最後の時
ハウラスが向って来ると報告があってから一か月くらいが経過した。毎日のようにバグを見ていたのだけれど、日に日にバグのやる気がなくなっていったのがよくわかる。ようやく来たとわかった時など、来たかって感じではなく飽きれた顔をしていた。
何でこんなにも時間がかかってしまったのか・・・ 理由を調べさせていたので見せてもらうと、移動時間は当然かかるとしても上級冒険者達の意見をすり合わせていつ頃こちらに向かうとかそれぞれの都合を調整をするのに、かなり手間取っていたそうだ。その報告を見て、あいつは相変わらず人望がないのか・・・ そうこぼしていた。魔王軍に心配されてしまう勇者って・・・
今回の戦闘ではモンスターは手加減ができない為、私達だけで対応する方針になった。
私は戦闘開始そうそう、ヤーズエルトと共に接近戦を挑んで行く。思っていた通り上級冒険者だとはいっていてもそこまで厄介とは思えない強さで、適度に痛め付けていった。
すると彼らにはそこまで人類の為にとかそういう意識は無かったのか、あっさり撤退を始めるのがわかる。確かに無理せず生き残る為に最後まで足掻くのが冒険者だとは思うけれど・・・ 一か月もかかってここまで来たのに、何しているんだかってバグじゃなくても飽きれてしまうよ・・・
冒険者達もあらかたいなくなってしまったので、追撃とかはしないで後をバグに任せると、私達は魔王城へと引き上げた。
さすがにハウラスだからと残っていても邪魔にはなりたくなかったし、下手に残ったりするとせっかく黒尽くめで来ているのに正体がばれたりしたらバグに迷惑になっちゃうからね。
私達が戻った直ぐ後に帰って来たバグは、ハウラスをどこかに捨てて来たと言っていた。やっぱり例え本物の勇者とはいっても、実力が違い過ぎたのね。ちょっとだけ心配だったけれど杞憂だった。
その後の会議で、ハウラスに限らず未熟な人類をもう少し育てようという結論に達して、私達はそれぞれに活動することになった。といっても、殆どはバグと今回は王子に任せる事になる。
どうやらハウラスにはダンジョンに潜って経験を積むのと、たまに何か事件を起して仲間と協力することを覚えさせていくようだね。
王子は王宮に戻って貴族側の考えを変えていく方針らしい。まあ国のトップが駄目では各国と手を取り合ったりもできないから、これはもっと前からやっていてもよかったんじゃないかな?
それと今のままだと、新しい勇者のハウラスも負けたという噂が広がって人類全体が絶望しかねないので、ヤーズエルトやウクルフェスさん、そしてベルスマイアさんとアルタクスが各地の異形を倒して回ることで、まだ希望があるって事を一般市民に知ってもらうことになった。
私は魔王軍でモンスターの面倒を見ることと、英雄候補になりそうな人材を育てる為に学校を受け持つことになった。なぜかバグが集めて来た英雄候補者に混じって、呼んだ覚えがないって言っていたブレンダ達が混じっていた。
商人ってどこから情報を仕入れて来るのかしら?
その後学校は順調に進み、ほどなく全員初心者ダンジョンに行けるようになる。多少戦闘ができた人はそろそろ初心者ダンジョンをクリアできるかもしれない。ブレンダ達は中級ダンジョンから上級に移ろうかといったところかな?
ハウラスはバグのばら撒いた餌に釣られて、ダンジョンを探しているそうだ。
魔王軍のモンスターも含めて、みんなそれぞれに経験を積んで成長してもらっていると、知らない間にラデラ皇女から連絡があって、異形退治の話を持ちかけられていたみたい。いずれ勇者に討伐の依頼が出るので、そこにブレンダ達が合流できるように、訓練して行くってバグが言っていた。
ブレンダは貴族の一員として、リンデグルーの王家のマイナスイメージを払拭する為に、ハウラスと合流して活躍しなければいけないんだって言ってがんばっているそうだ。ハウラスとパーティーを組むといろいろと苦労しそうな気がするけれど、それでもブレンダならうまく引っ張って行ってくれると思う。彼女は結構パワフルだからね。威厳とかもあるし・・・
そんな感じでブレンダの方は温かく見守る事にしたのだけれど、魔王軍でモンスター達の様子を見ようと思っていたら、掌に乗せられるくらい小さな子達が三人程バグと一緒にいた。羽が生えていたのならフェアリーかとも思ったけれど、羽が無いので一体なんていう種族だろうと聞いてみると、どうやらホムンクルスだったらしい。
ついにバグはホムンクルスまで創れるようになっていたのと驚いたんだけれど、どうも錬金パペットが普通に創れたんだそうだ。バグの眷族とかは優秀過ぎるわ・・・ そしてこれがホムンクルスなのか。小さ過ぎて誤って踏んじゃうんじゃないかと思うと、ちょっと下手に動けないわね。
可愛いのだけれど、バグはどうやって経験集めをさせたらいいのか困っているみたい。
LVを上げてあげないと錬金術の合成を行うことができないので、ずっとこのままになってしまうということもあるけれど、バグが言うにはホムンクルスは人造生命故に短命で、誕生から約一年で寿命が来てしまう為にそれをどうにかしたいんだそうだ。
ホムンクルスについてそんなに詳しい知識が無かったので、たった一年という事がちょっと可哀想だなと思うと同時に、やっぱりバグは自分の配下を大切にしているんだなって羨ましく思う。
バグの当初の予定ではここまで小さいとは思っていなくて、進化させることで種族を変えて寿命を延ばそうと思っていたらしい。しかし小さ過ぎる為にスライムもまともに倒せないのではと、どう経験集めをさせたらいいのか悩んでいるのだそうだ。私も一緒に考えてみるものの、バグがわからない事を私が考え付けるわけがない・・・
結局いい案は何も浮かばなかったので、気分転換がてらみんなでお茶をしながら考えることにした。ホムンクルス達はデザートを美味しそうに食べていて、なんか自分の体よりでかいデザートを食べられるなんていいなって思ってしまう。結局気分転換はできたもののたいした案は浮かばなかったんだけれどね・・・ このままこの子達を見て和んで癒されていたいよ。
そんなこともありつつ数日後、ブレンダ達はうまく勇者と合流して異形退治へと向ったみたい。ちょうど勇者が前のパーティーを解散したようで、それで一緒のパーティーを組める事になったのだそうだ。これでブレンダの方は大丈夫だよね。
それぞれに活動を続け魔王軍でお互いの進捗状況を報告した後、久しぶりに私達の拠点に帰って来てみた。最近はいろいろやる事があって忙しかったんだけれど、ここに来るとやっぱり落ち着くな~
一緒に休憩しようとお茶を入れて座る時に、髪を引っ張らないように浅めに椅子に座っているとバグが突然、髪が伸びたなって言って来た。
バグが私の容姿について何か言うのは初めてかもしれない。それでも出会った頃はショートカットだった事もちゃんと覚えていたみたいで、今の腰に届く程に伸びた髪の毛を見て、随分長く一緒にいたんだなって感慨深く呟いていた。そして長い髪はバグの好みで合っていたみたいで、ちょっと嬉しかった。
せっかくなので、そのまま今日はここで二人っきりになって、久しぶりに他愛無い昔話などお喋りしてゆっくり過ごせた。
月日が流れ王子の作戦なのか、マグレイア王国が勇者を中心にして人類軍を立ち上げた事が報告に上がって来た。何故か第二王子であるサリラント王子が、第一王子がいるにも拘らずマグレイアの新しい国王になって、周辺国家などに協力を呼びかけているようだった。まあ事情を知っているこっちとしては、第一王子は魔王軍に参加しているって分かっているんだけれどね・・・
今回の人類軍の動きを見てみると、最終的には人類軍の兵数が十万は超えるだろうとの予測で、それに合わせてこちらのモンスターも最終的な進化をうながして行く。バグに言わせたらひょっとしたら過剰戦力だったかもとか言っていたけれどね・・・
確かに巨人族の中でも上位種と言われる者に進化した生き残りのゴブリン達や、以前は捕まえたばかりで戦力として使えなかったウルフがドラゴン種になって走り回っているだけでも既に手が出せないかなって思っているところに、初心者の案山子扱いされていたゾンビやスケルトンといった、下位のアンデットがいなくなった死の軍団まで待機しているところを見ると、私でもこれは勝てないって思えるわ。
勇者と人類軍は、こんなのを相手にしないといけないのかと思うと、ちょっと可哀想かもって思えて来る。でも、魔王軍は人類の敵って思われないといけないそうなので、仕方ない事なのかな?
そんな感じであらかたの準備を終えた魔王軍に、バグはみんなで騒ごうと提案して来た。魔王城の裏手にある湖を凍らせて、そこで準備した料理や酒を飲み食いして騒ぐそんなイベントを開いたので、私は中央に準備された舞台でダンスを踊って披露することになった。
まさか魔王軍の中心でバグと踊ることになるなんて思ってもいなかったったけれど、そんなダンスがモンスター達にも楽しげに映ったのか、真似した様に踊り出す者なんかもいてバグに付いて魔王軍に来られてよかったなって思えた。
私達のダンスの後酔っ払いが多かったのか、もっと踊りたいみたいな感じのモンスターが多かったので、バグが大きな火を焚いてその周りにみんなで円を作って踊る踊りを教えると、みんなで楽しく踊っていた。
こうして見るとモンスターだから倒さなければいけないとか、そんな常識がドンドン壊れて行く気がする。よく考えなくてもモンスターにだって生活があって、喜怒哀楽だって存在していてもおかしくはない。ドラゴンとジャイアントが手を取って踊っている姿を見ると、こんな村や町とか国があってもいいような気がして来る。まあ普通に人間に襲い掛かって来るから、現実的ではないのかもしれないけれどね。ここにいる子達は、襲い掛かるとねじ伏せられる事を理解しているので、私達には手を出そうとも考えていないだけなのを、つい忘れそうになってしまう。
それでもひょっとしたらここは共存が可能な新たな可能性を含んだ場所かもしれないと思うと、バグが国王となったら幸せな国を創れるんじゃないかって思えて来る。人もモンスターも関係ない、みんなが笑って過ごせる国とか夢物語みたいだけれど平和な世界だと思えた。
それから一か月くらいが過ぎ、バグが準備したダンジョンにハウラスが潜って半分くらいの攻略が終わった頃、ヤーズエルト達が役目を終えて帰って来た。これで異形が完全にいなくなったわけではないけれど、被害はもう殆どなくなったそうだね。
私もまだモンスター牧場で育ったゴブリン達の進化が残っていたみたいで、その子達の経験集めが終わったら指揮官クラスの役目を果たしてもらうべく、進化をさせていくことになる。
世界全体を見てみると、異形の脅威が減りようやく一つにまとまって魔王に対抗しようと動き出し始めたようで、マグレイア王国と協力していく姿勢を見せ始めた。しかしそんな中でもやはり自分勝手な国はそこそこあるようで、自分達の好きなように暴れようとする国王達がいるようだった。
魔王様からもそういった国は今後不要だと言われたのだけれど、魔王軍としてはここで直接的に手を出すわけにいかない。ここで下手に手を出してしまうと魔王軍を、必要悪として認めようとする勢力が出て来てしまうかもしれないとバグが言っていた。
そこで王子の提案で、バグが育てている生徒が反乱軍を組織して、国王として国を治めてもらう作戦が進められることになった。
そこから二か月過ぎると、生徒達が次々と革命を成功させて、やっと国という垣根を越えて人類はまとまることができるようになったみたい。
大体同じ頃勇者もダンジョン最奥に辿り着き、バグが用意した宝玉を手に入れたようだった。いよいよ最終決戦の準備が整ったということらしい。全てが終わったら、しばらくは拠点に引き篭もってのんびりしようと考える。人々に顔を見せてはいないけれど、バグは気付かれることもあるかもしれないから、しばらく人前に出ない方が得策だよね?
こちらがモンスターを育て終わり、進化も施して大体の訓練も終わらせても、勇者達はやって来なかった。さすがに全人類を束ねるのにはそれなりの時間が必要だったようで、集結するまでに三か月もかかっていたみたい。
準備を終えて、人類軍に対して手を貸す事もなくなった私達ははっきり言って、その間暇になってしまったのだけれど、バグが魔王城の地下に遊ぶところを造ってくれたので、モンスターも交えてそこで遊んだりそれぞれに何か遣り残した事をやったり、結構自由に過ごしていた。
それぞれに自由を満喫していると、やっと人類軍が終結し終わり攻撃が開始された。
この生活もとうとう終わりが来たみたいだね。
思えば魔王軍を名乗りながらも楽しい毎日を過ごせた気がする。モンスターと一緒だった生活は、思っていたような殺伐としたものではなくて、どこか思わず笑ってしまうような事の方が多かった気がする。人間を真似て遊んでいたモンスター達も、それは一緒だったんじゃないのかな?
そんなモンスター達は私達より先に、人類軍との戦闘に出て行った。
手始めの戦闘らしく、人類軍側の被害に比べれば圧倒的に少ない被害であったけれど、それでも傷だらけのモンスター達が帰って来るとこれは戦争なんだなって思える。その後何回か襲撃を受け、そのたびに撃退するといったことを繰り返し二週間が経過すると、うまく攻め切れない人類軍はとうとう総攻撃に打って出ることにしたみたいだった。
今までは育てたモンスターが対応していたけれど、今度は勇者が直接ここに攻めて来る事が予想できた為、バグと私が魔王城の玄関ホールで待機することになった。
ヤーズエルトとウクルフェスさんは魔王城の前に陣取って敵の数を減らすことになっている。ちなみに王子は戦闘がまったくできない為に、魔王城内に残ってモンスターの指揮をしているみたい。まあ所詮は王子様だからそんなものかもしれないね。
やがて城門前辺りで魔法による爆発音が響いて来るようになった。ウクルフェスさんが戦闘を始めたみたいね。
長い時間戦闘音が響く中、バグはホールの中央に立ったまま静かに扉を見続けていた。今バグは何を考えているのだろうか。もう直ぐこの戦いも終わるから、今までの事を振り返っているのかな。
どことなく頼りない顔立ちも、今は場の雰囲気もあってかとても絵になるようなキリっとした顔になっている気がする。そんなバグを見ていると、私の心も静かに凄く澄んでいくような気がする。
気が付くと城門前から響いていた音は既にやんでいて、扉が開く音が聞こえて来たのでそちらを向くと、勇者を先頭にホールへと入って来る友達達の姿が確認できた。私はそれをバグのかなり後ろから見詰めていた。
今でもブレンダのことを友達だとはっきり言えるけれど、それでもバグの前に立つ彼らのことは、倒すべき敵だと冷静に判断することができた。
自分でも意外な事にそこには嘘偽りなく動揺や、仲間と戦う事への躊躇がない事が不思議だった。ただ思ったことはバグに敵対するのなら、それは私とも敵対するというそれだけの現実。
ブレンダは、魔神の姿になっているバグを直ぐにバグだと理解し、その後ろに控えていた私の正体にも直ぐに気が付いてしまう。それでもやっぱりブレンダ達のような動揺や焦りは私にはなかった。ずっと前からこうなる事が予想できていたからなのかな?
戦いが始まり、私はかつての仲間達を相手に部隊召喚でドラゴンを召喚して戦う。なんとなくバグがブレンダ達を殺す気がないみたいに思えたので、無力化していく方針をドラゴン達に伝える。
ドラゴンで押さえ込み、魔法攻撃で隙を突いて動きを制限していく。バグの方を見てみるけれど、やっぱりバグは余裕でさばいているどころか一方的に攻撃しているみたい。
そしてこちらも元々それ程強くなかったフェザリオがドラゴンに潰されて動かなくなっていた。ドラゴンからも、手ごたえがなかったって物足りない意思が伝わって来る。
まず一人。
とりあえず重傷は負っているかもしれないけれど、死んではいないようなのでそのままドラゴンに次はシリウスを相手するように指示を出すと、ドラゴンはそっちへと移動していった。
それからそこまで時間を置かずにランドルが倒される。やっぱり一人でドラゴンを相手にするには、LVが足りなかったようね。ブレンダには申し訳ないけれど、まあ死なないように指示はしているのでドラゴン二体の相手をしてもらう。
この段階でもう私が魔法を使う必要性は無くなった。
後は不意を突かれなければ制圧できるかなって考えていると、ふと胸騒ぎがしてバグの方を振り返った。
そこで見たものは、ハウラスが放つ居合い斬りを受けたバグの体が、二つに別れている場面だった。
嘘・・・
バグのステータスを見る限り、どれ程強くなったとしてもバグに傷を付けることができる人類なんて存在しないはず・・・ それともこれが聖剣本来の力だとでもいうの・・・
「バグ!」
思わず叫んでバグの元へと駆け寄っていた。大丈夫、バグのスキルには完全回復という自然回復なんかより余程上位のスキルが合ったはず。それだけじゃない、バグは例え殺される事があったとしても、自動復活のスキルまで持っていた。この二つのスキルがある限り、バグが死ぬなんて事はありえないはず・・・
そのはずなのに、バグの体からはドンドン生命力が失われていっている気がした。
無我夢中で軽くなってしまったバグの体を抱きしめ、意識を保つ為に名前を呼び続ける。名前以外、どんな言葉をかけていいのか思い付かない。
そんなバグは微笑を浮かべていて、やりきったって感じの穏やかな雰囲気をまとっていた。それを見た時、これは最初からわかっていた事なんだということを理解した。こんな事がバグのしたかった事なの?
一瞬なんでって言いたくなったものの、今まで一緒に行動して見て来たバグの事を思えば、満足できるように動いた結果がこれなんだと納得できてしまった。そしてそんなバグだからこそ、好きになってしまったんだと思うと、やりきったバグが愛しくて仕方なくなって思わずキスしていた。
もう直ぐバグの命が尽きる。
それならばもう自分の気持ちに正直になってもいいよね?
少しだけ驚いた感じのバグの目が、ゆっくりと私をその目に映し出した。その目を見るとやっとこっちを見てくれたと嬉しく感じる。
バグの手が私の頬を愛おしそうに撫でて来て、友達やパートナーとしてではなく初めてバグに求められたと感じられる。もう大分力が入らなくなってしまった体で精一杯抱きしめて来るのを抱きしめ返すと、バグは私の思いに応えてくれるようにキスしてくれた。
もっと早くに思いを伝えていたのなら、違う結末になったのかな? バグに求められるままキスをし続けていると、バグに残った生命力が流れ込んで来るのがわかった。
こんな終わり方嫌だよ。
最後の最後で思いが届いて、報われたと思う。
やっと気持ちを伝えることができたけれど、自分の半身が失われたような気がしてどうしていいかわからなかった。
最後の力を流し込まれた時、バグは私に生きていて欲しいと願った事だけはわかったので、バグのその思いを叶える為に半分になってしまったバグを抱いたまま生きる為に拠点へと転移した。
私にはもう魔王様の事とか、ブレンダ達の事などどうでもよかった。
転移した後その場に座り込んでいると、バグの創った眷属とパペット達が私の周りに集まり、主を失った虚無感に捕らわれ呆然と立ち尽くしているのを感じながら、私もそこで何もできずにいた・・・
どれくらいの時間をそこでそうしていたのか、気が付くと私は眷族に支えられながら拠点にある草原で掘られたばかりの穴を見ていた。
ああ、これはバグのお墓なんだ。
そう思うとそっとその穴の中にバグの体を横たえる。スイートビーを倒しに行った時の花を眷族達が持ち寄り、バグの周りに入れて行くのを私も手伝い。みんなで土をかけていった。
あの時の赤い綺麗な花が咲き乱れる場所に、バグの墓が完成して私達は再びその場所で立ち尽くす。
バグを失ってから、どれだけの月日をどうやって過ごしていたのかよく覚えていない。
何も考えられない状況で、どうやって生活しているのかさえわからない。気が付くと私だけじゃなくて、眷族やパペット達もバグの墓の周りで過ごしている者がいた。ああ、私だけじゃないんだ。
ひょっとしたらバグは、残していく者達が寂しくないようにと、配下を一杯創ったりしたのだろうか? いや、さすがにそこまでは考え過ぎかな?
自分と同じ痛みを持った仲間がこんなにもいると周りを見回すと、何人かの眷族やパペットが魔道具を抱きしめていることに気が付く。
そういえばバグは生前、しきりに魔道具が世界に影響を及ぼさないかを気にしていたわね。そう思い付くとまだ遣り残している事があると思えた。
「魔道具」
ポツリと呟いた私の言葉に、周りにいた眷族やパペット達が反応する。バグがいなくなってしまったこの世界で、魔道具を悪用されたらもう誰にも止めることはできない。バグの魔道具を悪用されるのは我慢できない事だった。
「魔道具を回収しなくっちゃ」
「主は魔道具が犯罪に利用されないよう、心を砕かれていた。そんな主の残していった遺産を人間共に持たせても良いことは無いな」
ホーラックスの意見に周りの者が賛同する。もちろん私も異論は無くて、こうしてみんなで魔道具を回収して回る事になった。
とりあえず確実に魔道具を持っていそうな人というと、冒険者かな? そう思い、魔道具の回収を始めようとすると、司書パペットが待つように指示を出して来る。どうやら彼らも魔道具の回収という目的を見付けて動き出したみたいで、早速鳥のパペットとアサシンのパペットが情報を集める為に拠点から出て行った。
ブレンダの店にある在庫などはまとまって回収できるチャンスだけれど、ただ持って来るのは盗みと同じになるから私とバグで稼いだお金でこっそりと買い取るという言い訳で、回収させてもらった。
アサシンパペットにかかれば、こっそり侵入して回収する事は簡単な作業だったみたいね。ただそれだけでは回収できないのがやはり冒険者で、そっちは私が担当させてもらうことにする。
みんなにはこっそりと行けるところをお願いした。
さて私も冒険者相手に回収作業をする為の準備をすることにした。もう魔王軍はいなくなったので、黒尽くめの衣装は止めて白尽くめの衣装を作ってもらい、冒険者が持っているマッピングシートやコンロといった便利道具を回収する為に行動を開始した。
「少しいいかしら? あなた達が持っているマッピングシートを譲ってもらえないかしら?」
「誰だお前、残念だがこれは譲れないな。俺達は冒険者なんでな。商売道具は譲れない。欲しければお前さんも買って来たらいいだろう?」
「お金ならあるわ。でもあなた達から譲ってもらいたいの」
「だから俺達だってこれは必要なものなんだ、いくら積まれたってこれは譲れんよ」
「そう、なら代金は支払うわ。力尽くで譲ってもらうわね」
「ちっ。だったら相手してやるよ!」
大抵の冒険者達は、こんな感じでマッピングシートを手放そうとはしなかった。まあそれはそうだよね・・・
バグが作った魔道具なら、どれだけ凄い力を秘めているのかわからない者は存在しないと思う。でも、だからこそ私達はこれらバグの遺産を集めなければいけないとも思う。
一見便利なだけの写真機ですら、悪用できるという事例があったから、どの魔道具がどんな悪用をされるのかが私達には予測できない。予測できないのならば全てを回収してしまえばいいと考えた。
しばらくすると、私達が魔道具を回収している事に、みんな気が付き出したようで段々と魔道具の警備が凄くなっていったけれど、私達をかわすことのできるような戦力は用意することができないと考えられた。
それは例え勇者であっても同じじゃないかな? おそらくバグは自分から自滅したのだと思う。その予想が当たっていれば、私達を止められる者は人間にはいないと思っていいんじゃないかって考えた。
マッピングシートを集め終わった私は確証がある訳ではないけれど、その勇者であるハウラスの元に来ていた。彼の持つ聖剣ではない剣もまた魔法武器という魔道具である為、回収するべきと判断したからである。
それに勇者には聖剣があるのだから、今更バグの武器は必要ないだろうとも思った。
「貴方が最近魔道具を集めている強奪犯ですね。と言うか、貴方はもしやレイシアさんなのでは?」
さすがに私の事だとわかったみたいだけれど、こちらのやる事は変わりない。
「貴方の持っている剣を渡してもらえるかしら?」
そう言うと彼は聖剣を庇うように手で押さえた。
「そっちはいらないわ。貴方にはもう一つの剣は必要ないでしょう?」
「例えそうだとしても、そう簡単に渡す訳には行きません」
「そう。力尽くでと言いたいのね」
「いやそうじゃなくて・・・」
私は問答する気はないので、さっさと攻撃することにした。
例えバグの望んだ事だったとしても、バグを殺した張本人を前に、これ以上会話をする気にはならなかった。まずは勇者の剣の腕前を試してみよう。そう考え剣を抜いて討ちかかる。
バグが死んで私はバグの加護を失ってしまったけれど、最後にバグから与えられた力で勇者を押し込む。純粋な力比べでも私の方が上だと思えた。
接近戦でもそれなりに勇者と渡り合えるけれど、勇者もまだ戸惑っている感じで本気にはなっていないから、絶対に私の方が上とはいえないわね。
ならば余裕を見せていないで一気に畳み掛けることにしよう。
「召喚、ヴァルキリー」
かつてバグが進化した時の種族。確実に呼び出せるとは思っていなかったけれど呼び出せた。
この世界ではないバグの故郷にいる神に連なる者。私の呼びかけに応え、召喚に応じて出て来てくれた。聖剣は聖なる属性の為、対抗する事のできる存在として呼び出してみたけれど、うまくいったみたい。なんだかバグが帰って来たようで、どことなくホッコリする気もするけれど、やはりこの人はバグではないわ。
「娘よ、何用で私を呼び出した」
召喚したものの、完全には支配できなかった? 私は慌てず質問に答える事にする。
「私にはどうしてもやられねばならない事があります。バグの残した魔道具を集め、世界が混乱しないようにする為に力を貸してください」
「私利私欲ではなく、秩序の為だというか?」
「はい」
「良かろう、娘よ汝の身を守ればよいのだな?」
「はい、私は自分の手でバグの遺産を集めたい。ヴァルキリーよ助力を願う」
「安心して己が使命を果たすがいい」
ヴァルキリーとの交渉がうまくいき、聖剣から守ってもらえるようお願いすることもできた。後は目的を果たすのみだわ。
勇者は見慣れぬ召喚とその神々しい容姿に攻撃に乱れが出ていた。それでも手心を加える事無く、冷静に攻撃を仕掛けていく。剣の腕だけではさすがに勇者には及ばないので魔法を織り交ぜ、勇者を追い詰めていく。
それでも粘る勇者に対し、私はさらに召喚で呼び出した使い魔の力を借り、結局は手数の圧倒的な差で勇者を拘束することに成功する。
目的はあくまで剣の回収であって、勇者を倒すことではない。剣を回収するとヴァルキリー達を送還して引き上げることにした。
まったく、バグに付きまとったり聖剣があるのでもう必要のない武器の筈なのに、バグを殺しておきながら手放そうともしないなんて、どこまでも目障りな男だった。そもそも恩師を手にかけた者に、この武器は相応しくないのよ。
そんな事を考えながら、転移する。
後ろで何か言っていた勇者はそのままで・・・




