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13 地元に愛を

【あらすじ】

世界No.1を目指すJ3のFCビシャモンテ尼崎の新チーム作りを任された中岡将志が、地元アマチュア選手を集め強化に奮闘。そんなある日、オーナーに呼び出された。


【登場人物】

監督 中岡将志(49)

GM鈴木政之助(61)

チームオーナー 滝本光(68)

【13 地元に愛を】


その日、中岡はオーナー滝本に本社の社長室に呼びだされた。


スタジアムのあるJR尼崎駅から、5分ほど歩いた10階建ての全面ガラス張りの横長のビルに、まるで、堀を巡らすように水の浅い池を巡らした堅固な城のような造りの本社だ。


(さすが、センサー業界70%の世界シェアを誇る男の城はちがう)


受付は、世界企業と言うよりも、当たり前の地元のおばちゃんと若い娘の二人。


中岡は、受付を済ますとすぐ横のエレベーターを登り社長室のある最上階へ向かった。


エレベーターはガラス張りで、階を上がるごとに、市内を俯瞰に一望できる。


扉が開くとそこは社員が活発に電話や、パソコンを叩く普通のオフィスだった。


(特別なものは何もないな)


中岡は、社員の間を抜け奥のオーナー室へ向かった。


「あっ、中岡だ!」


社員の一人がつぶやいた。


声に引きづられて社員たちは、皆、立ち上がり、中山に、


「ようこそ、ワールドサイエンスへ」


見事な統率だった。バラバラの仕事をしていた社員たちが、中岡の登場で一瞬で揃って出迎える。


その表情は、皆、自信にあふれ笑顔が輝いている


(世界を取るとは、こういう足元があってこそか)


滝本の堅実な性格を表すようにシンプルな白い天井のオフィス。


突き当たりの奥に、一角を間仕切りし部屋に、滝本の社長室がある。


中では、滝本が中岡のジュビロからの師匠にあたるGM鈴木政之助と共に額をつきあわせていた。


作戦ホワイトボードと、パソコンからのプレゼン資料を映写する映写機からは、市民とクラブを結びつけ地域No.1クラブを目指す戦略が映し出されている。


「ようこそ中岡君」


滝本は、立ち上がって中岡に歩み寄り両手で握手した。



J3に新規参入のFCビシャモンテ尼崎のある街は、同じ兵庫県にヴィッセル神戸と、大阪にガンバ大阪、セレッソ大阪と人気、実力を備えたライバルがいる。


合わせてこの街は、昔から野球の阪神タイガースと関わりが深く、サッカーよりも野球と言う雰囲気がある。


「中岡君、クラブはどうかね?」


「チームは、荒削りですが使えそうなメンバーの目星も見えて来ました。ただ、駒が足りない」


「そうか、鈴木君、外国人選手の補強はどうかね?」


「ビックネームのFWと、スピードのあるMF、身体能力の高いDFが獲得できそうですよ」


「そうか、中岡君安心してくれたまえ」


鈴木は、遮るようにつづけた。


「ただ……野球のタイガース、元・地元のセレッソの知名度が高く、対戦のない我々J3のFCビシャモンテ尼崎の観客動員が最低ラインの3000人を見込めない」


「タイガースは関西の象徴だからな、あれには、まだまだ、勝てない。まずは、セレッソか」


「いえ、我々はセレッソの前に、ガンバ、ヴィッセルの人気にも地元で負けています」


「中岡君がいてもダメかね」


「中岡人気は絶大です。ですが、それをスタジアムに足を運ばせるには草の根作戦と、さらなる投資が入ります」


「さらなる投資か……」


「ビシャモンテ尼崎の最大の敵は野球タイガースです。2番目にサッカーのセレッソ、3、4番にガンバ、ヴィッセルがあります」


「ビシャモンテ尼崎の人気は、それほどヴィッセル、ガンバに負けているのかね?」


「ガンバには、J創設からの歴史と看板の日本代表が、ヴィッセルにはワンマンオーナーの三木屋浩一の野球チームと連動するスポンサー企業の強力な知名度があります」


「私の会社は宣伝をしないから知名度は低いが、チームへの愛情と熱意は負けていない。だから、中岡君を招聘した」


「中岡とメディア向けのイベント トライアスロン選手選抜で話題をさらい、一時的な観客は見込めるでしょうが、リピーターがチームの要になります」


「それをどう定着させるかだな、中岡君はどう思うね?」


「チームの選手の振るい分けは、フェアに、トライアスロンの結果の上位11名にしようと思います。チームの運営強化は、鈴木さんに任せます。必要なら、俺は野球だってしますよ」


「オーナー、チーム人気強化には、知名度のある中岡と、プロ選手、コーチ陣によるユースの構築が必要です」


鈴木は、ホワイトボードに市内を6分割した地図を開いた。


市内は、北に阪急電鉄の武庫之荘地区、競馬場の園田地区、


中央にJR沿線に市役所立花地区と、スタジアムのあるJR尼崎中央駅


南に、阪神電鉄。尼崎駅と競艇場のあるスイムの舞台になるセンタープール駅、武庫川地区。


「この6地域に小学校年代のジュニアを配置し、さらに、格小学校と協力し市内の12駅の地域で毎週、中岡たちによるサッカースクールを行います(中岡をみる)」


「(頷く)中岡君ご苦労だが、草の根作戦やってくれるか?」


「オーナー任せて下さい。俺は、そのためにこのチームを選んだんです。必ず、日本一。アジアNo.1になって、世界No.1を決めるトヨタカップを世界を相手に入れましょう!」


滝本は、中岡、鈴木の手を重ねて、


「やろう!日本人は、戦後の焼け跡から復活した。もう一度、不撓不屈の大和魂をどんなに恵まれない不利があろうとも世界に見せようじゃないか」


「あっ!」


と鈴木が気まずそうな顔でつぶやく。


「中岡君、ゴールキーパーなんだがな、いい素材をオーナーの母校で見つけたんだが、一つ問題があるんだ」


「問題⁈」


「それは、自分の目で見て確かめてくれないか」


「中岡君、彼は私が見つけた逸材だ。彼には花がある。受付をしているワシの妻と長女の気に入りでな、必ず、君も彼を気に入るはずだ頼む」


中岡の手は、滝本と鈴木に強く強く握られ、押し付け選手のスカウトに頭を掻くしかなかった。



(つづく)



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