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異世界在住の銃骨格  作者: ハクトラ シラコ
10/22

決着、そして襲撃

お待たせしました。

今回から少し書き方を変えてみました。

読みにくい等のご意見があれば教えて下さると助かります。

 集落を襲っていた人間達の頭目は打ち倒した。彼によってお膳立てされた勝利であるのは否めないものの、ミヤの胸中に一先ずの安堵が広がる。

 残るは残党。人間達は各々好き勝手に暴れ回っていた様子ではあるが、仮にも頭目が倒れたのだ。いざという時に指示を出せる者が居ないとなれば、掃討も幾分か楽になるだろう。

 何より、今こちら側には彼が居る。まず負けはありえない。

 

 慢心は愚かと思いつつ、ミヤは絶対的な安心感を否定できなかった。

 

 「言葉すら解さぬ獣ではなく、知性を持つ者の命を奪うこの感覚、やはり慣れぬの。いや、決して慣れてはならぬものじゃ」

 「迷いが生まれれば自身を殺す事になるが?」

 「安心せい。敵を屠る事に迷いは無い。肝心なのは、奪う事を当たり前に感じぬ事じゃ」

 「そういうものか」

 

 足元に転がっているのは今しがた首を刎ねた敵の頭。表情は絶望に染まったまま、ミヤを恨むように真っ直ぐに見上げている。意識などあろう筈もないのだが、思わず薄ら寒さを感じた。

 

 「いつまでもこうしては居られん。残りの敵を何とかするとしよう。すまぬが、今しばらく力を貸してもらうぞ?」

 「その必要は無い」

 「うむ。……ん?な、何じゃと?」

 「必要無いと言った」

 「まさかここに来て力は貸せぬと言う気かお主!」

 

 骸の視線から逃げるように残党殲滅へと意識を向けたミヤ。引き続き彼に協力を仰ぐが、彼は否と答えた。ミヤ達を救い出し、力を与え、頭目すら確保した彼が必要ないと言い切ったのだ。

 全てを自分に頼るなという事だろうか。まさかの返答に亜人達はお互いに顔を見合わせる、が。

 

 「貸すも何も、既に敵の殲滅は完了している」

 「……へぁ?」

 

 想像だにしなかった言葉が彼から飛び出した。その意味を瞬時に理解出来ず、ミヤが間抜けな声を漏らした。

 そんな反応を返したミヤに、この距離で聞こえなかったか? と的はずれな結論に至った彼が、今度は事細かに説明を始める。

 

 「地下から離脱後、お前の言う通りに生き残りを確保しつつ殲滅を開始した。

 幸い此処はそこまでの広さも無い上に、特別入り組んだ地形でもなかったからな。全標的を撃ち殺すのは容易だった」

 「なんと……じ、じゃが、敵には特異(ユニーク)に加え魔法を駆使する者も居ったのではないか? 如何にお主といえど、多少の苦戦くらい」

 「その特異(ユニーク)や魔法とやらがどんな物かは正直ハッキリとはしていないが、近接武器以外の手段で立ち向かってきた者は確かに居たな。

 不意をつかれて背後より不可視の一撃を受けはしたが、銃骨格(ガンフレーム)に損傷は無い。苦戦という苦戦も無かった」

 「不可視? 風を用いた魔法か? じゃとしたら下手な破壊特化魔法より余程威力がある筈じゃが、それを受けて損傷が無いじゃと? どういう体の作りをしとるんじゃお主」

 「さてな。私自身も把握しきれていない。とにかく、敵の殲滅は既に完了している。不安ならば索敵してやろう」

 

 短時間で敵を全滅させた上に、ミヤ曰く威力の高い魔法による一撃をマトモに受けて無傷。無論、そう聞かされてすんなりと受け入れる事が出来る程ミヤ達の許容量は多くない。

 疑うなと言う方が土台無理な話であろう。

 

 そんなミヤ達の気持ちを察してか、彼がゼロへと呼び掛けた。

 

 『索敵完了。少なくとも、居住区内に敵の存在は認められません。既に死亡済みの敵性存在(人間)数、地下89名。地上278名。完全殲滅を確認。

 救出した亜人数26名。うち軽傷者7名。重傷者2名。健在です』

 「だ、そうだ」

 「……」

 「呆けているな。未だ信じられないか?」

 「いや……いや……。そうか、そう、か」

 

 ミヤの声が震える。怒りでも悲しみでも喜びでもなく、ただただ安堵からくる震えにその身を任せた。深く息を吸って、大空を見上げる。

 大地はこんなにも同胞と敵の血で赤く染まっているのに、どこまでも澄み渡った青い空にミヤは何とも言えない笑みを浮かべた。

 次いで溢れ出したのは、涙。赤削(あかそぎ)を握る手を高く掲げ、再びミヤが地面を打ち鳴らす。

 服の袖で乱暴に涙を拭うと、力強く晴れ晴れとした表情で振り返る。(なび)く長い金色の髪は、彼女を見る亜人達の瞳に何よりも美しく映った。

 

 「皆、聞いての通りじゃ」

 「き、聞いての通り、と言いますと……?」

 「結局どういう事なんだ? なぁ」

 「俺に聞くなよっ」

 「ミヤ様!」

 

 真に理解はしている。だが、頭が追いついていない。亜人達はお互いに顔を見合い、どう声を上げればいいのか分からないといった風に戸惑うばかりだ。

 そんな大人達を差し置いて、元気よく声を上げる亜人が1人。アマトだ。

 

 「僕達、勝ったんですよね!」

 「「「「っ……!?」」」」

 

 子供の口から飛び出した言葉に皆がハッとする。アマトの瞳はらんらんと輝き、ミヤの返答を今か今かと待ち焦がれている様子だ。

 まったく不甲斐ない大人達ばかりだと、ミヤは大きなため息を吐く。しかし次には、ほんの少しだけ笑みを浮かべて前を見据えた。

 

 「どうやらそうらしいの。勝ちとは程遠い結果じゃが、儂等はこうして生き残っておる。今この瞬間は素直に喜ぼうぞ」

 「いぃぃやったぁぁぁぁぁ!!! ……あれ?」

 

 長たるミヤ自らが勝利宣言をした。本来であれば、武器を投げ出し抱き合うなり、飛び跳ねるなり、泣き崩れるなり、相応の反応があって然るべきなのだが。

 元気満点のアマトはともかく、もはや大人の亜人達にそこまでの気力は無い。襲われて、追い詰められて、戦って、殺して。喜びが溢れるよりも先に、疲労と安堵でへたりこんでしまうのは必然とも言えた。

 

 「やれやれ、しょうの無い奴等よ。ほれ立たぬか、勝ちはしたが儂らにはまだやるべき事が残っておるじゃろ」

 「いやいやミヤ様、さすがに少し休ませてくださいよ」

 「1年分くらい動いた気分だ……もう動けん」

 「だな」

 「お前達、いくら何でも気を抜き過ぎだ。せめて立て」

 「ナガレさんも無茶を言いなさる。農作業で日々鍛えていたつもりでしたが、この通り。もう足腰立ちませんよ」

 「このまま寝たい。それくらい疲れた」

 「ははは、違いない」

 

 ピキリと何かがひび割れる音がした。次いで怒号。

 

 「このド阿呆ぅ共がっ!!! いいから立てと言うておる! 同胞の亡骸をいつまでも野晒しにしておく訳にはいかんじゃろうが!! 立てぇぇいっ!!! 斬るぞオラァッ!!!」

 「「「「はいぃぃぃ!!」」」」

 

 命を懸けた戦いの後だ、多少の気の抜きようは大目に見よう。そんな考えも確かにあったが、この抜け具合はあまりにも酷い。

 先程までの柔らかな笑みは消え、今のミヤは羅刹の如く。せっかく生き残ったのに長に斬られては意味が無いと亜人達は統率の取れた軍隊宜しく、一斉に立ち上がった。

 

 冷や汗まみれの皆を一瞥し、もう何度目かも分からないため息を吐く。

 

 「勝ちはしたが儂等に余裕は無い。集落内の敵を打ち倒して、それが何じゃ? まさか奴等の増援が来ないなどと、そんな愚かな事を思っておる訳じゃなかろうな?」

 「ぞ、増援って……」

 「無い、とは言い切れぬ。仮に無いとしても、儂等が住んでおったこの集落の存在はバレてしまった。

 このまま此処に留まったところで、何れ訪れる人間共を再び相手取る事になろう。こやつの力添えがあるとは言え、また撃退出来るとは言えんじゃろ」

 

 ミヤの言う通りだ。此処を襲った人間達の仲間が、再び大挙して押し寄せてくる可能性は大いにある。仮にそうだとするなら、此処に留まっていればまず確実に二の手三の手が襲い来るだろう。

 彼が居るから、などという楽観は愚の骨頂。銃骨格(ガンフレーム)とて完璧ではないのだ。今回はたまたま圧倒できただけで、次は彼を容易く葬る事の出来る存在が現れないとも限らない。

 

 可能性が低くとも、0でないなら此処に留まり続けるのは得策とは言えなかった。

 

 「まさか、この集落を捨てろと……?」

 「やむを得まい」

 「ですが! この力があれば勝てます! どれだけの人間が来ようと、今の私達なら!」

 「借り物の力を過信するでないわ。儂とて完璧に使いこなす自信が無い代物を、生まれてこの方農業や狩りばかりに勤しんできたお主らに扱い切れると?

 敵は待ってはくれぬ。数日か、明日か、早ければ今日にでも増援が来るやもしれん。そんな短期間で、未知の力を己が物と出来るのか? 出来ぬじゃろう?」

 「……」

 

 誰もが押し黙る。ぐうの音も出ないとはこの事か。彼に与えられた力が無ければ満足に立ち向かえもしない亜人達。多少扱い方を学んだ程度では、ほんの少しだけ生存率を上げるのが関の山。

 

 生き残る道。戦い抜く道。

 

 今の亜人達がどちらを選ぶべきかなど分かりきった事だ。

 

 「お主にも聞いておこう。敵の増援が来た場合、お主を含めた今の儂等が勝てると思うか?」

 「ふむ……」

 『同規模の増援であれば対処は容易です。しかし、先程の倍、それ以上の規模も考えられる上、私達の理解を超えた魔法や特異(ユニーク)という存在がある以上、勝てるとは断言できません。

 考えられるあらゆる可能性を加味した上で、私達の勝率は8.05%。低いと言わざるを得ないでしょう』

 

 彼の代わりにゼロが瞬時に答えてみせる。亜人達が期待していた返答とは程遠いそれを聞き、皆が肩を落とした。

 

 「人間を圧倒していたこやつが、こう言うておる。もはや疑うべくもないじゃろう。まだ異議のある者は居るか?」

 

 異議。そんな物ある訳がなかった。言外に勝てないと言っているようなものなのだ。彼やミヤより劣る亜人達が声を上げる事はない。

 

 「よろしい。では各々、直ぐに行動開始じゃ。ナガレ、お主は集落中の馬と馬車を用意し、食料を乗せられるだけ乗せるのじゃ。何人か連れて行くがよい」

 「はっ!」

 「女と子供達は(うち)より必要最低限の物を回収し、広場に集合じゃ。余計な物は置いていけ。よいな?」

 「は、はい!」

 「行くわよ貴女達!」

 「残りの男共は同胞の亡骸を集めよ。誰1人忘れる事のないよう気を付けるのじゃ。決して人間には渡さぬ……儂等の手で弔ってやろうぞ」

 「おう! 了解だミヤ様! 行くぞオメェら!」

 

 流石は長。あれだけの事があったにも関わらず、迷い無く亜人達へと的確な指示を飛ばしている。何が必要で何が不要か、瞬時に見分ける判断力。

 人知れず、ほうと彼は感嘆の声を漏らした。

 

 この場に居た亜人達が全員散って行ったのを確認すると、ミヤは満足気に一つ頷き、改めて彼へと向き直る。

 アメジスト色の瞳に宿るのは強い意志。長として確固たる覚悟が見て取れた。

 

 「お主にも頼みたい。救ったという生き残りを広場へ。……それと、葬った人間達の亡骸を回収して、何処か広い場所へ並べてやってくれんか。くれぐれも雑に扱うてくれるなよ?」

 「なに?」

 

 しかし、そんなミヤの口から彼が予想だにしない言葉が飛び出した。亜人の生き残りを連れて来いという指示は理解しよう。だが、殺した敵を集め、あまつさえ雑な扱いは許さんと宣ったのだ。もしこの場に亜人達が残っていれば文句が飛んでいた事だろう。

 気でも触れたか? と、彼が疑問をぶつける。

 

 「敵である人間すらも弔うと? 理解できんな」

 「生憎、弔ってやる時間は無い。じゃが、命無き骸に亜人も人間も関係ないじゃろう? 故に野晒しにしておく理由は無い。

 儂等は誇り高き亜人種、外道にあらずじゃ」

 「その時間を、他を手伝う事に使った方が余程良いと思うがな。結果的に集落を離れるのが遅くなるかもしれない」

 「承知の上じゃ。家族を殺された皆にはこのような事は頼めんじゃろ? それとも、ババァの頼み事はもうごめんかの?」

 「とても老いているようには見えんがな」

 「それについては後で話して……おお、そうじゃ! それを報酬としよう!

 ババァ云々も含めて、頼みを聞いてくれれば儂が知り得る情報を託そうではないか。どうじゃ?」

 

 よく言う。それでは協力しなければ情報は一切渡さないと脅しているようなものだ。彼にとって亜人は守護するべき存在。だからこそ、力ずくで聞き出す事すら叶わない。

 自身が何者かも分からない。何もかもが未知の世界。ハッキリしているのは亜人を護るという目的だけ。

 そんな状況下に置かれた彼が亜人の次に優先すべきは情報だ。その情報を制限されるのは、彼にとって死活問題と言ってもいい。

 

 「……他の亜人達の作業が終わるまでだ。回収し切れない死体はそのまま捨ておく。それが条件だ」

 「うむ! 可能な限りで構わぬぞ!」

 「了解した。行動を開始する」

 

 こんな事で情報を捨てるくらいならばと、条件付きながらも彼は了承した。そうと決まれば即行動。ミヤの言う通り時間も余裕も無いのだ。

 踵を返し、駆ける。生き残りを回収した時と同じく地を蹴り、彼が上空へと舞った。

 

 そんな彼の後ろ姿をポカンと眺めて、ミヤは呆れ顔を浮かべた。

 

 「単なるゴーレムではないと思っておったが、何じゃあの跳躍力は。昔の儂ですらあのような高さは跳べんぞ」

 

 などと独りごちるが、ミヤでなくとも誰にだって無理だとツッコミを入れる存在はこの場には居ない。

 

 「さて、儂もやるべき事をやるかのう」

 

 片手で凝り固まった肩をほぐしながら、ミヤもまた歩き出した。

 

 

 

 

 数時間後。ミヤの指示を受けた亜人達は、各々役目を果たし、集落の広場へと集合していた。

 広場に複数停められた馬車の中は、亜人達がせっせと育ててきた作物が所狭しと詰め込まれ、それを引く馬が気合十分と一鳴きする。

 

 男達の手によって誰1人欠けることなく集められた骸達は、余った馬車へ。そのままの状態よりはマシだと、使い古されたボロ布を総出で骸に巻き、1人1人丁寧に横たわらせた。

 小さな骸を抱き抱え、泣き崩れる者達も少なくない。そんな光景を目の当たりにして、ナガレは懐に忍ばせた銃を握り1人思う。

 

 もう少し早くこの力を得ていれば、或いは救えたかもしれないと。

 

 「ナガレさん、食料の件ですが」

 「……」

 「え、っと、ナガレさん?」

 「ん? あぁ、すまない。なんだ?」

 「いえ。これ以上食料を乗せたら、俺達が乗る馬車が無くなっちまいますが……」

 「馬車は子供達が乗る分があればいい。大人達は歩きだ。余裕がありそうなら、可能な限り詰め込んでくれ」

 「あ、歩き……ああもう! 分かりました!」

 

 何か言いたげな様子だったが、彼も我儘を言っている状況ではないと理解できているらしく、どうにでもなれと言わんばかりに駆けて行った。

 こんな事があった後なのに歩きでの逃避行。冗談だと言ってくれと、きっと誰もが思った事だろう。

 

 「ナガレさん! 僕は歩きでも大丈夫ですよ! 毎日家の手伝いしてるから、体力には自信があります!」

 「ふ、お前は本当に勇敢だなアマト。だが、地下であれだけの勇気をお前に見せられたんだ。今度は大人達に頑張らせてくれないか?」

 「で、でもっ…………はぃ」

 

 アマトは大人達以上の勇気の持ち主だ。地下でも、今も、率先して何かの役に立ちたいと名乗りを挙げてくれる。ナガレもその心に応えてやりたいと思いつつ、ここから先は大人の仕事だと大きな手でアマトの頭を優しく撫でる。

 

 「やれやれ、大人の面目丸潰れじゃのうナガレ」

 「み、ミヤ様」

 「ミヤ様!」

 

 そこへ、何やら大荷物を背負ったミヤが合流する。左手には赤削(あかそぎ)がしっかりと握られていた。肩にかけるだけに留めた、単なる外着にしては派手にも思える真っ赤なコートがよく目立つ。

 ミヤの姿を捉えるや否やアマトが駆け寄り、キラキラと輝く瞳でミヤを見上げる。

 

 「ミヤ様! 何か手伝える事ありますか! 」

 「カッカッカッ、働き者は好きじゃぞアマト。そうじゃのう……では手始めに、この荷物を空いてる馬車へ入れてきてくれるかの?」

 「はい! 任せてください!」

 「よっこらせ。ちと重いぞ?」

 「大丈夫です! これくらぃぃぃぃ!?」

 

 背負っていた荷物をアマトに手渡す。大荷物とは言え小柄なミヤが軽々と持っていたのだ。ならば自分にだって持てるだろうと軽く考えていたアマトも、受け取った瞬間にその考えを改めた。

 いったい何を詰め込んでいるのか、ズシリと重い荷物がアマトの手に食い込む。ずりずりと引き摺って持って行きたいという本音を押し殺し、自称体力に自信ありと言うアマトは気合いひとつで荷物を持ち上げた。

 

 「重いと言うたじゃろ。ナガレに代わってもらうか?」

 「だい、じょうぶ、ですっ!!」

 「カカっ、勇ましいことじゃ。しかし落とすでないぞ? それには大事な物がたくさん詰まっておるからのう」

 「お、お、お任せをーっ! ふぬぅぅっ!」

 

 子供に持たせるにはあまりに重い荷物。本来ならば大人が率先して持ってやるのが道理だろうが、今のアマトに何を言ったところで意地でも渡すまい。

 

 「危なかっしい。やはり俺も手伝った方が」

 「子供から仕事を取り上げるものではないぞ? ナガレ。本人がやると言うておるのじゃ、信じてやらんでどうする」

 「しかし、万が一落としでもしたら」

 「大事な物と言うのは半分嘘じゃよ。あれに入っておるのは衣服と、これまで蓄えてきた調査書じゃ。落とした所で被害はない」

 「……なるほど。敢えて大事な物(・・・・)と言って、アマトのやる気を更に高めたと」

 「うむ。ああ言えば、終わった後の達成感も大きくなろう。ナガレよ、アマトだけではない。今後、子供達が率先して何かをしたいと申し出た場合は可能な限り叶えてやれ。

 それが大きな成長へと繋がる事もあるじゃろう。よいな?」

 「はっ。俺もまだまだ勉強不足のようです」

 「カッカッカッ! よいよい。儂からすれば皆子供よ」

 

 見た目少女が、皆を指して子供と言う。明らかにミヤの方が子供であるのだが、ここまでの言動から察するに、その辺りにも何かしら事情があるのだろう。

 

 ふと、そんなミヤがキョロキョロと辺りを見渡し始める。

 

 「ふむ……」

 「どうされました?」

 「あやつはまだ来ておらんか」

 「……? ああ、あのゴーレムですか。そういえば、あれから姿を見ていませんが」

 「仕事を任せたんじゃがの。姿が見えないところを見るに、まだ途中か」

 「仕事?」

 「あ、ああいや! 気にするでない。単なる雑用じゃよ雑用、カカカっ」

 

 ここで馬鹿正直に敵の骸を回収して並べてもらっていると言えば、どんな反応をされるやら分かったものではない。近くで我が子を抱いて泣き崩れる母親や、周りの亜人達に聞こえでもしたら、おそらく騒ぎとなるだろう。

 

 「なっ、あの者に雑用っ? なんて豪胆な。怒りに触れでもしたらひとたまりもないですよ……?」

 「儂等を護ると言うた本人が、雑用程度で怒るものか。それよりナガレ、いつでも発てるようにしておけ。備えも万全にの」

 「それはもちろんですが……」

 「何じゃ?」

 「いえ、此処を出て行ったところで、俺達に行くべき場所なんてあるのでしょうか? 放浪を続ければ何れ食料も尽きますし、やはり新たに集落を築くとお考えなのですか?」

 「安心せいアテはある。なに、暫しの旅と思えばあっという間じゃ」

 

 これは本当だ。事実、ミヤにはアテがあった。あっという間がどれだけの時間なのかは定かではないものの、自信を持って言うミヤの姿に、ナガレも小さく頷いて納得する。

 

 「さて、あやつが来るまで儂も皆を手伝うとするかのう」

 

 

 

 

 

 亜人達が集まる広場から……いや正確には集落そのものから離れた位置に広がる草原。そこに彼は立っていた。

 肩に抱えているのは鎧を着込んだ人間の骸。それと同じ物が、草原中に何百と並べられている。これら全て、生き残りの亜人達を集落へと送り届けた後に彼が集めたものだ。

 数時間とは言え、たった1人で骸を回収し切る辺りは流石と言うべきか。

 

 『無駄な労力、と言わざるを得ないでしょう』

 「それに関しては激しく同意だな。こんな事をして何になるというのか……。だが、情報を得る為だ。文句は言っていられんだろう」

 

 言いつつ、抱えていた骸を放り投げる。雑な扱いはするなと言われている筈なのだが、この場にはミヤの目がない。絶対と言い含められていなかった事も合わさり、守る義理は無いと判断した結果だ。

 

 『目的の達成を確認。速やかに戻る事を推奨』

 「ああ、分かっている。現状奴等の増援が来る気配はないが、早いに越したことはない。

 ミヤ・シャーリウスに報告後、すぐにでも情報を――」

 『警告。即座に回避行動を』

 「っ!!?」

 

 ほぼ反射と言ってもよかった。回避行動と言われた瞬間、彼がその場にしゃがみ込んだ。直後に彼の頭部があった場所を何かが通過し、そのまま地面へと激突して土煙が上がる。

 

 骸を集める前に、人間達の増援が来ても気付けるよう、ゼロには人間の索敵を続けてもらっていた筈だと彼は思う。にも関わらず、直前になるまでゼロが気付かなかった。

 何故だと考えている暇はない。直ぐにその場から飛び退き、ハンドガンをコール。しかし彼が構えるより早く、土煙の中から影が飛び出した。

 

 速い。初速だけなら彼を超える程に。

 視認できたのは真っ直ぐ近付いてくる足。しかし避ける事は叶わず、彼の腹部に直撃する。背後から放たれた魔法らしき一撃を受けても傷一つ付かなかった銃骨格(ガンフレーム)の体が、グラりと傾いた。

 

 「(速い、そして重い)」

 「今だエルディオ!!」

 「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 襲撃者は1人ではなかった。声の高さからして女の襲撃者が叫ぶと、背後からもう1人の襲撃者が現れる。こちらは男か。

 どちらもフードを被っていて顔を窺い知る事はできない。

 

 不意を突かれ、一撃を許し、挙句の果てには挟み撃ち。あまりに不利な状況に、しかし彼は冷静だった。

 常人ならば為す術なく背後からの攻撃を受けていた事だろうが、彼はこの世界にとって非常識の塊のような存在だ。絶望的な場面を切り抜ける術も、当然の如く持ち合わせている。

 

 「背部ブースター点火」

 「ぐっ! な、にぃっ!?」

 

 背中の装甲が開き、光が迸る。勢いよく噴射されたブースターの光と炎を受けて襲撃者が怯む。その隙を逃す程彼も甘くはなく、背後の襲撃者の腕を引っ付かみ、横方向へ大きくスイング。先に仕掛けてきた襲撃者へ投げ飛ばした。

 

 「ちっ!」

 

 そのまま巻き込まれて共倒れが理想だったのだが、余裕のある動きで避けられ、投げられた方も見事な身のこなしでアッサリ受け身をとって立て直した。

 投げた衝撃で新たな襲撃者のフードがめくり上がり、中身が年若い男だと分かる。そして、何故ゼロが接近に気付かなかったのかも理解した。

 

 ゼロに行わせていたのは人間限定での索敵。相手が人間でないならば、そもそも引っ掛かることもない。

 その証拠として、襲撃者の男の頭には、本来人間ではありえない獣の耳が生えているのだから。

 

 「(人間ではない……だが)」

 

 彼の目的は亜人達を守護し、人間を殲滅すること。それ以外の生命体、所謂他種族は殲滅対象には入っていないが……敵対するなら話は別だ。

 

 『対象を敵性生命体と認識』

 「ゴーレムが喋った!?」

 「落ち着け。普通に考えて召喚者の声だろう。おそらく近くに潜伏している筈だ。コイツを片付けて引きずり出す」

 「くそっ。だったら手早くやろうぜ。2体目3体目を呼び出されちゃ厄介だ」

 「ああ」

 

 襲撃者達の会話を聞いて彼が思わず嘆息。無意識にハンドガンを下ろして片手で頭を抱える程に、彼はふかーく嘆息した。これでもかと嘆息する。

 

 そして思う。またゴーレム(それ)かと。

 

 「(ゴーレムとやらの情報も聞き出さねばな。これ以上の間違いは正直ウンザリだ)」

 

 彼が再びハンドガンを構えると同時に、襲撃者もまた地を蹴るのだった。

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