多国籍会議
無事に開発が終わった特殊インクを使い、ブレンダ用にデザインされた契約書を作りそれを三百枚納品した。ブレンダはこちらの貴族ではない為に、おそらくそうそう悪用されることはないと思われるのだけれど、念の為にインクを三百枚丁度になるように村へと渡し、それで印刷をさせてみた。
これはインク代を一度こちらで立て替えて納品時にインク代を貰ったという感じで、差額の金額を印刷担当者達へと支払うことにする。
一枚一金貨なので、この仕事は村人達には金額が高過ぎると判断したので、そういう感じの仕事にしてみた。まあそれでもかなり割りのいい仕事にはなるはずなので、多分不満のない仕事になると思う。
契約書も無事に終わったので、今印刷所ではブレンダから物語の原案を持ち込んで、本にする為の印刷が始まっている。
こちらは裏表に革を使ったちょっとしっかりした作りの本になっていて、その分手間はかかるのだけれど、高級感が出て良い仕上がりになっていた。
完成した本をブレンダへと見せに行くと・・・・・・
「何これ、凄いじゃない! 予想以上にしっかりしていて、満足できる出来じゃない!」
と言っていた。
物語もそこそこの長さのもので、三百ページくらいあったので、教科書よりもかなり高額の物になってしまったのだけれどね。一金貨もする・・・・・・
一般向けの物ではなく、貴族かこういう本の好きな冒険者向けって感じの物になってしまったかもしれないね。とりあえずはこの本を五十冊印刷して城下町と、リンデグルー連合王国で販売するのだそうだ。
こっちとしては、どこで売ってもいいので、追加注文が来ることを願うよ。
子供の教育の方は、特に問題もなく順調に進んでいるそうだ。副産物的なものとしてサフィーリア教会は、マグライア教会と違い人々に回復魔法を使えるようなので、怪我や病気になった場合に助けを求めることができると、どこの村や町でも歓迎されたようだった。
今まではマグライアの神官はいても、農業関係の天候祈願などばかりだった為、レイシアがいないと大変だったようだけれど、これからは身近にいてくれると喜んでいた。まあ神官達にはいろいろ負担があるかもしれないけれどね。
そんな神官達を労う為に、神殿内部のお風呂を温泉へと変えておいたよ。身を清める場所は当然別でちゃんと造ってある。
後は食べ物に制限は特にないと言っていたので、様子を伺う時にお土産としておやつ的なものでも、差し入れとかして行こうと考えていた。
村を回ったりたまには学校へ顔を出したりして過ごしていると、徐々に紙の需要が出て来たようで、ギルドや学校、役場などから注文が来るようになって来た。
後はブレンダ経由で貴族の契約書の作製をお願いされたりしたので、どうやら上手く軌道に乗りそうな感じがしたよ。
日に日に注文などが増えていきそうなので、印刷機をさらに増やして注文に対応させるようにする。これ以上は村の人手が足りない為に、予約生産って感じになりそうだね。
忙しいくらいに仕事ができて、まあ嬉しい悲鳴って感じだろう。後は村人達に任せることにしよう。
そんな感じで日々様子を窺っていると、多国籍会議の日がやって来た。
確か、周辺国にダンジョンについての説明をするとか言っていたな。ダンジョンの何を説明するのだろう?
どっちにしても楽しくない会議だろうから、さくっと行ってさくっと帰って来よう。そう考えつつ豪華な馬車を用意する。これは以前ホテルで貴族向けに造った馬車で、高速走行をしてもそれ程の振動を感じさせない馬車である。ちゃんと舗装されていれば、振動は完全に感じなくなるだろう。
「じゃあ、馬の方はお願いするよ」
「うん、わかった。召喚、スレイプニル」
八本の足があり神が乗る馬とか、神獣、聖獣に相当する馬だったと思う。そのスレイプニルに馬車を引かせることにした。普通の馬と違って、かなり早く会議場に到着できると思う。
今回は、王国の方から国王と第二王子が参加して、そこに護衛として近衛騎士が四名、僕とレイシアが一緒に行くので合計八名での参加になる。それにしても、第一王子は全然出て来ないな? 病気とかなのか? 情報では死んではいないはずだった。
まあいい、王族となんか一緒に乗っても楽しくもないので、馬車は二台用意した。一度遠回りになるのだけれど城にまで迎えに行って、それから会議場になる緩衝地帯にまで、このまま進んで行くことになる。
会場周辺は、五つの国の近衛騎士団と思える兵士によって囲まれていて、ぱっと見ただけでも一国で百人は兵士を連れて来ているようだった。
何でこっちは兵士を連れて来ていないのだ? ひょっとして初めから会議にかこつけて、こっちに襲い掛かって来るつもりじゃないだろうな?
そう思ったりもしたけれど、とりあえずは手出しして来る様子はなさそうだね。まあスレイプニルを見て、手を出しにくくなっている可能性はあるけれどね。下手に手を出すと、どんな痛い目を見るかわからないってのが本音かもしれない。
頭が悪い国なら、気にしないで数で押し潰そうとして来るかもしれないから注意はしておこう。
そんな事を考えながら、即席にしてはそこそこの会議場へと、国王の後ろに続いて入って行った。
今のところ国王とは、一言も口を利いてはいない。どうやら僕達はあまり王家の方でも歓迎されてはいないようだな。
「待たせたようだな。マグレイア王国のブランドル・ラサイア・マグレイアだ。こちらは第二王子のサリラント以後お見知りおきを」
そう言って、国王はおそらくはマグレイア国の者が座る為のテーブルに着いた。護衛がその後ろに立つが、僕達の席は当然のようになさそうだった。
連れて来ておいて当然のように無視か、ならこちらも自由にさせてもらおう。そう思ってどの国の椅子よりも豪華な物を創り出して、レイシアと二人で国王達の後ろに着席した。
それを見た、他の国の者達が只者ではないって感じで視線を向けて来る。おそらくダンジョンの話をすることで、ある程度の情報は伝わってしまうので、これくらいなら見せても問題はないだろうと思う。
「それではこの会議を仕切らせてもらうベイグランド・ケイネス・ファクトプス、ファクトプス国第一王子だ。マグレイア国王よ、まずは後ろに連れて来た者達を紹介してはもらえんかな?」
「サリラント」
国王が王子に合図を送っている。直接は話をしない方針かな?
「彼らは今現在我が国に滞在中の冒険者で、バグ殿と、レイシア嬢です」
「レイシア嬢、ひょっとして孤高の乙女か?」
とうとうこっちにまで噂が届いたって事かな? テーブルに座っている中の一人の若い男が、そう声を出した。
「セルネス・フォルン・アーカイル王子、知っているのですか?」
「ええ、冒険者ギルドでは不可侵条約が言い渡されて、ギルド側からは一切の要請ができないと言われている冒険者です。たった一人でデミヒュルスを複数討伐できるだけの実力を有しているとか・・・・・・」
初耳の名前が出て来たが、デミヒュルスってもしかして、あの異形に名前が付いたのかな? それにしてもこの王子、ステータスでは第三王子ってなっているけれど、ギルドに詳しいな。第三だからなのかな?
「確か、勇者も凄腕の冒険者も、リンデグルー連合王国という国にいるという情報ではなかったか?」
また別の男がそう言って口を挟んでくる。のっけからグダグダとしているな~
その後しばらく噂の冒険者本人かどうかを、あーだこうだと言い合っていた。
しばらくの時間、噂の確認作業などをやっていたのだけれど、結局のところ本人であると証明する方法がない為に、保留にして話を進めることになったようだった。明確に本人でないと無理っていうものがなければ、偽者が本人だって言っても証明できないしね。レイシアの場合、ユニコーンでも召喚すれば一応の証明になったりするのかもしれないが・・・・・・わざわざそんなことの為に召喚を使う必要性はないだろう。
「では改めて質問したい。貴国においてダンジョンを造って戦力の強化を図っているのは、他国への侵略が目的の為であるのかどうか。説明をしてもらおう」
それに対して国王が返答をするようだった。サリラント王子は何か言おうとした様子だったのだが、口をつぐむ。
「我が国が多少ダンジョンで修行をしたところで、あなた方の国と戦争ができる程強くなるはずもあるまい。あんなものは日頃の運動不足を解消しているようなものに過ぎない。あなた方こそ理由をこじ付けて、マグレイア王国に攻め込む口実にしたいだけなのではないかね?」
「確か冒険者達からの話では、安全に確実に強くなれるダンジョンと呼ばれているそうだが?」
「一部の強くなれた者達の話を鵜呑みにして、そんな事を言われてもこちらとしても反応に困るだけだな。戦争ともなれば、何千何万という兵士が必要になって来る。冒険者は一パーティー六人くらいのチームであったか? たった六人で戦争も何もないと思われるが、それでどう戦えといいたいのか。逆に何故マグレイア王国が戦争をしなければいけないと思ったのか、理由を聞かせて欲しいくらいだな」
それを聞いたアーカイル国の第三王子が今度は会話に参加して来た。
「準備運動ぐらいの役にしか立たないのならば、普通の訓練でも十分。しかしそこに兵を派遣してまでダンジョンに入って行っていると冒険者達からの報告が上がって来ています。今はまだ強い兵が少なくとも、将来強い兵を複数用意した軍団を作るおつもりではないのですか?」
「そもそもが、お互いに兵を強くしようと訓練をしておる。将来強い兵を育てては駄目だと言うのなら、あなた方も兵の訓練をやめるべきなのではないかな? 何故マグレイア王国にだけそんな言いがかりを付け、兵を弱くしようと画策するのやら。そちらにこそ、侵略したい意思があると言っているようなものではないのかね?」
後ろで見ていたけれど、国王様は意外にも五カ国に囲まれた状況で一歩も引かない態度で話し合いに応じているな。サリラント王子を見ていて、もっと日和見の王様を連想していたよ。ただ、あんまり強気の発言を続けていると、逆切れして戦争を吹っかけて来ないかが、心配になるよね・・・・・・
「それではひとまずダンジョンに潜り兵を鍛えるのはいいとして、そのダンジョンには罠や財宝の他にも数多くのモンスターがいるとか、そちらはどうやって用意しているのですか? ひょっとして何か邪法に手を染めているのではないのですか?」
再び質問を、ファクトプス国の第一王子がし始める。
「ダンジョン内部については、王家は何も関知していない。こちらは兵を鍛えるのにちょうどいいダンジョンを見付けたに過ぎないのだからな」
「誤魔化すと言うのですか?」
「事実を言ったまで。貴方らも、兵を鍛えるのにちょうどいいダンジョンが目の前に突然姿を現したのなら、活用しようと思うものではないのかね? 何故そこにダンジョンがあるのか、そんなことを此方に聞かれたところで、王家が造った物ではないので、此方としても満足のいくような答えは回答できないな」
「あくまでも関わりが無いと言い張るつもりで?」
「逆に、我がマグレイア王家がダンジョンを造ったという明確な証拠があっての問いなのかね? 口実を作りたくて無理やり話をでっち上げようと言うのならば、此方もそれなりに周辺国家に助力を求めることになるのだが」
「確か、子供でも安全には入れるダンジョンなる物も存在しているとか。ダンジョンを造った者がいることははっきりしているではないか!」
「だが、そのダンジョンを造った者が何者で、どこにいるのかがわからなければ、こちらとしても何もできんと思うのだが?」
それを聞いたそれぞれの国の代表達はしばし検討して、これ以上聞いても無駄だと判断したのか、次の質問をして来た。
「では、最後にお聞きしたい。このたび使者をそちらに向わせようとしたところ、我々のどこの使者もマグレイア王国の国境を越えることが出来なかったようだが、いったい何をした?」
「それに関しては、我々王家でも初耳であって、多数の密偵を捕縛することで、そのような物があることを初めて理解した。実際此方の国境警備兵が国境を行き来するのには何も問題は出ていないし、やって来る一般人や商人なども問題なく、国境を越えておる」
「つまりわからないと?」
「マグレイア王国には、何も被害が出ていないということくらいしかわかっておらん。極稀に一部の一般人と、商人も入れないという報告も出ている。その者達は直ぐに立ち去ったのだそうだがな。通過できる者と出来ない者の関連性は今のところわかってはおらん。職業や、地域、男女が同じ者でも、通過できる者は通過できているようだ。そこには特に関連はないように思われる」
「と言うことは、こちらは完全に知らなかったと言うことなのですね?」
「申し訳ないが、誰が何の目的でそのような事をしでかしたのか、また何時からそのようなものが在ったのかもわかってはおらん」
そんな感じで、結界についてはよくわからないと言う感じで落ち着いたようだ。ふと思ったのだけれど、国王がいれば僕らは来る必要なかったような気がするな。まあ、面倒なことにはならなかったみたいだから、いい方向で予想が外れたって感じかな?
その後の会議は、ダンジョンがどうやって出現したのか前触れがあったのかとか、あきらかに何者かの意思によって作られているとかそんなことが言われていた。
それに対して国王がのらりくらりとかわしていくので、結局誰が作った不明のまま合同調査隊の受け入れを要求されていた。国境を越えることができるのかどうかわからなかったのだけれど、一応それで気がすむのならばと、受け入れていく方針になったようだ。
そして会議を締めくくるように、ファクトプス国の第一王子がこちらに話しかけて来た。正確にはレイシアにだね。
「もしよろしければ、君にデミヒュルス退治を依頼したい。あれには、我が国にいる上級冒険者も手を焼いていてね。被害が拡大しているのだよ」
これにはレイシアも、どうしようって感じで迷っている感じだったので、こっちで回答しておこうと思う。
「申し訳ないが、国からの依頼は受け付けないようにしているので、正式に断わらせてもらう。デミヒュルス退治の依頼に関しては、正式に勇者の派遣を依頼するといい」
「我々は国を代表する者としてこの場に来ている。何故その要請を断ると言うのか、理由を聞きたいのだが?」
「簡単に言ってしまえば、権力に従って何でもかんでもやると言われない為かな。こちらが依頼を受ける理由は、個人的に受けてもいいと判断したものであって、誰かの命令で依頼を受けるつもりはない」
「つまり、我々と敵対すると?」
「降りかかる火の粉なら、振り払うだけだな」
そんな感じで睨み合っていると、ラデラ・ムル・ドラグマイア第一皇女という女性が仲裁に入って来た。後で聞いた話では、彼女は既に女王となることが決まっていて、準備ができ次第戴冠式をおこなうという話だった。つまり、今回の会議には各国とも王子が代表で来ているのだが、彼女は代表ではなく実質的な国のリーダーとして参加していたと言うことらしい。
「バグと申したな。そなたそれだけ王族に対してはっきりとものを申すと言うことは、それなりに腕があるということなのであろう。私達も口だけの者に意見されては面白くもない。ここは一つ実力を見せてもらい、先程の発言の是非を問いたいと思うのだが、どうかな?」
最後の台詞は、ファクトプス国の第一王子に向けた言葉であった。
「いいだろう、王族に意見できるだけの力があるというのなら、それを証明して見せろ」
そう言って、勝手に勝負をする事に決めてしまう。こっちの意見くらい聞いたらどうなのだと思ったよ・・・・・・
「まあ戦うのはいい。こっちのメリットは何だ? 王族だから何でも言いなりと思われるのは気に入らない。ちゃんとしたこちらの納得できるメリットを用意してくれ」
「貴様、平民の分際ででしゃばるなよ!」
第一王子はそう言って怒りを剥き出しにしていたが、ドラグマイア国の第一皇女はふむといった感じで、しばし思案した。
「ならば、お主がそれだけの者だと証明された暁には、我が国においてそなたら二人を国賓待遇で扱おうではないか。もちろん私が即位した後も、口調を変えて接することもしなくてもいい。私の友人として我が国に迎えよう。どうかな?」
ドラグマイア国のトップと友達って事か、それなりに悪くない展開ではあるが、利用されないかどうかが問題だな。
「一つ確認したい。それは友達付き合いになれば、こちらを利用し放題といった意味での話かな?」
「ふむ。友達として頼みたいことは確かに出て来るかもしれんな。しかし、嫌なら断ってもいいというのでは駄目かのう?」
「絶対と言う話ではないのなら、構わないよ」
「ではその条件でこちらはお願いしたい、よろしいかのう?」
「ドラグマイア国に対してのメリットは確かに確認した。他所は知らんがどうなのだ?」
僕はそう言って、こっちの話の間、睨んでいたファクトプス国の第一王子にそう言った。
「何故平民なんぞに、そこまでの待遇をしなければいかん!」
「あなた方はどうかな?」
他の参加国の代表王子達も、気に入らないという態度だった。まあそれに代表して来ているといっても、そもそもがそんな決定を決める権利自体がないのかもしれないな。
「それならば、僕が実力を証明して見せるのは、ドラグマイア国にだけだという事を了承してもらおう。あなた方は後で皇女殿下から話を聞けばいい」
「わかった、そうさせてもらおうか」
「ではここで待っていろ」
僕はそう言うとレイシアとドラグマイア国の第一皇女を連れて一度会議場の外へと向かった。そして今回の会議に出向く上で、簡単な情報を仕入れていたのを思い出しながら、多目的シートにドラグマイア国の首都にある王城の位置を描き出す。
「皇女殿下、とりあえずは貴方の国の王城で詳しい情報を知りたいのだが、こちらで合っているか?」
「うむ、だがここからではかなりの日数がかかるぞ」
僕はそれには答えずに早速城の上空へと二人を連れて転移し、目視で安全を確認できた城の入り口へと再度転移した。
「まずは実力を証明する為にこの国の怪物、デミヒュルスだったか? それの正確な位置を教えてもらいたい」
「わ、わかった」
突如として共も連れずに戻って来た皇女に慌てる兵士達を横目に、それでも要求された情報を文官達が地図に書き込んでいく。それを見ながら僕は確認をすることにした。
「今回実力を証明するのは、僕だけでいいのか? それともレイシアもかな?」
そう聞くと、レイシアはやるならやるよ! って感じで、気合を入れているのがわかった。隣で見ていた皇女も、それを見ながら回答する。
「いや、そなた一人の実力で十分だ。逆に二人になると、正確な実力がわからなくなる可能性もあるしな」
「じゃあ今回レイシアは、一緒に来てもらうけれど、皇女殿下の護衛をしてくれるか?」
「うん、わかったよ!」
簡単に話をまとめると、僕は書き込まれた地図を持って、早速異形退治を始めることにした。
「ちなみに、今回のデミヒュルス退治は実力を示すと共に、ギルドの依頼を受けた扱いでお願いする。ただ働きでは割に合わないからな」
「確かに。よかろう後々ギルドにも確認させてから、報酬の話は後程という事でいいかのう?」
「ああ、それでいいよ」
その後は異形のいる地域に転移しては、異形を殴り倒して二十箇所くらいあった全ての異形討伐が終わったのは、三十分もかからない作業だった。そして詳しい話は置いておいて、会議場へと戻って来る。
僕達というか、第一皇女の姿を確認した各国の王子がこちらにやって来た。
「どうでしたか?」
ファクトプス国の第一王子が代表して問いかけて来た。
「圧倒的という言葉すら生ぬるいと感じたよ。私は自分の今の地位を返上して、この者に渡したいくらいだと思った程だな。今までのこちらの非礼、改めて詫びさせてもらいたい」
「いや、わかってもらえたのならば、こちらとしては何も問題ない」
他国の王子達をそのままに、僕達は今後についての話し合いを進める。報酬を受け取らないといけないし、形式的なものでも、国賓扱いもしてもらわないといけないからな~
残念ながらここで詳しいやり取りも早々していられない為、連絡用に通信できる魔道具の水晶を渡すくらいでこの場はすませることにした。
「では大体話もまとまったし、会議はこれで解散していいのだな?」
「ああ、これで終わりとしよう」
そんな感じで武力衝突などする事なく、無事会議を終わらせる事ができた。帰りも、スレイプニルを呼び出してさっさと国王と王子を城へと送り届けて、僕達は疲れたなって感じで拠点へと戻って来たよ・・・・・・
『今、いいかしら?』
会議で疲れたので、久しぶりにゆっくりしようかと温泉に浸かっていたら、ブレンダから連絡が来たみたいだった。
「おー、問題ないぞ~」
『それじゃあ、本の増刷をお願いしたいわ。そうね、とりあえず百冊お願いできるかしら?』
今って草の栽培はどうなっていたかな。そんな事を思い出し返事を返す。
「多分それくらいなら問題ないと思う」
『そう、じゃあ本の方はお願いするわ。それと特殊インクってもっと種類増やせるかしら? 例えば王族と他の貴族、ギルドや商人といった感じで、違うインクの物を使いたいのだけれどどうかしら?』
「あー、そっちは今開発途中って感じかな。いくつかはできている物があるよ。黒は前にブレンダに納品したやつだけれど、それ以外でなら、色違いの物で赤、緑、青のインクができている。同じ黒のインクで、他の色に見えるような特殊インクは、現在開発中だ」
『じゃあ、今は色違いで四種類の物が作れるのね?』
「そうなるな」
『それなら、予定でいいので今後開発できる種類がどれくらいになるのか教えてもらえるかしら?』
「それは、いろいろ相談とかしないとわからないな。連絡は後でもかまわないか?」
『ええ、今直ぐではないわ。どの道開発するのには時間がかかるのでしょう? こちらもいろいろと考えないといけないこともあるので、わかってから教えてもらえればいいわよ』
「了解した。じゃあわかったら見込みの情報を伝える感じでいいのだな?」
『ええできれば、多少時間がかかってもできるって情報でお願いしたいわ』
「うーん、一応了解した。後で連絡入れるよ」
『よろしくね~』
僕はお風呂から上がって、早速女性型パペットと特殊インクの開発の話をする。開発状況を確かめた結果、まず間違いなく開発できると思われるのが後二種類で、その二種類の色違いで赤、緑、青が作れるらしい。そしてできるかどうかわからない物が二種類だという話だった。
確実な数って言っていたからな~。ここは後二種類って事で伝えるべきだろうね。
「今大丈夫か?」
『ええ、わかったのかしら?』
「ああ、今開発しているのを含めて後二種類、色違いので赤、緑、青と作っているので、合計で八種類って感じだったよ」
『ありがとう、そのうち契約書の大量発注がかかると思うので、準備してもらえるかしら? 今直ぐって訳じゃないのだけれど』
「それは、原案はあるのだろうな? 後、本よりも優先の仕事になるのか?」
『ああ、原案は大丈夫。頼む時に渡すようにするわね。後本だけれど、おそらく百冊終わった後の話になると思うから、重ならないと思うわよ』
「まだかなり先の話だったか、了解だ。じゃあとりあえず進めておくよ。それと、確実性がないけれど、特殊インクは後二種類開発するつもりではいたみたいだ。頭の片隅にでも覚えておいてくれ」
『わかったわ。じゃあよろしくね』
「ああ」
紙の方も需要と供給が少しずつ出て来たから、継続した物も欲しいところだな。何か、考えてみよう。
そして翌日のことだった。
『私だ、聞こえているかな?』
「その声はドラグマイア国の第一皇女様かな? もう自国に着いたのか?」
会議からまだ一日しか経っていないのに、皇女様から連絡が来たよ。連絡が来るとしたら、戻って異形関連の調査を終えてからだとばかり思っていたので、ちょっとビックリしたな。
『今はまだ馬車の中でこれから国に帰るところだ。それよりもだ、お前達、私の国に拠点を移す気はないかのう? 今回の会議を見てみるに、お前達はあまり王家に歓迎されていなかった様子だし、今なら高待遇でこちらに向かえ入れる事もできるぞ』
「僕達がこの国にいるのが何故か、わかっていないようだな。そういう権力に振り回されないようにっていうのも理由の内に入っているのだよ。だから無関心、無視って言うのはこちらにしても都合がよかったりするのだよね。逆に言えば、こっちを頼ろうなどと思わない王族なら、なおの事歓迎って感じだ。これでそちらのスカウトの返事としては、十分になるかな?」
『ああ、よく理解できたよ。なるほどそういう考えの持ち主であったか。これは初手から随分と見誤ってしまったわい。ではこれからは友人として付き合ってもらえるのは、問題ないかのう?』
「そうだな、そっちはまあいいよ。こっちも権力を絡めないのなら、多少の付き合いはしているからな」
『では、一度こちらへ国賓として来てもらおうと思っている。時期はそうだな、デミヒュルス討伐が確認された後、報酬の支払いをおこなう時に、パーティーを開くのでその場に来てもらえるかのう?』
「それは、誰が倒したかっていうのを発表するという意味かな? できれば内密な方がいいのだが」
『それは難しいな、国賓扱いする為にはそれなりの理由付けがいる。そこへ行くとデミヒュルス討伐ならば申し分ない功績だ。国賓待遇に文句がでることもないと思うのだがのう?』
「僕としては、目立って厄介事を持ち込まれるぐらいなら、文句を言って来た奴がいるのなら、そっちに対応する方が楽なのだがな~」
『変わったやつよのう~。普通の者ならば、金や名誉に飛びついて来るものなのだが・・・・・・だからこそ余計に対処に困るが、まあよい。パーティーの名目はそのままデミヒュルスの討伐記念としよう。報酬などは終わったら別室で渡す。それでよいな?』
「ああ、それでいいよ」
『では日にちが決まったらまた知らせるので、また会おうぞ』
「ああ、またな~」
なんとなくだけれど、今後長い付き合いになりそうな気がするな。そうすると、皇女以外でもお客を呼ぶような機会もあるのかもしれないな。客室と、招く用の部屋を用意してみるか? レイシアにも意見を聞いてみるか・・・・・・
そう思ってレイシアを探してみると、姿が見えなかった・・・・・・女性型パペットが指をさしていたので、自室ではなくてお風呂に入っているって事がわかったよ。そういえば、一緒に会議に行っていたからレイシアも疲れたのだろうね。
レイシアが出て来るまでの間、お茶でもしてゆっくりとしていると、一時間くらいは経ったのでは? と思うくらいの時間が過ぎてやっと出て来た・・・・・・女性はお風呂好きだよね・・・・・・
「レイシア、少し意見を聞きたいのだが、いいかな?」
「いいよ。何?」
「今後、この拠点に客を招くこともあるのかもしれないと思って、客室とか応接室みたいな部屋も造るべきかどうか、意見を聞かせてくれ」
「うーん。確かにあると便利かもしれないね。ブレンダとか泊まりで遊びに来られるし」
「となると、ホテルみたいな個室がいいかな?」
「どれくらい交友が増えるかで、部屋の数とかも、変わってきそうね」
「そうだな~。そこまで幅広い付き合いをする方じゃないのだよね。僕の場合は」
「私もだよ?」
「それなら、部屋もそんなにいらないか。二・三部屋あれば、十分かな?」
「そうね、それくらいあれば十分って気がするね」
「後は応接室って感じの部屋だな、いっそこれでもかってくらい豪華な部屋にでもしてみるかな」
「王侯貴族用に?」
「あー、じゃあ普通の招待客用と、王侯貴族に僕達の技術力をわからせる部屋と、二つ造ることにしよう」
「うん。いいんじゃないかな」
満面の笑みで賛成して来たな。まあいいか。早速リビングの下に二つの部屋と、そこから続くように客室を六つ造ることにした。
部屋を六つ造ったのは、それぞれ対応する応接室から行き来できない形で部屋を造ろうと考えたからである。想像だけれど、王侯貴族を招いたとしたら、一般の方と一緒に行動させるって事はないと思ったのだ。気さくに付き合える間柄の王侯貴族であるのならば、そもそもが技術を見せ付ける必要もないので、普通の応接室の方へ案内したらいいから、そっちで一般の客同士もてなせばいいからね。
まあ、こんなものだな。後は内装をパペット達に任せておこう。こちらの趣旨を伝えてあるので、その範囲で気合を入れた物に仕上げてくれるはずだろう~
やれそうなことは大体終わったので、翌日僕達はそれぞれにLV上げの為に改装されたダンジョンへと潜る事にした。レイシアはレイシア用のダンジョンに行き、僕は自分用に造られたダンジョンへと向ったのだった・・・・・・自分用っていうのがわくわくさせてくれるよね~




