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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第二章  マジで死ぬかと思ったよ
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新米PT

 散々暴れた割には一週間という期間で解放された理由は、おそらくここが異世界で魔法の力があったからだと思われる。だって校舎の修理も怪我の治療も魔法でできちゃうのだから、そりゃあ元の世界より治すのは早いよね~

 迎えに来たレイシアと会うのも、なんだか随分と久しぶりだなって感じてしまう。

 僕はスライムの時のように肩には乗らず、彼女の横に浮いて付いて行った。ちょっとレイシアは慣れないみたいだったけどね。まあそれも今だけだろう。

 その状態で廊下を進んでいると、男女問わず生徒達が僕達を避ける様に左右に退くのがわかる。以前は馬鹿にした視線を送っていたのに、随分と変わったものだな~

 まあこの状態がいいか悪いかはなんとも言えないのだけど、レイシアはどう思っているのかな? ちょっと炎を消して反応を見てみた。

 透明になった僕に反応して、レイシアが首をかしげて横を見る。

 「バグ?」

 ちょっと不安そうな感じ。

 うーん。姿を消すのはあまりお薦めしない感じか、避けられているのを見てもそこまで気にしていないようだし、周りを気にする必要もないようだな。

 炎をまとって姿を現すことにした。レイシアが気にしないのだったら、僕は僕のままでいいや。

 うん、姿を見て普通に戻ったようだしこのままでよさそうだ。


 一緒に教室へと向かっていると前方に、今までレイシアの事を馬鹿にしていた連中が見えて来た。

 そして僕の姿を見付けると慌てて、廊下の端に避けるように移動する。

 あー、そんな態度するとからかいたくなるよな~

 スライムの時は、自由に手が伸びたのだけど、今回は右手に炎の鞭を出して、その生徒に向かってぶんぶんと振り回してみた。

 おーおー、慌てて逃げて行く。

 「バグ、やめなさい」

 うーい。まあ逃げちゃったしこれ以上からかえないから、どっちにしてもやめるしかないのだけどね~

 軟禁されていた間にいろいろ試したから、いろいろからかう方法はあるのだけど、まあ今日のところはこれで許してやるか!

 教室の中に入って行くと中にいた生徒達の雑談が、ぴたりと止まって張り詰めたような気配が漂って来る。

 「おはようレイシアさん、バグも」

 「おはよう、ブレンダ」

 「キュイ(よー)」

 今までと違い、ブレンダが挨拶しながらレイシアの隣の席へと座って来た。

 こんなところも今までと違って来たのだなーって思いながら、まあレイシア自体は相変わらず後ろの方の席に着いた。前に座っている生徒達はそんな僕達が気になるのか、ちらちらと様子を窺っている様だった。

 からかってやりたい気持ちもあるのだけど、あまり手の内を見せるのもなんかしゃくだし、僕はちらちら見て来る生徒達に廊下で見せた炎の鞭を出して、こっち見るなと振り回して抗議する。

 やがて生徒達もこっちを窺うと鞭が飛んで来る事から、なるべく見ないよう気を使うようになった。

 今までと違い、油断ならないモンスターになって、下手に刺激したらやばいって感じかな?

 「今まで最弱のモンスターだったスライムが、炎の上位精霊になったんだもの凄い大出世よね」

 「さすがにドラゴンは無いって思っていたけれど、上位精霊も予想外過ぎたよね」

 「もうバグに関しては、常識が通じないって思った方がよさそうね」

 「でも、例えばゴブリン辺りに進化したとしたら前の戦法が使えなくなるから、進化というより退化になりそうなんだよね」

 「確かに、それは大幅な戦力ダウンよね。って事はバグの場合の進化は、以前よりも戦術の幅が広がる方向に進化するって事かしら?」

 「どうなのかな、まだ一回だけの進化だから情報が足りな過ぎるわね。それに今回の事で、もう気軽に進化させる気が起きないわ」

 「確かに、流石に姿が見えなかった時は、やっちゃったって思って焦ったわよ」

 そんな雑談をしていると、教室にケイト先生がやって来た。先生に会うのも久しぶりだな~

 挨拶代わりに手を上げると、少しビクッとするのが面白かったりする。今回たまたま上手くいっただけで、今でも微妙に恨めしい気持ちは残っているのだ。

 ケイト先生はちょっとやりにくそうな感じで、魔法の授業を始めた。


 特に何事もなく午前の授業が終わり、僕達は食堂へと向かった。

 いつもなら僕も一緒にご飯を食べるのだけど、流石に精霊になった僕にはこんなものは燃えるだけのもので、食べたいともなんとも思えない。

 レイシアがご飯を一緒に食べられないのかって感じでこっちを見ていたので、そうだな・・・・・・食べるならこれって感じで、厨房の中で使っている料理用の炎を少しだけ食べて見せる。

 それを見てレイシアやブレンダは、なるほどという感じで何か考えながら自分達のご飯を持って、テーブルに向かった。

 「一緒に食事するなら、調合で使うアルコールランプを持ち歩くのがいいかもしれないわね」

 「確かに、それなら持ち運びも便利だしいいかもしれないね」

 あー、確かにそれなら一緒に食事って感じになるかもな~

 まあ今の僕としては、そんなにがつがつ食べる感じじゃないのだけれどね。

 お喋りしながらの食事が終わり、午後からの実技の授業の為、レイシア達が着替えに向かったのだけど。

 今回は部屋の外で待たされる事になった。

 精霊とはいえ、さすがに男の姿をしているのが、どうやら気になったようだ・・・・・・

 これ両手にバケツ持っていたら、廊下に立たされているみたいだな。そんな事を考えていると余計に虚しいと言うか、寂しいと言うかズーンとした空気を感じる。

 部屋から出て来た少女達がそんな僕を見て、ビックリしながら移動して行く。


 待っていると、着替えたレイシアが出て来たので、一緒に訓練場へと向かった。

 座学とは違い、実技はレイシアにとって苦手な授業である。

 今日も、基礎魔法からの復習を周りの生徒達が始め、気乗りしない感じで遅れてレイシアも基礎の魔法を使う。

 「我と踊れ、ファイア」

 今までと違い極々短い詠唱と共に、レイシアの指先に燃え盛るような炎が浮かぶ。

 周りの生徒達が、えっ? て感じで動きを止めレイシアに注目した。

 今までまともに詠唱すらできなかったのに、いきなり力強い炎を呼び出したのだから、そりゃあビックリもするってものかもね。

 多分これは以前の僕の逆パターンで、今度はレイシアが契約を通じて、僕から炎の力を受け取っているのだろう。炎を出した本人のレイシア自身も、自分で出した炎に驚いていたりする。

 でもこれって多分火属性だけじゃないかな?

 逆に僕は、火属性だけしか使えなくなったし・・・・・・

 あー、そういえばレイシアのMPを使うのなら、他の属性が使えたりするのかな? ちょうどいいので試してみるか~

 「キュルル(氷よ)」

 とりあえず、氷を出してみる事にする。

 自分の対極の属性なのでこれに成功するなら、どの属性も使えるって事だと思うしね。

 果たして結果は、無事にレイシアからMPを貰い、氷を生み出す事には成功した・・・・・・ただ一瞬で溶けて、水になり蒸発してしまったけど・・・・・・

 生み出せても使えね~。これ植物とか出したら、一瞬で燃え尽きるよ。金属なら溶ける?

 この事から実体のある属性は、相性が悪いって事がわかった。ということでお次は実体のない属性をいってみるかな。

 「キュキュ(闇よ)」

 手の先が暗闇に閉ざされる。なんか手が闇に食べられている感じで寒気がするな。

 気分的なものだけれど、あまり使いたくない気がする。おそらく今の僕なら無理をすれば、氷も使える感じだね。

 そして問題なく使えそうな属性は光辺りだと予測できた。いろいろ試している隣では、予想通り火属性のみ使えるようになったレイシアが、他の属性に四苦八苦していた。


 「えー、来週からこの時間は、町の冒険者ギルドに行ってもらい、自分達に合ったクエストを引き受け、それをクリアしてもらいたいと思います。

 実力的に厳しいと思われる人は、ギルドでベテラン冒険者の人を勧誘するなどして、クエストをこなすことも可能です。ただしその場合は、評価自体多少下がる場合が出て来るかもしれません。無理せず、自分のできる範囲でがんばってみてください」

 授業の終わり、先生からこんな事を言われた。

 自動車学校でいう、仮免って感じかな。討伐系とかならまあ何とかなると思う。

 僕達は学外実習に向けて、必要な知識や準備などを整えて行った。

 まずはパーティー、今回のレイシアが入ったパーティーは四人編成だった。

 レイシア自体は初歩的な魔法も満足に使えないままだが、それでも火属性だけは使える事とその欠点を補って余りあるとされる、僕の戦力を見込まれて幾つかのパーティーに誘われるという変化が起きていた。まあ即断っていたけれど。

 初めからレイシアはソロもしくは、ブレンダのパーティーで行こうと決めていたみたいだ。

 ブレンダと組むに当たっては、当のブレンダが流石に魔法使い二人のパーティーではバランスがよくないと判断して、パーティーメンバーに二人の仲間を引き込んで来た。

 その二人は、前衛として戦士教室から盾を使うランドル。神官教室から、回復と自衛くらいの戦闘ができると言っているフェザリオ。どちらも男が参加する事になっていた。

 聞く所によれば、ブレンダの家の関係者の子供だという話だ。まあ親戚とかではないので、ほぼ他人というかせいぜい顔見知り程度だな。

 まあそんなメンバーでクエストに参加すると、学校へは報告されている。

 そしてギルドで受けるクエストは、当日ギルドで受ける事ができそうな、討伐系をやる事にしたみたいだ。

 探し物や護衛、収集系などさまざまなクエストの中で学校の評価が高いのが討伐系で、その中でもそれなりのモンスターを倒す事ができた者は、高評価をもらうことができるのだそうだ。

 このパーティーには僕がいる事から、そこそこの討伐クエストをこなすことができるとブレンダが判断して、盾持ちの前衛と回復職である神官のメンバーを、引き入れたっていう経緯らしい。

 パーティーの準備やクエストの方向性が決まった後は、当日までパーティーでの連携を試す為に、訓練場でお互いの意見交換がおこなわれた。


 「キュルル(弱い)」

 僕が撃ち出した炎の鞭が、ランドルの持つ盾を強打した瞬間、彼は体勢を崩して尻餅をついてしまった。

 あまり真剣にやると圧倒しちゃうけれど、程々でも模擬戦自体は好きな方だからこんな遊びみたいなものでも、面白いのだよね~。だから手加減はしつつ、容赦なく戦わせてもらおう。

 体勢を崩したままの彼の横を悠々と通過して、パーティー唯一の回復職であるフェザリオの前へと躍り出て、神官に対しても炎の鞭で攻撃を加えて行く。

 盾を突破した僕に対して援護射撃の攻撃が、後衛の二人から飛んで来る。

 「焼き尽くせ、ファイアアロー」「飛沫よ凍れ、フリーズブリッド」

 レイシアの魔法は僕にとっては、避けるまでもなく回復が飛んで来たみたいなもので、無視してブレンダの攻撃は盾を作るまでもなく回避してそのまま、フェザリオを手加減して撃ち払う。

 こいつら、パーティーとして、全然連携できていないな~

 レイシアにいたってはド素人って感じで、完全に何をしていても無視していて問題がない。この子、何で冒険者なんかになろうとしているのだろうって思うよ・・・・・・

 ランドルは腰が引けまくって全然盾の意味がない、おまけに真正面から受け止めるものだから、衝撃をもろに受けちゃって、これじゃあ自分より弱い攻撃しか受け止められないよ。

 フェザリオも、これでよく自衛くらいはできるなんて自己申告したものだ、はっきり言ってレイシアより体力がありますって程度で、戦闘ができるレベルには達していない。

 最後ブレンダは唯一まともな判断と、ちゃんとした攻撃をして来ているけれどまあこの程度なら怖くないな・・・・・・

 パーティーのみんなとお互いに無言で見つめ合う。

 どうしようかなって感じだよね。ブレンダ以外は手も足も出なかったさっきの模擬戦闘をぼんやりとして思い返していると、ブレンダはここまでとはって感じで呆れていた。

 「キュキュル(いでよ、サラマンダー)」

 仕方ないので下級精霊に属する炎の精霊を召喚、模擬戦闘のレベルを思いっきり引き下げる事にした。

 ブレンダがこちらを見て、まあそれも仕方ないかって顔をする。

 こちらの意図がわかったようで、少しだけ自尊心が傷ついた感じだ。


 後ろに下がって、サラマンダーに相手を任せ次の模擬戦闘を見ていると。背後からケイト先生が話しかけて来た。会話、成り立たないのにな・・・・・・

 「苦労しているみたいですね。まあ出来立てほやほやのパーティーでは、仕方ないのかもしれませんが」

 どうせ話しても会話が成り立たない事はわかっていたので頷いて同意し、再びみんなの様子を窺う。

 サラマンダーは僕と違って、火の玉を撃ち出しパーティーメンバーをランダムに攻撃。それをランドルが、シューティングのように盾で防ぐ。

 まあ盾の役割として間違ってはないのかもしれないが、その動きで後衛職が魔法の射線を塞がれ、攻撃できなくなっている。

 それにしてもレイシアは何で召喚使いなのに、僕以外の召喚を出そうとしないのだ?

 火属性に火の攻撃は意味ないから、せめて召喚した何かで攻撃なり援護なりした方が有効なのに。

 先生に頭を下げてまだゲームのようなやり取りを続ける彼らの方、レイシアの元まで移動して行く。どうせレイシアはいてもいなくてもいい感じなので、戦いを無視してこちらの意見を伝える事にした。

 レイシアの足元の地面に、簡単な絵を書いていく。

 狼やら鳥といったモンスターを描いて、対峙する様にサラマンダーを描く。棒人間を狼達の後ろに描いて棒人間から狼へ矢印、同じように棒人間から鳥へと矢印、今度は狼からサラマンダー、鳥からサラマンダーへと矢印を描いていく。

 レイシアの様子を窺うと、瞳に理解の印が窺えたので後は様子を見てみようと、先生のいるところまで下がった。

 「召喚、ウルフ。召喚、ファルコン、サラマンダーを攻撃!」

 レイシアは、呼び出した下僕達に攻撃を指示した。

 ウルフはランドルの右から飛び出してサラマンダーの隙を窺い、鷹は上から隙を窺うように旋回する。

 あー、心の声が聞こえるようだ。ちょっと通訳してみるか。

 (こいつ燃えているぞ、こんなのどうすればいいんや)

 (いや、そうはゆうても、ご主人の命令には逆らえまへんで)

 何でこいつらエセ関西弁? あまりの進展のなさに、思わず僕の頭の中が遊び出してしまったよ・・・・・・

 結局のところランドルは戦士っていっても恐々と盾を振り回すだけの落ちこぼれ、フェザリオも回復専門でレイシアは召喚したモンスターに全てお任せ。

 火力になるのはブレンダしかいないパーティーって事だな・・・・・・

 僕はこのパーティーを、そう評価する事にした。


 あまり練習になっていない訓練を当日まで続けて、僕達はいよいよギルドに、クエストを受けに出向く事になった。相手次第だけど、まあ何とかなるだろう。気楽にそう思いながらギルドの中へと入って行く。

 「お、おい見ろよ。あの学生達、上級精霊を連れているぞ」

 「確かに、あれは上級の精霊だな。って事はあの中に優れた精霊使いがいるって事か」

 「そいつは掘り出し物だな。ぜひうちのパーティーに入れたいものだぜ」

 僕らがギルドの中に入って行くと、周りのベテラン冒険者達がざわざわと話し出した。

 確かに下級中級の精霊使いとかは、ゲームなどでもよくいる感じだけど、流石に上級の精霊を使う精霊使いっていうのは、かなりの素質が必要とされているのがどのゲームや小説、物語でも共通した認識だろう。

 でも僕を呼び出したのって、精霊使いじゃなくて召喚術士なのだよね~。そして元はスライムからの進化だって、誰も予想できないだろうな・・・・・・

 ベテラン冒険者達に見られながら、僕達は受付の前にやって来た。

 途中勧誘なりなんなりで声をかけて来る人がいるかもと、少し警戒していたけどそういう連中は特にいなかった。暗黙の了解みたいなものがあるのかもな。まあ、面倒がないならそれでいいか。

 「討伐系の依頼を見せて下さい」

 ギルドにはクエストが張り出されているけど、僕らはそっちには行かないで、直接受け付けにクエストを教えてもらいに行った。過去に勝手に行っちゃった子とかでも、いたのかもしれないな。

 「現在学生が参加できそうな討伐依頼は、こちらになっています」

 厚手の羊皮紙が何枚か、その羊皮紙に読めない文字で何やら書いてある・・・・・・

 わっからね~

 そういえば翻訳の魔法とかってゲームならなかったか? イメージとしては翻訳システム手帳って感じで、ちょっと試してみるかな。

 「キュルルル(リードランゲージ)」

 「あ、こら、何の魔法を使った!」

 ブレンダが慌てて僕と周囲を見回す。特に周りに変化は起こらなかった。まあ当然、文字を理解する為の魔法を、自分にかけただけなので、周りに何かしらの変化などは、起こらないはずだ。失敗でなければだけれどね~

 さてさて、こちらの文字を読めるようになったかな~

 レイシアのMPを奪って発動させた魔法の効果を確かめる為にも羊皮紙を覗き込む。

 あいかわず周囲の変化を眺めて警戒しているブレンダを無視して依頼表を見てみると、おーおー、読める読める、字幕のようにではなくちゃんと日本語になったように目には映っているので普通に見やすいよ。魔法って万能だな~

 えーと何々、雑魚の定番ゴブリン退治から狼退治、ハーピー退治に猪退治、熊退治に蜂退治、スケルトン退治。スライムは無いでやんの・・・・・・

 それにしてもこれで行くと、一番強そうなのは熊くらいかな?

 僕ならもうワンランクくらい、上のクエストが欲しいところだな。初のパーティーなのでランク的には、ミノタウロスあたりの討伐が欲しいところだ。

 ブレンダが特に何も起こっていないと確認して一覧をチェックし出すが、やはり彼女もたいした依頼がない事に少し不満そうにする。僕は伝わるかどうかわからないが、ブレンダがこちらを見た時に頭の上に角って感じの合図、手に斧って感じの演技をしてみる。あ、伝わったっぽい。

 「すみませんが少し依頼一覧の相手が、小物過ぎるのでもう少し対象を上げてもらえないでしょうか?」

 「少々不満に思われるかもしれませんが、こちらとしても無理な斡旋をして何かあった場合は、ギルドの面子にかかわってきますので、そこは我慢していただくしかないかと思います」

 やっぱりそうなるか、僕らの実力を証明できれば、大丈夫って事だと思うのだけど・・・・・・

 そう思ってみんなの様子を見ていると、レイシアのバックパックが目に入り、ひょっとしたらって考えが頭をよぎる。

 レイシアにバックパックを示すように合図を送る。首をかしげながらもレイシアがバックパックを下ろして、僕に中身が見やすいように入り口を開いた。

 手にまとう炎を消してバックパックの中を漁り、これかなって感じの物を引っ張り出す。

 取り出したのは、ミノタウロス討伐の時に回収された戦利品の数々、ついでにリザードマンの物も引っ張り出すと、ブレンダがなるほどって感じで、出したアイテムを受付の前の台に並べ始めた。

 「えっと私達は、依然ダンジョンに潜った時にリザードマン、ミノタウロスランクのモンスターなら問題なく倒せるだけの戦力を持っているのですが、これで上の依頼を見せてもらう事はできないでしょうか?」

 「えっと少々お待ちください、今鑑定家の方で念の為に調べてもらいますので」

 「わかりました」

 そう言うと受付の人は奥へと引っ込み、僕らは受付側の椅子に落ち着いた。

 まだ周りで様子を見ていたベテラン達が、僕らを見てざわざわとしていた。

 「おいおい、学生でありながらもう、ミノタウロスを余裕って、どんな天才だよ」

 「いやいや、上位精霊がいるのなら、逆にそれくらいは楽に倒せるだろうよ」

 「上位精霊に勝てる奴なんか、早々こんな町になんかいやしねえよ」

 「あーそういや、上位精霊なんかほとんど化け物並みの強さだからな、ドラゴンでも連れて来ない限り、相手にもならないのか」

 「そう考えると、やっぱうちのパーティーに引き入れたいな」

 「馬鹿言え、俺達のパーティーにこそ相応しい。こっちとら、ドラゴンや悪魔なんかと戦っているのだからな」

 がやがやと騒がしい。


 しばらくそんな騒がしさの中、耳を傾けて暇つぶしに聞いていると、受付の人が戻って来た。ブレンダが素早く受付の前へと移動したので、一緒に前に出る。他のパーティーメンバーは、のんびりと後ろから歩いて来ていた。

 「それでは、こちらの依頼表から選んでもらえますか?」

 僕はブレンダと一緒に、その一覧表を覗き込んだ。リザードマン退治、マイコニッド退治、スペクター退治、ジャイアント退治、ミノタウロス退治、ラミア退治、ヴァンパイア退治。おー、一気に討伐ランクが上がったな。

 念の為僕はヴァンパイアを指差して、首を振っておいた。

 こいつは頭がよければ、僕達では苦戦しかねないと思ったからだ。ブレンダがわかったって感じで軽く頷く。まあ他の相手ならどれでもいいかな?

 ブレンダは一覧をじっと見詰めた後、受付に向かって声をかけた。

 「すみません、ではこのジャイアント退治の詳しい情報をお願いします」

 「わかりました」

 受付の人がいくつかの紙を見て、そのうちの一枚をブレンダの方へと差し出す。

 「ありがとうございます」

 受け取ったブレンダがそれを僕達にも見えるように差し出して、情報の確認をして来る。

 僕も中身をいちべつして土地柄以外おおむね問題ないと思った。この世界の土地勘なんかないので、どこどこにいますよって書かれていても、判断なんかしようがないのだよね~

 依頼を見ていたレイシアは、ふーんとあまり考えていない様子。

 他の二人は僕らにジャイアントなんか、倒せるのかよってちょっとビクビクした感じ。そんなパーティーを眺めた後、ブレンダがこちらを見詰めて来た。

 あー、最終判断、僕なのね。問題ないんじゃないかって感じで頷いておいた。

 「それでは、ジャイアント退治のクエストを受けたいと思いますので、受付お願いします」

 「わかりました、本来であればギルド証などの提示等あるのですが、今回は省かせていただきます。こちらの討伐依頼書を熟読していただいて、問題がなければ下のところに皆さんのサインをいただきます」

 そう言うとなにやら契約書らしきものを差し出して来たので、覗き込んで確認する。ようは依頼に失敗してもギルドに対して文句を言いません。依頼を途中キャンセルした場合や失敗した時などは罰金が発生するとか、そういう契約書だった。

 成功した場合の報酬なども書き込まれていたが、お金は学校に寄付されるものとなっていた。

 これランクの高い討伐に成功したら、この成功報酬で成績が付けられるって事なのだな。お金を一杯稼いで、一杯寄付した生徒が成績優秀者って訳で、稼いだお金はそのまま学校の運営資金となる。

 おー、結構上手い事考えているな~

 みんながサインを終えたら、僕らは早速町から討伐地域近くへ向かう為、乗合馬車へと向かって移動を始めた。


 現地へは、馬車で二日山の中に入り、約一日かけて登った先の廃墟って日程になるようだ。道中アクシデントなど含めると、往復で大体八日から十日位の冒険になるのかな?

 割とガッツリした冒険になりそうだな。女子二人が気楽な感じで馬車に揺られているのに対し、男子二人はまるで死地に向かって進んでいるかのように暗い顔をしている。まあいきなり戦う相手としては、ジャイアントはかなりの強敵だからこれは仕方ないのかな。慰めたりなんかしないけれどね!

 のんびり外の景色を見ながら進んでいると、森に沿ってゆっくりとカーブするような道の途中で、森の中から矢が放たれた。まるで警戒などしていなかった僕達がそれに気付く事はなく、馬車の御者をしている中年のおじさんが呻きながら倒れ、異変に驚いた馬が後ろ足で立ち上がって突然急停止する。

 馬車が止まった事で何やら異変が起きた事に気付いた僕達だが、とっさに反応できたのはどうやら僕とブレンダだけのようだ。

 馬車の中にいるお客さんは僕達冒険者四人と、旅行者なのか二人の男女の一般人のみ。その為僕は脅かさないように炎を消して馬車に幽霊のように漂っていたのだけれど、その状態なら壁抜けができるので、異変が起きたのであろう御者台の方へと壁をすり抜けて移動した。

 ブレンダは今更のように、警戒していなかった事を悔やみながら杖を取り出している。

 外に出て直ぐに気付いた事は当然のように御者の事で心臓の近く、幸いにして急所はわずかに外れていたけれど、ほぼ致命傷の位置に矢が刺さっていた。

 その様子から一分一秒を争う状況だと判断する。回復がいる事はいるのだが、フェザリオはまだ新米である事から、復活などの魔法はおそらく使えないと思う。回復自体もおそらくは初歩、よくて中級までではないだろうか。

 そんな状況で、敵を相手しながらの治療は難しいと判断した。

 「キュルクルキュルル!(殲滅せよ、ファイアランス!)」

 のんびりと訓練のような戦闘をしている時間は無いと考え、馬車に向かって来る山賊達に向けて、炎の槍を一人に付き一本、爆撃機からミサイルを撃ち出すイメージで右手を振り回して撃ち出していく。

 「なっ、炎の化け物?」

 最も近くそれでいてリーダーっぽい悪党顔の男が、突然御者の近くに現れた僕に驚きの声を上げる。

 そんな驚きの間にも放った炎の槍が瞬きする間に到達し、それぞれの目標の胸に突き刺さっていく。流石にミサイルのように多少の誘導性を持たせて放たれた槍を、誰一人としてかわす事ができずに声を上げる事もなく絶命し、その後に炎の影響で燃え上がる。数はおそらく二十近く。

 僕は馬車から飛び降りて来たブレンダ、おそらく一番に出て来ると思っていた予想通りの人物に、左手を上げて御者の方を見るように指示を出した。

 その指示を見てそちらに目を向け、ブレンダが直ぐに僕の言いたい事を把握。馬車の中から引きずり出すように、フェザリオを連れ出して、御者のおじさんの元へと向かった。

 「フェザリオ、早く治療魔法をお願い!」

 そんなブレンダの声を聞きながら、他に隠れている山賊がいないかもう一度索敵する為に、馬車の屋根の上から周囲を窺う。とっさだったけれどさっきの炎の槍で、森の中に隠れていた山賊も一応わかる範囲で潰してはいたのだけれど、撃ちもらしがあったらいけない。

 ついさっき油断したばかりなので、ここは集中していこうと考えた。そして、まあこっちはおそらくいいのだが、一向に回復魔法を使われた気配がしてこない。

 今は一分一秒が大事な状態なのにと思いながら、何でと思い御者の方へと向かった。

 そして理解した。フェザリオは死に掛けている御者のおじさんを目の前に、真っ白になってしまっていたのだ・・・・・・

 「キュルギュルッル(彼者に癒しを、オールヒール)」

 やっとこちらに向かってやって来たレイシアが、直ぐ隣で崩れるように倒れたのがわかる。ちっ、上級回復魔法を使う為のMPが少しばかり足りなかったか。僕はわずかな怒りを覚えながらも、フェザリオを視界に入れる。

 「キュルル、ギュウウル(お前のMPをよこせ)」

 僕がフェザリオに右手を向けると、レイシアに続いて彼もその場に崩れ落ちた。

 その間にレイシアは、ブレンダに抱えられている。それにしてもMPの最大量もレイシアに劣っているのだなこの男は・・・・・・。魔法の抵抗も低いと見えて、MPも問題なく吸収できることもわかった。

 僕は確保したMPを使い、途切れていた回復を御者へとおこなう。それによってほんとにぎりぎりと思われるが、御者は一命を取り留めたようだった。

 「キュル、キュルウ(お前もMPよこせ)」

 結局役に立たなかった戦士のランドルからもMPを少量抜き取り、気を失ったレイシアへと分け与える。

 ランドルはちょっとふらついただけで特に問題なし、レイシアもMPを分けたおかげで目を覚ましたようだ。

 フェザリオはもう、完全に役立たずの足手まといだから、僕はもうレイシアのMPポットとしか、扱わない事に決める。何が神官で自衛もできるだ!

 本職である回復すらまともに使えないようでは、まるっきり戦力にならないじゃないか。怒りに反応して僕の周りは、炎が荒れ狂っていた。


 「とりあえず、一命は取り留めたみたいです。目を覚ますまで、しばらくはここで休憩になると思ってください」

 一般人である二人への説明として、ブレンダがそう声をかけていた。そして安心させるように、微笑みながら付け加える。

 「移動できるようになるまでは、私達が周辺の警戒をしますので、楽にしていて下さい」

 「はあ、わかりました」

 中年の女性の方が、それに返事を返して来る。

 レイシアは自分の足で立ち上がり、気を失ったままのフェザリオをランドルが馬車の中へと運んで行った。その後は馬車の周辺を警戒する為にブレンダの反対側、馬車の後ろに向かう。

 ブレンダは、御者の横で警戒しながら様子を見るようだ。レイシアは馬を挟んだ左前の位置へ移動する。

 その間僕は馬車の上空、空に浮かんだまま周りを警戒する事にした。一般人の二人はなるべく直ぐ馬車の中に入れる位置で、日陰になる場所に座って特に言葉もなく静かにしていた。


 「うぅ、ここは?」

 「あ、目が覚めましたか? 体の方は、何か異常はありませんか?」

 どれくらい時間が経ったのか、日がかなり傾いてうっすらと暗くなって来た頃、御者のおじさんが目を覚ました。そしてブレンダの質問にハッとして自分の体、主に矢の刺さった辺りの胸をしきりに撫でている。

 「ああ、ああ、特に問題はなさそうですが?」

 頭の上に一杯の疑問符を浮かべながら、相当混乱している様子。まあ不意打ちで死に掛けたのだから、相当混乱しているのだろうね。ブレンダが、これまでの経緯を、丁寧に説明していた。

 「状況は把握できたようですね。予定とは違いますが、もう直ぐ夜になりますし今日はこのままここで野宿しますか?」

 「ええそうですね。申し訳ありませんが、今日のところはそれでお願いしたく思います。では私は皆さんに説明して、野営の準備をしてまいりますので失礼ですが、引き続き警備などしてもらえると助かるのですがいいですか? あ、それと場所はもう少し移動します。少し進めば水場がありますし、ここには山賊と戦った後などが残ったままですので」

 「そうですね、場所などはお任せいたします」

 どうやら、話はまとまったようだ。僕はこのまま炎を消して、馬車の上で警戒でも続けていよう。

 少しして一般人の二人組みに説明を終え、馬車を走らせ始める。ほんとうにちょっと移動すると森の終わり辺りに、川が流れているのが、遠目でも確認する事ができた。あそこ辺りで野宿になるのか、数分で辿り着きそうだな~

 森が終わり、川に沿ってしばらく走り続けた後、道が川から徐々に離れ出した辺りで馬車は、道から外れて停止した。

 「お客さん方、申し訳ありませんが今日はここで野営させてもらいますよ」

 「ええ、わかりました」

 僕達以外の二人の方に、念の為って感じで声をかけた御者は、馬車の隣に焚き火を作って、その周りにお客さんが座る為の御座等を敷き始める。

 それが終わると、馬車から馬を放して川の水を馬に飲ませに行った。戻って来るとやかんを持っており、川で汲んだと思われる水でお湯を沸かし始める。

 流石にこういう作業には慣れたものらしく、動きに無駄がないな~

 ちなみに温かい飲み物はサービスらしいのだが、食事自体は各自で用意するものらしく、それぞれ自分の荷物から携帯食を取り出して食べ始めていた。


 僕は特に食事の必要はないのでそのまま警戒を続けていたのだけれど、川の方で何かしらの気配を感じたので声をかける事にした。

 「キュウイ(なんか来るぞ)」

 その声にブレンダが即座に反応を示し、声がした場所に顔を向けて来る。僕は消していた炎を灯してみんなに姿を見せた上で腕を川の方向へと向ける。

 パーティーメンバー以外の人が、御者さんも含めてびっくりした顔をしているのはとりあえず無視して、地面近くへと移動する。

 「みんな武器を持ってこっちへ来て」

 レイシアは脇に置いてあった杖を持ち、直ぐにブレンダの横に並ぶ。ランドルが少し手間取ったものの準備を整えてやって来た。ちなみにフェザリオはまだ気を失ったままでここにはいない。

 三人はそのまま僕の先導で川へと移動して、指差した先を警戒しながら様子を窺う。水を飲んでいる馬に向かって、音も立てずにゆっくりと移動しているのは、ワニであった。

 数は一頭なので練習になるかと思って、みんなに任せる事にする。一歩後ろに下がった僕にブレンダは気が付き、ふむって感じで頷くのがわかった。

 「レイシアさんは召喚でワニの注意を引き付けて、ランドルは反対側にまわってワニの背後からできれば物理攻撃、気が付かれたら盾で押さえつつなるべく川から引き離して」

 「わかった」「了解」

 軽く打ち合わせをして三人がそれぞれに行動を開始する。

 「召喚、ファルコン。ワニの気を引き付けつつ、隙があれば攻撃を」

 鷹がレイシアの命令に従い、ワニと馬がいる真ん中くらいの場所へと目立つように移動する。

 いかにも気が付いていませんって感じで、川の水を飲んでいるような感じでさらに少し、川の中へと足を付けていた。

 あ、目の前に現れた獲物に反応して、ワニが移動速度を上げて鷹に寄って行った。ぎりぎりまで引き付けていきなり空へと飛び立つと、ワニが慌てて鷹の方へと口を開けて悔しそうにしている。

 当然だけれども突然上がった水しぶきなどにより馬の方も、ワニの存在に気が付いて川から逃げて行く。

 こちらの動きに気が付いていないワニに対して、ランドルが背後から襲い掛かった。

 「うりゃ!」

 気合でも入れる為なのか、瞬間的に声を出して殴りかかる。素早い相手とかにそんな声を出したら本当は逃げられるのでやめた方がいいのだけれど、今回はワニが相手であったので何事もなく不意打ちの一撃が相手の後頭部辺りに命中した。

 脳震盪でも起こしたのか鈍い動きで少しだけ暴れるワニに、ランドルは盾を構えながら少しずつ下がる。ゆっくりとランドルへと振り返ろうとしているワニに対してブレンダの攻撃が飛んで行く。

 「燃え尽きろ、ファイアアロー」

 呼び出された三本の炎の矢がワニに向かい、全弾命中してワニはそのまま活動を止めた・・・・・・

 まだまだ新米のパーティーではあるけれど、それなりに冒険者っぽくなって来ているかな。せっかくしとめる事ができたワニなので、どうやら食料にするみたいだな。ブレンダが手を貸してランドルがメインになって皮を剥ぎ、肉を切り取っていく。

 「終わりましたか?」

 「ええ、もう大丈夫ですよ。今、ワニの肉を取っているところです」

 「ワニですか。もしよろしければワニ肉を使った料理など、調理しましょうか?」

 「そうですね、先程少し食べたのですが、あまり重くならない程度に何か作れますか?」

 「でしたら、ちょっとおやつみたいな物でも作りましょう」

 恐る恐るやって来た御者さんと、ブレンダが話し合い、ワニを使った即席のおやつを作る事になったようだ。

 そういえば、ワニって食べた事なかったな~。異世界だし野営中だし、そうたいしたものは出て来ないと思うけど、ちょっと食べてみたかったかもしれない。

 今の体じゃあ多分食べた瞬間に燃えて、灰の味しかしないだろうな・・・・・・残念だ・・・・・・

 御者のおじさんが馬を連れて戻り、みんなが焚き火を囲んでおやつを食べているのを眺めながら、僕は一人炎を消して周りの警戒をする。


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