11 前田、シンクロおばちゃんに負ける
【登場人物】
監督 中岡将志(49)
選手
草薙太陽(15)
明智秀一郎(24)
前田慶(22)
島左近(19)
伊賀半蔵(22)、他、
フィジカルコーチ マリオ(56)
スイム選任コーチ 奥田文子(40)
イエーーーイ!ド派手な音楽で入ってきた水着の女たち。
頭をテカテカに固めて、厚い口紅、厚化粧、鼻はツンとノーズリップのセクシー水着の8人がプールサイドへ1列に並ぶ。
右手を天高く突き上げ、左手はピンと正面へ(キメッ)。
先頭の目尻にシワの見える四十路の女が、選手たちに、
「よーく、私たちを見ておきなさいウォーターボーイズたち」
と女たちはリズムに合わせて整然と水に飛び込んだ。
一糸乱れぬスイムから、ラッコのように仰向けで、足を揃えて突き上げる。
ぐるり潜水から、すくっとスワンのポーズ。
そこから、立ち泳ぎで手管の連続技。
深く潜って長い潜水から、長い足を一気に突き出しビックスワン。
再び、長い、長い潜水から、水の底から、仲間の肩から飛び上がる。
スイム、スイム、潜って潜水。
水中でフォーメーションを変えて、大技のタワーでフィニッシュ。
眉をしかめた明智の意をくんだ、前田がマリオにたずねた。
「これは、シンクロやないですか、水泳とも違うし、サッカーにまったく関係ない!」
「それはわからないよ前田選手、コーチの奥田史子さんにきいてみよう」
プールから上がって来たシンクロおばちゃん奥田は、あれだけの激しいスイムと潜水を繰り返しても、すでに、息を戻している。
「あなたたちには、午後からはシンクロをやってもらうわ。(前田を指差し)あなた!息をしないで水中で3分潜れるかしら?」
「そんなんサッカーと関係ないやん。ワイらがすんのはトライアスロンでスイム技術でええんちゃうの?」
「あら?あなた、本気でサッカーとシンクロは関係ないとお思い?」
「関係あらへん。ワイらは、中岡監督やコーチからもっとテクニックを盗んで磨いた方がチームは強なるで、おばちゃん」
「そうかしら?じゃあ、あなたはおばちゃんより若いのだから、スイムで私と競いましょう。私が負けたら、あなたの好きにしていい。出来なければ素直に指示に従ってもらうわ」
「よし、わかった。こう見えてもワイは、水泳は得意やねん。おばちゃんなんか返り討ちや!」
「フフッ、いいわ見てなさい」
スタート台に、並んだ奥田と前田。
「いいデスか?ヨーイ、スタート!」
マリオの合図で飛び込んだ。
力一杯水を掻き回すクロールの前田に、奥田はバタフライ。
しかし、奥田はまるでトビウオのように水にのって飛沫が美しくスピードにのる。
対して、前田は、力任せで水と喧嘩でもするようで、無駄な力が身体中に入っている。
結果は明らか、50mの競技用プールで奥田と前田は、20m近い差がついた。
ぜえぜえと息あがる前田に奥田が囁いた。
「根性ないわね~負け犬」
「(なにっ?)」
「力の伝え方があなたバラバラなのよ、それに、プロの呼吸法も知らない。それじゃ、通用しないわ」
「どういうこっちゃ?」
「あなたたちは、昼の練習で何故すべて負けたと思う?」
「それは、技術や」
「違うわ、プロはね、肺活量、心肺機能が圧倒的なの、それに」
「それになんや!」
「それは、あなたにだけ教えるのは、フェアじゃないわ。もう一度競争して、向こうについたら教えるわ。それから、あなた根性みせなさい」
と、奥田はすぐさま壁を蹴って泳ぎだした。
「ちょう待てよ!」
(つづく)




