3 超人レース
「今からお前ら全員を落とすテストを発表する」
中岡は、Jリーガーに憧れて集まった200人のジャージ姿の社会人や、学校の思い思いのユニフォームの選手たちにそういった。
「いいか、クズども!俺は、お前らのような全国大会に出れない落ちこぼれは誰一人もいらない。今日この場で夢を終わらせてやる!」
中岡の思いがけない挑発に、社会人クラブのユニフォームを着た男が立ち上がった。
「中岡さん、悪い冗談はやめて下さい。FCビシャモンテ尼崎は私たちのような落ちこぼれにチャンスを与えるのが目的じゃないんですか?」
「甘えるな!高校、大学でプロのスカウトの目に止まらないような負け犬にそもそもJリーガーになる資格はない。今すぐ帰れ!そんなクズはいらない!」
「中岡さん、あんたがそんな人とは思わなかった俺たちはあんたに憧れ今の貧しいながらも安定した生活を捨てる覚悟でここに来たんだ!馬鹿らしい。俺は帰るわ」
男がそう言うと釣られるように、パラパラとグランドを数人後にした。
「おい、残りのクズども、お前らも生活のために帰れ!どうせ、テストしてもお前らには合格は出さない‼」
そう言われて、友人と連れ立って来ていた選手が顔を見合わせた。
「おい、そこの弱小高校生!帰れ‼お前らのような自信のないやつはいらない。不合格だ!」
中岡は、残った選手を尚もふるいにかけるように、厳しい目を向けた。
「お前は、チビ!お前は、デブ‼お前は、顔が気に入らない‼!」
中岡は、理不尽にドンドン選手を追い返し陽が傾いたグランドに残ったのは半数の100人に満たない。
「では残りのクズどもにテストを発表する。お前らには市内全域を使った公開トライアスロンをやってもらう!」
残った選手たちもみんな唖然となった。なぜ?
トライアスロンは、直接的にサッカーと関係ない。
ラン、バイク、スイムと総合的な持久力は関係するが、問われるならドリブル、パス、デイフェンス技術だろう。
「お前たちは、客寄せショーのサルだ。もがき、苦しむ様をテレビが入って放送する。ゴールしたって合格させるとは限らん」
尼崎には、北部の阪急沿線に地方競馬場、中央のJR沿線にスタジアム、南部の阪神沿線にボートレース場がある。
市内の主要な3本の線路を北から南へ、ジグザグにたどって駆け巡る話題作りのテレビを入れた超人レーストライアスロンを実施するのだ。
地方競馬の足をとられる砂のトラックをスタートに、阪急沿線を西へ芦屋へ歩みをとる。市内のセレブの高級住宅街に武庫之荘へ向かう。
下ってJRの市役所立花地区。辿って東の大阪寄りにスタジアムのあるJR尼崎の中央地区。そこで自転車の代わりに尚も選手を追い込む筋肉番付を見習ったサーキットトレーニングと公開放送が待っている。
下って阪神尼崎の商店街を突っ切り西の甲子園に向かって尼崎センタープールへ向かう。センタープールは巨大な人工の池だ。普段はモーターボートレースのある池でスイム。
そこから、尚も走って武庫川へ出て、湾岸高速のある南の外れのスポーツの森、FCビシャモンテ尼崎のクラブハウスのある練習場がゴールだ。
距離にしておよそ42.195キロのランと、1時間の筋肉番付、3.8キロのスイムで、トライアスロンの言うところの変則
アイアンマンディスタンス
である。
「それではクズどもには超人レースに向けて、今から外部との連絡を一切遮断した1ヶ月のトレーニング生活に入ってもらう。それでも合格の保証はないが、参加したいバカは残れ!以上」
最後まで残った100人の夢見る選手たちは、チームの売名の客寄せパンダだ。夢を罵倒され夢を打ち砕かれる。
たとえそれをくぐり抜けても、合格の保証はない――。
中岡の言葉を聞いて残った選手は当初の10/1のわずかに20人。
残った選手の目は燃えたぎって闘う男の目をしている。
地域リーグでプレーする社会人や、名もない高校、大学の落ちこぼれ戦士たちだ。
中岡は、これから尚も1ヶ月間。プロでも逃げ出すような過酷なトレーニングを敷いて彼らを追い込む。
本番のテストまで何人生き残るのだろうか。
(つづく)




