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異世界在住の銃骨格  作者: ハクトラ シラコ
6/22

その名乗りは産声

遅くなりました。

不定期更新のため、ご容赦ください。

 『スキャン開始……生命反応無し。目標の殲滅完了を確認。防護壁展開終了』

 

 「想定していたよりも規模が小さかったな。破壊力で言えばハンドガンが上か」

 

 『これ以上の部屋の崩壊及び、亜人(守護対象)の脱出ルートを考慮し、投擲されたグレネードの威力は最低値にまで引き下げられていました』

 

 「その口振り、お前は武器の威力を自在に変えられると受け取れるが?」

 

 『肯定します』

 

 「ふむ……参考までに聞くが、最大威力の場合ならどうなっていた?」

 

 『防護壁では防ぎきれず、亜人(守護対象)諸共銃骨格(ガンフレーム)も消し飛んでいたでしょう』

 

 「本末転倒だな」

 

 終わってしまった。あまりにも呆気なく。呆然としている亜人達など意に介さず、彼はゼロと会話を続けていた。

 亜人達から見れば独り言を喋っているようにしか見えず、その目にその姿は酷く不気味に映っている事だろう。が、そんな事すら気にならない程に、今起きた出来事が衝撃的過ぎた。

 長であるミヤはともかく、殆どの亜人にとって人間という存在は天敵だ。どう足掻いても勝てない相手、抗ってはいけない存在、それが人間なのだ。

 亜人だけではない。この世界に生きるあらゆる種族、生物が、すべからく人間達より下である。

 気が遠くなる程の長い年月、この世界においてその常識が崩れた試しはない。

 

 それがどうだろう? 今目の前で、その常識があっさりと覆されたではないか。驚くなと言う方が土台無理な話である。

 

 「……っ」

 

 「ミヤ様! なりません!」

 

 「構うな、ナガレ」

 

 驚愕に身を固める者達の中で、やはりミヤだけが誰よりも早く正気に戻った。生唾を飲み込み、意を決した様子で彼に近付いていく。直ぐにナガレが制止を試みようとするも、それを振り切ってミヤは歩みを進める。

 もちろん油断など愚の骨頂。赤削(あかそぎ)を握る手に力を込め、自分達の天敵を容易く屠った彼の横に並び立った。視線は人間達の骸へ、しかし意識は彼へと向ける。

 

 「お主、何をしたんじゃ? 激しい音がしたかと思えば、気付いたら人間共が倒れておる。1人残らず……有り得ぬ事じゃ。どんな魔法を使えばこのような事になる?」

 

 「マホー……? それが何なのか皆目検討もつかないが、私が使ったのは単なるグレネードだ」

 

 「グレ、ネ……? 何じゃそれは? お主の特異(ユニーク)か? いや、そもそもゴーレムに特異(ユニーク)が備わる筈が……むぅ、それ以前に喋る事自体が有り得ぬじゃろうに。

 奴らの言うように召喚者が喋っておるのか? であれば姿を見せてもらいたいところなのじゃが」

 

 「またそれか。お前達はそればかりだな」

 

 「違うと? じゃが、それ以外には見えぬよ、お主の風貌はの」

 

 小さくため息を吐き、ミヤが徐に人間達の亡骸へと近づいて行く。1人1人の顔を確認するように視線を配り、納得したように立ち止まり、頷く。

 

 「皆、死んでおるか」

 

 「当然だ。殺したのだからな」

 

 「それが信じられぬわ。今やこの世界の頂点に君臨する種族を、いとも簡単に葬るなど常識外れにも程がある」

 

 「頂点、か。ふむ、確かに奴らは気になる力を有していたようだが、特別驚異とは感じなかったがな」

 

 「それがおかしいと言うておる。あの日(・・・)を境に、人間を圧倒する存在など居なくなった筈なんじゃからな……」

 

 「あの日?」

 

 意味深な言葉を吐くミヤに、彼が興味を抱く。あの日とやらについて聞けば、人間について深く知る事ができるかもしれないと彼が追求しようとするが、それよりも早くゼロが割って入る。

 

 『警告。この場に多数の敵性生命体(人間)が向かって来ています。速やかに迎撃準備をしてください』

 

 「音に引かれて来たか」

 

 「何じゃと? ……っ! もしや新手かっ」

 

 「そうらしいな」

 

 『武装検索……ヒット。展開開始』

 

 彼の視界に、ゼロが展開しようとしている武装の情報が映し出される。流し見程度にそれを読み、ふむ、とひとつ頷くと、彼はミヤに言葉をなげかけた。

 

 「私の後ろに居た方がいい。それと全員に伝えろ。今度はしっかりと耳を塞いでいろとな」

 

 「何を好き勝手に言うておる、と言いたい所じゃが……先程の光景を見せられては素直に従わざるを得まい。敵が来るんじゃろ? なら今度は、信じてお主に任せるとしよう」

 

 言いたい事、聞きたい事は山ほどある。しかし、それは後回しだ。悠長に話をして先程の惨状に巻き込まれてはたまったものではないと、ミヤは彼の言葉に素直に従った。

 元居た場所へ歩を進める途中、ミヤは肩越しに振り返って彼の背中を見つめる。ついさっきまで圧倒的な恐怖を感じていたその姿は、今やこれ以上ない程に頼もしく感じる。

 未だこちらの味方と判断する事はできないが、この局面を脱する為、賭けるに値する実力を彼は持っているとミヤは確信していた。

 

 「ミヤ様、少しは警戒というものを」

 

 戻ってきたミヤを出迎えたのは、焦りの表情を浮かべたナガレだった。図体は大きいくせに意外と小心者なナガレに嘆息し、やれやれといった様子でミヤが彼の方に向き直る。

 そして、人間という脅威が迫ってきているにも関わらず、赤削(あかそぎ)をナガレへ軽く投げ渡すと、その場に胡座でどっかりと座り込んでしまった。

 

 「しておったわ馬鹿者。それよりも皆、事が終わるまで耳を塞いおれ。あの者の言葉がどこまで信用に値するかは分からぬが、少なくとも今は従っていた方が無難じゃ」

 

 「耳を、ですか?」

 

 「何をする気でおるのかは分からんがの。塞いでおらねば確実に後悔する事になりそうじゃ。ほれ、急がんか」

 

 躊躇いを見せる皆とは裏腹に、ミヤが率先して自分の耳を塞ぐ。長が行動に出たとなれば、必然的に他の亜人も行動を取らざるを得ない。

 そうして全員が耳を塞ぐと、彼の目の前に何やら大きな黒い箱が現れた。傍から見れば何の変哲もない箱だ。しかし徐に彼が箱に触れると、小さな電子音が鳴ると同時に何やらガシャガシャと音を立てながら箱が変形を始めたではないか。

 

 元の形からは想像も出来ない変形を遂げた箱。彼がそれに手を添えると、箱だった物がカラカラと回転をし始める。好奇心に突き動かされるように、ついミヤが耳から手を離して問い掛けた。

 

 「な、何じゃその奇っ怪な物は?」

 

 「グレネードを知らない時点で、言っても理解は出来ないだろうが……まぁ敢えて言うなら機銃(ミニガン)だ」

 

 複数の足音が倉庫へと迫り、その足音の正体である人間達がついに姿を現す。床に倒れ伏す仲間の変わり果てた姿に人間達が絶句する暇もなく、彼が力強く声を上げた。

 

 「歓迎しよう、人間!」

 

 『破壊(デストロイ)

 

 彼の指がトリガーを引く。刹那、回転していた銃身から轟音と共に無数の弾丸が発射され始めた。なるほど確かに耳を塞げと言うだけはある。この狭い空間に響き渡り続ける銃声、マトモに聞き続けていては耳がどうにかなっていただろう。

 亜人達は聞いた事もない音に耳を塞いで身を縮める事しかできないでいたが、ミヤとナガレだけは見逃すまいと彼の背中越しにその惨状を見つめていた。

 

 1番初めに到着した人間の体は穴だらけとなり、四肢はちぎれ飛び血飛沫が上がる。後方に居た者達も、皆例外なく無数の弾丸の餌食となった。

 着込んだ鎧など紙切れにも劣る。それほどアッサリと、弾丸は人間達の体を食い破っていく。間一髪壁に隠れた者も、彼が機銃(ミニガン)の照準を動かせば、弾丸は壁すら貫通してその命を奪った。

 

 止まることの無い叫び声。しかし、この轟音の中ではそれは誰にも聞こえない虚しい断末魔に過ぎない。銃声と、機銃(ミニガン)から無数に零れ落ちる空薬莢の音だけが、この場を支配していた。

 

 そんな時間がどれだけ続いただろう。

 やがて銃声は止み、カラカラと回転する銃身の音だけが残る。それも聞こえなくなれば、そこにあるのは無音だけ。

 

 『スキャン開始……殲滅確認』

 

 「呆気ないものだ。それに加え不用心。普通は警戒のひとつあって然るべきだ。待ち伏せすら考慮できんとは……人間とはここまで愚かなものか?」

 

 「それだけ慢心しとるんじゃよ、今の人間は」

 

 「ふむ、まぁおかげで殺しやすくはあるが、張り合いというものが……大丈夫か?」

 

 殲滅を終え、小首を傾げる彼の背後からミヤが声を上げる。それに応えるように彼が振り向くが、当のミヤはしかめっ面のままに、両手で自分の側頭部を摩っていた。もしや跳弾した弾が掠めたか? と心配になった彼が問いかける。

 それに対するミヤの返答は、酷く荒々しいものだった。

 

 「ああもちろん大丈夫……な訳なかろうが! まだ頭がグワングワンしよるわ! ここまでだとは聞いとらんぞ! このアホ! ど阿呆! ゴーレム野郎! 砂に帰れバカタレがぁっ!!」

 

 「ミヤ様、少々……いえかなり口汚いです」

 

 「喧しいわ! この反応は正常じゃオラァッ!」

 

 「ゼロ、何故私は罵倒されている?」

 

 『理解不能』

 

 人間の襲撃から救い出してやったというのに何という言い草か。何がそこまで気に入らない? と首を傾げつつ疑問に思う。肝心のゼロからの返答も期待出来ないとなれば、彼がいくら悩んだところで骨折り損であろう。

 しかし悲しいかな、それを指摘できる存在はこの場にはいない。

 居るとすればやはりゼロなのだが、既に彼女の関心は別の事へと向けられていた。

 

 『この場で迎撃を続けるのは非効率的です。速やかに地上へと向かい、残る脅威の排除を行ってください』

 

 「ふむ、了解した」

 

 未だ唸るミヤを置き、彼もまた意識を地上へと向ける。脅威は去っていない。ゼロが言うように今すぐ地上へ出て完全殲滅をすべき、なのだが。

 

 「……」

 

 『警告。速やかに行動を開始してください』

 

 相も変わらず急かしてくるゼロに、彼が小さく頭を振る。このまま地上へ出ても差したる問題は無いだろう事は彼にも分かっていた。しかし一つ懸念があるとすれば、先程のように音を聞き付けた人間が再び襲撃してくる可能性。

 その時は地下へと舞い戻り、再び殲滅。簡単な事だが、それこそ非効率ではないだろうか?

 

 「お前、ミヤと言ったか?」

 

 「ああ?! 何じゃおらぁっ!」

 

 少し話しかけただけでこの噛みつきようだ。やはり弾が掠めてどこかしらおかしくなったか? と思いつつも、彼は構わず言葉を続けた。

 

 「私はこれから地上に残る人間達を片付けようと思っているが、また新手が来ないとも限らない。もし来た場合、出来ればお前達だけで迎撃をしてもらえると助かる」

 

 彼の思いがけない提案に、驚く程早くミヤの怒りの炎が鎮火する。周りの亜人達も、一気に不安そうな……いや、恐怖に染まった表情を浮かべた。

 自分達を護るのではなかったのか? という視線が、一斉に彼へと注がれる。それはミヤも同様であったが、周りに比べれば幾分か落ち着いている様子だった。

 

 「少数ならば多少の犠牲覚悟で対応もできよう。じゃが、さっきのように大勢で来られてはひとたまりもないぞ」

 

 「いや、犠牲は出ない」

 

 「何じゃと?」

 

 ハッキリとそう言ってのける彼は、未だそこに鎮座している機銃を手でコンコンと叩いてみせる。その動作に、最初は首を傾げるだけに留めていたミヤ。しかし直ぐに彼の意図を察して一筋の汗を流す。

 嫌な予感が脳裏を過り、まさかと思いつつ彼に問い掛けた。

 

 「使え、などとは言うまい……?」

 

 「察しがいいな」

 

 「そんな得体の知れぬ物使えるかぁっ!!」

 

 嫌な予感というのは当たるもの。まさしく自分が考えていた事を代弁する彼に、ミヤの怒りのボルテージは再熱した。

 

 「ん? 心配するな。お前達にも扱えるよう調節はしよう。おそらくは可能だからな」

 

 「そういう問題ではなーい!」

 

 「……? まぁ無理にとは言わない。お前でなくとも、他に候補は――」

 

 ミヤから視線を移して他の亜人達を見るも、誰も彼もが彼と視線を合わせないようにわざとらしく顔を背ける。ナガレに至っては瞑想でもしているのかと固く瞼を閉じているほどだ。

 何があろうと使わんという固い意思が、バシバシと伝わってくる拒絶っぷりである。

 

 ほんの僅かな思案の後、直ぐに彼が代案を提示する。その手に展開したのは、ニール達を吹き飛ばしたグレネード。

 

 「機銃(ミニガン)がダメとなれば、グレネードか。これならばピンを抜いて投げるだけだ。簡単だろう?」

 

 「万が一儂等の方が被害を被ったら意味がなかろうが! そんな使い慣れぬ物を渡されても困ると言うておるのじゃ!」

 

 「グレネードもか。ふむ、まぁ確かに、爆破範囲を把握出来ていなければ、かえって危険だろうな。ゼロ、他に何か案はあるか?」

 

 『それは必要な事でしょうか?』

 

 「お前の言うように効率を求めるのならば、私は必要だと思うがな」

 

 『……了承。一部武装を解体し、現在の亜人(守護対象)の身体スペックに合わせた物を複数作成します』

 

 「ああ、助かる」

 

 案外アッサリと了承するゼロ。言ってみるものだなと頷く彼を他所に、分からないといった様子なのはやはりミヤ達だ。

 

 「何を1人でブツブツと言うておるのじゃ?」

 

 「ん? ……ああ、そういえば聞こえないのだったな。これはこれで不便なものだ。ゼロ、何とかならないか?」

 

 『貴方は些か注文が多いかと。それは必要な事ですか?』

 

 「いちいち説明する手間が省ける点では、かなり効率的だと思うがな。それとも、今後もお前が言いたい事を逐一私を介して他者に伝えるか?」

 

 『……効率強化を考慮した上での了承です。貴方に従った訳では無いと理解してください。

 内部音声より外部音声へと切り替え完了。聞こえますか?』

 

 今の今まで聞こえていた重厚な声とは打って変わって高い女性の声が彼の体から発せられると、ミヤ達はギョッとした様子で数歩後ずさる。

 

 「なな、何じゃいきなり? 急に高い声を出しおって」

 

 『否定。私はE49-ZEROtype。あなた達が言葉を交わしていた者とは別存在と認識してください』

 

 どうやらミヤ達にもゼロの声はしっかりと届いているらしい。最初からそうしていれば楽だったものをと小さく内心で零し、彼はズシリと重く一歩踏み出す。

 

 「別存在。ミヤ様、こちらがゴーレムの召喚者という事では?」

 

 「有り得るな。だとすれば、儂等が先程まで話していたのはゴーレムそのものという事になってしまう訳じゃが、それがそもそも有り得ぬ。

 ゴーレムに意思が宿る、まして宿らせるなど出来ぬ筈じゃ」

 

 『否定。正式名称は第7世代銃骨格(ガンフレーム)97号機纏雷(てんらい)です。ゴーレムと呼ばれる類の存在ではありません』

 

 「(第7世代、97号機、纏雷……ふむ、なるほど)」

 

 彼が1人納得する。世代、97号機。たったそれだけの情報ではあるが、彼と同じような存在(銃骨格)が複数居るのだと悟るには十分すぎる情報だった。

 しかし納得しているのは彼だけであり、この世界についての知識しか無いミヤ達からすれば、ゼロの言葉はまるで呪文のように聞こえた事だろう。更に更に、ゼロは彼女達の理解力を考慮しないままにズンズンと話を進めていく。

 

 『加えて、私自身も召喚者と呼ばれる者ではありません。私は銃骨格(ガンフレーム)のサポート及び、戦闘補佐を担う人工AI。不本意ながら今はゼロと呼ばれていますが、覚える必要はありません。あくまでも一時的なものです』

 

 彼が歩みを進める中、尚もゼロは捲し立てるように言葉を紡ぎ、ミヤ達を更なる混乱へと誘う。質問を受け付けるつもりなど毛頭ないとでも言いたげだ。だがそれは正しい。事実として今は時間が惜しい状況だ。

 あれやこれやと質問に答えていては埒が明かない。

 

 そうして彼がミヤの目の前まで歩みを進め、徐に右手を突き出す。握られていたグレネードは光となって消え去り、その光が再び手の中で集束すると、現れたのは小さな銃。

 地上で彼が扱っていたハンドガンよりも遥かに小さく、何の飾りっ気も無ければ重厚感も感じられないそれは、酷く玩具のようにも見えた。

 

 彼は手の中でクルリと銃を回転させ、グリップではなく銃口を握り込む。必然、グリップ部分はミヤの方へ向けられる訳だが、ミヤは受け取ろうとはしなかった。

 

 「……お主が何なのかは分からぬ。じゃが言うたじゃろう? そのような得体の知れぬ物は使えぬと」

 

 「『では死を選ぶか(選びますか)?』」

 

 「っ!?」

 

 意図せず彼とゼロの声が重なる。死という明確な言葉を突き付けると、ミヤを含めた亜人全員が目を見張り、ゴクリと息を呑んだ。

 

 「お前達が単独で奴らを殲滅できるというのなら納得しよう。だがお前は言ったな? 人間を圧倒する存在など居ないと。

 それが真実だと言うのなら、お前達は私がこの場を離れた後、奴らに対処できるのか? ただの1人も犠牲を出さず?」

 

 「そ、それは――」

 

 『先程の言葉を前提に考えれば、今のあなた達が立ち向かったところで勝率は限りなく0%。全滅は免れないでしょう』

 

 「生きたい、そう思うのならば受け取れ。これは戦う為の手段であると同時に生きる為の手段だ。己の理解を越えた物を扱う事に抵抗があるのは理解しよう。

 だが、そんなこと(・・・・・)に拘っている状況か? 私はそうは思わない。生きる気の無い存在を守るほど私も優しくはないと自覚している。何故かは分からんがな」

 

 「……」

 

 「問おう。生きるか? 死ぬか?

 死を選ぶなら好きにしろ。だが、生き残る気が少しでもあるのなら受け取れ。生きて見せろ」

 

 『決断は迅速に願います』

 

 ミヤの視線は動かない。両の手で小さく握り拳を作ったまま、悔しげに下唇を噛んで銃を見つめている。

 反論など出よう筈も無かった。彼の言う通りだ。何が何でも生き抜く覚悟があるのなら、手段など選んではいられない。見た事も聞いた事もない未知の武器を使えと言われれば誰しも困惑するだろう。

 しかし、この状況下に置いてはそのような迷いなど関係ない。使えぬ使えぬと拒否してそのまま死を待つのがどれほど愚かな行為か。使わなければ死ぬのだ。仮に生き残ったとして、その時どれだけの犠牲を払っているだろう? この場にいるどれだけの亜人が生き残っているだろう?

 

 そんな考えに行き着き、ミヤがぶるりと体を震わせ自嘲気味に苦笑する。

 彼が来る前にあれだけの啖呵を切っておきながらこのザマとは、なんと情けないことか。そう心の中で吐き捨て、ミヤが彼を厳しい目付きで見上げた。

 

 「ひとつ、約束をしてくれんか?」

 

 「聞こう」

 

 「もし、上で生き残っている者を見つけたら、他の何を犠牲にしてでも助けてやってくれ。

 そして……この集落を襲ったあ奴らを、儂の大切な家族を殺めたあ奴らを、決して許すでないっ…!!」

 

 「その願い、聞き届けた」

 

 「……決まりじゃ」

 

 覚悟を決めたミヤが、彼の手から銃を受け取った。彼からしてみれば玩具同然のそれは、ミヤにとってズシリと重い未知の力。持ってみると、再び不安が襲いかかる。

 

 「どう、扱えばよいのじゃ?」

 

 『ご心配なく。確実に使用経験は0と仮定し、こちらでカスタムを施してあります。人差し指をトリガーに添えたまま、他の指でしっかりとグリップを握り込んでください』

 

 「ぐ、ぐりっぷ? どれじゃ……?」

 

 『搭乗者へ。手解きを』

 

 「そうなるだろうな」

 

 ミヤ達は銃を知らない。であれば当然、あーしろこーしろと言っても理解など出来よう筈もなかった。

 ゼロに促されるままに、彼がミヤの手を取り優しく銃を握り込ませる。すると、銃が淡く光を帯びたかと思えば、何やらゼロの声に似た機械音声が銃から聞こえ始めた。

 

 『指紋登録開始――完了』

 

 『少し痛みますが我慢を』

 

 「え、何がじゃ? 痛ぅっ……!?」

 

 「ミヤ様!?」

 

 「よ、よいナガレ。大丈夫じゃ」

 

 ゼロに言われた直後、親指の付け根辺りに針で刺されたようなチクリとした痛みを感じたミヤ。軽く手を広げて見れば、赤い血がじわりとグリップに広がっていた。血は銃の中に吸い込まれるようにスゥッと溶け込んでいく。

 

 『遺伝子解析中――完了。ID登録を開始します。使用者の名前をどうぞ』

 

 「名乗れ」

 

 「……ミヤ。ミヤ・シャーリウス」

 

 『登録完了。ミヤ・シャーリウス。

 現在初期設定のマニュアル使用を設定中。継続しますか?』

 

 「まにゅ? お、おい、どうすればよい?」

 

 『貴女には銃の使用経験がありません。マニュアル、つまりは手動での運用は無謀でしょう。よって、オートにする事を推奨します』

 

 「分からぬ言葉ばかりじゃの。何じゃオートとは」

 

 『了解。初期設定を変更し、オートモードをONにしました』

 

 「ぬおっ?」

 

 「これで設定は完了したな」

 

 『貴女が敵と認識した者を前にした時、再びそれ()から問い掛けられるでしょう。その時は、貴女がどうしたいかを伝えてください』

 

 「それで、勝てるというのか?」

 

 「生きる意思があるのならば。……さて」

 

 ミヤへ戦う為の手段は渡した。あとは地上の敵を掃討するだけの筈なのだが、彼はその場から動こうとはせずに徐に床へ右手をかざす。

 直後、再び彼の手の中に光が集束。次には、ミヤに渡した物とまったく同じ銃がボトボトと光の中から吐き出された。

 

 『これだけあれば足りるでしょう。手順は先程と同じです。では』

 

 「お前達の勝利を祈ろう」

 

 簡素に伝え、彼がバックステップ。しゃがみ、そこから一気に跳躍。入ってきた穴から一息に飛び出して行った。

 取り残された亜人達は、しばらく皆一様にポカンと穴を見つめていたが、それも束の間。多くの亜人の中からナガレが先んじて床に散らばる銃の1つを拾い上げた。

 

 『指紋登録開始――完了。

 遺伝子解析中――完了。ID登録を開始します。使用者の名前をどうぞ』

 

 「ナガレ・イヴァルク」

 

 『登録完了。ナガレ・イヴァルク。

 現在初期設定のマニュアル使用を設定中。継続しますか?』

 

 「オートとやらを頼もう」

 

 『了解。初期設定を変更し、オートモードをONにしました』

 

 「よいのか? ナガレ」

 

 「未知の力。なるほど恐ろしいものです。扱い切れる自信など無きに等しい。下手をすれば自分に牙を剥く可能性を捨てきれない以上、気後れするは必然。

 ですが、我等が長であるミヤ様お1人にその荷を背負わせる事の方が遥かに恐ろしい。そうだろうお前達!」

 

 「「「「っ!」」」」

 

 「ミヤ様は生きる道を選ばれた! ならば、先程ミヤ様が檄を飛ばした時と同様、我等はその覚悟に応えねばならない!

 未知の力が何だというのか! 恐ろしいから何だというのか! それで我等が生き残れるなら、ミヤ様をお守りできるなら、あまりにも安い!

 ミヤ様のお言葉を思い出せ! 守る為に戦うのだ! 生きる為に戦うのだ!」

 

 「ミヤ様を、守る……っ! 」

 

 ナガレの言葉に誰もが決意を新たにしようとする中、いち早く動きを見せたのは1人の少年だった。あの時、精一杯の勇気を振り絞ってミヤを守ると言ってのけた少年だ。

 持っていた包丁と鍋の蓋を投げ出して大人達の間を抜け、床にばら撒かれた銃の山から無造作に1つを掴み取る。

 

 「戦うんだ。僕は、あのゴーレムを信じる!」

 

 幼い子供から発せられた力強い一声は、ナガレより、或いはミヤの言葉よりも大人達の胸に響き渡った。

 

 「ちくしょう……ちくしょう……! あああああぁぁっ!!! クソッタレ! 生きれるんだろ!? これを使えば! だったら、やってやる……! やればいいんだろぉぉっ!!」

 

 意外にも次に動いたのは、ミヤに説教され、人間への恐怖で震え上がり、倉庫の隅っこでガチガチと歯を鳴らしていたあの男だった。

 みっともなくバタバタと半ば倒れ込む形で銃へと駆け寄り、拾い上げる。それを見た他の大人達も、遅れをとるまいと次々に銃を手にする。男だけではない、奥に避難させられていた女達もが。

 倉庫内のあちこちから響く機械音声と遺伝子登録の痛みに耐える声。誰もが名乗りを上げた。

 

 『遺伝子解析中――完了。ID登録を開始します。使用者の名前をどうぞ』

 

 「僕はアマト・ベリクス! お願いします! 僕に戦う力をください!」

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