君たちと僕たちのゲームの始まり
「ここが迷宮?」
「そうだよ〜」
一瞬の間に移動したこの場所は、ついさっきまでいた空間と大きな差異はなかった。
だが、明らかに雰囲気が変わっていた。
それは僕以外の人たちも気付いているようであの騒がしさは身なりを潜めていた。
そんな僕たちの様子を知ってか知らずか仮面の人物は、さっきまでとなんら変わらない様子で話し始める。
「な〜んか静かになっちゃったけど君たちには、さっきいたあの場所まで帰ってきてもらうよ〜帰る方法は、ただ上を目指すだけ〜ここは迷宮3階だから頑張って上まで戻ってきてね。ちゃんと目印は置いておくから。」
「戻るだけ?簡単じゃね?」
誰かがそんな声を上げる。
「は〜そんな訳ないじゃん、君バカなの?」
呆れたような口調でその発言に対しての答えを語る。
「あのね〜これは一応君たちの実力を見るための僕の試験かな?だから、何事もなく帰ってこれるなんて思わない方が良いよ〜」
「具体的には何があるっていうんですか?」
仮面の人物の返答を聞いた僕たちの中のまた誰かが問う。
「それは言ってもいいけど、見てからのお楽しみということで〜見てみたいんだよ」
仮面の人がふふと嗤いながら続けた。
「君たちがこれからどんな顔をして、どんな声を上げてくれるのか。僕は見ての通り映像体だから君たちについてはいけない。ただ君たちを見ることはできるんだ〜。だからよくよ〜く君たちを見させてもらうね。」
誰も彼もが押し黙ってしまった中、それは、高らかに宣言した。
「さあ、君たちと僕たちのゲームを始めよう。」
「でもさ、何がいるんだろうね?」
「うん、情報が何もないしそもそも何かがあるっていうのがブラフかも?」
「それはないと思うけどなー」
などと言い合いながら、僕たちは迷宮の中を歩いていた。
僕や一部の人たちを除いて概ね特段不安を煽るようなことはなかった。
僕たちのとっている陣形は、前方に男子が固まり、後方に女子が固まっているような形だ。
ここまでの道はほぼほぼ直線だけだった。
ほぼほぼというのは、迷宮に連れてこられたときにみんなでいた空間から出てすぐのときに下の階に続く階段があったのだ。
それを見て、
「僕たちがいた空間から先はなくて行き止まりだった。つまり敵が襲ってくるとしたらここの階段からだね。この階段を塞いでおこう。」
そんな提案をして階段の入り口を岩石で塞ぎ、今この集団を仕切っているのはデインという少年だった。
デインは顔立ちが整っているだけでなくこのように周りを仕切ることのできる主体性を持つ。
そんな彼だから、あっという間に信頼を集め彼が仕切ることに不満を持つ者はいなかった。
一部を除いて。
「おいデイン。」
「ん?なんだいバーク?」
「気安く名前で呼んでんじゃねぇよ!」
バークという少年は、いわゆるヤンキーのような見た目をしている。
というか口遣いからしてまあ確定だろうけど。
正直いうと僕はこういう怖い感じの人は苦手だ。
別に関わるのが嫌だというわけではないんだけど積極的には関わり合いたく無いな、なんて思ってたりする。
「あとどんくらいだよ。もうだるくってしゃーねぇ。」
「あと少しのはずだけど、エナさん、どうですか?」
「うん、もうじき上階に通じる階段が見えてくるはずだよ。」
「うん。ありがとう。エナさん。」
「どういたしまして!」
エナさんには壁に触れることで、壁が途切れてる場所が分かるらしく途切れている場所がおそらく階段のある場所だろうとエナさんがデインさんの補佐をしていた。
そんなこんなで進み続けているととりあえずの目的地が見えてきた。
「おい、あれ階段だよな?」
「絶対そうだ!やった!早く行こうぜ!」
上の階へと向かう階段をやっと自分たちの視界に捉えることができたために安堵の声がそこらから溢れる。
僕もほっと胸を撫で下ろす。
こういう時はやはり気が抜けてしまうものだ。
だから…
「きゃー」
後方の女子からの悲鳴で僕たちはここがどこなのか改めて思い知らされることになる。
「なんだ!」
デインが叫び後方へと目を向ける。
女子たちが一斉にこちら側へとかけてくる。
それと同時に悲鳴と咆哮が響いた。
デインが女子たちに駆け寄る。
「どうした!」
「黒い何かが急に後ろから現れてミサを、ミサを」
ミサというのは言うまでもなくここにいた女子の内の一人だ。
言い切ってはいないがそのミサという女子はおそらくは…
それを察したデインが優しくその女の子に寄り添う。
「ごめん。ありがとう。あとは僕たちがやる。ゆっくりとはいかないけど休んでて。」
デインは立ち上がり剣を創造し、僕たちに呼びかける。
「僕たちはこれから正体不明の敵の元へと向かう。先陣きって戦うのは男子だ。女子は後方からの援護を。そして戦えない人たちは状況の把握に努めてくれ。これは僕たちの初陣だ。絶対に勝つぞ!」
そうして僕は、一抹の不安を感じつつも、初めての命がけの戦闘に臨むのだった。