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落ち葉
紅葉も終わりを迎える初冬。窓から見える一本の木に、いくつかの葉っぱが残っておりました。
しかし冷たい風が吹く度に、一枚、また一枚と落ちていきます。
そうしてすぐに裸木になってしまうのだろうと思っていたのですが、最後の一枚だけはなかなか落ちませんでした。
あなたが頑張ったところで、何も変わらない。どうせ落ちてしまうのだから、すぐに落ちてしまえばいい。
そんな思いを視線に込め、一枚だけの葉っぱを見続けます。けれどやはり、葉っぱは落ちません。
落ちろ、落ちろ、落ちろ。しだいに思いは念に変わり、落ちるものではなく落ちてほしいものに変わりました。
しかしその葉っぱは、やはり落ちません。
毎日毎日念を送り、やがて疑問を抱くようになりました。
あの葉っぱは本当にただの葉っぱなのだろうか。実は作り物なのではないだろうか。
そう思った時にはもう、確かめたい気持ちでいっぱいになりました。
外に出て木の前に立ち、葉っぱに軽く触れました。
すると、それだけのことでポロッと枝から離れてしまったのです。
そのことを酷く後悔しました。私が触れなければ、この子はまだ木と一緒にいられたのだろうか。
葉っぱに対して落ちろと念じていたことなど、すっかり抜け落ちてしまいました。
私は、私が運命を変えてしまったこの葉っぱを部屋に持ち帰りました。
栞に加工して手のひらに乗せ、私が側にいてあげるから、あなたも私の側にいてね。そう声をかけて、生涯大事に使いました。