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異世界在住の銃骨格  作者: ハクトラ シラコ
11/22

彼と彼女の勘違い

お待たせしてしまい申し訳ありません。

 「これで間違いなく全員なのじゃな?」

 「はい、何度も確認しましたので間違いは無いかと」

 「そうか。……(つら)かったろう? アネラ。じゃが安心せい。お主と、お主の家族を手にかけた奴等は皆討ち取ったぞ。ゆるりと眠るがよい」

 

 馬車に乗せられた亜人の骸を前に、柔らかな笑みを浮かべたミヤがポツリポツリと呟く。その手は多くの骸の中に横たわる少女の頬へと添えられていた。

 アネラと呼ばれた少女は、あの時あの瞬間、彼が石の中より目覚めて初めて接触した亜人の少女だった。

 

 「あの、ミヤ様。報告すべきか悩んでいた事があるのですが」

 「何じゃ?」

 「はい。アネラを回収した場所なんですが、実は御神体の前でして。少し御足労を願えますか? 実際に見てもらった方が」

 「ふむ? まぁよかろう。あやつもまだ戻らんしの」

 「ではこちらへ」

 

 

 

 集落の男に連れられて、ここからそう離れていない小さな広場へと移動してきたミヤ。ここは、この集落に住む亜人からすれば特別な場所だ。

 守り神として、ずっと昔から祀られていた御神体がある此処には、熱心な者達が毎日のように祈りを捧げに来る。

 人間に殺されたアネラもそのうちの1人だった。

 

 「……」

 「見ての通りでして」

 

 だが、その御神体であった大きな石は無惨にも砕かれており、長年亜人の集落を見守り続けていた姿は既に無かった。

 

 「アネラは御神体を抱くようにして事切れていたと報告がありました。そこら中に残る血の跡も、おそらくは……」

 「このような何の力も無い石ころの為に命を落とした、と?」

 「ミヤ、様?」

 

 御神体は確かに守り神と呼ばれていた物だ。これは今よりはるか昔、ミヤ自らが公言した事に他ならない。その言葉を信じ、多くの亜人が御神体を崇め、祈り、農作物を供えていた。

 だと言うのに、それを言い出したミヤ本人の瞳は、まるで御神体など無価値と言っているかのような冷たさを宿している。

 

 「儂がこんな物を守り神と呼ばなければ、或いはアネラは助かったやもしれん。これが儂達に何をもたらした? 豊穣か? 長寿か? 否、死を振り撒いただけではないか」

 「しかし、守り神に祈りをと仰ったのは他ならぬミヤ様では……?」

 「儂も数百年前まではこれを信じておった。かつて他の集落を人間に追われ、逃げおおせる時も無茶をして運び出すくらいにはの。じゃが――」

 

 御神体へと歩み寄り、ミヤが赤削(あかそぎ)を振るう。石の塊を切り付けた故に、その衝撃がジンジンと手に響く。

 

 「それは間違いじゃった。愚かにもあの女(・・・)の言葉を鵜呑みにした儂の失態じゃ」

 「あの女?」

 「ああ。これを儂に託したあの女……ん? な、何じゃこれは」

 

 忌々しげに言葉を吐き出すミヤが、ふと何かに気付いた。視線は御神体へ。もっと正確に言うならば、砕かれた御神体の中身。

 空っぽの御神体。それがそもそもおかしいのだ。

 

 「空洞ではないか。どういう事じゃ、これは」

 「本当、ですね。初めから空洞だったとか?」

 「いや、有り得ぬ。亜人の大人が十数人集まってようやく持ち上げる事が出来る程度には重かった筈じゃ。空洞であったなら、そのような重さである筈がない」

 「なるほど……ん? ミヤ様。ここを」

 「む?」

 

 同じく近付いてきた男が指差すその先には、御神体が割れている箇所。一見何も無いように見えるが、ミヤは男が言いたい事を瞬時に悟った。

 

 「外側にめくれ上がるように砕かれている……? 」

 「これ、中から何かが出てきたようにも見えますね」

 「まさか卵だとでも言うつもりか?」

 「違いますかね?」

 「はぁ、有り得ぬわ。これを預けられてどれだけの年月が過ぎたと思っておるのじゃ。中に生命が居たのなら、とっくに産まれ出ておるか中で死んでおる筈じゃ」

 「そう、ですよね。ではいったい……」

 「分からぬ。あぁまったく、あやつの事も含めて分からぬ事ばかりじゃ。

 確かに不可解ではあるが、今はこれに構っておる場合ではない。戻るぞ」

 「えっ、御神体はどうされるのですか?」

 「捨て置く。もはやこれに価値は無い。それに、あれだけの骸と食料を持ち出すのじゃ。これ以上の荷物は勘弁じゃろう?

 それともお主達で必死に持ち出すかの?」

 「あ、あはは……遠慮しときます」

 「うむ。御神体を捨て置く事は儂から皆に説明しよう。寄る辺を無くすツラさは分かるが命には変えられぬ。話せば皆分かってくれる筈じゃ――」

 

 御神体への興味も失せ、ミヤが踵を返して元来た道を戻ろうとした、そんな時。

 ドンッと、重い破裂音がミヤ達の耳に届く。思わず体を竦ませる2人に、再び同じ音が襲いかかる。2度、3度、次から次へと回数は増えるばかりだ。

 

 「な、なんでしょう? この音」

 「分から……いや、待て」

 

 ミヤが直ぐに思い直す。分からない? 違う。自分はこの音に似た物をつい最近聞いたばかりではないかと。あの時聞いた音とは重さがまるで違うが、間違いなく似ている。

 そう、自分達が引き金を引いた、銃の発砲音。今でも鮮明に思い出せるあの音と、鳴り響き続けるこの重低音。似ているのだ。

 

 そして、そんな音を発生させられる存在の心当たりなど1つ()しかない。

 

 「まさかっ、あやつ戦っておるのか!」

 

 彼が戦っている。それはつまり、そこに敵が居るという事に他ならない。

 

 「人間の増援が来たというのか。早すぎるっ……!」

 「に、人間?! あっ、ミヤ様どちらへ!?」

 

 人間と聞いて男が竦み上がる。しかしそれに取り合わず、ミヤは足早に駆け出した。進む先は音の発生源。

 

 「戻ってナガレに伝えい! 今すぐ出発せよと! 向かうは東じゃ! 間違うでないぞ!」

 「お待ちください! ミヤ様はどうされるのですかっ!?」

 「案ずるな! あやつを、がんふれーむとやらを連れて直ぐに合流する! 事は一刻を争うのじゃ! 早う行かんか!!」

 「っ……分かりました!」

 

 ミヤのただならぬ様子に、男も事の大きさを感じ取った。長が行けと言うのだ、ならば従おう。

 走り去る男の背を肩越しに見送ったミヤは、その身を静かに赤いオーラで包んだ。赤削(あかそぎ)を握る手に力が篭もる。

 

 ミヤの行動はハッキリ言ってしまえば愚かと言わざるを得ない。彼の銃が無ければマトモに対抗出来ないくせに、戦う彼の元へ行くのはあまりに自殺行為だ。足でまといとなるのは目に見えている。

 ミヤが取るべきは速やかな脱出。彼を見捨てて生き残った亜人と共にこの集落を脱し、生き長らえる事。

 

 だが、ミヤの亜人としての誇りが、その選択を決して許さなかった。

 

 自分は助けられてばかりで、まだ彼に何も返せていない。命を救われた大恩、受けたままで見捨てて何が長だと。

 例え力になれずとも、例え邪魔になろうとも、駆けつける事に意味がある。

 

 「そうじゃ。儂は外道にあらず。仲間は絶対に見捨てない。矛となり盾となれ。我等と道を同じくする同志を救え! それが儂達が交わした約束! そうじゃろう、姉上(・・)!!」

 

 その小さな体躯には不釣り合いな赤いコートを靡かせて、ミヤは駆けた。

 

 

 

 

 

 

 『見ていられませんね。サポートを開始。殲滅対象の1人は引き受けます』

 「それは助かる」

 

 彼が襲撃者と戦闘を開始してしばらく。互いが本格的にぶつかり合ったのは、彼がハンドガンの引き金を引いた瞬間だった。

 当初の目論見では先の人間達同様、抵抗らしい抵抗すら許さず終わらせるつもりだった。しかし彼の思惑は外れ、銃を知らない筈の存在に初弾をアッサリと避けられてしまった。

 偶然か。確かめるように2発3発と撃ち込んでみても、やはり襲撃者達には当たらない。それだけではない。

 最初のうちはギリギリのラインで躱していた襲撃者も、回数を重ねる毎にその反応は増し、今では彼が引き金を引く瞬間には照準から外れているのだ。

 

 とてつもない反応速度と瞬発力。特に女の襲撃者が凄まじい。一瞬とは言え銃骨格(ガンフレーム)のセンサーからも逃れる素早さだ。

 ならばとエルディオと呼ばれた男を先に狙うが、そっちを注視すればもう片方が即座に距離を詰めてくる。では女の方をと狙っても、素早過ぎて攻撃が当たらない。ジリ貧の状況が続いていた。

 

 そんな時、業を煮やした様子のゼロがサポート開始の旨を彼に伝える。今まさに背後に迫っていたエルディオが、彼の後頭部に向けて回し蹴りを叩き込まんとしていた。

 

 『後方上部。左腕を後ろへ。細かな調整は私がします』

 

 エルディオの蹴りを、彼は振り返る事無く左腕でガード。

 

 「なにっ!?」

 

 エルディオの表情が驚きに染まる。仮に彼1人で戦っていたなら、視線はエルディオの方へと向けられ、その上での迎撃を行っていただろう。だが彼は1人ではない。

 サポートを引き受けたゼロが彼へ指示を送り、それを彼が実行する。そこに敵が居る、今から攻撃が来る、と。

 

 「っの、野郎!」

 「無茶をするなエルディオ!」

 『右腕を後方下部へ』

 「なん、でっ……!?」

 

 一撃目は所詮偶然だ、二度目はありえない。ならばもう一度叩き込む。

 エルディオが即座に反転し今度は反対の足で彼の横腹を狙うが、それすらもアッサリと防がれた。いや、単に防いだのではない。右腕で掴み取られたのだ。

 

 「エルディオ!!」

 「させると思うか?」

 

 女の襲撃者が仲間を救わんと猛スピードで接近してくるも、彼の意識は初めから女の方へ向きっぱなしだ。故に迎撃までの準備も即座に終わる。左手にアサルトライフルを展開してトリガー。

 

 「ち、ぃぃっ……! 何なんだあの武器は! さっきのとは別物かっ、い゛っ!?」

 「姉貴!! くそっ、離しやがれクソゴーレム!!」

 「お前は少々足癖が悪いな」

 

 流石の反応速度。連射されるアサルトライフルの弾を初見で数発も避けてみせる女は確かな実力者なのだろう。

 しかしそれも長くは続かない。彼のハンドガンは威力こそ凄まじいが、単発式故に連射が心許なかった。だがアサルトライフルは連射能力と扱いやすさが最大の特徴だ。

 先程とは比べ物にならない弾幕。女の二の腕、脇腹、頬、次々と弾丸が掠めていく。

 

 仲間の負傷に憤るエルディオは、掴まれた足を軸に無理やり体を捻ると、そのまま反対の足で彼の頭部を狙う。しかしそれも徒労だ。

 軸足が地についていないまま放たれる蹴りの威力など、たかが知れている。ましてや最高峰の防御力を誇る銃骨格(ガンフレーム)を相手に効く筈もない。

 

 頭部にエルディオの蹴りが当たるのを感じながら、彼が右腕を大きく掲げる。掴まれていたエルディオは軽々と持ち上げられ、そして。

 

 「ふんっ!」

 「がっっ!!?」

 

 そのまま地面に背中から叩き付けられた。肺から強制的に空気が抜け、とてつもない力による衝撃でエルディオの全身を激痛が走る。

 

 「まず1人」

 

 意識が定まっていないエルディオへ、彼がアサルトライフルの銃口を向ける。引き金にかけられた指が引かれようとするが、それより早くもう1人が行動を起こした。

 

 「貴様ぁぁぁぁっ!!!」

 『防護壁展開』

 「うあっ?!!」

 

 今まさに殺されそうになっている仲間を救わんと突撃を敢行した女だったが、その行動はゼロに読まれていた。

 あの時、集落の地下でグレネードから亜人達を守った半透明の壁が、彼と女を遮断。勢いそのままに頭から壁にぶつかり、女は尻もちを着いた。

 

 「……さて」

 「っ!! あ゛ぁああぁぁぁぁっ!!!!」

 「ん?」

 

 続きだと言わんばかりに彼がエルディオへ銃口を向け直す。しかし、やらせない。

 失ってたまるかと、女が咆哮。地面がめくれ上がる程の脚力。蹴って蹴って、勢いを付けて再び女が防護壁へ頭を打ち付けた。額が割れて盛大に血が吹き出るも、そんなものお構い無しに女は防護壁を殴り付ける。

 次第に拳の皮がめくれ上がって血が滲む。骨は軋み、いつ使い物にならなくなってもおかしくはないというのに、女の猛攻は止まらなかった。

 自身の手が砕けようが関係ない。何度も何度も拳を打ち据え、喉が枯れる程に叫んだ。

 

 対する彼は冷静だ。威力を抑えていたとはいえ、グレネードの一撃すら防いだ防護壁に阻まれては、女は何も出来まいと高を括る。

 

 しかし、その考えが愚かであると彼は直ぐに思い知る事となった。

 

 視線を女から外し、再びエルディオへ。アサルトライフルの引き金を引こうとした瞬間、彼の頭に響いてきたのはゼロからの警告。

 

 『防護壁、突破されます』

 「……なに?」

 「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 「っ?!!」

 

 なんという事か。突破は不可能と思っていた防護壁。女が渾身の一撃で殴り付けると、防護壁はまるでガラスが割れるように砕け散った。

 突き抜けた拳はそのまま彼の顔面へ。完全に油断しきっていた彼は為す術なく、その一撃をモロに受ける事となった。

 

 超重量を誇る銃骨格(ガンフレーム)の体が少しばかり浮き上がり、彼はその場から数歩後退る。

 ダメージそのものは軽微。だが容易く突破されたという事実に、彼は直ぐに次の行動へシフトする事が出来ないでいた。

 その隙に女はエルディオを回収。脚力に物を言わせて大きく飛び退く。

 

 「フーッ……! フーッ……!」

 「わ、悪い姉貴。世話かけた」

 「フー……まったくだ。お前は先走り過ぎる。それより具合はどうだ? 動けるか?」

 「あぁ。衝撃で意識が飛びかけただけだ。というか、俺より姉貴の方がマズイだろ。腕イカれてないか?」

 「前にあれより硬い岩盤を殴り砕いた事もある。心配するな」

 「うへぇ、バケモンかよ」

 「その言葉、奴にも言ってやるといい」

 「……ハッ、確かに。あのゴーレムも大概バケモンか」

 「馬鹿力だけなら他のゴーレムと同じだろうが、あの見えない壁は奴固有のものか。もしくは魔法によるものか」

 「どっちも有り得ねぇだろ。ゴーレムにそんな力は無いし、魔道具を使う知能も皆無だ」

 「召喚者ならどうだ?」

 「まさか遠隔? だとしたら相当の使い手じゃねぇか」

 「ああ。しかも、最低でも召喚者は2人居ると見ていいだろう」

 「2人?」

 「お前も聞いただろ。女の声と男の声。2人がかりで召喚したゴーレムなのだとしたら、あの強さにも納得がいく」

 「ちっ、面倒な」

 「加えてあの武器だ。どういう原理かは分からないが、どうやらコイツ(・・・)を高速で撃ち出す武器のようだ」

 

 言いながら、女が手を広げてその中にある物をエルディオへ見せる。そこにあったのは他でもない、彼のアサルトライフルから撃ち出された弾丸だ。

 

 「いつ拾ったんだそんなもん」

 「こっちへ飛んできた物の1つを掴み取っただけだが?」

 

 簡単に言う女にエルディオは呆れ顔だ。高速で飛来する弾丸を見切り、1発とは言え掴み取るなど常人であれば出来る事ではない。

 それはエルディオとて同じこと。避ける事は出来ても、捕らえるなどまず無理だ。それを難なくこなしてしまう女は、正しく只者ではないのだろう。

 

 「……」

 『油断が過ぎますね』

 「返す言葉も無いな」

 

 女とエルディオが悠長に喋っているのを尻目に、彼もまたぼんやりとした様子で殴り付けられた頬を撫でていた。

 そうしていると、ゼロから有難い説教が飛んでくるが、彼は特に反論する事もなく素直に受け入れる。事実、ゼロの言う通りだったからだ。

 

 女の攻撃がグレネード以下だと過信し、完全に警戒を怠った。その結果、防護壁は突破され、一撃を許し、ようやく捕らえた獲物を奪い返された。反論の余地などあろう筈もない。これ以上ない失態だ。

 

 しかし、いつまでも己の失敗を嘆いている暇は無い。女とエルディオの会話を聞き流しながら、彼は直ぐに臨戦態勢を整える。

 

 『敵の行動パターン解析終了。結論として銃器での戦闘は好ましくありません。近接装備での殲滅を推奨』

 「幸いにも耐久性はこちらの方が遥かに上。だがあの速さだ、多少の被弾は覚悟で近接戦闘に持ち込んだ方がいいだろうな」

 『武装検索――ヒット。対銃骨格(ガンフレーム)用ブレードナイフ展開』

 「ナイフか」

 『敵性生命体1()は十分迎撃可能と判断。敵性生命体2()の殲滅を最優先してください』

 

 アサルトライフルは収納され、代わりに展開されたのは一振のナイフ。ただのナイフと思うなかれ。対銃骨格(ガンフレーム)用に調整された特殊なブレードナイフだ。

 

 右手に現れたブレードナイフを逆手に持ち、大きく足を開く。

 

 「おいおい、ゴーレムが構えを取りやがったぞ」

 「見慣れない武器にゴーレムらしからぬ動き。私の一撃を受けてなお無傷な体。挙句の果てにあの構え、か……ククク」

 「あ、まさか」

 

 彼が深く構えたのを見た女が、不意にその口元を笑みに変えた。人とは違い、獰猛に尖った歯がギラりと鈍く光る。

 深く被っていたフードすら捨て去り、ついにその素顔があらわになった。エルディオと同じく白い髪、頭には獣の耳。

 見る見るうちに髪が逆立ち始め、女が四つん這いの姿勢をとった。よく見れば下半身からは1本の尻尾が生えている。

 

 そんな女の様子を見てエルディオは小さく苦笑いを浮かべた。

 

 「まぁた姉貴の悪い癖が」

 「ははははっ!! 久しぶりに楽しめそうだ! 簡単には壊れてくれるなよ、ゴーレム!!」

 「おい姉貴。手早くやる筈だったろ。楽しんでどうすんだよ」

 「関係ないなっ! おい聞こえているか召喚者! 新たなゴーレムを呼び出したいなら好きにしろ! まとめて噛み砕いてやる!!!」

 「はぁぁぁ……ったく、めんどくせぇ姉ちゃんだなぁ」

 

 明らかに様子が変わってしまった女に、彼も警戒レベルを引き上げる。もはや油断はしない。全力でその命を刈り取らんと、人知れず銃骨格(ガンフレーム)の出力が徐々に上がっていく。

 

 それが臨界に達しようとした瞬間、1人と1体はほぼ同時に駆け出した。

 お互いに地面を踏み抜き、土と草が空を舞う。彼はブレードナイフを掲げながらズンズンと駆け、女は両手足を駆使した四足特攻。

 

 間もなく激突するであろう、その時。彼と女の間に一筋の()が瞬いた。

 

 「「っ!?」」

 

 気付けばお互いが立ち止まり、目の前に突き立ったソレ……赤削(あかそぎ)を見ていた。

 

 「双方それまでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 聞き覚えのある声が木霊する。視線を相手から外して横を向けば、そこにはぜーぜーと肩で息をするミヤの姿があった。

 額には玉のような汗を浮かばせ、呼吸も荒く、心無しか目の焦点が合ってないようにも見える。

 

 どうやら地面に突き立つ赤削(あかそぎ)は、この死に体のミヤが投げつけたものらしい。

 

 「ぜひーっ……! ぜひぃっ……! た、ただ事では、ないと思っ……て……ぜーっ……来てみれ、ば! 何をしとるか馬鹿者共がぁぁぁぁぁっ!! 儂の焦りと不安を返せアホぉぉぉぉっ!!……うっ! おえぇぇぇぇっ」

 

 突然現れ、納得のいかない説教。しまいにはゲロというオマケ付き。他人を叱る前にまず自分の体調を優先すべきだろうという、至極当たり前なツッコミが飛んできそうな状態のミヤは、なおも彼と女を睨み付ける。

 

 「何をしている、ミヤ・シャーリウス」

 「そうだぞミヤ。今にも死にそうだ」

 「ん?」

 「ん?」

 

 ミヤという共通の名を口にした事で、彼と女が漸くお互いを正しく認識した瞬間だった。

 

 「おうぇぇぇぇぇ……!」

 「あーあー。大丈夫かよミヤちゃん」

 「ば、ババァに全力疾走などさせおって……恨むぞお主ら……! う゛っ! オロロロロロロ」

 「はいはい。吐いちゃえ吐いちゃえ〜」

 

 

 

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