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  作者: 桜庭かなめ
特別編
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第5話『ばぶばぶ』

 女性陣4人はまずアルバムを見ている。

 実際に見るのは恥ずかしいので、お手洗い以外では部屋から出ないのを条件に、僕はアルバムを見ないことを許してもらった。


「やっぱり、女の子の服を着た玲人君はかわいい!」


 彼女達にとってアルバムに貼ってある写真がいいのか、沙奈会長を中心に黄色い声が何度もあがる。これはこれで何とも言えない気持ちになるな。


「こっちの写真にはおしゃぶりを咥えた玲人さんの写真があるよ、お姉ちゃん」

「うわあっ、こんなに大きいのにしゃぶってる!」

「ああ、おままごとをしたときだね。このときは、お父さん役を玲人じゃなくてあたしがやったんだよね。それで、玲人が赤ちゃん役をやったんだよ」

「さすがに、本物の赤ちゃんみたいにあたしの胸を吸うことはありませんでしたけどね」


 そういえば、琴葉と姉さんの3人でおままごとをすることもあったな。赤ちゃんもそうだけれど、僕には合わない役ばかりやらされた記憶がある。それが面白いからと、両親のカメラで写真を取られたり、ビデオカメラで動画を撮影されたり。


「……あっ」


 今、全身に悪寒が走った。物凄く嫌な予感がする。


「写真を見ていたら、動いているみんなも観たくなってきた! 琴葉ちゃん、そろそろDVDを観てもいいかな」

「いいですよ。レイ君、プレーヤーを使わせてもらってもいいかな」

「……いいよ」

「操作をお願いしてもらってもいい?」

「はいはい」


 琴葉からホームビデオが記録されたDVDを受け取る。今、このDVDの盤面に穴を空けたり、割ったりすれば恥ずかしい映像を観られる心配はなくなるけど、もしそんなことをしたら、それこそ琴葉達の心に一生消えない傷を刻んでしまうかもしれない。

 琴葉の言う通り、DVDプレーヤーを操作してホームビデオを見始めることに。さて、どんな映像が記録されているのか。


『録画始めたよ。琴葉ちゃん、玲人を連れてきて』


 姉さんの声だ。今とさほど変わりないな。姉さんが撮影しているのかな。

 程なくして、今みたいにスカートにTシャツ姿の琴葉と、ピンクのワンピースを着せられた幼き頃の僕が。この見た目からして幼稚園か小学校1年生くらいのときかな。


『お姉ちゃん、琴葉ちゃん。恥ずかしいよ、女の子の恰好でこんな……』


 僕は顔を赤くしていて今にも泣きそうだ。その気持ち、よく分かるよ。その映像を観て今も恥ずかしいから。


「きゃああっ! ちっちゃい玲人君かわいい! 抱きしめたい! チューしたい! 食べたい! 全身舐め回したい! 顔が可愛くて声変わりもしていないから女の子にしか見えないよ。いやぁ、天使って実際にいるものなのね!」


 沙奈会長はテレビの前で正座をして大興奮。あなたが天使と称している子供が、後に彼氏になるんですよ。


「懐かしいなぁ。お父さんにカメラの使い方を教えてもらって、あたしや琴葉ちゃんの服を着させた玲人のことを撮影したっけ」

「女の子の服が似合うから、たまにレイ君と服を交換したこともあったよね」

「じゃあ、サイズさえ合えば、今でも女の子の服が似合うかもしれませんね、玲人さん」

「……今は筋肉もついているし似合わないと思うよ、真奈ちゃん」

「そうですか? お顔も綺麗ですし、スラッとしていて似合うと思ったのですが……」


 真奈ちゃんがそう言ってくれるのは有り難いけど、僕のことを本気で女装させようとする人が何人もいるから、2人きりのときに言ってほしかったな。現に沙奈会長が僕のことを舐め回すように見てきているし。


「あっ、映像が変わったね。これは……おままごとなのかな? 琴葉ちゃんがエプロンを着てるよ」

「おままごとも3人でやったもんね」


 テレビの方を見てみると、さっきとは違ってエプロン姿の琴葉が立っていた。この琴葉からして10年くらい前かな。

 すると、程なくして半ズボンとポロシャツ姿の僕が登場する。もし、これがおままごとをしているときだったら、エプロンを着ている琴葉がお母さん役で、僕はお父さん役なのかな?


『レイ君、はい。これ咥えて』


 映像の中の琴葉がエプロンのポケットから取り出したのはおしゃぶり。それを受け取った僕は複雑な表情をしている。


『これを咥えるの?』

『うん。レイ君は赤ちゃん役で、麻実ちゃんがお父さん役ね』

『咥えたらばぶばぶ言うんだよ、玲人』

『えぇ……嫌だよ。しかも、それで撮られてるから恥ずかしいよ』

『じゃあ、これで撮らないから赤ちゃん役やって。……ピッ、はい切った』

『……うん』


 あぁ、姉さんの嘘を信じ込んで、幼き日の僕はおしゃぶりを咥えてしまった。そして、お母さん役の琴葉に抱きしめられながら、


『……ばぶばぶ』

「きゃああっ!」


 見事に赤ちゃんを演じ始めてしまった。そのせいか女子4人は大爆笑。恥ずかしすぎる。だから一緒にアルバムやビデオを観るのが嫌だったんだよ。


「小さい頃の玲人君、ばぶばぶ言ってて可愛いね!」

「……そう言ってくれるのがせめてもの救いですけど、恥ずかしすぎて穴があったら入りたいくらいですよ……」


 部屋からは出られないし、DVDが終わるまでふとんの中に潜っていようかな。


「玲人君」


 すると、沙奈会長は僕の目の前に立って手をそっと握り、


「玲人君の気持ちは嬉しいけど、みんなの前でするのはさすがに恥ずかしいから今は我慢しようね」


 優しい笑みを浮かべながらそう言ってきた。鍾乳洞のことを話していたときから思っていたけど、沙奈会長って『穴』という言葉を聞くと、厭らしい妄想をする思考回路を持っているのかな。


「お姉ちゃん、玲人さんと何をしようと思っていたの?」


 どういう言葉を返せばいいのか悩んでいたとき、真奈ちゃんは本当に分からない様子で沙奈会長にそう問いかけた。さすがの会長も恥ずかしいのか頬を赤らめて、


「え、えっと……それは玲人君と私の2人だけの秘密だよ。ただ、恋人ができたら真奈にも分かるかもしれないね」

「もしかしてキスとか?」

「……そ、そういう感じのことかな。今の真奈にはまだ早いことだよ」

「ふうん、そういうものなんだね、お姉ちゃん。いつか分かるといいな……」


 納得した様子の真奈ちゃんを見て、沙奈会長はほっと胸を撫で下ろしている。さすがに妹を前にすると普段とは違う一面を見せるんだな。それも可愛らしい。


「それにしても、ばぶばぶ言う玲人君はとても可愛かったな。玲人君、ちょっと言ってみてよ」

「何を言っているんですか。ホームビデオの頃は、小さくて声変わりをする前の頃だったのでまだいいですけど、今の僕が同じことを言っても気持ち悪いだけですよ」


 たとえ恋人からのお願いだとしてもやりたくないことだってあるんだ。それを沙奈会長に分からせないと。


「じゃあ、玲人君がばぶばぶ言うのを聞いてみたい人、手を挙げて!」

「はい!」


 手を挙げたのは沙奈会長と真奈ちゃん。琴葉と姉さんは手を挙げていない。


「琴葉ちゃんとお姉様は聞きたくないんですか?」

「どんな感じなのか興味はありますけど、レイ君が言いたくないようなので無理に言わせるのはちょっと……」

「琴葉ちゃんと同じ意見かな。ただ、乗り気じゃない玲人にばぶばぶ言わせようとしているんだから、言ってくれたらお礼として何かしないといけないよね。もちろん、玲人がどうしてもやりたくないから、その気持ちを尊重すべきだよ、沙奈ちゃん」

「……そうですね。私から要求してばかりなのはダメですよね。玲人君の気持ちも考えないといけないですね。玲人君、何かしてほしいことってある?」

「ええと……」


 急にそんなことを言われてもしてほしいことが思いつかないな。


「じゃあ、明日からの旅行中に1回、沙奈会長にしてほしいことを言いますから、そのことをしてください」

「分かったわ。じゃあ、ばぶばぶ言ってくれる……かな」

「……分かりました」

「お願いします」


 あれ、いつの間にか、ばぶばぶ言わなければいけない状況になってしまった。まあいいか、旅行中に1度、してほしいことをしてもらえるんだし。


「……ば、ばぶばぶ」


 みんなの方を見ながら頑張って言ってみた。

 分かってはいたけれど、今の僕が言うと気持ち悪いな。あと、副会長さんがこの場にいないから、旅行中に絶対にこのことが話題になる気がする。あぁ、そう考えると体が段々と熱くなってきた。


「言ってくれてありがとう、玲人君」


 すると、沙奈会長は包み込むようにして僕のことを優しく抱きしめてきた。体は熱いけど、沙奈会長の温もりは心地いいな。


「キュンと来ちゃったよ、玲人君。母性本能をくすぐられるというか。お乳は出ませんけど沙奈お母さんのおっぱいを吸ってみますかぁ?」

「……破裂するくらいに鷲掴みしてやりましょうか?」

「ごめんごめん。でも、可愛くてキュンとしたのは本当だからね」

「あたしも玲人さんのばぶばぶを聞いて可愛いと思いました! 玲人さんのような人が言うとギャップがあってキュンとします……」


 どうやら、ばぶばぶ言うのを聞きたいと言っていた如月姉妹には好評だったようだ。琴葉と姉さんはクスクス笑っているけど……何も訊かないでおこう。アルバムを見始めたときと比べて、メンタルがかなりやられているし。

 その後も、何だかんだでアルバムやホームビデオ鑑賞に付き合うのであった。

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