会戦
「みんな揃っているかな~。勇者率いる人類軍が、こちらに向かって来ているようなので、彼らに数を集めるだけでは意味がない事をわからせて来てくれないかな~」
勇者が宝玉を手にしてから三ヶ月、人類軍がとうとう魔王城まで攻めて来た。三ヶ月も何していたのだという意見もありそうだが、世界中から兵力を集めるとなると、どうしてもそれくらいはかかってしまうみたいだね。こっちと違って勇者側としてはこの三ヶ月はとても長かったと思う。そんなハウラス達に心の中でご苦労様と思いつつも、こちら側の魔王軍は今までの訓練の日々をねぎらおうとイベントをしていたりする。
転移でどこにでも直ぐ移動できる僕と違い、世の中は結構何をするのにも時間というものがかかるので、即戦闘とはならなかったな~。そんな事を考えつつ、今まで遊ぶ機会を作れなかった分を取り戻すようにみんなでいろいろ楽しむ事にした。しかしどこかに出かける訳に行かないので、魔王城の地下にある拠点を広げて闘技場を造ってみたり、ボウリングのような遊技場を造ってみたりなどしていた。
そんな風に僕らがのんびりと過ごしていると、黒騎士が先程のような声をかけて来たのだ。
いよいよ最後の戦争が始まると、みんなが準備に取り掛かる。
僕も迎撃の準備に行こうとしていると、黒騎士がこちらにやって来た。
「バグ君には別の任務があるので、別行動をお願いするよ」
「何をしろと?」
「今の人類軍を指揮しているのは、マグレイア王国のサリラント元第二王子なのだけれどね。どうも弱小国がリーダーっていうのが気に入らない国があるようだね。そこで魔王軍へと攻撃を仕掛けている間に、後ろから国をって計画している蛮族がいるそうだよ。ようは、不和を生む存在を潰して来て欲しいというお仕事だよ」
「なるほど、了解した」
そう言うと多目的シートで周辺情報を表示して目標となる国を教えてもらい、レイシアと一緒にその蛮族がいる国へと転移する事にした。
マグレイア王国の国境付近の森に、複数に分かれた部隊が潜んでいるのが、調査のスキルで確認できる。まあぶっちゃけると元ファクトプス国の連中みたいだな。
僕は上空でレイシアを抱えたまま待機して、トップの討伐だけでいいのかどうか迷っていた。指揮官がいなくなれば帰るっていうのなら被害者は少なく済むのだけれどな。まあ状況を見ながらやるか。とりあえず調査のスキルで指揮官を探し出して、倒してみようと考える。
「指揮官を倒すから、もしそれで帰らないようなら、一緒に倒して回るよ?」
「うん、わかった」
レイシアに確認を取った僕は、敵指揮官を無詠唱のアースボムで倒した。この音で近くにいた者は、指揮官が倒れたのを悟れると思う。さて、この後彼らはどう動くかな?
上空で待機したまま様子を窺うけれど、どうやら指揮官を代行して作戦続行って感じだね。
「レイシア、殲滅作戦で行くよ。逃げるやつがいたらそのまま逃がそう」
「わかった。部隊召喚、ゴーレム」
レイシアを木の上に降ろした後、レイシアの攻撃しているところから離れた所に転移して、目に入る敵をなぎ倒して行った。結局逃げたのがわずかだけだったので、殆どの兵隊がここで死ぬ事になったけれど、まあこれで下手な事は出来なくなっただろう。戦力がいなければ馬鹿な事も出来ないので、結果的にはよかったと考えておくかな。
さて、他のみんなは上手くやっているのかな。そう考えながらも僕はレイシアを回収して、魔王軍の本部へと戻って行った。
「ご苦労ご苦労。ただ国のトップは戦場に出ていなかったから、今回の事では懲りていないみたいでね。またよからぬ事を考える前に、潰してもらえるかい?」
「はあ、まあいいがじゃあチャッチャと行って来るかな」
「よろしく~」
そう言うと転移する。レイシアが素早く抱き付いて来たので、一緒に飛んでしまったけれどね。まあ問題はない。
「お前が新国王か。なるほど、悪そうな顔をしているな」
「貴様、魔王か!」
「特技四天将だ。用件は、わかっているだろう?」
「魔神国落としか!」
そう言うと、玉座から転げ落ちるようにして逃げ出そうとしていた。まあレーザービームは光の速さで到達するので、その行動は遅いのだけれどね。これでこの国のトップは倒せたので、再び国が荒れるかもしれないな~。次の国王次第でどうなるのかはわからないけれどね。
それにしても、元ファクトプス国にはろくな人材がいないのだな・・・・・・悪徳貴族とかは掃除したはずなのに、また争いを起そうってやつらが出て来るとは、思わなかったよ・・・・・・
まあ仕事は終わりなのでこのまま帰還するかね。
本部に戻ってもみんなは戦場で戦っていたので、レイシアと二人だけだった僕は、暇潰しにオセロで対決して遊んでいた。今更のこのこ行かなくても、みんなに任せておけばある程度は大丈夫だろうしね。というか脅威になるのは勇者くらいかな? それよりも帰って来る仲間の為に準備でもしておいた方がいいだろう。
「あー、暇だったなら、こっちを手伝いに来いよな~」
ヤーズエルトがそう言いながらやって来る。オセロの後、将棋で闘ってどれくらいの時間をそうしていたのか、ぞろぞろとみんなが帰って来たみたいだ。人数が減っていないところを見ると、被害は無かったようで少しホッとする。
そんなみんなをねぎらってやろうと、夕食を振舞ってみることにした。
「そろそろ帰って来るだろうと思って、ご飯作っておいたぞ。さあ食べろ~」
そう言いつつカレーをよそうと、レイシアがみんなに配って行く。今回作ったカレーは、スイートビーの蜂蜜を入れたやつだ。他にもこっちの世界で品種改良して育った林檎なども煮込んでみたので、また昔と違った美味しさになっていると思う。
「おお! カレーじゃないか! やったね!」
みんなそれぞれに嬉しそうに食べている。それを見届けて、僕は自分達の分もよそって席に着き、ご飯を食べる事にした。昔は付け合わせが無くて、ちょっと寂しい感じがしたのだけれど、今回は、福神漬けに変わる漬物を用意してある。ラッキョウなのだけれど、やっぱり福神漬けに挑戦するべきだったかな?
「「いただきます」」
カレーは大抵どんな具材を入れても美味しくなるものだけれど、今日のはキノコが多めに入っている。昔を懐かしんでいたら、そういえばキノコ狩りなんかもやったなって想い出してしまって、入れたくなったのだ。なのでキノコカレーにしてみた。
他にも好みというかもっといろいろ味わいたいと考える者がいるかもしれないと、それぞれに自由にトッピングを変えて楽しむ事ができるように、野菜や魚介類やコロッケ、ハンバーグやチーズなどいろいろと用意してみたら、みんなに好評だった。卵を乗せてみたり残り物を乗せたりそのままの味を楽しんだり、自由に食べているのを見て満足感が得られる。もちろんレイシアも、美味しそうに食べていたので作ってよかったと感じた。
魔王軍の活動は勇者率いる人類軍が攻めあぐねて軍を引いてしまうとのんびり出来る時間があって、その間に王子が納得のいかなかった戦術を見直し僕の方でモンスターの連携訓練をして人類軍を相手にしていた。
勇者とサリラント国王も、人類軍をまとめて軍の編成をしないといけないので、そうそう毎日のように攻めて来たりはしなかった。まずは小手調べ、一ぶつかりしてみてお互いの力量などを見てみようっていった感じなのだろう。
そして勇者単独で攻めるには魔王軍の戦力が多過ぎて、今だ魔王城まで届かない為に無茶な突出をして攻める事もできない。ある種の膠着状態となっていた。僕らはそんな戦闘と戦闘の間に、十分な休息と直した方がいい戦い方だと感じた部分の修正などをおこなって、常に万全な状態を保つ事にしていた。
人類軍にしてみたら、何とか綻びを見付けたくて歯がゆい感じなのだろうけれどね。
さてそんな戦闘が明けたある日の翌日の事、僕達はみんなで連れ立って湖へと来ていた。戦闘が終わった後は人類軍も疲弊しており、連続では攻めて来ないので魔王軍はレクリエーションをするのが最近の過ごし方であった。
何をしに来たかといえば、普通に魚釣りだったりする。
人類軍が来たらまたみんな戦い戦いになるだろうから大体戦闘の後は、おもいっきり遊ぶ事にしていた。奇襲が絶対に無いともいえないけれども、そこはパペット達にしっかりと監視させているので、おそらく事前に対処出来ると判断する。
おそらく人類軍がこんなのを見たら、愕然とするのだろうなと考えつつも結構平和な生活をしていた。そんなところも僕は気に入っているのだけれどね。
そんな今日の魔王軍のご飯は朝にサンドイッチ、昼は焼きおにぎりに釣れた魚の塩焼き、夜は周りの森から野生動物を狩って来て、バーベキューをして過ごしていた。モンスター達はさすがに偵察が出ているかもしれないので、拠点で過ごしてもらっているけれどね。
釣りを楽しむモンスターとか、ある意味平和な世の中だったのならば、見せてやりたいとか思うけれど・・・・・・まあドラゴンや巨人種とかがそんな事をしたらここの周辺から生物が全て、いなくなりそうだよね・・・・・・
全面衝突が始まってからそろそろ一週間が経とうとしていた。
人類軍は多数のドラゴンと巨人種、疲れを知らない死の軍団などの相手をしてかなり疲弊して来ている。これだけの戦力を前にランクの低い兵士達ではどうしても消耗を避ける事が出来ないので、一気に攻め込む作戦も取れないようだ。
もっとも、駒の様に使い捨ての作戦をすれば、勇者だけでも魔王城へ突入する事もできるかもしれないけれどね。人類軍は当初の予定では十万を超えるくらい集まると予想されていた。実際に集結したのは遥かに越える三十万もの兵士が集まったので、今回の魔王討伐にかける意気込みは相当なものなのだろう。
だが小競り合いのような衝突で既に六千もの兵士がこの地に倒れてしまっている。全体からすればわずか二パーセント位の被害とはいえそんな遊びのような軍の動かし方では、いたずらに兵士を減らすだけで何の意味も成さないと思う。しかし、まともにぶつかればおそらく、一度の衝突で人類軍は壊滅すると思われるだけに、それが出来ないのだろう。
戦力差を見ながらそんな事を考えていると、前回の戦闘から二週間位経った頃、人類軍は最後の博打を打って来た。
できるだけ多くの兵士を動員して、魔王軍へと向って来るのは大体いつも通りなのだが、その中には勇者達がいなかった。つまり死を覚悟した大量の捨て駒で、魔王軍の足止めをしている間に、勇者達が魔王城へと乗り込もうという勝算の少ない賭けだった。捨て駒なんか良く思い切れたなって思う。
それに対して魔王軍はパペットからの情報で位置を特定し、ヤーズエルトとウクルフェスが勇者を追う為に軍から離脱、僕はレイシアと共に魔王城の中、最終防衛ラインで勇者を止める為に待機する事になった。
その結果、勇者の護衛をしていた上級冒険者達が、転進して勇者を迎撃する為に背後から迫る二人と戦闘する事になった。しかしいくら上級冒険者が護衛していたとはいえ、四天将を止める事は出来なかったようで、ほんの少し時間を稼ぐのがやっとであった。
二人が勇者パーティーに追い付いたのは、魔王城正面にある門の直ぐ手前であった。
『ようバグ、聞こえているか?』
「ヤーズエルトか。ひょっとして勇者と接触したのか?」
『ああ、今正門の手前まで来ている。これからお前の生徒と一戦って感じだな。契約だと俺は確実に負けるんだよな? なんていうか実力ならこっちが上って気がして、全然脅威に思えないのだが・・・・・・』
「確かそうだな。まあその勇者が逃がしてくれれば死なないだろうがそいつは見逃さないだろうな。黒尽くめを止めて正体を見せたら案外、止めは刺さないかもしれないがどうする?」
『うーん・・・・・・真剣勝負にそれは野暮って気がするな。それに今まで覚悟を決めて活動して来たから今更生き残ってもやる事が無いな』
「そうか」
『ああ、じゃあぼちぼち向こうさんもやる気みたいだしここら辺りでお別れといこうか。結構楽しかったぞ。魔王軍なんかなければ、親友になれたかもしれないな』
「魔王軍がなかったら、俺らは人間とモンスターで敵同士だったさ。多分これでよかったのだろうよ」
『そうか。じゃあ先に行っている。死後の世界で会おう』
「こっちの死後の世界がどうなっているのかは知らんが、おそらく僕はお前と違う地獄に落ちるだろう。お前は争いのないところで美味しいものでも食べていろよ」
『それはいいな。だがお前の作ってくれる料理程、美味いとは思えないな・・・・・・。じゃあな』
『お主が長話しとるから、わしの喋る時間が無くなってしもうたじゃないか。まったくこれだから若いもんは・・・・・・バグ殿、短い間であったが世話になったのう。もっと若い時に出会ってもっと魔法の話をしたかったのう。まあ言いたかったのはそれだけじゃ。またどこか出会いたいものじゃな』
「ああ、二人とも。楽しかったぞ。またどこかで会おう」
二人からの会話が途切れて直ぐ、門のある方向から激しい戦闘音が聞こえて来た。音からすると、全然手加減などしていない本気の戦闘をしているようだな。ハウラスはあんな激しい攻撃の中、無事でいられるのか?
というか、魔王はハウラスによって倒される運命だって言っていたのに、門のところでリタイアしたらどうなるのだろうか・・・・・・? なんとなく運命で決められているって聞くと、ゲーマーとして逆らいたくなって来る誘惑があるな。よし、運命で決まっているっていうのなら全力で潰しに行ってみるかな。
運命捻じ曲げちゃったら許してねってちょっと洒落にならない事を企んだりしてみる。案外、それもいいかもしれないな~
勇者達が来るのを待ち続けて一時間くらい経った頃、ウクルフェスから交信が来た。
『別れの時が来たようじゃ。先に行ってお主達の魂がまたやって来るのを待っておるぞい』
「うん? 妙な言い方だな・・・・・・ひょっとして何か転生系の魔法でも作り上げたのか?」
『ホッホッホ、バレてしもうたか。さすがバグ殿じゃな~。いろいろ魔法を・・・・・・見せてもらったり・・・・・・話を聞けたのでな・・・・・・。完成させる事が出来たのじゃよ・・・・・・。そろそろのようじゃ・・・・・・次はわしがお主に魔法を・・・・・・教えてやるからな・・・・・・』
「ああ、楽しみにしているよ。またな、ウクルフェス」
転生の魔法か・・・・・・試す事が出来ない魔法じゃないのかな? 失敗していたら笑えない魔法でお別れって、じいさんらしいぼけたお別れだったな・・・・・・魔法が成功している事を願っておくかね。
微妙にしんみりし辛い展開だったな・・・・・・
門の方から聞こえていた破壊音が止み、静かな時間がさらに三十分程過ぎて、ヤーズエルトから交信が来た。
『ハウラスがそちらに向うぞ。後は頼んだ』
「ああ、こちらは任せてゆっくり休め」
さすが勇者と言うべきなのだろう、二人を倒してしまったようだね。
「レイシア、ハウラス達が来る。準備してくれ」
「わかった。生き残ろう」
頷いて見せたものの、そういえばレイシアには運命の話ってしていなかった気がするな。ひょっとしてちょっと失敗だったかもしれないが、まあ今更かな?
ハウラス達を待っているとそんなに待たされる事なく、勇者パーティーが僕達の目の前に辿り着いたようだった。これでここを抜ければ、人類側に希望が出て来るという事だな。
「ここから先に行きたければ、僕を倒して行く事だ」
待ち構えていた魔王城の入り口のホールで、やって来た勇者一行に対してそう言い放った。なんとなく、フラグが立った気もするがこれが運命なのかね~
「あなたはまさか・・・・・・レイシアさんなの?」
「じゃあ、ひょっとしてあれは、バグなのか?」
そう声を出したのは、勇者パーティーに参加しているブレンダとランドルだった。フェザリオとシリウスもいるのだが、信じられないという顔をして絶句している。
それにしても見た瞬間にレイシアだってバレたな、さすが友達というべきなのか、それとも僕だと気が付いたからなのかな?
「バグ先生が、魔王軍なんかにいるだなんて・・・・・・」
そう言ったのは、かつての教え子ハウラスだった。こっちは信じたくないって表情しているな。
「久しぶりとでも言えばいいのかな? まあそれはともかく僕がここを守っているという事は、君達ではこの先には行けないという事が理解出来たかな?」
「レイシアさんも、魔王軍の一員なのですか?」
ブレンダが信じたくないという感じで、そう問いかけて来た。
「ええ、ブレンダ。今の私は、魔王軍特技副官なの」
「そうですか・・・・・・」
勇者パーティーの面々には、絶望しか見られない。そんな中で勇者が叫ぶ。
「例えかつての恩師だったとしても、魔王に組した者を許す事は出来ない! 行くぞ!」
「今の私達では、レイシアさんにも勝てるかどうかわかりませんわ。みんな気を付けて!」
勇者に続き、ブレンダも決死の覚悟を決めたようだった。
「それでは始めようか」
「行きます。部隊召喚、ドラゴン」
僕の呟きに、レイシアが反応してドラゴンを複数召喚した。ここは魔王の城だったのでかなり広いホールだったのだか、さすがにドラゴンが複数出て来ると狭く感じるくらいには広かった。
レイシアがドラゴンを召喚している間、勇者が僕に突撃を仕掛けて来た。どうやら勇者が一対一で僕の相手をして、ブレンダ達パーティーメンバーがレイシアの相手をするようだな。まあ、レイシアなら大丈夫だと思っておこう。
それよりも勇者を正面から相手する。
突撃して来た勇者を居合い斬りで迎撃すると、それに対して勇者も聖剣を抜き放って跳ね返して来た。そして弾かれた僕の刃が放たれた速度そのもので元に戻るように帰って来る。ツバメ返しって技だった。慌てた勇者が回避したのだけれど、少なくない傷を受ける結果になる。
「くっ、ヒール」
勇者は一旦距離を置いて、傷を回復させる。その間も隙を捜すように僕を窺っているようだな。
昔に比べれば、格段に強くなっているようで何よりだったが、それでもまだ僕のランクには達していないな。困ったチャンだった性格も、大分勇者らしくなったように感じる。
「どうした、最初の勢いが無くなったぞ」
「バグ先生、何故魔王軍なんかにいるのですか!」
ふむ、会話をして時間稼ぎって感じじゃないな。まだ生徒気分が抜けていないといった方がいいのかもしれない。まあこっちとしてもそこまで急ぐ理由も無さそうだし、少し付き合ってやるかね~
「お前の教師をしていた時も魔王軍に所属していたよ。というよりは、この世界で生を受けた時からモンスター側だったけれどね」
「それはどういう意味ですか!」
「お前は知らなかったのだな・・・・・・僕がこの世に生を受けた種族はスライムだった。レイシアに召喚されたスライムで、一緒に冒険して行く過程で進化して今の姿になっただけなのだよ。だから初めから僕の所属は人間側ではない」
「そんな・・・・・・なら、なら何故、僕達を教え導いてくれたのですか!」
「弱過ぎたからだな。あまりにも弱過ぎたのが問題だったから、ダンジョンを造って皆を鍛える事にした。お前はその中の一人だっただけだ」
「なんで魔王軍でありながら、人間を鍛える必要があったんですか」
「その理由が知りたいのなら、僕を倒して魔王様にでも聞くといい。そろそろ質問タイムは終わりかな?」
「一緒に戦ってはくれないのですね」
「なぜ一緒に戦わねばならん。僕はここでお前達を止めるのが元々の役目だった。それを放棄する理由がないな」
「ならば、押し通らせてもらう!」
そう言って戦闘モードになったようだけれど、ハウラスが仕掛けて来た斬撃には最初の勢いすらなかった。おそらく知り合いが相手だった為に、どこかに迷いが残ったままなのだろうね・・・・・・
こちらが勇者を相手にしている間、レイシアはドラゴンをそれぞれに一頭ぶつけていた。
ブレンダの前にはファイアドラゴン。ランドルの前にはブラックドラゴン。フェザリオの前にはホワイトドラゴン。シリウスの前にはゴールドドラゴン。
人の身でドラゴンとの一騎打ち、特にフェザリオにはきつい戦いになるだろうな。
ただでさえきつい戦いなのに、そこにレイシアが魔法を無詠唱で飛ばしていた。出会ったばかりのレイシアだったのなら、痛くもかゆくも無かったであろう魔法の威力は、今では当たれば瀕死になりそうなほど高いものだった。ブレンダ達は、ドラゴン以上にレイシアを警戒しながら戦い続けなければいけなくなっていた。
本来の召喚術師との戦いのセオリーなら、召喚主を狙うのが定石なのだろうが、さすがにドラゴンに背中を向けるのは危険過ぎて出来そうにない。誰かが余分に受け持つ事も出来ないだろうから、ブレンダ達は状況が進展するまで耐えるしかないだろうな。
ハウラスが生ぬるい攻撃を仕掛けて来るおかげで、こちらとしてはレイシア達の様子を窺う余裕が出来て、それはそれでありがたいと思う。そんな感じで様子を見ているとブレンダが呟くのが聞こえて来た。
「これがかつて落ちこぼれと言われていた生徒の力なんてね・・・・・・もうほんと冗談じゃないわ」
「だな。さすが冒険者の頂点とも言われるだけはある強さだ」
かつてはレイシアに陰口を言っていたランドルもそう言いつつ、ドラゴン相手に攻めきれないで防戦一方になっていた。攻めに転じようとすると、魔法が飛んで来るので迂闊に攻撃に移れないのだ。
今のレイシアは無詠唱である為、魔法発動の兆候が確認できず下手に突っ込むと一気にバランスが崩れてやられてしまうのではという怖さがあるのだろう。初めてパーティーを組んだ時のように少しだが、腰が引けてしまっていた。
ランドルも覚悟が足らないな・・・・・・
フェザリオの方はレイシアが魔法で攻撃するまでもなく、ギリギリの戦いをしていた。少しは神官としてだけでなく、接近戦の特訓をしていたのか持ちこたえているようだったけれど、なんとなくドラゴンにすら弄ばれている感じがした。
周りを見る余裕も、喋る余裕も失くしてひたすら防御に徹している。
シリウスの方も、昔のようなきざったらしい余裕を持った攻撃をしないでひたすら回避を繰り返しているようだった。彼は二刀流による戦士で、アタッカーでもあるので、一番レイシアからの魔法攻撃が襲い掛かって来て、同じ場所に少しも留まる事無く動き回らなければいけない状況になっている。そうかと思えば突然眠りの魔法が飛んで来るとか、魔法にも変化があり必死に抵抗するので忙しそうだった。
「フリーズブリッド」
状況を変えようとして放ったと思われる氷の礫がレイシアに襲い掛かるが、レイシアの展開している拠点魔法陣を突破するだけの魔力が無かったらしく、空しく弾かれて終わっている。そして逆にレイシアにかまけた隙にファイアブレスの攻撃を受けて、ブレンダの展開していた魔法陣が激しく消耗させられているのが遠目にも確認出来た。
さて、僕同様それらの状況を確認した勇者は、なおさら僕を一秒でも早く倒さなければいけないと考えたのか、焦りから来る攻撃が大振りになりそして単調になってしまい、たやすくかわす事が出来る。おちょくるようにひらひらとかわしていたのだけれど、そういえば運命を変える気だったのを想い出したので、そろそろ終わりにしてやってもいい頃かもしれないなと考える。
焦るハウラスを相手に、日本刀を左右の手に創り出して斬りかかって行った。ハウラスが増えた日本刀にギョッとして、防戦一方に追い込まれる。徐々に増える傷にハウラスの動きがどんどん鈍って行った・・・・・・




