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  作者: 桜庭かなめ
特別編
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第30話『アクア』

 桜乃庭神社を後にして車に戻ったけど、まだ午前10時半過ぎ。スイーツ店に行くか、もう1カ所くらい観光地に行こうか話題が上がったとき、真奈ちゃんから吉野十海(よしのじっかい)に行きたいという要望が出たので、そこに行くことになった。昨日の夜、彼女がスマホで調べて時間があれば行きたいと考えていたそうだ。

 僕もスマホで吉野十海について調べると、ここは富士の湧水による10個の美しい池を見ることができる。数年前に世界文化遺産に指定された。また、富士山が見える場所であるため、今日のように晴れている日には池に映った逆さ富士を見られるそう。

 吉野十海には立派なお土産屋さんと甘味処もあるそうなので、そこで美味しそうなスイーツがあれば食べてみることになった。

 桜乃庭神社からは車でおよそ20分。吉野十海に着くまでは、真奈ちゃんが助手席に座り、後部座席の1列目に僕と沙奈会長、2列目に琴葉と副会長さんが座ることに。


「玲人君、うふふっ」


 沙奈会長は腕を絡ませ、べったりとくっついてくる。これも、さっきの「神対応」効果なのだろう。おそらく、あの金髪の女性に言った「結婚したいと考える恋人がいる」という言葉が、沙奈会長にも聞こえていたんじゃないかと思う。


「桜乃庭神社の効果がさっそく出ているようだね、沙奈ちゃん」

「はい!」

「沙奈さんを見ていると、こっちまで幸せな気分になれますよね、樹里さん」

「そうだね」


 どうやら、パワースポットはここにもあったようだ。まあ、僕の場合はこちらが動かなくても、向こうから自動的にパワーをいただいているけど。


「お姉ちゃん、この旅行を通じて玲人さんのことがより好きになったんだね」

「うん! 私も結婚を考えているくらいに玲人君のことが大好き!」


 やっぱり、あのときに言った僕の言葉を聞いていたんだな。これまで以上に沙奈会長は僕に密着してきている。そのことで沙奈会長の温もりを強く感じているよ。

 ただ、彼女の温もりが気持ち良くて眠気が襲い始め、沙奈会長に寄り掛かってしまう。


「すみません。眠くなってきちゃって」

「むしろ可愛いくらいだよ。ほら、私の腕を枕にして。玲人君さえご希望なら、胸枕でもいいけれど……」

「今は腕の気分ですね」


 というか、胸枕って初めて聞いた言葉だ。

 僕は沙奈会長を腕枕にして、ゆっくりと目を瞑った。沙奈会長の優しい温もりと匂いのおかげでいい睡眠ができ――。


「もうすぐで吉野十海に着くよ」

「もう着くんだ、姉さん」

「ふふっ、寝られなくて残念だね。でも、ウトウトしているときって結構気持ちいいよね。ちなみに、私は玲人君に腕枕されてとても気持ち良かったよ!」

「それは……良かったですね」


 どんな形であれ、沙奈会長に癒しをもたらせて嬉しい。

 気付けば、吉野十海の駐車場の中に入っていた。さっきの桜乃庭神社よりも駐まっている車や観光バスも多いな。結構人気な観光スポットだけある。


「さあ、みなさん。吉野十海に到着しました! 今日は晴れていますので美しい池を見ることができると思います。それではさっそく行きましょう!」


 真奈ちゃん、ガイドさんみたいになっているな。

 真奈ちゃんが先導する形で吉野十海へと向かい始める。結構な人がいるけれど、よく晴れているし空気も爽やかなので絶好の観光日和なのだろう。ここから見える富士山も綺麗に見えるし。


「これは動画に残したい風景だね」

「綺麗なところがいっぱいですよね。ただ、人も多いですから、周りに注意しながら撮影してくださいね」

「了解、逢坂君」


 副会長さんは右手の親指をグッと上げる。一昨日の成沢氷穴では階段で転びそうになったしちょっと不安だ。池の撮影しているときに落ちたりしそうな気がする。

 スマホで調べると、10個の池がすぐ近くに集まっているのではなく、どれも大体100m近く離れたところに点々と散らばっている形となっている。1つはここから1kmほど離れたところにあるそうだし。散歩感覚で綺麗な池を見られるのが人気の理由の一つなのかも。


「真奈ちゃん、あれって池なんじゃない?」

「そうかもしれませんね、琴葉さん」


 琴葉が指さした先を見てみると、立ち止まって何かを見下している人が何人もいる。

 僕達も行ってみるとそこは『菖蒲の池』という名前の池があった。


「うわあっ、綺麗だね、玲人君」

「ええ。澄んだ水が綺麗ですし、遠くには綺麗な富士山も見えますし。世界遺産に登録されたのも分かる気がします」

「そうだね。さっそくここに来て良かったって思えるよ。ありがとね、真奈」

「そう言ってもらえて良かったよ。あたしもここに来るのは初めてだけど、とても素敵な場所だよね。行ってみたいって言ってみて良かった」


 真奈ちゃんはスマートフォンでこの美しい景色を撮影している。提案者が一番嬉しそうで何よりだ。僕もスマートフォンとデジカメで撮影しておこう。


「ちょっとだけだけれど、富士山が水面に映っているよね、麻実ちゃん」

「そうだね。この吉野十海で逆さ富士が見られるらしいけど、きっと、こことは別の池なんだろうね」


 確かに、姉さんの言うとおり、山頂だけしか映っていないのを逆さ富士とは言わないだろう。ただ、逆さ富士の期待は高まったかな。


「スマホで調べてみましたが、その逆さ富士が見られるのは『鏡の池』という池みたいですね。その名前の由来が、富士山が鏡のように水面に映るからだそうで」

「そうなんだね、真奈ちゃん。まずはその『鏡の池』へ行ってみましょうか」


 僕らは『鏡の池』のある方へと向かう。日曜日のお昼前ということもあってか観光客がたくさんいて賑わっている。世界遺産ということもあってなのか、外国の方もちらほらと見かける。はぐれないように沙奈会長の手を今一度しっかりと握ろう。

 案内板通りに向かい『鏡の池』に到着する。逆さ富士を眺められるのもあってか、スマートフォンやカメラを持つ人がとても多い。


「きっと、あそこからが逆さ富士を最も綺麗に見ることができるんだろうね。ただ、ここからでも十分に綺麗に見えるよ」


 副会長さんは鏡の池に向かってビデオカメラのレンズを向けている。菖蒲の池からの富士山も見ているからか、ここから見る逆さ富士もかなり美しい。もちろん、遠くに見える本物の富士山も。

 ただ、湧水ということもあって池自体もかなり綺麗である。それゆえに底まで見ることができ、落としてしまったのかカメラやスマートフォン、財布などが落ちていた。また、キラキラ光るものがあるのでよく見てみるとそれは小銭だった。みんな覗き込んで落としたのかな。


「みなさん! 撮影ポイントが空いたので行きましょう」


 真奈ちゃんのその声がけにより、僕達は富士山と逆さ富士がとてもよく見えるところへと向かう。


「おおっ……」


 自然の作り出したその風景を目の前にして、思わず声が出てしまった。美しいのはもちろんのこと、心が洗われるというか。一時期、刑務所で禁固生活を送っていたことがあるからかもしれない。


「玲人君がぼうっとするなんて珍しい」

「あまりにもいい風景なので見入ってしまいました」

「確かに、この風景はとても綺麗だね。富士山って何度見てもいいなって思えるよね」

「……ええ。ですから、この風景も写真に収めておきたいです」


 そんな光景を笑顔で見ている沙奈会長もかなり魅力的だけど。

 スマートフォンとデジカメを使って、富士山と池に映った逆さ富士を撮影する。今日が快晴で本当に良かった。

 その後も吉野十海の綺麗な池を観賞した後、売店や甘味処が入っている建物へと向かう。売店を見てみると、吉野十海だけではなく山梨のお土産も売られており、ホテルで購入したお菓子もある。

 ただ、みんなはお土産よりもスイーツの方に興味があるのか、売店はチラッと見るだけですぐに甘味処へ。アイスクリームが人気なのか何枚も宣伝ポスターが貼ってある。


『今年も新茶アイスクリームはじめました。』

『山梨名物ぶどうアイスクリーム!』

『地元の農家で採れたいちごを使ったアイスクリーム』

『爽快な気分になれるソーダアイスクリーム』


 などと様々。また、それぞれの味のソフトクリームもあるようで。


「玲人君は何を食べる? 私はアイスクリームにしようと思うんだけれど」

「僕もアイスがいいですね。日向を歩きましたから、ちょっと暑くて」


 この季節はやっぱり新茶かな。僕は新茶のアイスクリームを買った。沙奈会長はぶどうのアイスクリーム。

 僕と同じようなことを考えていたのか、みんなもアイスクリームやソフトクリームを買っていた。偶然なのかわざとなのか分からないけど、みんな違うものを買っていたので、たまに食べさせ合いながら楽しむのであった。

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