへと伝えるために。


それでも平常であれば、冷静な判断はできるはずなのだが、今の状況はあまりにも平常とかけ離れていた。


そして疲労が蓄積していた。


身体的にも精神的にも。


冷静になんていられないのだ。


だからより自身が生きるために、他人を犠牲にしてでも死にたくないという思考をしてしまうのは、当然の帰結だった。


彼女の発言と同時に次々に声が上がりはじめた。


「そ、そうだよな。ダイヤひとりじゃ、確実性がない。」


「そのことは、もう運に任せようと思っていたけど、そうだよね。ダイヤ以外にもいるじゃん。」


「使えない能力なし、が。」


場は荒れていた。


誰も彼もが今やリサの主張に同調していた。


「く…そ」


誰にも聞こえないほどの小さな呟きを溢した。


「じゃあ早速私たちは脱出するよ。」


異論はもうないと言わんばかりにリサがみんなを連れてこの場から去ろうとしたとき、


「待て!なにを勝手に決めているんだ!僕はダイヤ君もそのほかも誰もこの場には残らせない!みんなが助かる方法を考えるんだ!」


デイン一人だけが彼らの前に立ち塞がった。


そう、一人だけだ。彼と共にいた人たちはすでにリサの元についている。


「デインの言う通りよ。あなたたちは、彼らをここに残らせる気?」


デインの声に続いたのは一人の少女だった。


その少女はリサと違って純粋に友達と呼ばれる存在を作り、この場の女子を二分していた。


それだから、彼女に続く女の子がいるかと思ったのだが、彼女以外、声があがらなかった。


「なにしてんの?二人して。」


あからさまに不機嫌な様子のリサ。そんなリサに続くのは、


「ふざけんな、何言ってんだ!」


「どうせ、あいつらは能力なしで足を引っ張るだけだろ。」


「そうだそうだ。能力なしはいらないんだよ。」


二人を批判する言葉ではなく、僕たちの批判であった。


それと同時に能力なしと呼ばれた二人が誰かの浮遊の能力によって僕の元へと飛ばされてきた。


二人の勢いを止めることは出来ずにそのままぶつかり合い倒れてしまった。


「大丈夫?」


「はい。大丈夫です。」


「僕も。」


二人がけがをしていないようで安心した。


その間もリサと少女とデインの口論は続いていた。


「いい加減にうざったいんだけど。」


「あなたたちが止まればいいだけよ。」


「頼む。考え直してくれ。まだやれることはあるはずなんだ。」


「もう、薄くなりはじめてるけど。」


目を向けると確かに壁が色あせてきていた。


「はあ、らちがあかないわ。ショウくんよろしく」


「ごめん。デイン。セレナ。少しでも多くの人が生き残るにはこうするしかないんだ。」


「なにを、」


その瞬間白い光が辺りを満たした。






その光が収まったのはすでにみんなの姿がなくなってからだった。


敵が減っていないことから、しっかり僕たちに能力で囮になるように仕向けたようだ。


隣に2人がいることを確認してから周りを見渡す。


すると、


「え?」


思わず、僕だけでなく、隣の2人も声を漏らした。


僕たちの視界には、さっき僕たちを守ろうとしてくれていた少女の姿が映っていた。


そんな彼女と目がかち合いお互いに視線を外せないでいると、向こうからゆっくりと申し訳なさそうにしてこちらへと向かってきた。


「えと、そのごめんね。」


開口一番彼女から漏れた声は謝罪であった。


もちろん、僕たち男子はそれを手を左右に振って否定する。


みっともない男子と異なり、隣の少女が微笑みながら優しく、


「ううん、セレナちゃんは謝ることないよ。」


そんなことないとセレナと呼ばれる少女に教える。


それに異論などあるはずがない為、僕たち男子は頭を縦に頷く。


「でも、私とデインは」


「止められなかったって?」


「うん。」


そこからセレナさんがなにを言わんとしているかが分かった為、問いを投げかけた。


「それは、セレナさんだって分かってたんじゃない?彼らを止めることは出来ないって。それに僕が彼らに大きなきっかけを与えてしまった張本人だよ。僕の責任だ。そもそも、僕以外の人がここに残るなんてことが…」


誰もが黙り込んでしまったかと思ったが、すぐに僕にそれは帰ってきた。


「僕は少なくともここにいることを誰かのせいになんてしないし、良かったと思ってるよ。」


「え?」


「うん。私も。」


少年に続いて少女もそんなことを僕に向けて…


「その、私もここに取り残されたこと後悔してないわよ。ダイヤ君。」


みんなにあからさまに意図的に取り残されたセレナさんでさえもそんなことを言ってくれた。


ああ。もうほんとに。


「ごめん、本当にありがとう。」


僕の頬に一筋の涙が伝った。





この人たちは死なせない。


絶対に。


涙を流すとともにそう僕は決意した。






























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