魔王軍と勇者
第十五章 魔王軍と勇者
学校で活動を始めて一週間くらいが過ぎ、その頃にはほぼ全ての生徒が初心者ダンジョンへと潜るようになっていた。ほぼというのは、集めた人材の中には知能派の生徒もいたので、そちらには国の在り方というか役立たずな国王がいた場合に入れ替わってもらう為の人材として、政治経済帝王学などの教育をおこなっているので、ダンジョンとは無縁だったからだ。
変な国王がいなかった場合は、普通にどこかの町などで町長でもしてもらうか、どこかの国で参謀とか宰相とかいろいろ活躍の場があると思うので、おそらくは無駄にはならないだろう。
世界を平和にするのは武力だけではないから、こういう頭を使った方法も必要になって来ると考える。残念ながらこの世界には知識を学ぶ場が少なく、本来なら頭を使って活躍が出来る人材も普通に埋もれてしまうような環境だったのが、惜しいというか悲しいというのかとにかく勿体無い世の中だよね。
ハウラスの方は、最近発見されたダンジョンについての記録に、魔族を弱体化させる宝玉の情報が発見されたという噂をそれとなく流したところ、面白い程簡単に引っかかって、今現在ダンジョンの入り口を探して歩き回っているという報告が入って来ている。
そのうちダンジョンの入り口を見付けて、攻略が始まるだろう。それまでにブレンダ達のLV上げが進むといいのだけれど、間に合わなければ何とか途中で合流出来るだけのランクまで鍛えてやらないとだな。
ヤーズエルト達の活躍は、まだ一週間しか経っていないのでそこまで話題にはなっていないが、脅威度の高い異形は排除されたようで、少しは周辺住民の不安が解消されたようだった。ついでに仕事が無かった音楽担当の眷族を町などに送り込んで、勇者ハウラスががんばっている、ヤーズエルトのような者が現れ、各地で活躍していると宣伝させる事にした。即席の吟遊詩人だな。
オーリキュース王子の方は、どうなっているのか不明だけれど、まあ一週間では成果が出ないのかまだ仕込みの段階なのか何も情報が無かったが、王侯貴族は一般とは別世界のやり取りがあるのだろうからしばらくは様子を見る事にする。
その他の出来事としては、モンスター牧場でゴブリン達が人間の言語を片言だけれど喋れる様になったようだった。これにより誰からの指示でも問題なく命令する事が出来る可能性が出て来た。今のところご飯を一杯食べさせてやっているので、反抗的な者はいないそうだな。それと争わなくても生活に支障が出て来ないから、比較的落ち着いた性格になっているそうなので、適度に訓練をしてまったく戦えない状態にはならないよう、調教しているそうだ。心が豊かになり、闘争本能が薄れていっているという感じだろうね。野生を無くしたともいえるだろう・・・・・・
ここまでの結果だけを見れば、成功って感じだろう。まだまだ油断はできないものの、継続して続けて行ってもらいたいと思う。
もういっその事、お試しでホムンクルスもいけるのかどうか、試してみるかな。こういうのは、二重三重に手を廻しておく方がいいだろう。そう考えると、モンスター牧場と平行してホムンクルスをそうだな・・・・・・念の為に三人程育ててもらうよう指示を出しておいた。こっちはこっちで上手く行ったのならば、狼達のリーダーとして部隊を運用してもらえればいいだろう。
さて、それでは今日からダンジョンに潜って行っている生徒達の指導をしていってみるかな~
まずはブレンダ達から様子を窺ってみると、彼らはさすがにそつなく攻略して行っているようだった。ただ、少し余裕があるようでどちらかといえば攻略というよりも作業みたいになってしまっている。これではあまり経験にならないと考え、ちょっとこちらで難易度を上げさせてもらう事にした。
その方法とは、戦闘終了直後にパーティーの中の一人に殺気をぶつけてみるとか、不意打ちで魔法を飛ばしてみたりなど、ほんのちょっとの違いなのだけれど、それが何度も起きると段々とパーティーの雰囲気が緊張していった。まあいきなり殺気を感じたり、どこからともなく魔法で狙われたら、おちおちのんきに休憩もしていられないだろうしね。
そして極め付けに、戦闘が終わる直前にパーティーの中に適当なモンスターを捕まえて来て転送してぶつけてみる。後少しで戦闘も終わりだと油断していたようで、目の前の敵に止めを刺す事が出来ずに距離を取って新たに現れた敵の対処に追われている様子だった。
うーん、これくらいは即座に判断して、さくっと倒して欲しかったな~。そう思いつつ、さらに拾って来たモンスターを追加する。ブレンダ達は慌ててそちらにも対処を始めた。その後しばらくは常に警戒を怠らず、緊張した感じで進んでいたので何もしないで見守り、ある程度進んだ時に敵との戦闘中に、背後へと敵を放り込んでやった。
苦労はしたものの何とか無事に切り抜けられたようで、まあ多少はお遊びみたいな攻略から何があっても不思議じゃないダンジョンの攻略へと変わって、いい経験になったと思いたい。決していじめて遊んでいる訳ではないよ・・・・・・まあ、ハウラス用のダンジョンが完成して、ブレンダ達用のダンジョンが完成するまでに少し時間があるから、こうやって経験を増やしてあげなければ、いつまでたっても追い付けないからね~
さてお次は初心者ダンジョンで、英雄候補者達を見て回る事にする。
こちらは下手に手を出すと、怪我をしてかえって危ないので、ミスした時とか戦闘で手間取った所など改善点を指摘して、なるべくパーティー内で話し合って改善するように指示を出していく。僕がどうするか言わないのは、実際に僕がいないところでそういう事態になった時に、仲間と意見を出し合う癖を付ける為だ。どうしても意見が出せない時は、ヒントを出すようにする。ヒントを聞いても打開策を思い付けないようなら、あまり冒険者には向いていないかもしれないな・・・・・・
まあそれでも天才にはなれなくても秀才くらいにはなれるかもしれないので、戦術の講義でもしてやる事にしようかね・・・・・・
幸いにして、そのパーティーでは意見が出て来て、手間取りながらもダンジョンを進んで行ったみたいだ。他のパーティーも見ていこう。
幸いにして英雄候補の生徒の中で、ヒントが必要なところはなかったようで安心出来た。まあ今期の生徒の方で、ヒントが必要なパーティーはいたようだけれど、最悪なヒントを上げても駄目なパーティーはいなかった。
もうしばらくはレイシアと共に初心者ダンジョンの見回りかな~
魔王軍の様子を見ながら生徒の指導を行い数日が経った頃、どれくらいぶりかにラデラ女王から連絡が来た。
『バグ殿。少々お時間を頂けないであろうか』
「久しぶりだな。まずは用件を窺おう」
『まずは直接会って謝罪をしたい。それとフラムイスト国のデミヒュルスの討伐をお願いしたい』
「そういう用件なら不要だ」
『フラムイスト国の王族の為ではなく、民の為にお願いしたい。それでも駄目であろうか?』
「まあ、必要ないからな。基本、あいつらは近くに寄らなければそれ程の危険はない。倒せないのなら無理に近付きさえしなければ危険でもなんでもない。わざわざ倒しに行くような相手じゃないよ」
『やはり駄目か』
「今はもう次の段階に世界情勢は移っている。ラデラ女王もそっちに気を使うべきじゃないのか?」
『次とは何だ?』
「勇者ハウラスと協力して、人類をまとめようって話があるぞ」
『そんな話は聞いた事がないが・・・・・・まあ、人類がまとまって魔王に対抗しようというのなら、私としても協力は惜しまないぞ』
「それならば、僕に頼まなくても勇者が倒してくれるよ」
『そうか、わかった』
ラデラ女王にはこれからは僕ではなく、勇者と足並みをそろえていってもらわないといけないからね。それに今なら勇者とブレンダ達で異形退治をして来られるかなって思う。まあもう少しLVを上げておいた方がいいかもしれないので、勇者に依頼が行くまではがんばって経験を稼いでおいてもらおう。
ラデラ女王から連絡があった後、ブレンダ達には複数体で襲って来る異形との戦いを想定した訓練もする事にして、専用ダンジョンと僕の特訓というかなりきつい修行の日々が始まった。今回の女王からの依頼は、おそらくドラグマイア国からの正式な依頼として、マグレイア王国を通じて勇者に依頼されると思うのでブレンダ達が勇者と合流するにはぴったりのイベントだと思われる。
まあ勇者がいらないって言うかもしれないけれど、そこはブレンダの交渉次第だろうね。それとまあ普通にブレンダ達の実力もあるかな? だからとにかく今は勇者が依頼を受けるまでに少しでもLVを上げておくべきだろうね~。やっぱり貴族にかかわると面倒事ばかりだな・・・・・・
以降の特訓については、レイシアも協力的なのでお任せする事にして、こちらは生徒達の面倒を見ていく事にした。さすが英雄候補生だと思われる成長具合でLVも上がり、次々と新たなスキルを習得していく彼らに習得したスキルの使い方を説明していかなければいけない。
スキルが使えるかどうかで、経験稼ぎの効率が大幅に影響を受けるから、最近の僕は毎日のようにダンジョンへと潜って、ステータスを確認しては生徒達に指導をおこなっていた。
そんな生徒達もこちらの期待に応えてメキメキと力を付けてくれて、早い者は既に中級ダンジョンへと進んで行っている。最長で一年だと思っていたけれど、最短の者は二・三か月で異形にも勝てるくらいになってくれるかもしれないな。
これはあれだな、リアル成育ゲームとでも考えていればいいかもしれないな。モンスター達もそうだが、自分が選んで育てているユニットがドンドン強く育っていくのは、やりがいがあって面白い。
そういえばホムンクルスはどうなっただろうか・・・・・・錬金パペットのところへと向うと、既にホムンクルスの創造は済んでいて、目の前の机の上には体長十センチ程の小人が三人ボーとしていた。
むー、確かにホムンクルスではあるのだろうが、何かが考えていたのとは違う気がするな。確か名前からすればこれで合っているのだったかな? フラスコの中の小人を指して、ホムンクルスとかいっていた気がするので、合っているのだと思う。
だがここから進化させるには経験値を稼いで、進化先のモンスターのLVまで強くしなければいけないのだが・・・・・・子供でも倒せるスライムにすら、やられそうであった。おそらく、この子達に倒せるモンスターはいないだろうな・・・・・・
生産者としてそして創造を命じた者として、このまま放置する事はできそうにない。ホムンクルスの寿命は、創られた存在であるがゆえなのか、一年あるかどうかだと聞いた事がある。進化させてしまえばそんな寿命など気にしなくていいとばかり思っていたので、気楽に創るように指示を出してしまったのだが、せっかく創られた生命が何もする事なく失われていくのは、創造主としては許せなかった・・・・・・
彼ら用の魔道具を作るのはどうだろうか? 過程はどうあれ、敵を倒せさえすれば経験値になりそうな気もするのだが・・・・・・ボタン一つで敵が吹き飛ぶとか、どうも経験値を手に入れる要素が見当たらない・・・・・・。そうなると、肉体強化系の魔道具かな~。ふと、肉体強化で思い付いたのだが、この子達に僕の加護を与えてみればなんとでもなるのではないだろうか?
試してみよう。
ステータスで確認した限りでは、種族に変化はなくホムンクルスのままだったけれど、加護は無事に付いたようだ。問題は加護の力でどれほどの効果が得られるのかだな・・・・・・初心者ダンジョンへと三人を連れて行き、とりあえずの装備として針をランス代わりに渡す事にする。後はいきなり踏み潰されたりしたらこっちも悲しいのでシールドの魔法で守ってあげて、コボルト相手に戦わせて見る事にした。
まあ結果はわかっていた事とはいえ、針で刺されて死ぬような奴はいないだろうって感じだったよ・・・・・・。加護のおかげなのかちまちま動き回って、コボルトの攻撃を食らう事はなかったものの、こちらの針の攻撃も痛いと思わせるくらいの役にしか立っていない感じだった。
まあそれでも経験になってくれるといいなと考え見守り続けて一時間が経過すると、さすがの僕も諦めるしかないかと思い始めたのは仕方がないと思う。
ホムンクルス計画は完全に中止だな・・・・・・そう思いながら三人を回収に向うと、それを察したホムンクルスが活発に攻撃をし出すのがわかった。
ひょっとして役立たずは捨てられるとか、そんな事を思ったのかもしれない・・・・・・まあさすがに捨てるまでは行かないまでも、さすがに彼らを何かに役立てる事はないだろうからな~
ギャワン!
うん? 今までまるっきりダメージっぽいものを与えられなかった三人の攻撃に、初めてコボルトが苦痛の声を上げた。目でも攻撃されたのかと思って見てみるけれど、そうではなさそうだね。針に刺されたにしては、苦痛の度合いが酷かったが・・・・・・
ギャウ!
様子を見ていると、また針の攻撃を受けたコボルトが悲鳴を上げて泡を吹き出した。三人のホムンクルスは背中辺りを重点的に針で攻撃しているようだけれど、それ程のダメージになりそうな気はしないのだが・・・・・・
そう思ってコボルトの背中をよく見てみる。そうするとようやく何が起こったのかの予想が付いたよ。
おそらく針で神経を刺激したのだと思う。背中の筋には神経の束が通っているだろうから、そこを的確に針で攻撃されて、その激痛によって苦痛を受けたのだろう。
しかし、激痛によって敵を倒す事は出来るのだろうか? 可能性としては心臓麻痺を狙うのがいいかもしれないな。ショック死というやつだ。
まあ、それでも敵を倒した事による経験が手に入るのならば、ホムンクルスの進化は可能なのかもしれない。
あの後、コボルトはショックによる心臓麻痺で死亡した。ステータスを確認してみると、LV一だったホムンクルス達のは四にまで上がっている。コボルト一匹で上がるにしては、盛大な経験だなって思うものの、体格差とかの補正でもかかったのかもしれないね。ホムンクルスからしたら、コボルトは立派な巨人だからな~
まあしかし最初の進化先として、コボルトになるにしてももう少しLVを上げる必要がある。なのでもう一体コボルトの相手をしてもらう事にした。
まあ連戦はきついだろうから休憩は挟んだけれどね。
二体のコボルトを倒すと、ホムンクルス達のレベルはLVが六になった。拠点へと戻ると早速データベースを確認する事にする。
真似をしてなのか、ホムンクルス達も一緒になってデータベースを見ていた。モンスターのリストを見ると、スライムやコボルト、スケルトン、ゾンビ、後は野生の動物や昆虫辺りが、LV六で進化出来そうなモンスターみたいだ。この中ならスライムがいいのかな? とりあえず、針でちまちまやるよりよっぽどいいだろうから、進化してもらう為の説明をホムンクルス達にしていく。
いきなりやると僕と同じで怖い思いをするだろうから、実際に進化させるところを他のモンスターでやって見せた後で、早速試して行く事にした。低級なモンスター達を使った合成なので、進化先も低級だろうと思っていたところ・・・・・・合成の光が消えて現れたのは、再びのホムンクルス・・・・・・
これが失敗でないと直ぐにわかったのは、素材に用意したスライム達が消えていた事と、見た目が変化していたからだった。種族は同じホムンクルスのままであったものの、姿は子供サイズになっていた。うーん、一応寿命問題はあるものの、経験集めはしやすくなったのでこれは有りなのかな?
とりあえず、データベースに登録してから他の二人も進化させる。後服を裁縫パペットに作ってもらった・・・・・・
身長自体は子供サイズでも、スタイルは十五・六歳くらいの人間を縮めた感じだったので、さすがに衣服を着てもらいたかったよ。とりあえず、お茶とデザートでも食べさせながら、針による攻撃の仕方みたいなコツを記録に残してもらう。予想通りに知能が高く、彼らは既に会話はもちろん読み書きもこなせる程頭がよかった。
後々ホムンクルスで部隊を作るとしたら、この記録が役に立つだろう。
その後のホムンクルスには、役割を決めて三人でパーティーを組んでもらい、初心者ダンジョンで英雄候補達に混じって、経験集めをしてもらっている。役割というか、職業になるのかな? 人数が少ないので職を兼任してもらい、まずは前衛の戦士と狩人の技術を学んでもらう者。この子は男の子のホムンクルスだった。次は盗賊の技能と戦士の技術を学んでもらう。この子も男の子で、前衛の子が盾役としたら、こっちの子はアタッカー向きの戦士かな。最後が女の子で、魔法使いと神官の技術を学んでもらった。幸い魔法使いとしての能力も持っていたので、教えたら教えただけ吸収してくれ、魔法も使いこなせたよ。
神官職については、この世界の神の影響を受けていないようだったが、どうやら僕から力を引き出しているようなので、バグ教みたいな感じなのかな・・・・・・守護しているので、まあそんな感じになっていた。
数日の間ホムンクルスの方に力を入れていると、どうやらラデラ女王からの正式な依頼がハウラスに届いたようで、ブレンダ達が早速ハウラスと接触して自分を売り込んでいた。ハウラスとしては、この依頼をきついので断るつもりだったようだけれど、ブレンダ達が来たので受けると返答したようだ。断ろうとしていた理由については、前回の上級冒険者を集めての魔王討伐作戦が失敗した事により、それまで一緒だったパーティーメンバーと上手く行かなくなってしまった為、またソロに戻っていたそうだ。
まあ、ブレンダ達としては運がよかったのか、上手くそこに滑り込めたという感じだね。これによりブレンダ達は勇者ハウラスのパーティーとして、行動を共にする事になったようだった。まあ、まだ付いて行けるかわからないので、お試し期間らしいけれどね~
ハウラスが依頼の異形退治に出向いている間に、ハウラスの教育用ダンジョンを改装してブレンダ達も鍛えるように造り替えつつ、こっちにあったブレンダ用ダンジョンを上級ダンジョン卒業者用に改装する。分類するなら英雄用ダンジョンとでもいえばいいのかもしれないな。
一応上級ダンジョンをクリア出来るLVになったら自分達の故郷に帰ってもらってもいいのだが、もう少し鍛えたい人向けって感じかな? まあ、まだまだ先になると思うけれどね~
その後数日生徒達の様子を見ていると、上手く行っていないパーティーを発見した。どうやら、個性が強過ぎて上手く連携する事が出来ていないようだね。そう思い、そのパーティーは殆どのメンバーをソロで活動出来るように指導していく。実際の話し、地元に戻れば彼らの大半はソロで活動して行ったり地元の冒険者と組んで活動して行くので、ここでソロになってもそこまでの影響は出て来ないと思われる。
その代わり、罠の解除で手間取ったり怪我を治せなくてきつかったりっていう不利な部分もあるのだけれどね。まあ彼らならば力押しである程度は行けるだろう。問題はそういう力押しが出来ないあぶれたメンバーなのだが、盾役の戦士と回復役の神官が、そういう押せ押せでは進めない状態になっていた。
なので二人にはこちらのホムンクルスと一時的にパーティーを組ませて経験値集めをしてもらう事にした。まあ当然というのか、こんな感じの文句は出たけれどね・・・・・・
「子供とパーティーを組めっていうのですか?」
「ただでさえ戦力が足りなくなっているっていうのに、子守なんかやっていられませんよ」
そんな文句を言って来るので、論より証拠とばかりに模擬戦をやらせてみる事にする。この手のやからは口での説明では納得しないのだよね・・・・・・
ダンジョン前の空き地でホムンクルス三人対、戦士と神官が戦闘を開始する。
初めに攻撃を仕掛けたのは英雄候補の戦士からだった。その攻撃を盾で滑らせるように受け流すとともに、盾による強打を叩き込み、すかさず体勢の崩れた戦士の死角からアタッカーのホムンクルスが槍による突きを繰り出した。
「くそっ!」
不利を悟った神官が慌ててスタッフを割り込ませて、何とか槍の攻撃を防ぐ。その背後から魔法使いのホムンクルスが捻じ曲がったスタッフによる攻撃を神官に叩き込むと、神官がたまらず地面に倒れ込んだ。まあ、魔法使いの物理攻撃なんか、そうダメージのあるようなものではないので、直ぐに立ち上がるけれどね。
戦士が変わりに体勢を建て直し、神官を庇うように盾を構えるのだが、ホムンクルスは三人で二人を囲んでいて、誰を警戒したらいいのかわからない感じになった。
僕なら魔法使いを先に倒そうとするな。
しかしその戦士は一番厄介そうと判断したのか槍を持ったホムンクルスを警戒して盾を構える。それを受けたホムンクルスは三人一斉に攻撃を仕掛けていった。
盾が槍を弾き返している間に、剣で盾を持ったホムンクルスを牽制しようとしていたようだけれど、その攻撃も盾であっさり受け流され、逆に剣を叩き込まれている。それだけではなく、盾で槍を弾いた事に安心していたところを、左手にサブ武器としてシミターを引き抜いていたアタッカーのホムンクルスの攻撃まで、盾の横から突き出されていてまともに受けてしまっていた。
めった刺しだな~。そう思っているところに、魔法使いのホムンクルスが起き上がろうとしていた神官を殴り付けている。うーん、二人を相手に攻撃を止めれないばかりか、味方も守れていないな~。まだまだこいつらは初心者から抜け出せていないのだろうなという評価を下す。
「そこまで~」
まあ実力を理解させる模擬戦としてはこんなもので十分じゃないだろかね~
「子供のお守りは嫌だとか言っていたが、どちらかといえば守ってもらう立場だと理解出来たかな?」
「・・・・・・。はい」
「言っておくが、この子達もまだまだ実力が足りないから、ダンジョンで修行が必要な状況だ。文句が言いたいのなら、相応の実力を付けるのが先だと思う。まあ本当に英雄になりたいのなら、人の足を引っ張ったり見下したりはしないものなのだがな~」
「っ! 生意気を言っていたようで申し訳ありません。今後ともご指導お願いします!」
「そうか、まずはこの子達とチームを組んで、一緒に強くなれ。目指すは中級ダンジョンじゃなく、上級だぞ」
「はい!」
ちゃんと反省できるだけ、まだ見込みがあるってものだろうね。ホムンクルス達にはせいぜい二人をこき使って、経験値の荒稼ぎをするように伝えておいた。
こっちとしても、慈善事業だけでLV上げのスピードを落としたくはないからね。人数が増えた分、多少の無茶も出来るようになるだろうから、一気に経験を稼いで行ってもらいたいものだ。
久しぶりに魔王軍のメンバーで集まり、それぞれの進み具合等を報告しあった後、僕とレイシアは僕らの拠点でのんびりとしていた。
こっちに来るのもかなり久しぶりだな。
「たまにはこっちでのんびりするのもいいね」
「そうだな。こっちに来ると家に帰って来たって感じがするよ」
「あ、私もそう思う。結構長い間ここで過ごして来たしね」
「ああそうだな。そういえば、レイシアの髪もかなり伸びたな」
昔を振り返ったからか、出会った頃はショートヘアーだった髪の長さが、腰くらいの長さまで伸びているのに気が付いた。結構毎日のように見ていると、気が付かないものかもしれないな~
「短い方が好き?」
「いや、好みで言ったら、長い方が好きかもしれないかな。でも、髪の手入れとかは大変だって聞いた事があるぞ。それに冒険していると邪魔になる事もあるだろうし、短くしてもいいかもしれないな」
「じゃあ、問題が出て来るようなら、短くするね」
「そうだな。それにしても髪がそれ程伸びるくらい時間が経っていたのだな」
「そうね。いろいろな事があったね」
「だな。まだまだやる事は一杯あるけれどな~」
「がんばろうね・・・・・・」
たまには昔を振り返る時間も必要だろう。レイシアと話しながらそんな感じで昔話をしながら過ごして行った。




