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異世界在住の銃骨格  作者: ハクトラ シラコ
13/22

心すらも強靭に

執筆アプリを変えたので、少し書き方が変更されています。ご了承ください。

場所は移り、生き残った亜人を引き連れ東へと向かうナガレ一向。血相を変えた男の言に従い、ミヤと彼が戻らぬままに一斉に移動を開始した。

亜人の骸を乗せた馬車を操るナガレは、時折心配そうに後方を確認するも、彼の瞳にミヤの姿は映らない。

 

「心配し過ぎじゃてナガレ」

「そう、でしょうか」

 

しきりに後方を確認するナガレを見かねて、隣に座っていた長い髭を蓄えた亜人の老人がナガレの肩を軽く叩いた。

 

「ミヤ様はそう簡単に儂等を置いて行かれる方ではないわい。それはナガレもよく分かっておろう?」

「もちろんです。ですがやはり……あまりにも、俺の常識の範疇を超える事の連続で」

「ほっほっ、頭の整理が追いついておらぬか。まぁそれはお主だけではあるまいて。儂とて同じじゃ。

じゃが、ミヤ様に関してなら自信を持って大丈夫と言えるのう」

「それは、何故?」

「長年の勘かのう。ほっほっほっ! ほれ、噂をすればなんとやらじゃ」

 

ふと、老人が身を乗り出して後方へ視線を送る。それに習いナガレも同じく後ろを見るが、そこには目的の人物は居ない。せいぜい他の馬車と、徒歩での移動でヒーヒーと息を切らせる亜人達ばかりだ。

老人のからかいか……などと諦めかけていた時。

 

「ん?」

 

微かに、ナガレの耳に聴き馴染みのある声が届いた。馬を操る手網を老人へ投げ渡し、正面を向こうとしていた体を大きく乗り出して今一度後方を確認する。

突然のナガレの行動に誰もが何事かと注目を向ける中、ナガレはひたすらに視線を向け続けた。

 

そして……。

 

「……い……! おー……ぃ……!」

 

声が聞こえる。

ミヤのものでは無い。しかし、生まれ育った集落で幾度も聞いたことのある声だ。やがて声は大きくなり、それを発する存在の姿もハッキリと視認できた。

 

黒い巨躯()がとんでもない速度でナガレ達の元へ駆けてくる。その距離は瞬く間に縮み、彼の背中から上半身だけを覗かせて大きく手を振っているウルカの姿が見えた。

相変わらず額から盛大に出血しているが、その表情は満面の笑みだ。

 

見知った顔を見てナガレの表情がパッと明るくなる。その表情は、彼が肩に背負っている小柄な誰かを視認した瞬間、更に明るいものへと変わった。

小柄で、何よりあの赤いコートは間違いなくミヤ様だと、ナガレだけではなく亜人全員が歓喜した。

 

「ミヤ様!」

「こ、こりゃナガレ! ……はー、仕方ないのう。どうどう、一時停止じゃ」

 

辛抱たまらんとナガレが馬車から飛び降りる。大きな図体ではしゃぎおって、と老人が小さくため息を吐き手綱を引いて馬を停止させた。

他の馬車も同様に止まり、ミヤの帰りを待ち侘びた亜人達が我先にと後方へ大きく手を振る。

 

「ミヤ様ー!」

「おかえりなさーい!」

「おいあれ! もしかしてウルカさんじゃないか!?」

「ああ間違いない! ウルカさんも駆け付けてくれたんだ!」

 

歓喜に包まれる中、ようやく彼が到着する。急ブレーキをかけて生み出した超スピードを一気に殺すと砂埃が舞い、彼の姿を覆い隠した。

やがて砂埃が晴れると、今の今まで走り続けだったとは思えない落ち着きを宿した彼が、真っ直ぐに亜人達を見つめたまま立っていた。

ただ立っているだけだと言うのに、その姿はどこか神々しく、不覚にも見蕩れてしまう亜人が数人居る程だ。

 

『目的地到着。ミッションコンプリート』

「ゼロ、索敵だ」

『索敵開始……完了。半径10kmに敵性生命体(人間)は確認出来ず。及び追跡もありません』

「先程の獣人(エルディオ)は着いてきているのか?」

『間もなく合流するかと』

「よし、問題ないな」

 

彼が辺りの安全性を確認すると同時、背中に引っ付いていたウルカが無駄にスタイリッシュな動きで彼から飛び降りる。流れ出る血を強引に腕で拭い取り、一息ついて尖った歯を見せつけるように笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだなお前達、それにナガレ。元気に……と聞くのは逃亡中の身には酷か。大変だっただろう?」

「いえ、お気遣い無用ですウルカ殿。こうして生きている事が何よりの幸運ですから。……それより、ウルカ殿の方は大丈夫なのですか?」

「ん? ああこの傷か。なに、多少硬い壁にぶつかって皮膚が裂けただけだ。放っておいても治る」

 

いや治らないだろ。とは皆が心の中で呟いたツッコミ。

 

「ははは、相変わらずですね。そうだミヤ様は……ミヤ様?」


ウルカとの会話もそこそこに、ナガレが意識をミヤへと向ける。合流したのだから早く降りればいいものを、ミヤは未だに彼の肩に担がれたままだ。ぐったりとした体勢のまま、ナガレの呼び掛けにもピクリとも動かない。

サッとナガレ達の血の気が引いた。まさかという考えが過り、一目散に彼へと駆け寄る。無礼と分かっていながらも、焦りから無遠慮にミヤの体を揺すると、チラリと覗くミヤの顔。しかしその顔色は、まるで死人かのように生気が無かった。


「ミヤ様! 一体何がっ、ミヤ様! お気を確かに!!」

「そんな、ミヤ様……」

「嘘だ!! 嘘だと言ってくれ……! こんなの、あんまりじゃないか!!!」

「ミヤ様ぁぁぁぁぁっ!!」


次々と亜人達が駆け寄り、ミヤの体を揺さぶる。ミヤの死を否定するかのように、お願いだから死なないでと、それはもう激しくだ。

そんな時間が暫く続いたその時、固く閉じられていたミヤのまぶたがカッ! と見開かれた。次いで響き渡るは怒号。


「やっっっっかましいわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

ようやく揺れが収まったと思えば次はなんじゃ!? これ以上儂をどうしようというのじゃ鬼畜がぁぁぁぁっ、う゛っっ! おげろぉぉぉぉぉっ……!」

「「「「ミヤ様ーっ?!!」」」」


3度目のゲロである。その小さな体のどこから流れ出てくるのかと、ウルカは人知れず呆れ顔を浮かべていた。


『装甲が汚れます。速やかに降ろしてください』

「確かにな」


ゼロに言われるがまま、出来るだけ丁重にミヤの体を降ろす。すると待ちかねたと言わんばかりに亜人達が殺到し、今にも天国へと旅立ってしまいそうなミヤを担ぎ上げた。


「直ぐに手当てを!」

「でも、こんな症状見た事ないぞ! まさか毒か!?」

「なんでもいい! とにかく水と薬草、それに毛布もだ!」

「ミヤ様ー! お気を確かにー!」

「うぅ……世界が……世界が回っておるぅ」

「おのれ人間共め……! 毒とは何と卑劣な!」

「一刻を争うぞ! お運びしろ!」

「はい!」


何やらとんでもない騒ぎになってしまった。毒だ何だと騒ぎ立てているが、その実、ミヤの状態は彼にグワングワンと揺すられまくった結果でしかない。とは言え、そんな事を言い出せる雰囲気でもなかった。


「一体何があったのですか?」


亜人達にミヤが運ばれていくのを見届け終えたナガレが、彼へ振り返って問い掛ける。真剣な眼差しを一身に受け、どこか居心地が悪くなった彼は無意識のうちにサッと目を逸らした。

間違っても自分の運び方が原因ですとは言えない。そんな彼をナガレが怪訝そうに見つめる中、助け舟を出したのは以外にもウルカであった。


「気にするなナガレ。ミヤの自爆……いや、日頃の鍛錬不足が祟っただけだ」

「え、鍛錬不足、ですか」

「ああ。……まぁ、今のお前達(・・・・・)に鍛錬が足りないと言ったところで、これも酷な事に変わりは無いがな」

「ふむ?」


ウルカの言葉に、確かミヤ・シャーリウスも似たような事を言っていたなと彼が思う。ミヤが言っていたあの日(・・・)とも、おそらく関係があるのだという事は想像に難くない。


「俺としても大事ないという事でしたら構わないのですが。おや? ところでエルディオ殿は? 本日はご一緒ではないのですか?」

「ああ、エルディオなら直ぐに――」

「ぁぁぁぁああああ゛べぇぇっ!!」


追い付くはずだ、とウルカが口に出すよりも前に、彼等の前に転がるようにしてエルディオが突撃してきた。彼の到着時とは程遠い、無様な姿で地面に頭から突っ込んだ様は失笑を禁じ得ない。

呆れ顔を浮かべるウルカに気付く事もなく、盛大に転けたとは思えない身軽さでエルディオが立ち上がる。まるで何事も無かったと言いたげに額の汚れを拭い、小さくサムズアップした。


「よ、お待たせ」

「誤魔化せてないぞエルディオ」

「やっぱり?」


触れるべきではないのだろうか、なんて空気が漂う中でも流石のウルカ。無遠慮にエルディオの行動を指摘する。


「こっちも追い付こうと必死でさ。想像してたよりも遥かにコイツが速いから、全力で追っかけてきた。で、飛ばし過ぎて止まりきれずこのザマって訳だ」

「ふむ、やはりもう少しセーブするべきだったか。すまなかったな」

「あー、いや気にすんなよ。おかげでこうもアッサリと合流できたんだし……あれ? ところでミヤちゃんは?」


話の途中でキョロキョロと辺りを見渡し、彼に担がれていた筈のミヤの姿が見えない事を怪訝に思う。


「ミヤなら死に体でな。今頃は皆の手厚い看護を受けているだろうさ。クックッ……お前にも見せてやりたかったぞ? あれは傑作だ」

「う、ウルカ殿、笑い事では……」

「あぁ悪い悪い。たまにやらかすのがミヤだが、あそこまでギャーギャー喚くのを見るのは初めてだったからな、つい」

「何があったし」

「ミヤの鍛錬不足に加え、まぁ主にコイツのせい」

「何やったんだよアンタ……」


エルディオの責めるような視線。同様の物をナガレからも送られ、非常に居心地の悪い思いをする彼である。しかし、納得できないと言わんばかりに声を上げたのは、誰あろうゼロだった。


『私達はミヤ・シャーリウスを送り届けるというミッションを達成した迄です。ミッション内容に彼女への配慮は含まれていません。よって、非難を受ける言われはないかと』

「詭弁とも取れるが、まぁそうしてくれと頼んだ覚えもないし、別にいいだろうエルディオ」

「いやまぁ、ミヤちゃんが死んだ訳じゃないからそんなに責めるつもりもないけどよ」

『では問題ありませんね。搭乗者へ命令、亜人達へ渡した装備を回収してください』

「なっ」


ゼロから突然の回収命令。何の脈絡も無く命令された彼はもちろん、これにはナガレも驚きを隠せなかった。無理もない。ようやく人間達を相手取れる武器を手にしたというのに、それを手放せと言われているようなものなのだ。

託した癖にもう返せとは何事か。納得のいかないナガレが再び厳しい目で彼を見つめる。何の事だが分からないウルカとエルディオは、ポカンと成り行きを見守る事しか出来ないでいた。


「亜人達の戦力を削げと?」

「納得がいきません! 確かにこれ()は俺達にとって過ぎた力です……しかし! これ()があったからこそ生き残れたのも事実! それを今更手放せとは!」

『否定します。このままでは貴方達は生き残れません』

「っ……!?」


ミヤはこの力を恐れ手放した。しかしナガレは、いや……他の亜人達はそうもいかない。ミヤは他の亜人とは違う特別な力を宿している。その身体スペックも、ウルカ達より遥かに劣りはするものの、ナガレ達に比べれば高い戦闘力を持っているだろう。

だからこそ手放すのも納得がいった。だが他の亜人達はあまりにも非力だ。銃が無ければ、再び無力な存在へと逆戻り。

それを危惧してナガレが声を荒らげるも、ゼロは慈悲なく一刀のもとに切り捨てた。


『解析結果では、ミヤ・シャーリウスは亜人の中では隔絶した実力者である事が分かりました。その恩恵があったからこそ、渡した装備に素早く順応する事が出来たと言えるでしょう。

ですが、他の亜人達にこれは当てはまりません。ミヤ・シャーリウスですら、しばらくは装備に振り回されていた筈です。貴方達が使いこなせる道理はないかと』

「そ、れは……」


言い返せない。事実だからだ。

あの時、地下倉庫から脱出する際、ナガレ達は彼に渡された銃で人間達と渡り合えた。だがそれも、終始銃に振り回されてばかり。自分の意思ではなく、銃にあちらこちらへと体を引っ張られ、気付けば撃ち抜かれている敵の姿。

自らの意思で、自らの力で勝ったとはとても言えない。今でも扱える自信などナガレには無かった。

油断しきっていた人間相手だからこそ通用したのだ。今後も都合よく敵が油断していて、為す術なく撃ち抜かれるか? と問われれば、否定せざるを得ない。まぐれはそう何度も起きやしない。


やはり自分達は無力なのか。


そうナガレが諦めかけた時、不意にゼロから希望の一言が放たれた。


『その為、一度すべての装備を回収した後、貴方達の身体能力に合わせて装備の再調整、及び使い手の厳選を行います』

「え……それは、つまり」

『肯定します。限定的ではありますが、貴方達全員が無力な存在に戻る訳ではありません。こちらで扱うに相応しい人材を見極め、改めて調整を施した装備を渡しましょう。他に何か意見はありますか?』


ある訳がなかった。ゼロが言うように、装備を渡されるのは選ばれた者のみ。今より数は減るだろう。

しかし、装備のアップグレードに加え、それを扱える者を厳選するという事であれば、大きく戦力が削がれる事には繋がらない。むしろ今より確実な強化が見込めると言っていい。


「いえ、ありません……」

『心配せずとも、貴方はミヤ・シャーリウスを除けば最有力候補です』

「い、いや、俺は別にどちらでもいいのです。ですが選ばれなかった他の者の事を考えると、少し――」

『その者が納得出来なくとも関係ありません。相応しいか否かは私が決めます。そこに感情など無意味と理解してください』


再び冷たく切り捨てるゼロ。しかしこればかりは文句は言えない。言い方は悪いが、満足に武器を扱えない存在に過ぎた装備を渡したところで宝の持ち腐れだ。感情ではなく、必要か否か、ただそれだけで決めなければならないのだ。


「おい、さっきから何の話をしている。私達にも分かるように説明しろ」

「右におなーじ!」


2人の話に割って入ったのは他でもないウルカとエルディオだ。彼が亜人達に装備を渡している事を知らない彼女等からしてみれば、まさしく蚊帳の外状態。説明を求めるのも無理からぬ事だろう。


『単純な話です。一部ではありますが、彼等亜人には銃骨格(ガンフレーム)に搭載された装備を元に作られた武器を渡しています。緊急時だった故に使い手を選んでいる余裕はありませんでしたが、落ち着いたとなれば話は別です。

必要最低限を残し、あとは全て回収させてもらいます』

「武器っつーと、あれか?」

「そうだ。お前達も散々見ただろう?」


言いつつ、彼がその手にハンドガンを展開する。相も変わらず大口径のそれは、沈んでいく太陽の光に照らされて鈍い光を放っていた。

それを見たエルディオの表情がみるみるうちに曇っていく。


「うげ、やっぱそれか。てことはナガレ達は今それを持ってるって事か?」

『肯定します。比べ物にならない程劣化させたものですが』

「劣化? 何の為に?」

『仮にこのスペックのまま使わせた場合、発砲時の反動で少なくとも半身は吹き飛ぶでしょう』

「ひえっ」


これは誇張されたものでは無い。思い出して見てほしい。彼がこの地で目覚め、初めてハンドガンのトリガーを引いた時の事を。

銃弾を受けた男の頭部は跡形もなく抉り取られ、その後方に建っていた民家すら吹き飛ばしたのだ。そのようなとんでもない威力を誇るハンドガンを亜人に扱わせたりなどしようものなら……結果など言うまでもない。


「なるほど。それは貴様だからこそ扱える武器という事か」

『肯定します』

「ならば仮に、私とエルディオならどうだ?」

『貴女達の身体スペックを解析した結果では、2発……いえ、良くて3発撃てば腕が使い物にならなくなる可能性が高いかと』


それを聞いたウルカが、フンと小さく鼻を鳴らした。


「論外だな。攻撃手段が増えるかもと思ったが、あまりにリスクが高い」

「いや使う気だったのかよ姉貴……」

「こんなご時世だ。使える物を使わないのは、ただ愚かだと思うがな」

『亜人以外では貴方達も最有力候補です。必要と言うなら身体スペックに合わせた装備を提供しましょう』


ゼロからの提案に、暫し考え込むウルカ。徐にボロボロになった自分の両手を見て、小さく頷いた。


「いや、確かに強力なのだろうが遠慮しておこう。私の性に合わん」

「確かにな。姉貴がそいつを持って暴れ回ってる姿とか恐ろし過ぎる。そうなったら歩く殺戮者だぜ。辞退して正解だぶあぁぁっ!? い、いってぇな!」


ウルカの返答にうんうんと頷くエルディオだったが、不意にその頬をウルカの平手打ちが襲った。


「お前はもう少し私に対する認識を改めるべきだぞエルディオ」

「どの口が言ってんだ筋肉女!」

「それは褒め言葉にしかならんぞ。ふふん、強靭な肉体は私の誇りだからな」

「そうだわコイツ脳まで筋肉だった……」

「ま、まぁまぁお二人共、その辺で。ミヤ様も戻られた事ですし、そろそろ出発しましょう」


一連のやり取りを口元をひくつかせながら見守っていたナガレが、ようやく助け舟を出す。確かに、いつまでも此処で立ち往生している訳にもいかないだろう。

仮にも彼等は逃亡の身。こんな馬鹿げたやり取りを続けていたら人間に見つかりましたでは格好が付かない。


「ウルカ殿は女性達が乗っている馬車へどうぞ。まずは早急に傷の手当をしてもらいましょう」

「要らんと言っているのだがな……まぁそこまで言うのならおとなしく受けるか」

「それが普通だろうがよ」

「ははは。エルディオ殿は――」

「俺ぁ歩きでいいぜ? 馬車の中じゃ直ぐに動けねぇからな。いつでも襲撃されていいように警戒に当らせてもらうわ」

「助かります。……それと、貴方は」


最後に彼へと視線を移す。思えば彼には頼りきりだ。自分達を助けてもらい、人間達の殲滅、その後の処理。あらゆる事を彼に押し付け過ぎている。エルディオと一緒に警戒をと言いたいナガレも、流石に言いづらそうに口ごもった。

言い淀むナガレの意を汲んでか、不意に彼が言葉を零す。


「聞きたい事は多いが、肝心の長があれではな。ミヤ・シャーリウスの体調が戻り次第伝えてくれ。それまでは周囲の警戒をしておこう」

「申し訳ない……俺達は貴方に頼ってばかりだ」

「お前達を守護するのが私の役目だ。謝る必要は無い。ゼロ、索敵範囲は常に全開にしておけ」

『貴方に言われるまでもありません』


ナガレに対する言葉も程々に、彼は集団の先頭へと歩を進めていった。


「ホント何者だよアイツ」

「言ったろ。味方ならどうでもいい。さぁて、私も馬車へ……と、その前に。おいナガレ」

「あ、はいっ、なんでしょう? ウルカ殿」


さて自分もと、小さく伸びをしながら馬車へ行こうとするウルカ。しかしその足は直ぐに止まり、どこかボンヤリとした様子で彼の後ろ姿を見ていたナガレへと語りかける。


「アネラはどうした?」

「っ!?」


アネラ……その名を聞いた瞬間、ナガレの息が詰まる。


「いつもあの子は私が来るといの一番に出迎えてくれてたんだが、今回は珍しく姿が見えん。旅の土産も渡したいし、私の居る馬車へ来るよう伝えておいてくれ」

「あ、の……アネラは」


事実、ウルカとアネラはとても仲の良い間柄だった。その姿はまるで姉妹のようで、ウルカが集落に滞在している間は常に付いて回る程だ。

普段から素っ気ない態度の多いウルカも、自らを慕ってくれる幼子にはいつも癒され、頬を緩ませる事も少なくなかった。


その事実をナガレは知っているからこそ、アネラが死んだなどと、とてもではないが言い出せない。だが黙っていたとて何れ分かること。

何かを察したエルディオが「おい、まさか」と小さく呟いた。それに習い、ナガレもまた意を決したように、絞り出すような声で真実を口にする。


「アネラは……死にました、グゥッ!!?」

「おい姉貴っ!!」


真実を告げた途端、ナガレは大きく引っ張られる感覚を覚えると同時に、自身の首が締まるのを感じた。大男に見合う太い首を、ボロボロの両手で締め上げているのは誰あろうウルカだ。

咄嗟に姉を止めようとエルディオが飛び出すが、それも尋常ではないウルカの眼力によって止められてしまった。


「ナガレ。お前は私がそういう類の冗談が嫌いだとよく知っている筈だが?」

「ぐ……ぅ……じ、冗談では、ありません……!」

「まだ言うか!!!」

「アネラは死んだのですっ!!!」

「っ……」


今度はウルカが怯む。怒りではなく、悲しみに満ちた表情で言い放つナガレに気圧され、自然とウルカの力が緩んでいく。やがて首から両手を離すと、小さく息を吐き、改めてウルカがナガレを見上げる。


「アネラの遺体は……あるのか?」

「犠牲者の遺体は可能な限り集めました。もちろん、アネラも」

「……そう、か」


俯き、両手をギリリと握り締める。悲しみ、怒り、憎悪といった感情が入り混じるのを1人感じながら、ウルカは踵を返して歩き始めた。


「ウルカ殿」

「傷を手当てしてくる。終わったらアネラの所へ案内してくれ」

「……分かりました」


やがて太陽は沈み行き、夜の帳が下りようとしていた。

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