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4.コンビニが遠い

「七海さん、どの辺に住んでいるの?」


 くっ……よりによって口をついてでた言葉が定番中の定番だった。

 我ながら何の捻りもない質問に少しへこむ。


「神社……かな」

「ふうん。神社の傍に住んでるんだ」

「う、うん」


 何か含みがある感じで頷く翠であった。

 そんな表情を見ると、俺が言う事ではないけど家庭に何かあるのかなあと心配になってくる。


「神社に行ってもいいかな?」


 家には触れないようにして、彼女へ問いかけてみた。

 もちろん目的は、彼女に会う事。

 灯台でたまたま会えたからよかったけど、ちゃんと会う約束をしたい。

 ああああ。聞いたのはいいけど、ドキドキしてきた。

 すげない返事だと落ち込みそう。


「うん。その方がいいと思う! 神社の方がここより涼しいよ。川もあるの」


 翠ははにかみ、首を縦にふる。

 やったぜ。よかった。今度は「たまたま」じゃなく彼女に会えるんだ。


「おお。それはおもしろそうだ」


 しかし喜ぶ俺とは逆に彼女は長い睫毛を伏せ呟く。


「山の中にあるから、自転車じゃ近くまで来れないの」

「大丈夫だよ。ハイキングだってしたいし。自然を見ながらってのは逆に大歓迎だよ」

「そ、そう。それならよかった!」


 翠は両手を合わせ、ほっとしたように息を吐く。

 このまま話が終わってしまいそうな気配を感じ取った俺は、左右を見渡し取って付けたように灯台の影を指さす。


「立っているのも日差しがきついし、灯台の日陰で座らない?」

「うん」

 

 日陰に入って、灯台の壁に体重を預けだらんと足を伸ばす(背中を壁につける前に熱くないかちゃんと確かめたぜ)。

 翠はといえば、俺の隣にペタンと座ってこちらに顔を向ける。

  

「七海さんは制服を着るのが好きなの?」

「うん。ここの制服が気に入ってるの。可愛くない?」


 確かに。リボンの形も可愛いし、スカートのデザインも普通のセーラー服と違って裾にワンポイントが入っており特徴的だ。


「へえ。どこの高校なの?」


 やったぜ俺。自然に彼女の高校の名前を聞いてしまったぞ。


「相楽塚高校だよ。九十九くんは?」

「俺は隣の県にある呉島高校ってところなんだ」

「へえ、最後の夏休みなのに受験とか大丈夫なのかな?」


 「それは君もだろ」って無粋な突っ込みは男前の俺はしないのだ。

 コホンとワザとらしい咳をして、キリリと自分なりの凛々しい顔をして彼女へ応じる。

 

「高校を出てからまだ何をするか決めかねていてさ」

「ふうん。そうなんだ」

「何だよ。その笑みはあ」

「ううん。何も?」


 あの顔。絶対に笑いを堪えている。

 自分探しの旅って言わなかっただけマシだろお。

 頭を抱えていると、翠の声が耳に入る。

 

「わたしも……どうすればいいのか……わかんないや」

 

 彼女の声色はこれまで聞いたことのないような寂しげな色を含んでいて、チラリと横目に入った彼女の顔にドキリとした。

 いや、心を奪われたとかのドキドキではなく、見てはいけないものを見てしまったような……何といったらいいのか難しいけれど、達観したような憂い……うう。やっぱりうまく言えないや。

 

「まあ、そのうち何とかなるさ。うん。俺だっておんなじだし!」


 殊更明るい声で大げさに手を振る俺。


「うん、そうだよね!」


 元の表情に戻った翠は笑顔を見せてくれた。

 もし彼女が悩みを抱えているのなら、聞きたい。そして、少しでも力になりたいと思う。

 でも、まだ踏み込むには早すぎると感じているんだ。彼女の心に土足で踏み込むのは余計に彼女を悩ませることになりかねない。

 帰る日になるまでには、もっと彼女と仲良くなって……。えへへ。

 

 彼女と話ができるのはいいが、このクソ暑い炎天下……いくら日陰とはいえ汗が止まらねえな。

 喉が渇いてきた俺はリュックを開き。あ。

 

「七海さん、港近くにある古い感じのお店まで行かない?」


 そうだった。この後コンビニを探しに行こうと思っていたから、ペットボトルの一つも持っていないのを忘れていた。


「ご、ごめんね。九十九くん。もうそろそろ行かないと」


 翠は、少し動揺した様子でこの後予定があることを告げる。


「そ、そうだったんだ。引き留めちゃったよね」

「ううん。九十九くんがひょっとしたらここにいるかなあと思って来たの。だから……」

「俺も君がいるかもと思って」

「そうなんだ。えへへ」

「ははは」


 お互いに笑いあい、この場は解散となった。

 

 この後俺は港前の昭和なお店には行かず、コンビニの探索に向かうことに決める。

 短い間だけだったとはいえ、翠に会う事ができてよかった。明日は神社で会えそうだし。

 自分の頬がにやけるのが分かり、手を頬に当てる。

 戻れえー俺の顔ー。こんな顔誰かに見られたら……。

 とかやっていると、電柱にぶつかりそうになり冷や冷やした。

 

 ◆◆◆

 

 コンビニを発見するのはなかなかタフだった。最終的にはナビアプリを使って案内通りに進むことでようやく辿り着く。

 ハアハア……これは常に飲み物を持ち歩いた方がいいな。脱水になりそうだ。

 留三がコンビニは反対側と言ってたけどそんなに遠くないと思いきや……軽く考えていたが、俺は離島の距離感を舐めていた。

 ええとだな、留三の家から海岸沿いをずっと進んで港だろ。そこから更に海岸沿いを突き進み弧を描くようになっているところを抜けた後、海を背に進むこと十五分くらいでコンビニだ。


 つ、つまり。

 留三の家からコンビニまでは超急ぎで自転車を走らせても三十分以上かかる素敵距離だった。

 

 コンビニは午後八時で閉店というのはまあいいとして、品揃えは俺の地元にあるコンビニとそう変わらないのは幸いだ。

 とりあえず、飲み物を買いたい。

 スポーツドリンクを数本、コーラも数本買って店先でさっそくスポーツドリンクを一気に飲み干す。

 

 ふう。飲んだら飲んだで汗がどばあと吹き出してきた。

 まだ少し夜までに時間があったので、この辺りを散策してから帰るとするか。

 ブラブラ目標無しに自転車を走らせていると、学校を発見する。

 小学校と中学校がおんなじになっているらしく、校門には両方の看板が掲げられていた。

 翠もここに通ったのかなあと校庭を眺めていたけど、夏休みだからか人っ子一人いやしねえ。学校のグラウンドって野球やサッカーのチームがよく練習で利用しているもんだが、ここではそうではないらしい。

 

 鉄棒をぼーっと見ながら、翠もここで逆上がりしたのかなあと小学校時代の彼女を想像して口元がにやけてしまう。

 そんなこんなで散策をしていたら、あっという間に夕焼け空だ。

 カラスがクエクエ煩くなってきたし、帰るとするか。

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