表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第二章  マジで死ぬかと思ったよ
6/240

マジで死ぬかと思ったよ

   第二章 マジで死ぬかと思ったよ


 僕の右前には召喚で呼ばれたであろう狼、こいつは以前野営の時に出て来たあいつだと思われる。

 だってじっと僕の事を見詰めて来るのだもん。確かあの時も見張りを命令されていたにもかかわらず、僕の事をじっと見詰めていた。相変わらず何がしたいのか全然わからん。

 そして左前には何の卵かわからないけれど、大き過ぎるこれは間違いなくモンスターの卵だろう。

 やめろ、そんな訳のわからない卵と犬を混ぜるな。空中に有る見えない壁を、ドンドンと叩く。

 こら犬っころまねして叩くな、遊んでいるのでもお前に何か合図を送っているのでもないのだよ。

 あー、もうほんとやめてくれー。これってほんとに洒落や冗談じゃすまない。

 僕の魂を壊すのは、やめてくれー

 「さてさて最弱のスライムが、何に進化するのかしら。なんにしてもスライムを素体に選ぶ時点で、ドラゴンにはならないと思うけれどね」

 「確かにランクの高いモンスターを素体に、弱いモンスターを素材にするのがセオリーだけど、今回だけは逆はないわ」

 「まあ確かに、バグを素材に使うなんて、さすがに私でも考えられないけどね」

 「例え確実にドラゴンへと進化するとしても、バグを素材にする気はないわ」

 だったら、僕を合成しようなんて考えるな~

 ちくしょう、ブレンダも笑っているんじゃない、止めろよ~

 あ、こっち見てニヤってしやがった。いつか叩いたことへの仕返しだな、くそ進化して僕が僕のままだった時は、覚えておけよ!

 「あー、何か私までバグが考えている事がわかりそうな気がするわ~」

 だったら今直ぐ止めろよー


 バンバンバン


 さらに激しく壁を叩く。こら犬っころ喜んで吠えるな!

 「さて、準備完成したので、錬金を始めるわ」

 ちょ、マジでやめろって、ほんと洒落になってないよ!

 僕の願いも空しく、床に描かれた魔法陣へと、レイシアの魔力が流されて行く。

 あー、僕は元の世界の思い出と異世界に来てからの思い出を振り返りながら、短い人生だったなーっとほぼ諦めの境地で全てが終わるのを待つしかなたった。

 ふと思い出を振り返っていたらそもそもの元凶は、ケイト先生がレイシアに進化を促がしたことと、ドラゴンになればとか言いやがったせいだと思い出した!

 死んだら化けて出て、絶対に魂まで焼き尽くしてやるって思わず呪いをかけてしまった。呪術の才能も力もないけどな。

 徐々に光り輝いていく魔方陣。

 その白い光に飲み込まれて行くのを、受け入れるしかなかった・・・・・・


 どれくらいの時間が過ぎたのか、いつの間にか光は収まり、異様な静けさだけがその場に存在していた。

 周りを見渡してみるとそこは錬金術を使った例の部屋で、右前の魔方陣には犬っころは消えていて、同じく左の方にも卵も存在していなかった。

 ということは、僕は僕のまま何かに進化を果たしたってことかな?

 そういえば、視点もなんだか少し高い気がする。

 目の前には呆然としてショックを受けているような顔のレイシアが、その隣に少し青い顔で気まずそうに沈黙しているブレンダがいて、ちょうど彼女達と同じくらいの目線になっている。

 まあ少女達と同じ身長だとしたら、男としては背が低い方なのだろうけど、何かしらのモンスターならまあ小さくても、スライムよりは大きくなったって事だな。

 それにしても、彼女達は何がそんなにショックだったのだろう?

 まさか、ゾンビ的な気持ち悪い姿なんて言わないよな?

 残念ながらここには鏡なんて気の利いた物がないので、なんとも判断がつきにくい。

 だからとりあえず自分の手を見てみる事にした・・・・・・

 何も見えない・・・・・・透明?

 足を見てみた。そこには本来あるはずの足どころか、体すらなかった。

 僕は合成に失敗して魂だけの存在か、ゴーストになってしまったって事かな?

 そして正面の少女達を現実逃避気味に見やる。

 あー、合成に失敗して消えてしまったら、そりゃあショックだろうなー

 ドラゴン作るつもりがそもそも何も残さず、いなくなっちゃうなんてさすがに想像もできないよ。お前ら馬鹿だよな、だからやめろって何度も言っていたのに・・・・・・

 まあこうなっちゃった後で今更何かを言ったところで、もう元には戻らないのだけれどね。

 レイシアがその場に崩れ落ちるように沈み込み、まるで親友のようにブレンダが支える。

 そんな彼女達を前に無性にやるせない気持ちと、こうなってしまった原因を作ったケイト先生への、八つ当たりにも似た怒りが湧き起こった。

 それと同時に、僕は教室を飛び出し怨みを込めてケイト先生へと突撃を開始する。

 怒りに染まった僕の耳に、微かにレイシアの声が聞こえた気がした・・・・・・


 怒りに任せてケイト先生を探して飛び回っていると、周りの廊下や覗き込んだ教室なんかから、生徒達の悲鳴などが聞こえて来た。

 さすがに覗く教室、教室で騒がれるのは癇に障る。

 ほとんど無意識といってもいい感じで手を振り上げ、うるさい生徒を攻撃していた。

 これって鬼火? それとも狐火? 火の玉ってやつなのだろうか。とにかく騒がしい生徒が炎に包まれる。

 煩いからってさすがにこれはやり過ぎかと考え、その生徒の火を無意識で掻き消すと、その生徒は多少の火傷はあるものの、死んではいないようなので少しホッとして、目的のケイト先生を探して次の教室へと飛んで行く。

 どれくらい探し回ったか、やがて複数の先生が集団となって目の前に現れ、その中に目標のケイト先生を発見した。

 思わず狂いそうな程の怒りが体中を駆け巡る。

 僕やレイシアを弄んだこの先生を、焼き尽くしてやる。心の中に湧き出たその暗い炎を持って、先生集団へと攻撃を開始した。

 まずはケイト先生を守るかのように、前に出て来た先生達だ!

 「キュル・キュキュ、キュルルルキュ。(邪魔なのだよ、お前達はそこで燃えていな)」

 あー、なんか自分の声も煩い、何だこのキュルキュルとした、ガラスをこすった様な音は・・・・・・


 ギャー


 「うわ駄目だ、この炎レジストが全然効いていないぞ!」

 前に出て来た二人の先生が炎に包まれて倒れて行く。後ろにも伏兵の先生が来ているな、これは戦士科の教師か、なんとなく殺気のようなものを感じ取れて相手の位置が特定できた。

 「キュ、キュキュユルル(わかっているのだよ、邪魔するな)」

 僕は振り向きもせずに背後に迫る先生を燃やす。


 グッ


 苦痛の呻きと共に驚きの息遣いが前後から聞こえて来て、燃えた教師が床に崩れて行くのが気配でわかった。

 前方の先生集団はこのわずかな戦いで、不利を悟ったのかじりじりと後ろへと下がり出す。もちろん足元で倒れた負傷した先生を連れてだが、まあ僕の邪魔さえしなければ別にどうでもいい。

 「キュルルルギュ、キュルキュキュ(僕の目標はお前だけだ)」

 ケイト先生へと炎の矢を飛ばした。その射線へと、盾を持った先生が走り出て来て炎の矢を受け止めようとする。だが盾に矢が当たった瞬間、盾の表面を覆うように広がった炎と、そのまま貫通した炎の矢が一纏めになって、その先生を燃やす事になった。

 「なっ、こいつは危険過ぎる、撤退、撤退を!」

 「ここは、私が何とか支えてみます、皆さんは怪我人を連れて、下がってください」

 ケイト先生が集団の先頭へと出て来た。思わずニヤリと笑う。

 「どうやらこのモンスターは、私が狙いだったようです」

 ケイト先生が他の先生にそう告げつつ、僕を空き教室へと誘導しようとしている、一対一がお望みって事だな。

 まあ僕としても関係ない先生まで襲う気はない、そう考え壁をぶち破って先生が誘導しようとしていた空き部屋の方へと、自分から飛び込んで行く。

 一瞬ケイト先生はそのまま逃げるか教室へ向かうかで迷った様子を見せたが、結局は教室の中へとやって来た。まあもし逃げ出していたら、周りの先生もろとも攻撃を仕掛けるだけだったので、その判断は正しいと思う。


 「どうやらあなたは、それなりに知能が高いようですね。私にどんな用事があるのかしら?」

 先生はおそらく会話にならないと思いながらも、そう問いかけて来た。

 「キュキュルル、キュキュルルキュ(わからないかもですが、僕らを弄んだからですよ)」

 通じないと知りつつも、先生の質問に答える。先生は言葉を操れる相手でありながら、その言葉を理解できない悔しさに、顔をしかめているようだ。どれだけ考えたところで、意思の疎通はできないだろう。

 「キュキュルル、キュキュルル・キュルル(そろそろ決着を付けましょうか)」

 ケイト先生が理解するのを諦めたような顔をして、改めて臨戦態勢を取った。

 ここからはお互い真剣勝負、もう言葉を交わす事もないだろう。

 「全てを凍りつかせろ、アイスバーン!」

 対峙した僕達の戦闘は、先生の一撃から始まった。僕はケイト先生という魔法使いの実力を知らない。故に油断なく自分との実力差を比べて行くことにする。

 相手の強さを知らなければ勝てる相手か、きついのか勝てないのか、いつ逃げればいいのか何もわからない。

 「キュ(盾よ)」

 魔法の範囲から逃げながら、目の前に炎の盾を作り出した。

 うん問題なく防ぎ切れた。炎の盾は先生の氷の魔法で、わずかの損傷も与えられてはいない。先生の表情がわずかに曇ったのがわかるが、まだ最初の一撃でありこれが実力の全てだと思い込むと、手痛いミスに繋がりかねない。

 少なくとも、ケイト先生は実力の有る魔法使いには違いないのだから・・・・・・

 「キキュ(炎の槍よ)」

 今度は僕の方から先生に向けて、矢などではなく炎で出来た槍を撃ち出す。

 「空気よ凍りつくせ、アイスシールド!」

 すかさず先生が氷で作った盾でもって、槍を防ごうとして来た。そして先生はおもむろに槍の進路上から盾を残して転がるように回避する。

 先生の作り出した氷の盾はものの見事に貫通し、なおかつ燃え上がって溶けていった。あれではコンマ何秒すら攻撃を阻害する役にたたないだろう。

 今の結果だけを比べれば、あきらかに僕に有利な状況だ。でも相手は先生であり、僕はまだ自分の体に慣れていない新米、油断はするまいと心に誓う。

 そんな僕の様子をじっと観察した先生は、半ば諦めたような顔をして声をかけて来た。

 「普通のモンスターならこの結果から慢心して、一気に襲いかかって来るものです。ですがあなたにはまるで慢心というものが存在しませんね。あなたが冒険者であれば、間違いなく優秀な冒険者になり、いずれは英雄や勇者と呼ばれるような、歴史に名を残すような人物になったのでしょうね」

 「キュルルキュルル・キュ(僕には、名誉なんか必要ありませんよ)」

 「ああ何故かしら、あなたはそんなものには興味がないようですね。不思議とそれだけは理解できた気がしました」

 ケイト先生はその瞬間だけ、素の感情で笑った気がした。

 おそらく先生は、覚悟を決めたのだろう。

 冒険者とは常に生にしがみ付き、どんな時でも生き残ろうとする者達だ。

 そんな冒険者の中にあって、ケイト先生は何か綺麗なものや正義とかの純粋なものを夢見ている感じがする。

 だからだろうか今この瞬間において、ケイト先生は何が何でも生き残ろうという執念が見当たらず、これまでの自分の人生を満足そうに振り返っている感じがした。

 さっきの自分のようだなって、不思議と近しい気持ちも湧いた気がする。

 それでも僕は先生よりは生き足掻いたよ、強制力のせいで逃れ切れなかったけれども。さあどうぞとでもいいたげな表情を浮かべる先生に向き直る。


 「ケイト先生! その子はバグです!」

 お互いに覚悟を決めた二人の間に、割って入って来たのはレイシアだった。

 僕ら二人の視線がレイシアに向けられる。

 レイシアは二人の間にあって、僕の方へと顔を向けて来た。涙目になりながら睨んで来る。

 「やっと追い付いた。もうレイシアもバグもいったい何やっているのよ」

 少ししてから、ブレンダもレイシアの隣へとやって来る。何だこれ、何か勘違いでもしていたか?

 「あー、レイシア。やっぱりバグは何か勘違いしているわね」

 「とりあえず、バグお座り」

 え、わんころと合成されたからってそんなの嫌だよ。

 強制力に抗って断固としてお座りを拒絶した。まあ必死に耐えるので精一杯で、プルプルしているけれど。

 そんな僕を見て、座らなかったけど特に攻撃できない状態だと判断したのか、レイシアはケイト先生の方に向いた。

 「ケイト先生、すみませんでした。この子、錬金術で合成して進化したバグなんです。合成した直後、姿がまるっきり見えない状態で、初めは失敗して死んじゃったんじゃないかって思ったんですが、教室を飛び出して行った透明な何かがわかって、今まで探していたんです」

 「えーっと、それでなんで私はバグに襲われる事になったのかしら?」

 なんとなく呆然としながら先生が呟く。気が抜けたような、生気のない声だった。

 「レイシアから聞いたんですが、バグの進化を薦めたのってケイト先生じゃないですか。合成する時バグって物凄く嫌がっていて、それを強制的に進化させちゃったんですよね。合成終わってみれば肉体が無くなっていたので、バグとしたら死んで魂にでもなったのだと思い込んじゃったんだと思いますよ」

 思わずブレンダに頷いていた。

 「キュルキュルル・キュル?(僕、ちゃんと進化したって事?)」

 「おー、なんか喋っているけどよくわからないし、耳障りな言葉ね。まあなんとなくなんだけど、貴方死んでいないわよ」

 思わず、ポカーンとしてしまった。

 改めて自分の手を見てみる。炎に包まれた人間の手がそこにあった。あ、足は?

 自分の足を見てみるけど、そこに足は存在していなかった・・・・・・

 えー、これじゃあ幽霊かどうか、はっきりわからないのだけれども・・・・・・

 陽炎のようにゆらゆらと揺らめく下半身がある。ただし腰より下は透き通るかのように消えていて、幽霊のようだった。

ねえこれどっち、幽霊、モンスター? 誰か姿見の鏡を持って来てよ・・・・・・

 きょろきょろとしていると、ケイト先生が僕を見て、こう言った。

 「今のバグは、ファイヤーエレメンタルっていう精霊ですね」

 え?

 犬っころと卵で、何で精霊になるの? どこに精霊の要素ってあったの? しきりに首を傾げた・・・・・・

 なんか生きていてよかったけど、いろいろと納得できないな。


 そして今回いろいろと暴れまわった僕は、前に一度入った魔法封じの部屋(修理済み&強化済み)で、校舎の修理と怪我人の完治が確認されるまで、軟禁されることとなった。

 そして僕が精霊であるとわかった事で、精霊魔術専門の先生が僕を見に来て、正しくはファイヤーエレメンタルより上位のイフリートという種族だという事が判明した。

 ファイヤーエレメンタルにしては、強過ぎたのが引っかかっていたそうだ。

 それにしてもそんな精霊を、こんな部屋に入れてもなんの拘束にもなっていないのだが・・・・・・

 思いっきり扉も壁も、実体を持っていないので通り抜けられる。

 だって炎引っ込めたら、幽霊みたいになんでも素通りできちゃうのだもの。

 まあ反省しなさいって意味なのだろうと解釈して、大人しく部屋にはいるけれどさ。

 せっかくだし、この機会に自分にできる事を調べておこうかね。そんな感じで暇を潰して行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ