お姉さま
次の町への護衛クエストを受けて、拠点を別の町へ変える事になった。その町で、がんばって依頼をこなしていたら、知らない間に変な呼び名が付けられていたんだけれど、孤高の乙女って・・・ ひょっとして移動手段にユニコーンを使っていたから付けられたの? 恥ずかし過ぎる呼び名だから当然無視する事にしたよ!
呼び名を無視して過ごし新しい町に大分慣れて来た頃、魔法使いなのにバグが剣を渡して来たのだけれど、その剣はとても凄い切れ味の剣だった。
護身用に持っていろって事なのかな? 女の子の私の筋力でも大木がスパスパと斬れるのに、この剣は魔法武器じゃないって聞いてほんとにビックリした。せっかくバグから貰えたので、使う機会が無くても大事にしようと思う。どうせならアクセサリーが欲しかったけれど、それは高望みかな?
その後も知名度がそこそこ高まったものの、不快になる出来事は呼び名以外起こらなかったので、そのまま冒険者を続けていると町の領主から名指しの依頼が出ていて調査を頼まれる。村まで移動するのにちょっと時間がかかるから、途中で野宿もしないといけないだろうとギルドで買出ししていると、お湯で溶かせば美味しいスープが出来上がるという携帯用の食料品を見付けた。
前々からなぜかバグは、私が料理を作る事に否定的だったんだけれど、これなら変な味になる訳でもないので、食べてくれるんじゃないかなって考えて買って行く事にする。スライムの時は味覚が無かったみたいだけれど、今はどうなのかな~ 美味しいって感じられるといいなと、ちょっと野宿するのが楽しくなった。
冒険に出発して野宿する時に早速料理を作ってみると、何だが凄く手元を見られていた。ひょっとして今まで料理して来なかったから、指を切ったりして怪我しないように注意していたのかな? そこまで不器用じゃないよ? 怪我も無く無事にスープを作って差し出すと、バグは美味しいと言って食べてくれる。
味自体はギルドで買ったスープだから私の料理センスは関係していないのだけれど、私の作った料理を美味しいと言って食べてもらえるのは、こんなにも幸せな気持ちにさせてくれるものだとは思ってもいなかった。
バグも私が不器用ではないと理解できたみたいだし、これからは私が味付けした料理を作って食べてもらいたいなって考え、それでもって美味しいと言ってもらえたのなら、どんなに幸せな事だろうと考える。
そう考えるとまずは最初の一回目が大事ね! 町に帰ったら美味しい料理の作り方とかも勉強しようと思った。今回はまだ自信とかないのでギルドのスープと、携帯食で済ませることにしておこう。
調査先では、バグが異形と呼んでいた強敵が五体も出て来て、バグと一緒になって戦う事で何とか倒す事に成功する。こんなのが五体もいたのでは、村などひとたまりも無いよね。その後、村中調べて見ても特にめぼしい物は見付けられず、異形の討伐を終えただけで帰還する事になった。でも、バグが全力を出さないといけないような敵が排除されただけでも、十分な成果なんじゃないかなって思う。あの強さは実際に見てもらわなければ、信じてはもらえないだろうけれどね。
報告を終えてのんびりとしている間に、ステータスカードの更新をしてもらうと、私にとっては嬉しいスキルを覚えていた。進化とかも便利なスキルかなとは思うものの、亜空間というスキルの魅力にはかなわない。これは以前バグがドラゴンをしまっていたスキルだと思う。
私にもバグと同じスキルが手に入るとか、とても素敵な事だと思えた。
実際にそのスキルはとても便利なもので、今まで重くても背負って行かなければいけなかったバックパックが必要なくなったり、バグからもらった大切な剣を安全に保管するのにとても役に立つスキルだったわ。このスキルでしまっておけば、誰にも触られないし、取られたりしないのがとても素晴らしく思えた。
町の領主から依頼料を貰うまでに少し時間ができて、その間バグがどうやら生産活動に目覚めたみたいで、いろいろなものを作っていた。前に貰った剣の鞘とかも作っていたし、木のゴーレムみたいな魔法生物なんかも作ったりしていた。
バグはパペットと呼んでいたので、なんとなく召喚してみるとあっさり召喚に答えてくれて、バグが叫んでいたのが面白かったな。
怒るようならもう二度としないようにしようと思っていたのだけれど、バグはそのままそのパペットをくれて、せっかくだからと私にくれた剣と同じ物をそのパペットにも作ってくれることになった。私の護衛にいいなって言っていて、なんだか大事にされていると感じられて嬉しかったよ。
その後何か他にも作りたい物があるのか、バグが珍しい鉱石などが欲しいと言っていたので、料理のレシピとか調べるついでにギルドと情報を集めてみると、南の方へ結構進んだ先に鉱石が取れる山があることがわかった。それだけじゃなくて、そこには温泉というお風呂もあるそうだった。温泉についてはケイト先生から聞いたことがあって、あれは最低でも一度は入らないと人生損だって言われたのを思い出す。
その事をバグに話すと、早速行くかって言っていたのだけれど、まだ領主から依頼料を貰っていない・・・ バグでも忘れる事があるのねって思えてなんだかその人間臭さが嬉しかった。
まあ待っている時間が長過ぎて、今はお金にそんなに困っていないからそのまま行っちゃってもいい気はするけれど、やっぱり貰える物はきちんと貰っておきたいなって話していた。
長いこと待たされやっとのことで温泉のある町へと出発できた私達は、途中で野宿することになったので早速スキルを使って食材を出して、料理を披露することにした。
初めの時と違い、バグは怪我をしない事お理解して止めようとはしなかったので、やっとちゃんとしたものを食べさせてあげることができる。ただ、味の好みを全然知らないので、バグが喜んでくれるかわからないのが不安なところだった。
でも、美味しいと言ってもらえると作ってよかったなと思える。町に着くまでにまだまだ時間があることだし、少しずつ好みも探っていこうと考える。なんだかこうしていると夫婦みたいだな~って思い至った事で、自分がバグに抱いている感情が、ひょっとして恋愛感情なのではないかと考えた。
そう考えて思い返してみると、いろいろと納得できる事は多い。でも、人間がモンスターを好きになるとか、ありえるのかな? 好きになっちゃったらどうしょうもないのかな? わからない事だらけで、とりあえず今のままでも幸せなので、現状維持で過ごして行こうと考える。バグの気持ちもわからないし、どう接したらいいのかがわからないし・・・
結構長い間移動して、やっとのことで温泉のある町へと到着すると、私は早速温泉に入ることにした。バグは早速鉱石を集めに向ったので、別行動することになる。
温泉から出て部屋に戻ると、一杯料理道具を作ってくれていたのに驚いた。その道具達を見て、ますます美味しい料理を作りたいと思えて来る。多分バグも私の料理を期待してくれたんだよね?
温泉も気持ちが良かったし、バグもなにやら生産活動をしているようなので、しばらくはここを拠点に活動して行くことにして、さっそくギルドで依頼を受けることにした。
ほとんどの依頼はそれ程時間のかかるようなものはなくて、直ぐ終わってしまうような依頼ばかりだったので、料理を作る機会が来なかったのだけれど、何日か後で見付けた緊急依頼のレイミー討伐の時に、やっとその機会がやって来た。
共同でクエストに挑むものだったけれど、私には部隊召喚と拠点魔法陣に守られていたので、のんびりとお茶を飲んだり料理する時間もあってそんなにきつくない依頼だったわ。
けれど他にクエストを受けた冒険者達は大変そうにしているのを見た。私はバグと二人だけで参加しているのにな~ そう思いつつ、召喚魔法は私にぴったりの魔法だったんだと考えた。バグとも出会えたしね。
今回はバグだけじゃなくて召喚して呼んだ子達も沢山いるので料理もみんなで食べようと一杯作っていると、両隣から羨ましそうな視線とお腹が鳴る音が聞こえて来たので、少しおすそ分けすることになる。バグが謎肉謎野菜と呼んでいた食材の召喚のスキルがあったので、多少作る量が増えても問題はない。
ただバグは謎の食材なので、栄養というものがちゃんと入っているのかどうかを気にしているようだった。
そう考えるとバグは結構料理にこだわりがあって、ひょっとして私の料理とか無理して美味しいとか言っているんじゃないかと不安になる。人間だったら表情でわかりそうなんだけれど、バグの表情はわからないので、本当の事を言っているかどうか気付く事は難しい。ただわかった事としては香辛料を適度に使ってしっかり味が付いた料理の方が、好みらしいという事は様子を窺っていたらわかった。
学校の食堂の料理はあまり香辛料が効いていなかったので、バグが美味しいと言わなかったのはそのせいなのかもしれない。
翌日、レイミーの巣を殲滅する予定の冒険者達が失敗したようだったので、代わりに私達が討伐して町まで帰って来た。さすがに上の討伐は上級者の冒険者に任せる依頼だけあって、バグがいてくれなかったら無理だと思うものだったけれど、バグに貰ったパペットとバグが追加で呼んでくれたパペットとで何とか倒すことができたよ。
冒険が終わり、せっかく温泉地に来ているのだからと何度も温泉に行っている時にふと、バグがコツコツと作っていると思われる拠点にも温泉を作ると言っていた事を思い出す。そういえばまだバグの拠点に招待してもらえないことが少し悲しいなと思ったので、勇気を出して紹介してもらおうと声をかけてみることにした。
「バグ。そういえば、バグの拠点に温泉ってできたの?」
「ああ、できたぞ」
「一度、拠点を見せてもらってもいい?」
「多分いいと思う」
「何で多分?」
言い回しは微妙な感じだけれど、嫌がってはいないようでちょっと安心したかな・・・
「拠点を作り始めた頃なのだが・・・ 深く考えていなかったこともあって、拠点内の空気が無いことに気が付かなかったのだよ」
「それって、拠点に行ったら死んじゃうってこと?」
「前はな」
「今は?」
「今は、空気を作る木を持って来た。だけど、見落としがそれだけってこともないかもしれなくてね。ちょっとばかりお薦めできない」
「さすがに勇気がいるわね」
「だな」
「でもいつかは行きたいって思っていたし。危なかったら直ぐ戻してくれるなら行ってみたいよ」
「うーん、じゃあ行ってみるか?」
「行きたい!」
話をしてみて、私を拠点に連れて行ってくれなかった理由を知ることができた。私の安全が確保できなかったから紹介できなかったってことみたいね。それを聞いて嬉しい気持ちと、嫌われていたわけじゃないと分かってちょっと安心できた。
バグの作った拠点はそこそこの広さで、バグらしい落ち着ける空間だった。拠点には他にも部屋があって、バグが工房と言っている部屋の中にはパペットが一杯働いていた。全体的に温かみのある拠点だなって感じる。
せっかくなので、拠点に作られた温泉にも入らせてもらうことにした。なんて言うのか、そこそこ広い空間に独りだけなせいなのかな? そこはとても落ち着くことができる空間だった。
初めは空気が無かったとか言っていたけれどとても空気が美味しくて、お風呂場は森林の香りがして安らげる感じがする。今まで見た事がない建築方法を取り入れた内装だったので、いつどこで手に入れた知識なのかなと考えつつも、ゆっくりとくつろいでしまった。この静寂の中流れる水の音がなんとも心地良い。
いろいろ知ることができた中で何より嬉しかった事は、バグのお家に招かれてそこに入ることを許された事が嬉しかった。もっともっと近くに行きたい気持ちはあるけれど、まずはバグの気持ちも知らないと駄目だよね。多分嫌われてはいないと思えたので、よかったと安心することができた。その証拠に、いつでも拠点に来ることができる移動用のペンダントを貰らえたわ。なんだかドンドン宝物が増えて行くような気がするね。
後日、再び拠点に行くと親戚の貴族の家など目じゃない程拠点の内装が豪華に変わっていた。
あの後拠点に私の部屋を作ってくれたようで、今日は自分の部屋の内装をパペット達が作ってくれるらしく、早速いろいろと注文を出すことにした。どうやらこの子達に任せた結果、とっても豪華な感じの内装になったみたいね。
パペット達は私の要望以上の物を作ろうとしてくれるので、ついつい自分の中にある理想の部屋を作ってみたくなってあれこれ言ってしまったのだけれど、凄いのはそれ以上に素敵な内装に仕上げてくれるパペット達だった。
さすがバグが生み出した魔法生物だけあって、こんなところでも妥協などしないで理想的な物を作り上げてくれる。やっぱりバグはこういう物を作ったり研究したりするのが得意なのかもしれないね。だから昔からいろいろな物を見て聞いて知能を得たのかもしれないな。
バグの拠点に行き来できるようになった事で、冒険がとても快適なものに変わった。依頼の中にはどうしても日帰りでは終わらないものがあるけれど、そうすると当然野営する必要が出て来る。私にはバグがいてくれるものの一応ソロで行動をしているから、寝ている間が無防備になってしまい常に不安が付きまとう。
でも拠点を利用させてもらえるようになったので、疲れたら安全に休憩することができるようになった。
これは女性冒険者にとっては言い表せないくらい画期的で重要な事だと思う。それに拠点に料理を作る場所も造ってもらえたので、一緒にしっかりとしたご飯を人目を気にする事無く食べることもできる。
冒険しているはずなのに、その環境ががらりと変わって気楽に冒険を楽しめるようになったよ。
そんな楽しい気分も、前回の共闘依頼の報酬を貰いに行った時に終わりを迎えることになる。
二十体もの異形がいる場所に、討伐に行けと言われてしまった為だった。
確かにあれを倒せるだけの力は持っていたものの、その時は一体とか五体だったから何とかなっただけで、それが二十体もいるとなると私には倒すことができないとそう言ってみたけれど、冒険者の義務として断ることはできないのだと言われてしまう。
例え私達が断ったとしても、ベテランから初心者まで異形を倒す為にぶつける予定だと言われては、何も言えなくなった。だから仕方なくこの依頼を、足手まといを連れて行かないように単独で受けることにして、後はバグに任せることになった。
ほんとはとても心配だったけれど、私では明らかにバグの足を引っ張ってしまう事がわかっていたので、なるべく現地の近くまでは一緒に行き、その後はバグが帰って来るのを拠点で待つ事になった。拠点で無事に帰って来るのを祈り続ける。
私にとっては長い長い時間を待ち続けた気がする。
バグが無事に戻って来た時、心底ホッとしてしばらくはここでのんびりしようと提案していた。バグもそれには賛成のようで、疲れたバグをねぎらう為にご飯を用意すると美味しそうに食べてくれた後、部屋で直ぐ休んでいた。やっぱり疲れたんだろうね。
ゆっくり休んだ後バグが新しく作った部屋へと私を案内するので付いて行ってみると、本物かと思う程よく似たモンスターの置物が一杯ある部屋になっていた。部屋の形もなぜか長細いわね。何の為の部屋なのかしら?
そこで何かの魔道具かな? 新しいバグの発明品だと思える物を渡されて、使い方を教えられる。レバーみたいなものを人差し指で引っ張ると、魔法を使った時のように精神力が吸い取られて、その魔道具の先端から置物の方へと魔力の塊みたいな物が飛んで行く。
置物は動いているので魔力の塊が外れそうになるのだけれど、私がそっちじゃないと考えると飛ぶ方向を変えて、置物に命中してくれた。
へ~ こんな武器もあるのね。そう感心しているとバグから注意点を説明されて、しばらくここで撃っていていいよと言われ、ちょっと置物を壊すのは勿体無いなと思いつつも何度か試し撃ちを繰り返していった。
ドンドンと壊れて行く置物が勿体無いなと思っていたけれど、何故かパペットが嬉しそうに新たな置物を次々と作って行くので、次第に気にしないで大丈夫なんだなって思うようになる。よっぽど物作りが好きなんだね。ちょっとバグっぽい気がして嬉しくなった。
私とパペット達がそんな感じでこの銃器と言う物を試している間に、バグがまた新しい部屋を作っていたみたいで、今度はその部屋に案内される。部屋一杯に遊ぶ為の道具が詰め込まれた遊戯室なんだって。
早速パペットも含めてそれらの道具で遊ぶと、直ぐに楽しくて夢中になってしまった。まさかこんな風に遊んで暮らす日が来るとは夢にも思っていなかったよ。だから私達は嫌な事を忘れて、しばらくの間は思いっきり遊んで暮らして行く。ずっと続かない事はわかっていたけれど、こんな日々があってもいいんだと思えたのがとても幸せだった。
散々遊び続けて楽しい日々が過ぎていった後、バグが突然に進化したいと言い出した。
理由は今の体になった事で光属性の魔法が使えないのが不便なんだと言っていたけれど、私にとって理由はどうでもよかった。もうバグを進化させることはないと思っていただけに、再び人型にするチャンスがやって来たと理解する。
バグに合成に必要な知識を教えていき、素材を一緒に集めて来ると早速進化の準備をする。
ドラゴンを捕まえに行った時に、しきりに私の様子を窺って来たのが何故なのか気にはなったけれど、特にバグから何か言って来たりはしなかったのでまあいいかなって考えて、何かあるなら言ってくれるだろうと考えておくことにした。
今回はドラゴンなど大きなモンスターもいたのでバグを錬金部屋に待たせて、早速合成を行い飼育部屋から錬金部屋へと向うと、バグが人型に進化しているのがわかった。
でもそこで私は少し混乱する事になる。
あれ? 今までバグはどちらかといえば男の人っぽかった気がしたんだけれど、女性だったの? そこにいたのはどこからどう見ても女性の姿をしていて、背中から大きな純白の翼が生え頭の上に何か輪っかのような物が浮いている女性の私からみても綺麗だと思える人型に近いモンスターが立っていた。
青を基調とした部分鎧を身にまとい、スラリとした背が高く金髪の髪が腰まで伸びている美しい女性の姿をしていて、どことなく気品を通り越して神々しい雰囲気を持ったその姿に、私はしばらく見とれてしまった程だった。
バグも少し混乱しているのか、何でこうなったといった様子だったけれど、しばらくすると落ち着いたのか普段通りの態度に戻っている感じがした。あれ? 受け入れたとかそういう事? それとも元々スライムには性別などなかったから、男女の違いなんてそんなものだったのかな?
多少の混乱はあったけれど、バグが普段通り依頼でもこなしていれば冷静に判断できると言われて取り合えず、冒険者として過ごして行く事にした。
バグが進化して最初の依頼を受けに行くと、共闘依頼があり人手が足りないとの事だったので、私達が引き受けるにはちょっと物足りない依頼ではあったけれど受ける事にして早速移動することにする。
バグは私の手を取ると、現地の上空へと転移して、そのまま落ちないように抱きしめて支えてくれたのだけれど、なんていうのかお母様に抱きしめられた時よりももっと安心できる感じがした。
それに何となく良い匂いがするのも心が落ち着く。このままずっと抱きしめられていたいと思う程バグは温かく、今までずっとバグと触れ合いたいと思って来たけれど、こんなにも素晴らしかったなんて思ってもいなかったよ。ただ、女性とは思わなかったけれどね・・・
見とれて蕩けそうな気持ちになっている私に、バグは指示を出して敵の大群を止める為の行動に移って行く。少し名残惜しくはあるものの、なんだかバグの一挙手一投足が私の興味を引き付ける。同じ女性とは思えない程その全てが凛々しくて引き付けられる気がした。
戦うバグの今の姿は、絵にしてずっと残して置きたい程綺麗だなって思えたよ。
そんなバグと一緒に、しばらくはこの町で一緒に活動して行く事になった。羽が生えていて見るからにモンスターだと思われる姿だったけれど、一緒に歩いていても誰も襲いかかって来る人はいなかった。
バグと一緒にギルドに入って行ってもそれは同じで、周りを気にしないで一緒に過ごすことができるようになった現状をある意味よかったと考える。
あまりに綺麗な存在を前にすると、人間は敵対しようとしないものなのかもしれないね。だから今までできなかった町への散歩などにもバグを誘ったりしてみた。バグはそれを断ったりしないで付き合ってくれて、一緒に並んで歩くこともできた。並んで歩くと、バグは私より頭一つくらい長身だったので見上げるような形になる。一緒に甘いものを食べてくれたり、町のお店を見て回ったりと、いろいろと連れ歩いているとバグの性別を気にしなくなっていた。
それどころか、どこか昔からずっと側にいてくれる身内のような気がして来て、思わずお姉さんと呼びたいくらいね。バグのようなお姉さんがほんとにいたとしたら、とても素敵だったんだろうな~
親友のような姉妹のような気がして一緒に料理しようと誘ってみると、同じ素材を使って作った料理のはずなのに、バグの料理は見たこともないような料理ばかりで、高級料理屋でも味わえないと思えるように美味しい料理を次々と作っていった。
ああ、こんな料理を基準にしていては、今まで食べていた料理が美味しいなど思えるはずもない。今現在ですらそんな感じに思えるのに、バグはまだこの味に納得できていない様子で、何が悪いのか考えているようだった。
少しでも追い付きたくて、依頼の間にバグから料理を教わる事にする。そうして教わっているとほんとに一手間、肉なら熱湯で洗うとか、そんなちょっとした事で味が全然変わって来ることがわかる。他には水にさらしたり一度氷で冷やしてまた暖めたりとかいろいろだった。
私の家庭では望む事自体できなかった事だけれど、一般家庭で母から子へと受け継がれるように、こんなちょっとした出来事で家族の絆みたいな触れ合いを味わうことができてよかったと思える。バグと一緒にいると、その全てが尊い経験になって行く気がした。
満ち足りた気分で毎日を過ごしていると、私を訪ねてブレンダがやって来た。卒業以来なので、もうそろそろ三年くらい経つのだろうか? もう会う事もないと思っていただけに、懐かしさが込み上げて近くにあるカフェテラスでいろいろと話をした。思い出話から卒業後の進路、今現在の生活などブレンダはバグの変わり様にも興味があったみたいで、バグとも話をしていた。
でも、ただ友達として会いに来てくれたのならこのまま感激してお喋りするだけでよかったのだけれど、ブレンダが来たのは実家からの指示を受けてバグと取引をしに来たそうで、ちょっと残念って思うけれど仕方ないかなとも考える。
バグの持っている技術はどれも凄いものばかりだった。
遊びにしても、私なんか考えも付かないような物だったし、銃器と言う物など発想そのものがこの世界には無い物だと思われた。モンスターの感性だから作れた物なのかもしれないけれど、おそらくは人間であれ程の物を作れる人は存在しないと思える。
私がバグの心配などする必要は無いと思うものの、利用される事がないように注意しようと考え、二人の会話を聞いてみた。でも、やはり頭のいいバグはブレンダとの取引に応じるつもりがないようで、どれだけお金を積まれたとしても応じる気がないと、きっぱりと断っていた。
その後ブレンダがいつでも連絡が付けられるようにして欲しいと要求して来たけれど、それを聞いたバグはポツリと一言呟いた。
「ブレンダならいいか?」
ひょっとして拠点に招くのかなってバグの言いたい事がなんとなくわかり、私は頷く。本音を言えば、二人だけの秘密にしたいって想いも確かにあったのだけれど、あそこはどこまでいってもバグの作った家だと理解している。誰を家に招くかはバグが決めていいと思うが、それでも私に確認を取ってくれたことは嬉しかった。おそらく嫌だと言えば、招くことは無いのだろうと考えると安心してバグに任せられる。
拠点に招かれたブレンダは、その部屋を見て凄く興奮していた。
やっぱりブレンダ程の貴族であってもこれを見れば凄いと感じるのね。そんな事を思っていると、ステータスカードの代わりとなる技術の提供として私の剣を見せるようにと言われたので、剣をブレンダに渡す。さすがに友達といえど、バグとの思い出の詰まった剣を雑に扱われないかどうか凄く気になってしょうがなかったから、気を紛らわせる為に料理をすることにした。
剣の試し斬りをしていたブレンダが、部屋に戻って来る頃には大体完成していたから一緒に食事をする。私の料理を美味しいと言ってくれて、ちょっと嬉しかった。
その後ブレンダは、連絡用の水晶と新たに作られた見本の剣を渡されて戻って行く。
しばらくバグと一緒に冒険者の活動をしては拠点でのんびりといしていたら、早速ブレンダから連絡が来て剣の取引を始めることになったみたいね。
魔道具とか魔法武器ではないけれど、あの剣ならば相当な価値があると思うのに、バグはなぜかそんな凄いものをデザートのレシピなんかと取引していたのが不思議だった。
レシピなんかお金を貰って買ったら駄目なのかな? なんでかはわからなかったけれど、バグがそれで良いのならいいかなって考えることにする。きっと何か考えているんだろうな。
そんな事を考えていると、ブレンダと通信していたバグが怒っているようだったので何があったのか聞いてみると、ブレンダのお父様が、勝手にバグの情報を使って勇者のパーティーと約束をしていたそうだ。
怒ったバグが文句を言いに行った結果、どうしてそうなったのかブレンダのお父様は現当主から身を引くことになって、ブレンダが家督を継ぐという話になったみたい。改めてバグを怒らせると怖いなって思ったわ。
その後たびたびブレンダから連絡が来るようになって、もやもやしたものを感じる事が多くなった。多分ブレンダと話をしている事に対して嫉妬しているのだと思う。離れた所にいるブレンダとこうして話していると、なんだかバグがどんなに近くにいても遠い存在のように感じてしまう。かと言ってバグの邪魔はしたくなかった。そんな事をしたら嫌われてしまうかもしれないから・・・
もどかしい日々を送っていると、またギルドで異形討伐を強制されそうになったのだけれど、バグが凛々しい態度でギルドの脅しを跳ね除けてくれる。冒険者が百人襲って来ても返り討ちにするとは、他の人が聞けば大げさに聞こえるかもしれないけれど、バグの力はおそらくそれくらい凄いんだって感じていた。それどころか、今のバグだったら一国を相手にしても負けないんじゃないかと思える程バグは強いはず。
前のバグは魔法タイプの戦い方だったけれど、今のバグは戦士として戦ったりしていたので、多分全力を出して戦えば万の軍勢とだって戦えるんじゃないかと勝手に予想していたりする。
戦闘できつい時に手を貸してくれる場合があったけれど、あきらかに手を抜いて相手をしていたにもかかわらず、相手を圧倒していたから異形すらまともに相手もできない冒険者がいくら集まって来たところで、バグには勝てないんだろうな~
そんな事を考えている間に話は付いて、結界の道具を渡すから今後私に手を出さないようにという取引が成立していた。その後は町中にいるとまたトラブルに巻き込まれそうだったので、私達はしばらく拠点でのんびりと過ごす。




