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異世界在住の銃骨格  作者: ハクトラ シラコ
7/22

反撃の音色は儚く

 亜人達が次々と銃を手にする最中、地上へと飛び出した彼は勢いそのままに空中へと躍り出ていた。眼下には集落のあちこちから上がる火の手と敵の姿。少数だが、穴から飛び出してきた彼に気付いた者も何人かいるようだ。

 情報共有をすべく動き始めようとする者、迎撃せんと弓を構える者、気付きもせずに生き残った亜人達を追い回す者、実に様々だ。

 

 その何れにも反応を示さず、ゼロの冷たい声が響く。

 

 『索敵完了。これより殲滅行動に移行します。武装検索――ヒット。アサルトライフル展開』

 

 「優先順位は彼処で亜人を追い回している人間で構わないな?」

 

 『守護対象(亜人)の保護が最優先です。その判断に同意しましょう』

 

 「光栄の限りだ」

 

 手の中に現れたアサルトライフルを構え、一切の躊躇いなくトリガーを引く。フルオート式のアサルトライフルの銃口より発射される弾丸の雨。意識を完全に逃げ惑う亜人へと向けていた人間達がそれに気づける筈もなく、1人2人とその身を穿たれる。

 彼らが上空からの攻撃に反応したのは、既に何人もが地に伏した後の事だった。

 

 「奇襲か!?」

 

 「くそっ! 狩られるだけの亜人風情が舐めた真似を!」

 

 「隊列を組め! 相手が亜人とて油断するな!」

 

 立て直し、即座に対処せんと動けた事を評価すべきか。それとも、そもそも奇襲など受けるなと非難すべきか。相手が本当に亜人であったのならば、なるほど後者を言われても仕方ないだろう。

 しかし悲しきかな、相手は亜人でもなければ生物ですらない。奇襲を受けても仕方ない。例え迅速な対応を取ったとて、意味が無い。相手はこの世界の人間にとって、人智を超えた存在なのだから。

 

 かなりの高さから彼が着地する。重さ故に地面が軽くめくり上がる中、着地時の硬直すら無視して彼が地を蹴り駆け出した。その速度は音を置き去りにするかの如く。瞬く間に人間達との距離は縮まり、1人が彼の姿を眼前にした瞬間には頭は撃ち抜かれていた。

 

 「な、何だコイツは! ゴーレムか!?」

 

 「怯むな! 我らには加護(・・)がある! ゴーレム如きに遅れをとるばはぁっ!?」

 

 指示を出そうとしていた人間の顎がアサルトライフルの弾丸によって吹き飛び、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。

 

 「ひっ……! こ、この野郎ぉぉぉぉっ!!!」

 

 彼の背後から剣の一撃が振るわれる。恐怖に慄く剣筋は乱れ、なんと弱々しい事か。亜人から見ればそれすらも恐怖の対象になり得るが、生憎と彼からすれば良い獲物でしかなかった。

 異常なまでの反応速度で振り向き、剣を持つ兵士の手首を握り込んで捻り折る。骨が砕け散る音、聞くに耐えない叫び声。手の中から剣が零れ落ちた。それに合わせるように、彼が膝を大きく突き出す。

 膝先は剣の柄尻を捉え、そのまま兵士の腹へ深々と突き刺さった。そこで終わらず、トドメの一撃は剣が刺さった事で前のめりになり、まるで彼に差し出すように下げられた顎下へ銃口を突きつけてのゼロ距離射撃。

 文字通り弾け飛ぶ頭。あまりにも無惨な仲間の最後に、何人もがその場から逃げ出そうとする。

 

 それをみすみす逃すほど彼は優しくなどない。ミッションは、敵の殲滅なのだ。いかに怯え、戦意を失い、許しを乞おうとも。

 

 ただ殺すのみ。

 

 『マルチロック』

 

 「ほう? 便利なものだ」

 

 彼の視界の中で、逃げ出す敵がロックオンされる。トリガーを引いて薙ぎ払うようにアサルトライフルを振るえば、撃ち出された弾丸は吸い込まれるように敵の身を穿ち、次々と倒れ伏していく。

 ふとその中で唯一、致命傷を避けた者が1人。先程まで共に亜人を追いかけ回していた仲間は、一瞬にして命を刈り取られた。物言わぬ屍となり、光を失った仲間の瞳が生き残った人間の姿を映す。

 

 「なん、で……なんで俺達がやられ……! だって加護があるんだぞ! 俺達には! なのに、なのに……ありえない! ありえないぃぃぃぃ!!」

 

 認めたくない現実を突き付けられ、恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ出す。無論だが、彼に逃がす気など更々無いという事は言うまでもないだろう。

 

 『1名逃亡』

 

 「問題は無い」

 

 ゼロに言われるまでもなく彼自身も逃げていく人間の背中は視認していた。家の裏手に逃げ込んだのを見計らい、彼もまた駆け出す。後ろからでもなく、屋根上からでもなく、まして先回りすらもせず、彼の体は真っ直ぐに家へと激突。

 壁も家具も、何もかもを粉砕しながら突き進み、反対側の壁を力強く打ち据えて瓦礫と共に外へと飛び出した。眼前に広がっていたのは、いきなり壁の中から目の前に現れた彼に驚き、尻もちを着いた兵士の姿。

 

 自分を見下ろす異形。赤い双眸が自分に向けられている。それを自覚すると、兵士はおそらく幼少期以来となるであろう失禁をしてしまった。

 自分の理解を超えた存在が、今まさに自分を殺そうとしている。最強の種族である自分が、為す術もなく。亜人を始めとしたあらゆる種族の頂点たる存在を害することなど出来ない筈なのに。

 

 ならば何故、追い詰められている? 何故怯えている? 最強である自分達が、何故?

 

 そうして兵士は悟った。

 誰もが恐れる人間を、誰もが頭を垂れる存在を、こうも容易く殺すなど。それは最早――。

 

 「ぁ、神さ――」

 

 トリガーの一引きで心臓を撃ち抜かれ、兵士の言葉は最後まで紡がれる事はなかった。何の感慨に耽けることもなく、彼は事切れた兵士を一瞥して歩き出す。

 

 そんな時、ふと疑問に思ったのは兵士が口にしていた加護(・・)という言葉。あの口振りからすると、彼等に絶大な影響を及ぼしている何かだという事は推測できる。

 ミヤが言っていた慢心に繋がる何かだろうか? と、そこまで考えて頭を横に振った。

 

 「(いや、後にするとしよう。またゼロに小言を言われては適わん)」

 

 『救出した亜人(守護対象)の保護を最優先してください』

 

 「ああ、了解だ」

 

 そら早速催促が飛んできた。ゼロに促されるまま、助け出した亜人の元へ急ぐため彼は駆け出す。

 しかしタダで通してくれないのは当たり前。彼の視界は、既にこちらへと向かってくる多数の敵の援軍を壁越しに探知していた。このまま行けば家の曲がり角で鉢合わせるだろう。

 

 彼は思う。望むところだ、と。

 

 「滑り込むぞ」

 

 『了解。背部ブースター及び脚部ブースター点火』

 

 たった一言から彼のやりたい事を汲み取ったゼロが、銃骨格(ガンフレーム)の機能を発動させる。背中、脚部の装甲がスライドし、直後に火を吹いた。

 同時に彼が所謂スライディングの体勢を取り、固定。その体勢のままブースターの推進力で突き進み、アサルトライフルの照準を壁越しの敵へと合わせる。

 

 「へ?」

 

 援軍として駆けつけた人間の誰もが間抜け面をしていた事だろう。無理もない。

 いきなり曲がり角から巨躯の存在がスライディングをしながら飛び出してきたのだから。そしてその反応は彼にとって絶好となる大きな隙。

 

 『会敵。ファイヤ』

 

 トリガー。撃ち出された無数の弾丸が兵士達を蹂躙していく。為す術なく、たった一言すら発する事を許さず。

 

 『倒れた死体が障害となっています』

 

 「ならば、こうしよう」

 

 前衛の兵士は尽く散った。その骸は小さな山となり、スライディングの状態を維持している彼から見れば、それは肉の塊でできた土嚢(どのう)のようだ。

 いくらスキャンのおかげで死体越しに敵の姿を確認できようが、死体ごと撃ち抜いては多少ながらも殺傷力は下がってしまう。これでは、ゼロが求める最効率には程遠い。

 ならばと、彼は左手を地面へ叩き付け無理やりに軌道を変えた。直線的だったものから弧を描くような軌道へ。

 これにより、死体で隠れていた標的の姿も顕となった。右手のみでアサルトライフルを構え躊躇なくトリガーを引き、残りの敵も難なく掃討。

 

 『ブースターオフライン』

 

 「うわあぁぁっ!!!」

 

 全滅を確認した後、銃骨格(ガンフレーム)が急停止。止まった場所のちょうど目の前には、先程まで人間達に追い回されていた歳若い男性亜人の姿があった。

 随分と怯えた様子で彼を見ている。当たり前だ、この亜人はミヤ達と違って彼と遭遇するのは初めてなのだから。

 落ち着かせる為に、せめてもと彼が亜人の肩をポンポンと軽く叩く。優しげな衝撃に、恐怖の色に染まっていた亜人の表情も幾分か和らいだ様子だ。

 

 「怯える必要は無い。私はお前達を助けにきた」

 

 「し、喋った!? って、え……? お、俺達を……?」

 

 「悪いが詳しく説明している暇はなくてな。情報が欲しい。ここから逃げ切れた亜人は居るか?」

 

 「それは……あ、そ、そうだ! ミヤ様! きっとまだ何処かで生きていらっしゃる筈だ! 何処の誰だか知らないが、ミヤ様を!」

 

 「その心配はいらない。ミヤ・シャーリウスと他多数の亜人の安全は既に確保している」

 

 「ほ、本当か! そうか……よかった。ミヤ様が死んじまったら、俺達に明日はないからな……ほんとに良かった」

 

 「ふむ?」

 

 この亜人の言動。ミヤという存在は、彼が思う以上に亜人にとって大きな存在のようだ。依存とも取れるが、果たして?

 

 「それより情報だ。他に心当たりは?」

 

 「わからない。俺も無我夢中で逃げてたから……。でも、あちこちで悲鳴が上がってたから、探せばいる、かも」

 

 「出来れば探知外に居る者の情報が欲しかったのだが、まぁいいだろう。まずはお前の安全確保だ。手荒くなるが我慢してもらうぞ」

 

 「え、何をわあああぁぁぁっ!!!?」

 

 正直に言えば、その辺の物陰にでも押し込めて即殲滅活動再開と行きたい彼だったが、生憎とミヤとの約束がある。

 

 何を犠牲にしてでも亜人を助けろ。

 

 亜人(守護対象)にああまで言われては、亜人を守護する事を使命とする彼は断れない。

 故に、この男をぞんざいに扱う事は許されない。彼なりに(・・・・)丁重に保護しなくてはならないのだ。

 

 男の了承を得ぬまま、彼が左腕で男を抱え上げる。そこまでなら男も驚きこそすれ、大声を上げるような事はしなかっただろう。男が今まで体験した事の無い速度で彼が駆け出し、更には空高く跳躍。声を上げるなという方が土台無理な話である。

 高度はグングンと上昇。瞬く間に敵の姿が豆粒サイズになり、男の慌て様も加速するばかりだ。

 

 「ととと飛んでる! 飛んでるってぇぇぇぇぇぇ!!? 俺高い所ダメなんだよぉぉぉぉっ!!!」

 

 『否定します。銃骨格(ガンフレーム)に飛行機能は搭載されていません。これは単なる跳躍であると理解してください』

 

 「誰の声ぇぇぇ!!? ていうか落ちる! いや落ちてる!!! 落ちてるってぇぇぇぇ!!! 絶対死ぬやつだあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 「喧しい。それより口を閉じていろ。着地の衝撃で自分の舌を噛みちぎっても責任は持たんぞ」

  

 刻々と眼前に迫る地面。こんな高さから落ちて無事でいられる訳がない。男は最早諦めた様子で懺悔をし始めてしまった。

 

 「我らが亜人の守り神よ! これは日々お参りをサボってしまっていた俺への罰でしょうかー!? 今後は毎日お祈りを捧げます! 供物も献上いたします! だからどうかお許しください!

 この哀れなゴミ虫に一時のご慈悲をもがが……!」

 

 言っても聞かぬなら。ベラベラと喋り倒す男の口を、アサルトライフルを収納してフリーになった右手で塞ぐ。せっかく助け出したというのに、自ら舌を噛み切って死んでしまいましたでは笑い話にもならない。

 

 男の口をしっかりと塞ぎ、彼はようやく地面へと帰還を果たした。男への被害を最小限にする為、巧みに受身を取って衝撃を殺す。

 完全に静止した事を確認した彼がゆっくりと立ち上がり、抱えていた男をその辺の茂みへ軽く放り投げた。扱いがぞんざいになってきているようにも思えるが、空中に居た間に彼にも思う所があったのだろう。

 

 「あわわわ、じ、地面だ……俺、生きてる……よな?」

 

 「でなければ喋れていないだろう。ゼロ、索敵を頼めるか?」

 

 『既に行っています。一帯に敵性生命体(人間)は検知出来ず。ひとまずは安全と言うべきでしょう』

 

 仕事が早い。今彼らが居る場所は、集落から少し離れた森の中。木々が生い茂り、辺りを見渡せば背の高い草も多く自生している。身を隠すには十分な環境だ。

 

 「人間以外の脅威は?」

 

 『皆無。他生命体の存在は複数検知されましたが、どれも無害な存在と判断します』

 

 「よし。おい、お前」

 

 「あ〜地面だぁ。やっぱり地に足付けるのが1番だよな〜」

 

 「……」

 

 「もう離さないぞ〜。空なんて二度といだぁっ!!!?」

 

 長距離跳躍がよほど堪えたのか、何やら男が地面に頬を擦り付けて危ない方向へ進もうとしている。これには彼も何と声を掛けていいか分からない。

 そっとしておくべき……なのだろう。だがそうもいかないのが今の現状だ。

 迷いはしたものの、意を決した彼が後ろから男に近付き、威力を最低まで引き下げた拳骨を脳天に振り下ろす。とは言えあれだけのスペックを誇る銃骨格(ガンフレーム)が放つ拳骨だ。いくら威力を低くした所で、亜人にとっては鈍器で殴られたのとそう変わりはしない。

 

 現に男は頭を押えながらゴロゴロと痛みに耐えていた。

 

 「戻ったか?」

 

 「むしろ旅立つところだったけど!? 何すんだよ!?」

 

 「それは困るな。私は今から集落へ戻り、残敵殲滅及び亜人の保護を継続する。

 お前は此処に留まれ。他にも生き残りが居た場合、さっきのように此処へ連れて来る」

 

 「さっきのように……あぁ、思い出したくもない。皆可哀想に。あんな恐ろしい体験をする事になるのか」

 

 「奴らに殺される体験よりはマシだと思うがな」

 

 男にとって、死と同等にしてしまう程に高い所が苦手なのだろうか。などと考えそうになって彼は頭を振る。

 こんな所にいつまでも留まってはいられない。事は一刻を争う。再び彼が跳躍せんと体勢を低くし、銃骨格(ガンフレーム)の脚部に力が込められ始める。

 

 「あ! ちょ、ちょっと待った!」

 

 今まさに跳ばんとした時、不意に男から待ったを掛けられた。

 

 「なんだ、急げ」

 

 「アンタが生き延びれるかなんて分からないからな。だから、今のうちに名前を教えてくれないか?

 見た目はどう見てもゴーレムだけど、さっきから召喚者が喋ってるんだろ?」

 

 「またそれか……」

 

 ゴーレム、ゴーレム、ゴーレムと。

 いい加減うんざりしてきた様子の彼は、少々冷めた口調で男に言い放つ。

 

 「名は無い」

 

 たった一言だけ言い残し、彼は再び地を蹴り跳び立った。みるみるうちに集落へと近付き、残敵が視認出来るまでの距離に来た時、それは聞こえた。

 

 パーン、と。何かが破裂したような乾いた音。小さく、あまりに弱々しい音。跳躍によって激しい風切り音が発生している中でも、彼はその音をしっかりと聞き取っていた。

 そしてその音の正体も即座に理解する。眼下に向けられた視線は、あの時自らが貫いた地面の大穴へ。

 

 そう、今のは銃声だ。

 

 彼が扱う銃器から発せられる銃声とは、比べる事すら烏滸がましい程に天と地の差があったが、聞こえた音は間違いなく銃声に他ならない。

 その銃声が、大穴の中(・・・・)から聞こえてきた。それが意味するのは、つまり――。

 

 「反撃の狼煙、か」

 

 『敵捕捉。上空より強襲後、武装展開』

 

 「了解した。これより戦闘を再開する」

 

 集落中を、幾度目かの衝撃が走り抜けた。

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