ヤーズエルトの修行
モンスターの壁が無くなったことで、ダンジョンの入り口がわかるようになった。しかしまだモンスターの死体などで周囲は酷く汚れていて、そこに足を踏み入れるのはどうなのだろうって考えてしまう。
(ファイアピラー)
手っ取り早く処理する為に、モンスターの死体を焼却処理することにした。
炎の柱で数秒燃やすだけで、ダンジョンの周りは綺麗に焼却できたので、これでダンジョンに入ることができそうだな。
「お前、相当な実力者だな・・・・・・。お前が魔王だって言われたら、直ぐに信じられそうだぞ」
「そういうお前も、これからは魔王軍の幹部なのだぞ。そんなに弱くてどうするのだ? ほれ、地下二階くらいサクサク進めるのだろう?」
「わ、わかっている! 俺だってそれなりに強いって事を教えてやるさ!」
「それじゃあ、ヤーズエルトには好きに進んでもらって、こっちはモンスターを根こそぎ倒させてもらおうか。レイシア、状況に応じてモンスターを一体も逃がさないように動いてくれ」
「うん。任せて!」
「アルタクスは今回、ヤーズエルトについていてやってくれ。罠とかあるかもしれないしな」
アルタクスが触手を振って、了解の合図を送って来た。そしてレイシアに投げられて、ヤーズエルトの頭に着地する。
「おいおいスライムなんかと一緒かよ・・・・・・」
案の定というのか予想通りと言えばいいのか、ヤーズエルトがそんな反応を示して来る。本当にわかっていない奴である。
「はいはい、実力でわからせろって事だろ? アルタクス、時間が勿体無いから瞬殺して差し上げろ」
僕の指示を聞いたアルタクスが肩から飛び降りると、ヤーズエルトが警戒して距離を開けた。
そしてその開いた間合いをすっと忍び寄ったアルタクスが、触手を伸ばす。
クッ
慌てて回避するヤーズエルトだったが、本命の一撃が回避した腹部へと突き刺さる。触手は地面を貫いて、ヤーズエルトの足元から突き出していた。
「ご苦労!」
そう言うと、アルタクスがレイシアの元へと戻って行く中、僕はヤーズエルトを見下ろすように近付き声をかける。
「よかったな、アルタクスが味方で。敵だったら今の一撃でお前はもうこの世にはいなかったかもしれないぞ」
「ああ、よくわかったよ。確かにこの中では俺が一番弱いって事なんだな?」
「そうだな。現状では足手まといともいえる。それが嫌ならさっさと強くなってくれ」
「わかった。直ぐに追いついてやるからな!」
「今のまま、近衛騎士として過ごしていてはまず間違いなく、追い付くどころか差が広がる一方だと思うけれどね。とりあえずダンジョンを調べ終わってから相談するとしよう。かなり時間をとられたからな。さっさと先に進みたい」
「わかった。今はお前の指示に従おう」
やっとの事でダンジョンに入る事ができた僕達は、人工的に造られたらしいダンジョンを見渡しながら出て来たモンスターを殴り倒していた。
「ところで、前で戦わなくていいのか?」
後ろから付いて来るヤーズエルトを見て、ふと疑問に思った。
「実力差がこれだけあるとわかった今は、威張るだけ虚しいからな。大人しくできることをさせてもらうよ」
「ふーん。まあこんな雑魚ダンジョンじゃあ、お前の経験集めとしても不足だしな。サクサクと調べることにしようか。レイシア、部隊を出して一階層の敵を全部倒してくれ。こっちはそのまま下に降りよう」
「わかったわ。部隊召喚、アラクネ」
あー、またわらわらと出て来た蜘蛛を見てしまったよ・・・・・・まあそれはいいか。この場合アラクネなら接近戦と糸に絡める攻撃、魔法も使えるので複数でかかればまず間違えなくやられる事は無い。呼び出す相手としては文句のない下僕だと思われるので、さくっと先に進むことにしよう。
調査のスキルによってダンジョン内を確認して見ても、アラクネ達が素早く行動して、ドンドン敵の殲滅をおこなっているのがわかる。
レイシアは自分用に作られた、マッピングシートを取り出しながら下へ降りるルートを確認しているので、ヤーズエルトにもマッピングシートを渡しておくことにする。
「一応、お前も現在位置くらいは把握していてくれ」
「これは便利だな。冒険者にはこんな便利なアイテムがあったのか」
「作ったのだよ。一応販売しているけれどな」
「ああ、そういえばお前はこっち方面の戦力として魔王軍に呼ばれたって話だったな。というか、お前がいれば戦力として十分じゃないか?」
「僕だけで広い戦場や、複数の場所で戦えるのならそうだろうな~。まあ結局のところ、僕にはあまり関係の無いことだから、自分達で何とかして欲しいっていうのが素直な感想だよ。僕は英雄や勇者、ヒーローは興味がない」
「すまんが、いろいろ協力して欲しい」
「同じ魔王軍の仲間だからな、強くなれるように支援はしてやるよ。だから早く戦力になってくれ。と、言っている内に二階層目に到着だな」
進路を塞ぐように出て来たモンスターは、僕とレイシアが殴ってさっさとここまで移動して来たので、意外と早く下の階層に来られた。途中罠などは無かったので、手間がかからなかったともいえるかな。
やって来た二階層目は、通路など全体が巨人仕様な感じだった。実際に降りて来た僕達に向かって来ているモンスターも、大型のジャイアントみたいだし、一階層目と二階層目で、モンスターを切り替えているって感じがするね。
「これくらいの相手なら、ヤーズエルトに丁度良い相手なんじゃないか? 経験稼ぎに倒して来いよ」
「おっ、そうか、じゃあちょっと行かせてもらうぞ!」
「レイシアは、適当にサポートしてやってくれるか? 僕は上の階層で、敵の沸きポイントがないか調べてみる」
「わかった、任せて。アラクネ達にも探させる?」
「いや、敵の殲滅をしていたら自然と発生源があれば、そこに集まるから指示はしなくていいよ」
「了解」
さてさて、このダンジョンがどうやってできたのかいろいろ不明な点が多いけれど、とりあえずモンスターの沸きポイントを探してみよう。
まずは一階層全体を見てみて、アラクネとモンスターの動きを探ってみる。そうすると明らかに敵がいなくなっているはずの袋小路の場所にモンスターがいたりするのがわかった。まずはその袋小路を調査のスキルで詳しく探って行くことにする。
見ている時にポップしてくれれば、何が起こっているか直ぐにわかって手間が省けるのだけれど、中々その瞬間を捉えることができないな。壁や床から出て来るのか、魔法陣から出て来るのか・・・・・・
じっと探っていたので少し休憩をと思いヤーズエルトを見てみると、次々やって来ているモンスターを、順調に倒していっている。モンスターの数が多過ぎる場合は、レイシアが数を減らしているので、こっちは大丈夫そうだなと思い、再び調査に集中することにした。
そしてしばらくの後、ポップする瞬間を目撃することに成功した。
特に沸きポイントがある訳ではなくて、その空間にポンって感じで出て来ているようだな。現象としては、ゲームのリポップに似ている。つまりゲームマップ内で敵が減ると自然に敵を追加して、常に一定量の敵を確保しているような感じであろう。
MMORPGというものは、複数のユーザーが同じゲームを遊ぶ為に、モンスターを狩って経験値稼ぎしていると、一瞬で敵を狩り尽くす事になる。その為、後から来たユーザーやもっと経験を集めたいユーザーの為に、モンスターがリポップして増えるのである。
つまりこのダンジョンは、誰かが運営管理している可能性があるということになるのかな? そうなって来ると、このダンジョンにはダンジョンマスターが存在していることになるし、ひょっとしたら僕のような転生者が運営している可能性もあるな。
「レイシア、ヤーズエルト。ここで適当に経験値集めをしていてくれるか?」
「どこかに行くの?」
「下にはダンジョンマスターがいる可能性があるから、先行して行かせてもらう」
「私も行く!」
「ヤーズエルトだけだときついだろう?」
「アルタクスがいるから、大丈夫よね?」
「あー、そうだな・・・・・・多分何とかなると思う。いつまでも補助してもらっていては、強くなれないしな。多少無茶もしなければ経験にならないからな!」
「そうか。まあそこまで言うのなら死ぬなよ」
「こんなところで死んでたまるかよ」
「じゃあ、さくっと進むか」
「うん!」
僕達はヤーズエルトとアルタクスをその場に残して、三層目を目指して移動する。ざっと見渡してみたものの、罠や扉、宝箱のような物は見付けられず、モンスターハウスって感じのダンジョンだな。ダンジョンの構造自体は迷路みたいな造りになってはいるものの、特にひねりのようなものが見当たらず工夫は存在していない。
ということは、このダンジョンを運営している者はゲーム知識が乏しい者かもしれないな。まあ、日本からの転生者だった場合の話なのだけれどね。
調査のスキルで迷路を上からの状態で見たように把握できる為、迷うことなく第三層へと移動できた僕達は、殆ど三層全部をぶち抜いた造りに天井を支える柱が乱立するフロアに辿り着いた。
これはひょっとしたら相当な大物でも出て来るのかと思っていると、予想通りドラゴンやらヒュドラやら、図体のでかいモンスターがわんさかとやって来ている事に気が付いた。
「レイシア、こいつらは経験になりそうか?」
「うん。このランクの敵だと、いい経験になるかも。でもちょっと数が多過ぎかな?」
「じゃあフォローするから真っ直ぐ突き抜けよう」
「わかった!」
作戦ともいえないやり取りの後、僕らはそのままモンスターへと向かって行った。
「召喚、ジャイアント! 強化!」
レイシアの前に呼び出された三体のジャイアントが強化を受けて、ドラゴン達に向って突撃して行った。それを見た僕は、再生能力が厄介なヒュドラをとりあえずしとめる為に足元へと移動して、さっくりと仕留めようと攻撃して行くことにする。
(ファイアエンチャント)
まずは再生されないように自分の腕に炎をまとわり付かせてヒュドラのお腹をぶち抜く。うーん・・・・・・エンチャントしなくても普通に倒せたかな? オーバーキル気味だったかもしれない・・・・・・
お隣でそんな瞬殺を見た他のドラゴン達が、ビクッと体を震わせていたのだけれど、レイシアの呼び出したジャイアントに殴られてやっと戦いに集中し始めた。
それでも、なんとなく僕から視線を外したくないのか、僕が移動するたびに視界に入るように位置取りを修正していて、普通にジャイアントに負けていた。さすがに強化しただけあって、ジャイアントの一撃一撃が重い攻撃になっていたから余所見なんかしていては、ひとたまりもなかったのだろう。
いくらなんでも大物が部屋一杯に出て来ることは無く、数匹を倒したらモンスターもいなくなってくれたので、ドラゴンの死体は回収させてもらい、その他にお金になりそうなやつは討伐部位や素材を素早く回収させてもらう。ドラゴンは全身が売るといいお金になるからね~
そうして進んだ先の地下四階層は、どこか神殿を思わせるような人が住む聖域のようなところになっていた。そしてこちらに向かってやって来る兵士っぽいモンスターは、魔人だと思われるので中々に手強そうな相手だと思われる。
「相手は魔人だから気を付けろよ」
「うん。無理はしないようにするね」
「そうしてくれ」
今度は僕が前に出て戦うことにする。さすがにこの相手をレイシアにさせるのはきついからね。
やって来る敵の数は五人、三人がこちらに来て二人が抜けようとしていたので、転移で相手の背後に回り込み全力の居合い斬りを叩き込んで抜けようとしていたもう一人の魔人にぶつけてやった。
今の攻撃でわかったのだけれど、以前魔王軍の残党にいた魔人と比べると、そこまでの強さはない感じだね。レイシアに相手をさせるのには危険だろうけれど、こっちで相手をする分にはそこまでの苦戦はなさそうだった。
まあそれでも、居合い斬りを受けてまだ生きていられる辺り、やはり魔人だなって感想はあったけれどね~
やって来ていた魔人の方も、全員でかからなければやばいと判断したのだろう、レイシアの方へと向うのは止めて攻撃を受けた一人を除いた四人でこちらを囲んで来た。
「死にやがれ!」
そんな声をあげて襲い掛かって来たのは背後にいた魔人であったが、そっちを見もしないでバックステップで相手の懐に潜り込んだ僕は、自分と相手の威力を日本刀に込めた刺突の一撃で、魔人の腹を刺し貫いていた。
(サンダー)
そしてこれだけで魔人が死ぬはずも無いので、日本刀を通して体内から魔法の攻撃を加えることで止めを刺す。
一瞬で仲間がやられたのを見た魔人が動きを止めたところで、レイシアが二丁拳銃による援護射撃を行い、その攻撃でさらに一人が倒れて動かなくなると、魔人達は死に物狂いになって襲いかかって来た。逃げられないって判断したのだろう。
冷静さを失った魔人はそこまで怖い相手ではなくて、ほぼカウンターで居合い斬りを叩き込んでいって終わらせることに成功する。
その間、最初に傷を負った魔人もレイシアからの攻撃で倒されて、戦闘は終了した。
おそらくは邪魔者はいなくなったと判断して、四層奥にある扉の前まで僕達はやって来ると、それを開けて中へと入って行く。
部屋の中はどこかSFの宇宙戦艦を思わせるブリッジのような造りになっていて、前方にスクリーンがありダンジョン内の各地を映し出している様子だった。
そして部屋の中央には子供サイズのストーンゴーレムみたいな、石のロボットといった方が近い感じのものが手元にあるコンソールを操っていて、その目の高さに水晶玉の様な物が浮かんでいた。
部屋の中へと踏み込んで来る僕達が、スクリーンには映し出されているものの、ロボットは特に反応を示してはいない。部屋の中を見渡して見るものの、迎撃用兵器のような物も見付けられなかった。
しばらく警戒して部屋の中を探っていたのだけれど特に何もなく、とりあえずロボットの情報を確かめてみると、どうやらこのロボットがダンジョンマスターだということがステータスでわかった。
部屋の造りとか見てみるとどうしても日本人が関わっているのではないかって思ったのだけれどな~。日本人でなかったとしても、向こうの世界が関わっていそうなのは確かなのだけれどな~
そう思って、調査スキルを使ってもっと詳しく隅々まで部屋の中を探ってみると、奥に部屋があることがわかった。どこかにスイッチがあるはずだな。
ロボットがこちらに何の反応も示さない為、コンソールや手元などを勝手に見て回り、これかなっていうボタンを押してみる。
すると音も無く、奥に続く扉が開くのが確認できた。
中を覗いて見るとなんとなくホッとする空間がそこにはあった。これは一人暮らしをする者の部屋だ。
広くない室内に、自分独自の落ち着いた空間ができていて、誰にも邪魔されることのない自分だけの空間。ここには明らかに日本人が住んでいたと思われる痕跡があった。
この穏やかな空間を乱したくなくて、そっと中に入ると荒らさない程度に何か、手がかりになりそうな物を探して行く。すると直ぐに日記と思われる物を発見する事ができた。
この部屋の持ち主はおそらく女の子だったのだろうな。実際に日記を見てみると、独特の丸文字でこの世界に来る前からの出来事などがそこには書かれていた。
とりあえず、日記の一番最後を見てみる事にする。そのに記されていたのは、ダンジョンの機能が暴走して、怖くなってここを逃げ出すことにしたと書いてあった。
パラパラとめくって重要そうな情報を探すと、どうやらロボットの前に浮かんでいる水晶を壊すことで、ダンジョンの機能が失われるようだ。しかし、ロボットには防衛機能があって、水晶に手を出そうとすると襲って来るとも書いてある。
ロボットタイプだから、攻撃は機関銃とかかな? まあ、そこまで狂っているようには見えないのだけれど、とりあえずダンジョンの機能は止めておくかな。
「レイシア、浮いている水晶を壊せばダンジョンは止まるそうだ。それと、壊そうとするとゴーレムが襲って来るようだから、気を付けて破壊するぞ」
「わかった」
ロボットの近くにまで移動して、最終確認をする。
「準備はいいか?」
「召喚、ゴーレム。いつでもいいよ」
準備も整ったようだから、まずは水晶を壊して、ロボットを止めるように動くことにした。
居合いで水晶玉を斬り捨てた後、ロボットから距離を取り攻撃に備えるように警戒したのだけれど・・・・・・ロボットはわずかに水晶玉を守るように手を持ち上げただけで、動きを止めていた。
しばらく待って五分程の時間が経過してやっと、ロボットがうなだれるようにうつむくことで、襲って来ないと理解できると、なんだか逆に悪い事をしたなって気にさせられる。
スクリーンは既に消えていてダンジョン内の様子を映し出していなかったけれど、調査のスキルがあるので今現在の状況は把握できる。敵の数がドンドン減っていって、もうリポップしないとわかったのでダンジョン攻略自体はこれで終わったのだと理解できた。
「お前は、これからもダンジョンを運営して行きたいのか?」
うなだれたままのロボットに、僕は思わず語りかけていた。一体どれくらいの年月を過ごして来たのかはわからないのだが、なんとなく自分がいなくなった後のパペット達のように思えたのかもしれないな。彼らには仲間が存在したのだけれど、このロボットには仲間もいないというのが、よりいっそう寂しく思えたのかもしれない。
僕の言葉に反応したのか、ロボットがわずかに顔を上げるのがわかった。
「先程のままの運営を許す事はできないが、調整するのならばダンジョンの機能を復活させてやってもいいと思っているのだがどうする?」
まだこちらの言葉に反応したと決まった訳ではないのだけれど、そして敵対行動をとらないともわからないままだけれど、ロボットにそう話しかけていた。そして僕の言葉が理解できていたという証拠に、こちらをしっかりと見て頷いたのが確認できる。
「レイシア、ヤーズエルトをこっちに連れて来てくれ。僕はダンジョンを調整して復活させる」
「わかった。行って来る」
レイシアが早速外へと向かったのを確認した後、先程斬り捨てた水晶玉の複製品を創り出す。そしてホーラックスを呼び出してこのダンジョンの現状と、一層目を初心者用ランクに、二層目を中級ランクに、三層目を上級者用ランクにバランスを整える為の意見を聞く。
それと共に、今まではダンジョンの外にまでモンスターが出て行けたのを、今後は外に出られないように調整して、ダンジョンを再び起動することにした。
ダンジョンが再起動すると、ロボットはまるで喜んでいるかのようにスクリーンを見て、早速コンソールをいじりだしていた。これでいいのかどうかはわからないのだけれど、それでもこのダンジョンはこのままにしておきたいと思えたのだ。
「バグ! ダンジョンがまた動き出したようだぞ!」
「来たか。勝手だが、再起動させてもらった。説明するから落ち着け」
「む、わかった。聞かせてくれ」
「まず、このダンジョンは暴走していたから封印されていたようだ。一度はそれで壊したのだが、このダンジョンを捨てるのは勿体無いので少し調整して、再起動させてもらうことにした。まず一階層目は初心者の冒険者が進入できそうな強さのモンスターが湧くところになる。二層目がその少し上のモンスターが沸く。目安としては中堅どころの冒険者辺りが侵入できる強さだな。そして三階層が上級のベテラン冒険者が潜る強さのモンスターが沸くところに調整させてもらった。後は今までと違い、モンスターはダンジョンから外には出ないようにさせてもらった。これからはここでは修行目的で潜ってもらえればいいかと思っている」
「なるほど。修行場として利用しろという訳だな」
「ああ実際マグレイア王国では、ダンジョンを利用して兵士なども訓練をしているから前例はあるぞ」
「ほー。ひょっとしてそっちはお前が造ったのか?」
「ああ、そういうことだ」
「了解した。上にはそう報告させてもらおう」
「後は、お前には最低でもここの三層を余裕で歩けるようにはなってもらいたい」
「ぐっ、了解した。励ませてもらおう」
「じゃあ、余裕になったら連絡してくれ、お前専門のダンジョンを用意しておく」
「わかった。絶対に追い付いてやるからな!」
「まあ気長に待っているよ」
話し合いも終わったことなので、同郷の部屋に保存の魔法をかけて中に誰も入れなくした後、このコントロールルームにも結界を張ってからダンジョンを抜けることにした。
調整された三層目には早速モンスターがいたので、ヤーズエルトに任せてつつ二層まで行き、その後は僕とレイシアで殴り飛ばしてダンジョンの外へと出て来た。
「ここ、宿屋か何か造ると便利かもしれないな」
「確かに。もう外には出て来ないのなら、兵士を鍛える為の駐屯地でもいいかもしれないな」
「それもいいかもな。もう出て来ないって言っても、国民がまだ不安に思っているかもしれないから、軍が駐屯しているってわかれば納得しやすいかもしれないし、国も仕事をしているってアピールにもなるかもしれない」
「なるほど。早速国王陛下に進言してみよう」
「まあそっちは適当にやってくれ。じゃあこっちは撤収させてもらうぞ」
「ああ、いろいろと世話になった。今後ともよろしくな」
「そうそう、このまま世界が平和なままなら、魔王軍が動く必要はないそうだ。がんばって平和にして行ってくれ」
「何、それは本当か? 努力させてもらおう!」
「じゃあな」「またね」
僕らはそう言うと、レイバーモルズ町へ帰る為に転移した。




