日本観光
日本への転移。以前転移したことによって異世界の座標位置を記憶していたおかげで、魔石を使うことも無く普通に転移する事に成功した。途中世界を隔てていると思われる壁のような存在も確認出来たけれど、転移イメージがしっかりとあったおかげかするっと通過する事ができ、目的座標とのずれなども見られず以前出現した空中へと辿り着く。
まああの時はドラゴンで翼があったけれど、今の僕には飛行能力が無いのでフライの魔法を使うまでもなく地上へと転移して、再び日本の東京へと降り立った。
さてさて、ここまでは順調過ぎて怖いくらいって感じだけれど、僕はこちらで既に死んだ存在になっている。戸籍が無くなった人間がお金を稼ぐにはかなり厳しい状況だって事は、理解で来ているのだよな~
まず会社には潜り込めない・・・・・・まあ、こちらでも問題なく魔法が使えるのだから、記憶を操作すればいけないことはないけれど、なるべく皺寄せが来ない方法で生活をして行きたいものだ。
まずは生活の拠点と薬草の生産地を造ろうか。これがなくては話が始まらないから、適当な山で火山が無い所の地下を拠点にさせてもらう。
あー、生産道具とか置いて来ちゃったからテーブルとか作るのが難しいか? 拠点を造って、薬草栽培所を造ったのはいいけれど、お金が無いどころか生活に必要な机や椅子も、何も無い拠点を見ると空しい気がして来た。
でも、道具が無くてもスキルが生かせそうな気がするな・・・・・・素材があればスキルで加工出来そうだった。
ものは試しと、山に生えている木をへし折って持って来ると、早速板材へと加工してみることにした。すると魔法を使う時のようにイメージする事で加工することが出来るようになったことがわかる。ただし、加工手順をしっかり知っている事と必要素材があること、ほんとにただ加工に必要な道具を精神力で代用しているだけって感じでスキルの万能製作が使えた。
後はイメージがしっかりしていれば本来必要な乾燥とかの時間は必要ないというところかな? おかげで木材からしっかりと水分を抜いて直ぐ加工出来る状態になるので、後々歪まないテーブルが作れそうだった。
まあしっかりとイメージ出来なければいけないので、デザインは相変わらずセンスを必要とするのだけれどね・・・・・・
栽培そのものは農民パペットに任せて、僕は拠点に必要な家具などを作り出していった。幸い加工技術自体は持っているし影渡りのスキルで素材も拾って来られるので、鉄鉱石を拾ってはインゴットを作り、石材木材などを集めては加工することが可能だった。
後は日本で生活する為の軍資金が無いのでどうやって稼ぐかだけれど、とりあえず生産が出来るからアクセサリーでも作って売るのはどうだろうか? センスに関してはレイシアと相談して、金銀のアクセサリーを幾つか作って売ってみる方向で試してみようと思う。
質に行ってお金に換えてもらうと安く買い叩かれるかもしれないので、路上販売がいいかなって考えたのだけれど果たして買ってもらえるものだろうか? 素材自体は埋まっていた金属を加工しているのでいくらで売れても黒字にはなるけれど、ある程度まとまった金額を稼ぐにはそこそこ数を売れなければいけない。
僕だけだと胡散臭く思われるかもしれないので、レイシアにも手伝ってもらって売り子をしてもらうことにした。ただ、露店の許可をもらっていないので、あまり長い事店を出せないと思う。どこかにフリーマーケットみたいなものがあると助かるのだけれど、そっちも場所をもらう為に手続きとかいるだろうな~
そんな事を考えながら二人でアクセサリーを売っていると、たまに覗いて行ってくれる人がちらほらと見られる。ただ見るだけの人がやはり多くて、中々収入には繋がらないのがきつかったりするけれど・・・・・・そんな時、僕らの後ろの道路に黒塗りのベンツとおぼしき車が止まって、中からいかにもヤクザって感じの連中が降りて来た。
これはひょっとして誰の島で商売しているのだってパターンか? 古臭い映画とかで見た事があったけれど、現代でもそういう事があるのかな? そんな事を考えているうちに五人くらいのおっちゃん達に囲まれる。
「おうおう、誰に断ってわしらの島で商売してんのや。絞めるぞ兄ちゃん達」
ほんとに言いやがった! こんな展開、今時ないって思っていたよ・・・・・・
それよりこいつらベンツとかに乗ってお金持っていそうだなって考えると、逆に鴨になりそうな気がして来たよ・・・・・・そして目の前には都合よく路地裏が・・・・・・何これ、誘っているのか?
「文句があるって事ならそっちで聞くけれど?」
僕が路地裏を指してそう言うと・・・・・・
「上等やないか、足腰立たんようしてやんよ」
そう言って僕を引きずるように路地裏へと連れて行く。そしてレイシアまで連れて行こうとするけれど、レイシアには店番をしてもらいたかったので、挑発する事にした。
「何だ女を盾にしないと怖くて仕方ないのか、ただの雑魚だな。五人もいるのに僕のような一般市民相手に怖くて人質が必要なんて笑わせてくれる」
レイシアを捕まえようとしていたヤクザが凄い形相で睨み付けて来て、上等だって感じでこっちにやって来た。上手く挑発に乗ってレイシアを残す事に成功するけれど、ヤクザは相当怒ってしまった。ちなみにレイシアは、小さく手を振って行ってらっしゃいって感じだった・・・・・・
「女の前だからってかっこ付けやがって、兄ちゃんわしらに舐めた口利いたこと後悔してもらうからな」
そういいながら早速殴りかかって来た。既に人目の付かない路地裏だったので逆に殴り返してその男を沈黙させると、次々と叩き潰して気絶させて行く。何と言うか、向こうだったら子供を相手にしているくらい手ごたえが無かったな。さて倒れたこいつらの財布からお金をもらって行くことにしよう。
ヤクザって何気にいい身なりしているけれど、結構お金持っているのだな~。五人全員からお金をかき集めると二十万程持っていた。薬草栽培が終わるまで過ごすには十分な金額が手に入った。問題はこれが汚れたお金って事で、夜景の見えるレストランとかで告白とかするのにこんなお金とか使いたくないなってところか・・・・・・どんなお金でもお金はお金なのだが、やっぱり心情的にすっきりしないところだよね。やっぱり何とかしてちゃんとお金を稼ぎたいな・・・・・・
レイシアのところへと戻ると、アクセサリーを売りながらやっぱりアルバイトをするのがいいかなって考える。アルバイトなら生前の名前と実家とか使えばある程度何とか誤魔化せる気がする。あ、でも住んでいるところの住所とか必要になって来るし、携帯とかの連絡手段も必要になって来るか・・・・・・
中々思うように行かないものだな・・・・・・
こうなって来ると、やはり何とかして戸籍を手に入れるしかなくなって来るものの、戸籍ってそう簡単に作れるものじゃないだろうな・・・・・・だからまずは幻覚とか記憶操作などを用いて、僕が死亡したという記録を行方不明に変えて、今まで記憶喪失で帰って来られなかったってことにでもしておこうか。これなら問題が起きた時でも、最小限の歪みしかないだろう。
早速そういうことで実家のおばさんとおじさんと役所などの記憶を操作して、一時的に日本で活動出来るようにしてみた。そして死亡が取り消された事で今まで働いていた会社の給料が使えることになったので、アルバイトする必要も無くなったよ・・・・・・
なんというかお金を稼ぐ為に戸籍を復活させてみたら、仕事を探したり金策の必要が無くなるとか何だがちょっと納得が行かないような何というか、もやもやするな・・・・・・
まあとにかく昔に稼いでいた給料の貯金額を確認して見ると、百万近くはお金が残っていた。いろいろとやらないといけないことなどがあるものの、一応日本での活動資金も手に入り落ち着けそうな感じだったので、拠点にPCを持ち込みネット環境も整える。
今の日本、ネットが使えるといろいろと行動の幅が広がるのだよね~。そんな事を考えながらなるべく雰囲気のよさそうなレストランを探して予約をすることにした。今まで教えてもらってセンスを磨いた成果をここで発揮して指輪を用意し、当日までに準備を整えて行く。せっかくレストランを予約したので、二人の服なんかも用意したしね。
まだ身の周りがばたばたして日本を案内出来ていないので、当日は一杯楽しんでもらう事にしよう。今現在のレイシアは、やれることが無いので買って来た食材を使って料理をしてくれている。これはこれで、素材に慣れたりしなくてはいけないので、大変な作業になっているみたいだね。
そして当日、レストランは夜に行くので午前中に街中を案内することにした。
「じゃあまずは軽く街中を案内するよ」
「うん!」
やっと日本を満喫出来そうで、レイシアも嬉しそうだった。
「前はじっくり見ている余裕がなかったけれど、凄い人の数だね。前に来た時は一時的に祭りとかでもしているのかなって思ったけれど、これが普通?」
「ああ、ここは元々こんな感じだよ」
レイシアに電気街を案内してもあまり意味はないかもしれないので、女性が喜びそうな服などが置いてある所へと行ってみたり、アクセサリーがあるところや意外と縫いぐるみが好きだったのでファンシーショップなどにも連れて行った。
「うわー 縫いぐるみがこんなに一杯!」
アクセサリーや服より、縫いぐるみの方に興味があるとか、まだまだ子供かなって思えるところも、見ていて可愛いなって思える。しばらく店の中を見て回り、気に入った物があれば何か買おうかと思っていたのだけれど、買うくらいなら作ると言われた。
むー、そういうところは現実的だな。そんな感じでしばらくはいろいろ見て回った後せっかくなのでこちらの文化も楽しんでもらおうと映画館へと誘ってみる。
「これは、まあお芝居みたいなものだと思って楽しんでもらえばいいと思う。とりあえず恋愛系の映画を一回見てみようか」
「紙芝居とか?」
「うーん。そっちの方が近いかもしれないな」
どうやらお芝居もあまりぴんと来なかったようだな。そういえば芝居小屋みたいなものも、ドラグマイア国にあるくらいで、他の国では見かけなかったな。いきなり映画でビックリするかな?
お菓子とジュースを持ってとりあえず、反応を見つつ入って行った。
映画が始まる時、室内が暗くなって慌てた感じになったものの、それ以外は大人しく見ていたようで、映画というものがわかって来るとお菓子やジュースを飲む事も忘れたように、集中してスクリーンを見ていた。
「これが映画! 素敵だった~」
「そうか、喜んでもらえたら嬉しいよ」
お昼になったので、近場の回転寿司に入って食事を楽しむ。レイシアにはこちらにいる間にいろいろなものを見せてあげたいなって考えていたので、こういう向こうでは味わえない感じの食べ物屋もいいかと思ったのだ。
「うわー 何これ、料理が流れてる。生物?」
「これは寿司っていって、日本独特の食べ物だよ。とりあえず席に座ろうか」
「うん」
まだ慣れていないだろうレイシアに、ワサビ抜きの寿司を注文して食べてもらう事にする。よくあるワサビで酷い目に合う外国人的物語があるが、あのような失敗はしたくないからね。まあでも、せっかく来たので小皿に少しワサビを出して、ちょっとだけ試しに食べてもらうようにはしてみよう。
初めは火を通していない食べ物に警戒していたものの、一口食べた後は警戒もなく美味しいと食べていたので、ちょっとした刺激のある調味料というか薬味だと教えて、ほんの少しだけワサビを付けて食べてみるように勧めてみた。
実は僕もあまりワサビは口に合わないのだよね・・・・・・風味としてはありだと思うけれど、寿司自体の味を壊してしまう気がして、そのまま食べたらいいじゃないかって思える。寿司自体がまずければワサビの味で食べるのもありだとも思えるけれど、そうでなければそのまま味わいたかった。同僚は子供舌って言っていたが、こっちに言わせれば味音痴って言いたかったな。
「何これ! うわうわ」
あー、初ワサビはやっぱりレイシアにはきつ過ぎたか。お茶を勧めて何とか落ち着かせる。口に合わないなら無理に食べる必要はないだろう。ここで流れている寿司の殆どにはワサビが入っていると教えて、ワサビ抜きがいい人はそれとは別に握ってもらえると教えて食事を続けることにした。
レイシアにはどれが良いのかわからないだろうから、お試しにといろいろ注文してそれをレイシアに味わってもらう。
「どれも美味しいね! ワサビはちょっと、苦手だけれど」
「ああ、それは僕もだからあまり気にしなくていいよ。物足りないって人がそれを付けて食べるやつだから」
「へー、そういうものなんだ。そのままでも十分美味しいのにね」
「だな」
冒険者をしているからなのか、レイシアは女性にしては結構な量を食べて寿司屋を後にする。こちらとしてもあそこまで一杯食べてもらえれば誘ってみたかいがあると思えた。向こうで生の食べ物を食べるということは、ほぼ無いからかなり心配なところはあったのだよね。
それでも日本に来たなら、一度は味わっておいて欲しいかなって思えた料理だ。衛生面を考えるなら、拠点でもあまり出さない方がいいのかなって思うけれど、実際どうなのだろうか? 一応水槽を作ってそこで魚を育てているからそれを取って来たら寿司は出来そうだと考えるのだけれど、やっぱり加熱とかしないと危険なのだろうか?
今度眷族やパペット達と相談した方がいいだろうな。
そんな感じで夜までまだ時間があるので、再び町を回る事にしてみた。一応日本文化に触れてもらいたかったので、軽く電化製品を見てもらったけれど、実際に稼働している訳でもないので、反応は微妙な感じだった。
テレビには興味がありそうだったけれど、なんだかよくわからない物って感じだったかな。せっかくなので、東京とはまた別だけれど、温泉とかも体験してもらおうかなと思い、そっちにも転移して行ってみる。
僕も久しぶりにのんびりと温泉に浸かって疲れを癒してみた。やっぱ日本は落ち着くな~。レイシアの方は大丈夫かな? 一応拠点のお風呂で、こっちの温泉の事も理解出来ていると思うから問題ないだろうけれど、ちょっとだけ別行動なのは心配だった。
まあ正式に夫婦になった訳でもないので、二人で混浴風呂に行くとかはまだ早いしな~
冒険者なんてしているから順応力は高いだろうし、信じてみよう。
のんびりと温泉に浸かった後外に出ると、レイシアはまだ出て来ていなかったので、先にコーヒー牛乳を買って一気飲みしてみる。やっぱ温泉と行ったらこれだろう!
ここの温泉はよくわかっていると思いながら、目の前の卓球台で遊んでいる子供達を見ながら、レイシアが出て来るのを待った。そこまで待たずにレイシアがすっきりした顔をして出て来る。
そこで早速レイシアにもコーヒー牛乳を買って渡してみると、ありがとうって言って飲み始めた。
まあ日本人じゃないからお約束的に腰に手を当てて飲んだり、一気飲みしたりはしなかったね。あのノリはやっぱり日本人独特のものだな~
お風呂を出た僕らは浴衣姿のまま、温泉街を散策してみる。こちらは東京と違って民芸品みたいな土産屋とか、お土産用のお菓子、御茶屋などいろいろな店が立ち並んでいて、散策するだけでも中々楽しめた。ただこの後夕食をレストランで食べる事になっているので、お茶はいいけれど食べ物はなるべく食べないようにしようと話し合っておく。なので主に見て回るものは伝統工芸品の類や、お洒落な感じの生活用品とかそういう小物を見て回った。
そうこうしていると大分日が落ちて来たので、そろそろレストランへ向う為温泉宿に戻って正装へと着替え、東京へと転移する。せっかくなので現地に行くまでを地下鉄を利用して移動すると、早速ビルの上の方へとエレベーターで移動していくことにした。
「ここまで何もかもが違って来ると、ほんと凄過ぎて何も言葉が出て来ないわね」
地下鉄もそうだけれど、エレベーターで五十階程昇って行くと、レイシアが絶句していた。薄暗くなった町並みはイルミネーションで飾られたように光り輝いていて、結構綺麗な夜景になっている。このぶんだと、レストランも結構いい眺めかもしれないな~
レストランに着くと予約した席でコース料理を食べながら、今日いろいろと回った日本についての感想をのんびりと聞きながら食事をしていった。
「今日はとっても楽しかった。いろいろなところに行けたし、料理も美味しかったし。まさかほんとに今まで拠点で食べていた料理より美味しいとは思いもしなかったわ。連れて来てくれてありがとうね」
「いや、楽しんでもらえてよかったよ」
料理を食べ終わり、食後のデザートと紅茶を飲みながらのんびりとした時間を過ごす。そろそろいいだろう、僕は今まで付き合って来て、二人の関係がそれ程悪いものではないと感じていたので、ここで告白する事にした。おそらくは上手く行くだろうけれど、まあ駄目だったらどこかに部屋でも造って泣き喚こう・・・・・・
「レイシア、これだけ一緒にいて今更とか、やっととか言われるかもしれないが聞いて欲しい。僕と結婚してもらえないだろうか?」
「え? ・・・・・・うん、よろしくお願いします」
一瞬ビックリするものの、直ぐに嬉しそうにそう言ってくれた。よかった、勘違いとかそういうのじゃなくて、何かどっと疲れた気がする。死ぬ寸前、お互いに分かり合えた気にはなったものの、それが恋愛感情かどうか迷ったのだ。こっちはモンスターだから人間と結婚するっていうのはどうなのかとか、いろいろ悩んだ。いろいろと考えたものの杞憂でよかったって思う。
「じゃあ、こっちの風習というか婚約した証みたいなものなのだが、この指輪を左手の薬指に付けてもらってもいいかな?」
「指輪、二つあるよ? 二つ着けるの?」
「そうじゃなくて、同じお揃いの指輪をそれぞれの左薬指に付けるってこと、だから左手を出してくれるか?」
「はい」
ちょっと緊張しているのか、かすかに震える左手をこちらに差し出して来たのを僕も左手でそっと包んで、少し小さい方の指輪を箱から取り出して着けてあげる。そして残っている箱の指輪を見て、レイシアは僕がやったように左の薬指へと指輪を着けて来た。
今まで女性と付き合った事もないので、こういうのはなんとなく恥ずかしいものだな。お互いに無言で少し照れて、紅茶を飲む。まだちょっとドキドキしているものの、少しだけ落ち着いた気がした。
「ちょっとだけ調べてみたのだけれど、結婚の儀式みたいなものを向こうに帰ってからやってみるか? 神様に認めてもらえるのかどうかちょっとわからないけれど」
「そうだね、私もそういえばヒューマンじゃなかったね。・・・・・・駄目でもいいから、結婚の儀式はしてみたいかも」
「わかった、今回のごたごたが終わったら、やってみよう。日本式の結婚式はどうする? なんならそっちなら拠点で簡単にやれると思うけれど」
「そういえば、日本の結婚式ってどんな感じなの?」
「日本は無宗教なので二つのタイプの結婚式がある。キリスト式と神前式のなのだが、人によっては両方を一遍にやる人とかもいるかな。まあその分お金がかかるのだけれどね」
「宗教が違うのに同時にやっちゃって、神様に怒られないの?」
「ああ、こっちには宗教とかって概念はあるけれど、神様は実際にはいないのだよ。宗教家がいると言っているだけって感じかな?」
「へ~、神様がいないなんて、いざって時が怖いね」
「全部自分達で解決するしかないね」
「神様がいない世界か~。ちょっと大変そうだな」
「まあ、そうだね。どれ程絶望して助けてって祈っても、助けてもらえないからな」
「うーん。それはこっちでも助けてもらえないかも?」
「あれ? 神官が神様から力を借りて、それで救われるのでは?」
「まあ、神官に頼めばそうだけれど、基本は関係の無い人がどれだけ祈っても、助けてはもらえないから」
「つまりは自分の信者でないと、奇跡は起こらないってことか」
「厳密に言うと少しだけ違うんだけれど・・・・・・神様の力を地上で使う為には、神官が仲介役にならないといけないから、神様の代行をしているってことかな? 詳しい事はわからないけれど、神様の力は簡単な癒しの力でも強過ぎて地上に悪影響を与えてしまうとか、聞いた気がするよ。だからいくら神様が助けたいと思っていても仲介役の神官の人が側にいないと、奇跡が起こらないんだって」
「へー、そう聞くと、神様もいろいろ大変なのだな~。こっちでは神様は絶対で何でも出来るはずとか言っているくせに、誰も救わないとか矛盾した事しているからな。逆に神の名を語って異端審問とか言って人間を殺している宗教もあるくらいだ」
「世界が変わっても、神様は大変そうだね」
「だな」
この日一日、結構思いっきり楽しんでから拠点へと帰って来た。薬草の成長具合を聞いてみると、後一週間程で収穫が可能になるみたい。一応加工に使う素材は持って来ているけれど、加工自体はこっちでやった方がいいのかな? 転移で影響を受けて薬の効果が変わらないとかならいいけれど、世界の壁を越える時に変質していたら厄介だな・・・・・・まあそうなると、種の時点で変質している事もあるから、結局同じかな?
そう考えればこっちで作った方が時間のロスは押さえられるのかな・・・・・・
まあ、変な影響が出たりしないように、化学肥料は使わない方向で育てて行こう。今日は一日栽培の方を手伝おうとして、天然の栄養がある土を集める為に山から腐葉土を集めようと思ったのだが、農民パペットは既に自分で腐葉土を集めてしっかり管理していた。
連れて来て正解だったと思ったけれど、そうすると薬草についてやる事が無くなったな・・・・・・
助かってはいるのだが、こっちばかり遊んでいる気がして申し訳なく思う。そう思っていると、当のパペットはせっかくなので観光に行って来たらいいと多目的シートを使って言って来た。働き者の上、気遣いまで出来るパペット・・・・・・僕はいい眷族やパペットに恵まれたよなって思ったよ。
せっかくの好意なので、今まで結構長い事一緒にいて、レイシアの想いに応えて来なかった穴埋めとして、存分に日本を満喫してもらう事にしよう。お金はまだ残っているしね。
またいつか、こっちに来る事もあるかもしれないから、何かしらお金を稼ぐ方法も見付けておくべきかもしれないなとも考えるけれど、まずは楽しむ事を優先した。
「あの服可愛いね」
いろいろ巡って休憩の為に立ち寄った喫茶店で、ウェイトレスが着ていた服をそう評価したレイシアに、バイト体験もいいかもしれないと思う。
「一日だけ、バイト体験してみるか?」
バイト募集の張り紙があったので、レイシアにそう言ってみると一日だけならって感じで頷いた。なので早速話を聞いてみると一日だけでも歓迎すると言っていたので、明日一杯をバイトの日にすることになった。
元々異世界人であるレイシアがいきなりこちらでバイトするのは大変かと思い、その後は拠点に戻ってウェイトレスの仕事について予備知識を教えていったり、お客さんに対応する方法を予行練習で試したりしてその日を過ごすと、翌日早速喫茶店へと向った。
ちなみに僕も一緒にバイトに参加して、僕は厨房の方で働く事になった。店の方針でウェイトレスは女性だけにしているそうだ。まあ可愛い服を着せた女性で客引きっていう方針なのだろうが、セクハラだけは気を付けて見ていることにしよう。
レイシアの接客は初め少し戸惑っている事もあったけれど、直ぐに要領を掴んだみたいで、時期に違和感なくこなせるようになったみたいで、そうなって来ると外人のウェイトレスが働いていると口コミで広がったらしく、沢山のお客さんが来るようになった。そういえば髪と瞳の色とかなにも加工しないでこっちに来たけれど、普通に受け入れられたな~
さすが東京といったところなのかな? 外人コスプレイヤーとか思われているかもしれないな。そんな感じでレイシアの様子を窺いつつ、こちらは初めに皿洗いから入り、次第に料理の手伝いをするようになっていった。
拠点でちょっと料理をしていたことがここで役に立ったみたいだな。まあプロっていう程実力がないので、どれもお手伝いの域を出ないのだけれど、ド素人を雇った訳ではないとオーナーや厨房関係者達はホッとしている様子だった。レイシアは服を着ていてくれれば客引きになるから初めてでも良かったらしいが、裏方の僕は仕事が出来なければ駄目だったみたいだ。
まあそんな感じで、一部客の中に不届き者が混じっていた事もあるのだけれど、冒険者であるレイシアが素早く回避して対応していたので、そこまで心配する事もなかったって感じで無事にバイトは終わった。日本での初給料に、レイシアは嬉しそうに受け取っていて、せっかくなのでそのお金で何かを買おうとデパートであれこれ見て回った。まあそこまで大金を貰った訳ではないので、ちょっとした買い物しか出来なかったけれどね・・・・・・




