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  作者: 桜庭かなめ
本編
52/118

第51話『ハロー、どうも。』

 菅原達が警察署に連行されるのを見届け、彼らの姿が見えなくなったとき、ようやく心が軽くなったような気がする。

 これでミッション達成したので、アリスさんの魔法によって、近いうちに琴葉の意識が戻ると思われる。


「あの、羽賀さん」

「何でしょうか」

「琴葉の様子を見に行きたいのですが、もう518号室に行っても大丈夫ですか? あそこでゴンが菅原達によってケガをさせられたので、警察の捜査が行なわれているのかなと思って」

「ちょっと待っていてください。確認してきます」


 羽賀さんは518号室の方へと向かっていく。琴葉の病室に行ければいいけれど。


「きっと大丈夫だと思うけどな。あいつらに手や腕を切られたけど、そんなに血は出なかったから」


 ゴンが朗らかな笑みを浮かべながらそう言う。琴葉が入院していることもあって、早めに捜査が終わってくれることを祈る。


「ここが病院で良かったぜ。看護師さんがすぐ手当てをしてくれたから大丈夫だ。利き手の右手はケガしていないし、仕事も何とかできるだろう。明後日まで休みだし」

「……それなら良かった」

「ああ。それにしても良かったな、ゼロ。菅原達を逮捕できてよ」

「うん。これでようやく一段落って感じかな。自分達のやったことを認めたから、滞りなく捜査が進んでいくと思うよ。まあ、与党所属の大物議員である父親の菅原博之が不正を行なったんだから、政界が大きく揺れ動くかもしれないけれど」

「それも自業自得ってヤツだろう」


 このことをきっかけに、何かいい方向に変われば何よりだ。


「そういえば、ゼロ。この銀髪の女性は?」

「えっと……僕の猫仲間の女の子だよ。名前はアリス・ユメミールさん。遥か遠い国から日本に遊びに来ているんだ。琴葉の友人でもあるんだよ」

「そうなんすか。俺、大山太志ッス! 俺も昔はよくノラ猫を拾っては、腹の上で寝かせていたッス。アリス姐さん」

「初めまして、氷室智也といいます。猫は可愛いですよね。僕の実家にも猫がいるんですよ。凄く大きな黒猫で。可愛いですよ」

「そうなんですね」


 何とかごまかせたみたいだ。あと、やっぱりアリスさんのことはアリス姐さんって呼ぶんだな、ゴンは。あと、氷室さんも猫が好きなのか。


「猫ちゃんは可愛いですもんね」

「俺、猫は可愛いという意味で究極の生き物だと思っているッス!」


 ゴンはかなりの猫好きなのかな。ただ、ゴンの場合は猫の方から近寄ってきそうなイメージがある。


「逢坂君。さっき、捜査が終わりましたので入っても大丈夫ですよ」

「分かりました。ありがとうございます。……行きましょう」


 僕は沙奈会長達と一緒に琴葉が入院している518号室へと向かう。

 ゴンはここで菅原達に怪我を負わされたそうだけど、病室の中はすっかりと綺麗になっている。

 ベッドの方を見てみると……まだ琴葉は目覚めていないか。


「アリスさん、恩田さんはまだ?」

「ミッションは達成しましたので、琴葉の魂は彼女の体に戻しました。時期に目を覚ますと思いますよ」


 僕や沙奈会長だけに聞こえるくらいの小さな声でアリスさんはそう言った。あとは琴葉次第ってことか。


「事件があってから、彼女はこうしてずっと眠り続けているのか? ゼロ」

「ああ。事件直後に現場近くの病院で手術をしたから、命の危機からは割と早く脱したんだ。そこからずっとこうして眠り続けてる。長期の入院になるから、僕が勾留されている間にこの病院に移ったんだ」

「……そうなのか」


 ただ、およそ2年続いた眠りが間もなく終わろうとしている。早く琴葉と会って、色々なことを話したいな。


「琴葉……」


 思わず琴葉の名前を口にしてしまう。


「んっ……」


 まるで返事をしたかのようなタイミングで琴葉の声が聞こえると、ゆっくりと琴葉の目が開いた。視線を動かして僕と目が合うと、琴葉はにっこりと笑う。


「レイ君、ありがとう。……ひさしぶりだね」


 僕のことを見つめながら、琴葉ははっきりとそう言ってくれた。

 彼女の声を聞いた瞬間、やっとあの事件に一つの区切りがついたんだなと思えた。何かから解放された感じもして。


「2年ぶりだね、琴葉」


 琴葉に対して言葉をかけた瞬間、僕の両眼から涙が流れ始めたのが分かった。涙を流したのはいつ以来だろう。琴葉がケガを負ってしまったときも泣いていなかった気がする。


「もう、レイ君ったら。目が覚めた途端に泣くなんてさ」

「……琴葉が意識を取り戻して、嬉しい気持ちでいっぱいなんだよ」

「……そっか。あたしもレイ君とまた会えて嬉しいよ」

「琴葉、今日……2年経ってあの日の事件について、菅原達と決着を付けることができたんだ。学校で受けたいじめについても決着に向かうと思う」

「……うん。アリスちゃんとずっと見ていたよ。頑張ったね」


 すると、琴葉はゆっくりと体を起こして僕の頭を撫でた。その瞬間に感じた琴葉の温もりや匂いはとても懐かしいもので。


「ずっと見ていたというのはどういうことだ? 彼女は今まで意識を失っていたと思うが……」


 羽賀さん、今の琴葉の言葉を聞き逃さなかったようだ。どう説明すべきか。


「羽賀。世の中、不思議なことって結構起こるもんだよ。以前、僕も恋人と旅行に行ったとき、旅先のホテルで幽霊と出会ったことがあるよ。そのときは冷たい手で体を触られた。どうして触れることができるのか、今でもさっぱり分からない」

「……なるほど。不思議なままの方がいいこともあるか。悪いことではない限り」


 羽賀さんが納得してくれて良かったけれど、氷室さん……本当に色々な経験をしているんだな。あと、幽霊の手って冷たいのか。


「如月さんもありがとうございます。高校に進学してから、レイ君のことをすぐ近くで支えてくれて。そういえば、初めまして……ですね。恩田琴葉です」

「ふふっ、初めまして。如月沙奈です。お礼を言われるほどのことはしていないよ。玲人君の側にいたのは、私がそうしたかったからだし。それに、玲人君のことが好きすぎて暴走しちゃうことも結構あって。過去を知っても、恩田さんの幼なじみが素敵なことに変わりないよ」


 沙奈会長、暴走していたことを自覚していたのか。安心したよ。今回のことを機に、今後は行きすぎた行動がなくなれば幸いだ。


「自慢の幼なじみですから。あたしがいじめられたことを話そうと決めた瞬間から、レイ君は絶対に何とかしてくれると思いました」

「……ちゃんとやってくれたね、玲人君は」


 沙奈会長と琴葉はお互いに見つめ合いながら楽しそうに笑っている。琴葉がこんなに楽しげにしているのはひさしぶりだ。


「アリスちゃんもありがとね。向こうでの生活、楽しかったよ」

「……あたしこそ。琴葉のおかげで楽しい時間を過ごせました。あなたのおかげで、友人っていいなと思えました。本当に……ありがとう」


 琴葉、異世界でアリスさんと一緒に生活していたのか。僕や沙奈会長のことを見守っていたそうだけれど、色々と気になるな。元気になったら訊いてみようかな。


「ううっ、涙が止まらねえッス。琴葉姐さんが2年ぶりに目を覚まして、凄く感激しているッス! あっ、俺……ゼロと刑務所で出会った大山太志ッス! 琴葉姐さん、おはようございまッス!」


 ゴン、号泣しまくり。出会った当初から情に厚い男だとは思っていたけれど。ここまで涙もろいのは意外だな。琴葉を菅原達から守ったことも、ここまで泣く理由の一つなのかも。


「恩田琴葉さん。私、警視庁捜査一課の羽賀尊といいます。つい先ほど……2年前、あなたをいじめ、あなたが重傷を負った事件に深く関わっていた菅原和希達を逮捕しました。あなたを守った大山君への傷害も含まれていますが」

「そうですか。ありがとうございます」


 すると、羽賀さんは琴葉のすぐ横まで近づき、


「逢坂君。恩田さん。事件直後、きちんとした捜査を行なわなかったことについて、警察を代表して謝罪します。申し訳ございませんでした」


 僕と琴葉に向かって深く頭を下げた。羽賀さんが不正を行なったわけではないのに。むしろ、その不正についてしっかりと捜査した立派な刑事さんだと思う。


「後日、事件捜査に関わった警察官から謝罪させることをお約束します。逢坂君から詳しい話は聞きましたが、今後……2年前のことについてお話を聞くかもしれません」

「……分かりました」


 今度は羽賀さんや浅野さんがいるので、きちんとした捜査が行なわれることだろう。本人達も罪を認めたし、圧力によって覆ることもきっとないだろう。仮に圧力があったとしても、羽賀さんなら撥ね除けそうだけれど。



 その後、琴葉が目覚めたことを看護師さん達に伝え、琴葉の御両親に連絡してもらうことに。1時間もあれば、この病院に来ることができるらしい。

 僕や沙奈会長から自宅で待っている家族や副会長さんに、事件が解決したことと琴葉が目覚めたとメッセージで伝えた。それに対していくつも返信があり、どれも、


『おめでとう!』


 という内容だった。周りに支えてもらいながらも、何とかやり遂げられたのだと深く実感し、2年前の事件に区切りを付けられたのであった。

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