ジャイアント
途中少々ごたごたはあったものの予定より一日遅れで、目的地の村へと到着した。
僕らは村で軽く休憩と食事をして、直ぐに廃墟を目指して出発する事にする。というのもこの村から山を一日登った先に目的の廃墟があるのだが、どの道進む途中のどこかで野宿する必要が出て来るので、時間的にはいつ出発してもそう大差が無いという判断だった。
それでも昼過ぎに出発したせいかわりと早くに周りが暗くなって来たので、山に入って早々野営できそうな場所を探す羽目にはなったが、不幸中の幸いか小動物を捕獲し食べられそうな草や果物などを見付ける事もできたので、夕食代くらいは浮かせることができたみたいだ。
山道に不慣れな未熟な冒険者である為この日はこのまま寝る事にして、翌日夜明けと共に改めて出発することになった。
見張りは僕と召喚された狼だった。まあこいつら不慣れだからいいけれど・・・・・・
今度の狼は僕に不思議そうな目を向ける事はあるが、以前のように見詰めて来る事はなかった。結局あの時の犬っころは、何を思って見ていたのだろうか? 犬を見ると何時も今どんなことを思っているのだろうと考えてしまう。
今はもう知る事もできないそんな事を考えながら、朝が来るのを待ちつつ適当に見張りを続けた。
翌日の朝、なんとなくすやすやと眠りに付くみんなに、不公平だと思った僕は小さな石をみんなにぶつけて、朝の挨拶がわりにする。おーい、朝だぞー。起きろ~
「いた、ちょっとバグ、わかったから、起きるからやめなさいよ」
「おいおい、今日はいよいよジャイアントとの戦闘があるんだから、こういう起こし方とか、勘弁してくれよ~」
ブレンダと、ランドルがそう言いながら目を覚ます。
レイシアは殺気でも感じたのか、一発で起きてしまった為ちょっと欲求不満だ。
フェザリオはみんなより少し大きめなのをぶつけたので、一発で起きたが今は頭を押さえてうずくまっている。
「ランドル、そうは言っても今日のジャイアントは、多分バグがメインで戦うことになるんだから、あなたの体調より優先させるのはバグの・・・・・・機嫌かも?」
「確かにそうね、体調は問題ないだろうからバグが拗ねない様に、機嫌を取った方がいいのかもしれないわね」
レイシアの意見にちょっとびっくりだったが、意外にもブレンダがその意見に同意していた。まあ確かに新米冒険者であるみんなは、あまり役に立たないかもしれないしな~
そう考えるとがんばる僕がずっと見張りをしていて、ほとんど見学のみんながぐうぐうと寝ているのは、なんか納得できないな。
「あー、バグ。今日はその、よろしくたのんます!」
「よ、よろしく!」
「私はちゃんと戦うから、まああまり手助けできないかもしれないけれど、一緒にがんばりましょう」
「私も、少しはがんばる!」
さすがにみんなが機嫌を窺うように、ご機嫌取りを始めた。
はぁ、まあ仕方ないかね~。軽く腹ごしらえをして、僕らは早速遺跡へと移動を開始するのだった。
「キュルルウ(近くにいそうだ)」
遺跡へと移動開始して、どれくらい山を登った頃だろうか? まだ遺跡には到着していないけど、ごろごろとした大昔の物と思えるような石の柱などが見え始めた頃、言葉がわからないのはわかっていながらそう警告を促がした。
「召喚、ウルフ。ジャイアントの偵察をして来て」
レイシアが狼を呼び出して正確な位置を調べようとする。おそらくは夜一緒だった狼とは、違うやつかな。
下手に動くとジャイアントに発見される可能性があるのでしばらく待機らしく、僕も見付からないように炎を消して存在そのものを薄くした。
しばらくして戻って来た狼に、ジャイアントに気付かれないよう先導を任せて再度移動を開始する。ここからはみんな物音も立てずに、慎重に歩いて行く。
少し歩いた先で風下から窺って見ると、僕らはなぜジャイアントが森の中にいるのかを理解した。ジャイアントは僕達に背中を向け、野生動物を捕まえて食事をしていたのだった。
まあ廃墟を守っているとかでもなんでもないので、普通に周辺に出歩いているのだろうな。
ブレンダが僕を見て突撃ってサインを送って来る。
その後直ぐにみんなにも散開するよう指示を出していたので、全てを僕だけに押し付けるつもりがないのがわかった。多分、自分にできる事をしてくれるんじゃないかな~
「キュキュルキュウ(焼き尽くせ、ファイアランス)」
背後から不意打ちの先制攻撃を仕掛ける。さすがジャイアントというべきか、身長五メートルは超えると思われる巨体であった為、炎の槍を六本は作り出して、相手の後頭部当たりに集中させて撃ち出した。
「炎よ燃えろ、ファイヤアロー」
僕のさらに後方に控えていたレイシアも、それにともなって追撃を加える。ちなみにレイシアの攻撃が当たったのは、背中の真ん中辺りであった。
グガァ!
ジャイアントの頭は、後頭部をバットで殴られたかのようにがくんっと下を向いたのだけれど・・・・・・
予想外だったのはほとんどそれだけで、大してダメージがいかなかった事だ。ジャイアントが後頭部を、手でさすりながらこちらへと振り返りつつ立ち上がった。
「凍てつく刃よ、アイスソード!」
僕から見てジャイアントの右後ろから、ブレンダの魔法が撃ち出された。系統は、僕の火属性に対して対極にある氷の属性。
おそらくジャイアントは火に対する耐性があるとの判断だろう。しかし残念ながら、ジャイアントの左足に当たった氷の魔法は、足の表面を少しだけ凍らせるだけで、大した効果があったようには見えなかった。
ひょっとして魔法全般に耐性があるのか? そうなると、僕はほとんど無力になってしまう可能性が高いぞ・・・・・・
「だったらこれでどうだ!」
ブレンダの反対側の木の陰に隠れていたランドルが、持っていた片手剣で攻撃を仕掛けた。残念ながら彼は盾持ちの戦士である為、パワーファイターのような攻撃力を持ってはいない。その為なのか逆にしびれる手を抱えて、盾を構えながらの後退を余儀なくされる。
「いってー、こいつの皮膚。岩でも叩いたみたいに硬いぞ!」
これで僕達パーティーのどの攻撃も、効かないってわかってしまった。
まずいな、早めに撤退した方がいいのかもしれない。
しかし怒りに任せて暴れるジャイアントは、意外と素早い動きをしていて単純に逃げたとしても、そのまま追いつかれてしまいそうだった。
一か八か時間稼ぎもかねて、筋力で相手の窒息でも狙ってみるか。
一旦炎を消して相手の背後に回ると、後ろからジャイアントの首へと襲い掛かる。
足元で逃げているランドルに夢中になっていたジャイアントは、僕に気付く様子もなくあっさりと首攻撃が決まるが、あー、皮膚が硬いって事は首を絞めようにも、そもそも岩を砕く程の筋力がいるのだな。
取り付いた後でこの行為が無意味であった事を、悟ったのだけどそれに気付いた時には、首元に腕を回したジャイアントに捕獲され地面に叩き付けられた後であった。
基本物理攻撃があまり効かない体であったから、ダメージ自体はそれほどではないのがせめてもの救いだった。ただ今の段階で、僕らパーティーでは手の打ちようがない事に変わりはない。
そう考えている間にも、ジャイアントが僕めがけて拳を叩き付けて来たので、転がってその攻撃をかわす。
転がりながら避けて立ち上がると、そこでふと別のアプローチを思い付いた。
「キュキュルウキュウル(深遠の底へ落ちろ、アースフォール)」
今のところ何もできずに見守っているだけのフェザリオからMPを吸収して、ジャイアントの足元に縦長の穴を開ける。さすがにこれ程のモンスターを相手に気絶されるのはまずいのでMPをあまり消費出来ないと考え、加減した魔法の効果でジャイアントが沈み込んだのは、胸の少し下辺りまでであった。
「大地に穴を穿て、アースディグ」
それを見ていたブレンダが、僕の掘った穴をさらに広げてくれた。
おかげでジャイアントの頭一つ分は地面より下の位置に落ち、底で見動き取れずにもがいているのが確認できる。
「とりあえず、動きは止められたみたいだけど、これからどうしたらいいのかしら」
ブレンダが困ったって感じの声で、警戒したまま木の後ろから声を出す。
「生き埋め?」
レイシアが、首をかしげながら提案というか、効くのかなって感じの声を出す。
「生き埋めにするにしても、これだけ力がありそうだと、穴を掘って時期に出て来そうな気がするよな」
ランドルが言うように、確実な方法って気がしない。
ふむふむ、確実ならやはり息を止めないと駄目だよね。
「キュルキュユゆうキュル(炎よ荒れ狂え、ファイアストーム)」
穴の中に炎の渦を呼び出した。でもってもういっちょっ!
「キュルルキュウウ(風よ塞ぎ給え、ウィンドシールド)」
レイシアからMPを少し奪って、穴の出入り口を塞ぐ。
みんながなるほどって、ようやく穴の側まで様子を窺いに出て来た。
数分して、ジャイアントが顔を赤くしてもだえるように暴れるのがわかり。さらに数分が経つ頃には、青い顔をして徐々に動きを鈍らせて行くのが見ていてわかった。
結局やる事はスライムの時と、変わらないなーって考えて見ていたのが、ジャイアントの討伐が完了した瞬間だった。
「さて、おそらくは大丈夫でしょうけど、ジャイアントの生命力はあまり馬鹿にしない方がいいから、ここで休憩をしてしばらくした後で、討伐部位を入手して撤収するわよ~」
ブレンダがそう言って、僕らはのんびりする事にした。
しばらくのんびりした後で、穴の淵から下を見ていたフェザリオが、ふと声をかけて来た。
「こんなでかいモンスターの、どの部分を持って行ったら討伐の証明になりますかね?」
「しかも、大半が埋まっているからな・・・・・・」
みんなが集まって来て微妙な表情を浮かべる。
はっきりいえば、顔ぐらいしか出ていない感じ? もういっその事目玉でも持って帰る?
「これだけの大きさなのだし、耳でいいのではないかしら?」
「そうだな、じゃあそろそろいいかもだし、ちょっと行って来るよ」
ブレンダの意見を聞いて、ランドルが討伐部位を取りに穴の中へと降りて行った。
ジャイアントがまだ生きていたっていう事もなくただ硬いので少し手間取り、それでも無事に切り取る事ができた耳を二つ持って僕らは学校へと帰還して来た。
帰りは特に目立った事件やモンスターの襲撃もなくスムーズに移動できて、結局は行きでの一日だけが予定外といった感じで無事に目的を達成できた。
ギルドへの報告と学校への報告も、特に問題なく終わった事でやっと部屋でくつろぐことができる。
これからの実技はこのままギルドでのクエストになるという話らしく、先生からは今回のクエストの反省会と、改善すべき所があるならばそれの改善、次のクエストへの準備などをパーティー単位でするように言われた。
なので今日は各自ゆっくり休んで明日みんなで反省会、そして次に向けての準備などをする事になった。