20 ヨンサンの秘密
【あらすじ】世界No.1を目指すJ3のFCビシャモンテ尼崎の新チーム作りを任された中岡将志が、地元アマチュア選手を集め強化に奮闘。そんなある日、スターな外国人選手が入団。それは韓流スターで韓国代表MFのぺ・ヨンサンだった。しかし、ヨンサンには秘密の条件があるという・・・。
【登場人物】
監督 中岡将志(49)
MF ぺ・ヨンサン(25)
FCアジアGM 鈴木(58)
【20ヨンサンの秘密】
「鈴木さん。ヨンサンの秘密の条件って何ですか?」
中岡は、記者会見を終えて、大阪湾の夜景がみえるアルカイックホテルBARラウンジで鈴木とヨンサンとテーブルを囲んでいる。
「実はな、ヨンサンは記憶喪失なんだ」
「え!ホントかヨンサン⁈」
ヨンサンはこくりと頷く。
「でも、鈴木さん。ヨンサンはテレビでも韓国代表でもそんなそぶりは一切ないじゃないですか」
「そうだ。ヨンサンが記憶を失ったのは、世の中の注目を集める前、高校時代の交通事故がもとで、家族は怪我の治療に専念するためアメリカへ移住し、怪我は回復したが記憶は戻らなかった」
「ヨンサンは記憶喪失のまま、サッカーと韓流スターをつづけて来たと言うことですか」
「そうだ。ヨンサンはそこから新しい人生、サッカーとスターの二足の草鞋を履くぺ・ヨンサンになった。この事実を知るのは所属事務所と我々だけだ」
「それがどうして、いきなり日本の発足間もないウチへくるんですか」
「それはヨンサンだけの秘密。直接話を聞いてみようじゃないか」
ヨンサンは、記者会見の席とはうって変わって微笑みを失っている。
「僕は、日本へ失った恋人を探しに来ました」
「失った恋人?」
「そうです。僕はサッカー以外のほとんどの記憶は失いましたが、彼女のおもかげは失わなかった。中岡さん、僕は彼女に逢いたい」
「会うったってどうしてそれが日本なんだい?」
「僕は、日韓戦で日本から帰る時、空港で彼女の横顔をはっきり見ました・・・」
それは、ヨンサンが日韓戦を終え、代表選手たちと帰国の途につく羽田の出発ロビーでのことだ。
黒山のファンとマスコミカメラの人だかりから、韓国代表とヨンサンを守る警備員と張り巡らされたロープ。
韓国代表の中にヨンサンが来ると、ワッと歓声があがる。
ファンサービスで、手を合わせお辞儀するヨンサン。
ヨンサンに並んだ、長身の韓国代表、ソン・チュモンが、
「ヨンサン、お前もスターとは言え敵国日本でよくやるなまったくあきれるぜ」
「彼女たちは、家族です。敵じゃありません。僕は嬉しいんです」
ヨンサンが手をふってファンの歓声に応える。
「ヨンサン選手、日本のファンに何か一言お願いします!」
ヨンサンは、少し考え白い歯をみせて、
「日本のみなさん、いつまでも愛しています」
巻き起こる歓声の渦。
人と人の隙間の先を透明感のある飾らない美しい女性が通りすぎる。
時が止まるヨンサン。消えた記憶がよみがえる……。
「ユンジン!」
「・・・彼女を見た時、突然、記憶が蘇ったんです。あれは、僕が愛したユンジンだった」
中岡は、悲しく青いクリスタルカクテルで口をしめらせた。
「日本で、初恋の彼女とすれ違ったが、再会はできなかったってわけか」
「そうです。僕は韓国へ帰って彼女の消息を追った。そして、日本のこの尼崎の街へ留学しているとわかったんです」
「だったらユンジンを見つけて会って思いを伝えに行けばいいじゃないか」
鈴木が、
「それが出来ないんだよスターになった今のヨンサンには、その悩みの中、偶然、声をかけた日本のチームがウチだった。日本で願いを聞き届けてくれる場所ならどこでも良かったんだ」
ヨンサンは、ポケットから片割れの星のペンダントを取り出して、
「空港で見かけたユンジンは、首にまだ片割れをかけていました。彼女の中にはまだ僕がいるんです」
ヨンサンは中岡にペンダントを握らせて、
「中岡さん。代わりに伝えて下さい。僕は今でも愛してると」
(つづく)




