ダンジョン王国
第十一章 ダンジョン王国
今マグレイア王国には冒険者が溢れていた。
特にギルドがある訳でもなく仕事が多い訳でもなく、ただ町の側にダンジョンがある、それだけでここには冒険者が一杯集まって来ていた。
家族旅行に来るお客さんも順調に増えていて、その上で冒険者達もブレンダのホテルに泊まりに来るので、ホテルはほぼ満員状態であった。
『という訳で、ホテル二号店を造りたいと思っているのだけれど、いいかしら?』
「まあ、こっちは構わないのだけれど、何でこんなに冒険者が一杯来ているのだ?」
『基本的にはそのダンジョンって、経験値稼ぎの為に造ったわよね?』
「ああ、そもそもはそうだな」
『こっちでは、強くなれるダンジョンって有名になっているのよ。それに結構いい素材が手に入ったりいい稼ぎになったり、それでもって割と安全だっていう話で、こっちにいる冒険者がそっちに流れているみたいなのよ』
「はあ、なら難易度でも上げるか?」
『まあその辺は任せるわ。それで、ホテルの方の二号店の話なのだけれど土地の確保ができ次第、転送の部屋共々お願いできるかしら』
「まあ、いいよ」
『ありがとうね、じゃあまた連絡するわ』
「あいよー」
なんだかなーって感じだな・・・・・・
それにしても、戦争があったばかりなのに帰って来たらもう商売とか、商人はほんとにせわしないな。
のん気にそんな事を考えていた時に、それは起こった・・・・・・
ホテルの転送エリアで、異常が発生したという知らせだ。
テロリストでも乗り込んで来たのかな? そんな事を考えながらホテルのホールに転移すると、部屋は既に封鎖されていて、お客の出入りが出来ない状態になっていた。
何に反応したのかを確認してみると、ウィルス保有者を発見した為の隔離と出ていた。
まあ、マグレイア王国の国中に広まる前に防げたとしたら、ガーゴイルのお手柄って感じだけれど・・・・・・とりあえず、ブレンダに連絡してみるか。
「あー、今時間いいかな?」
『ええ、大丈夫よ』
「今こっちでホテルの転送の間が封鎖されて、出入り禁止になっているのだけれど、そっちに異常はないか?」
『え? 何が起こったの?』
「まだそっちは問題が起きていないのか・・・・・・今ってブレンダはどこにいる? 後お前の家の者とか部下の者も含めて、状況を教えてくれ」
『えーと、今は家で書類仕事をしているわ。部下はまあいろいろかな』
「じゃあ、今家にいる者には絶対に外に出るなと言ってくれ、それと窓などが開いているのなら全て締めろ。直ぐ始めてくれ、こっちは魔道具を作ったらそちらに行く」
『わかったわ』
一旦通信を切って、ウィルスを検出する為の魔道具を作り、まだ感染していない人を守る為の魔道具を作る事にした。
「突然で悪いな」
「いえ、それでどういう状況なの?」
とりあえず、ブレンダの家を調べて問題がないことを確認してから、ブレンダに防衛用の魔道具を持たせる。
「簡単に言えば病気かな? まだどんな病気なのかは調べてもいないのだけれど、病気の保有者が転移して来たみたいで、部屋が閉鎖されたみたいだった。とりあえずこの家は大丈夫そうだよ」
「そう・・・・・・。とりあえずありがとうね」
「バグ、ブレンダ、いる?」
僕達がそう会話していると、レイシアがやって来た。こちらに来る前に病気の治療を頼んでおいたのだけれど、こっちに来たって事は何かあったということかな?
「こんにちは、レイシアさん」
「こんにちは、ブレンダ」
「で、病気は治せたのか?」
「それなんだけれど、魔法に反応して症状が悪化する病みたいなの。だから回復魔法では治せないわ」
「厄介そうな病気が流行っていそうだな」
とりあえず原因究明の前に、ブレンダの関係者の感染を防ぐように、動くことになった。
魔道具には限りがあるのと、病人だらけで動ける人がいなくならないようにと考えたからだった。
その間、僕とレイシアは病気の解明と治療方法の開発だな。
魔法が使えるのなら、調べるのも簡単だと思うのだけれど、使うと患者の病気が進行してしまうので、魔道具の力などを借りることにした。こちらにも多少の魔力は使われているものの直接魔力を浴びるのではないので、まだ酷くならなくて作業ができる。
調べて行った結果ワクチンとなる薬を作る為には、一番最初のウィルス保菌者を捕まえる必要があることがわかった。
問題はこの病気が、どこから感染して来たのかということだろう・・・・・・
僕達は保菌者を探して、リンデグルー連合王国にある隔離患者がいた町へと向かった。
転送して来た人からの話で、どこからやって来たのかとかどこに寄ったのかなど聞いて来たので、まずはその人の立ち寄った村や町などを巡る。
立ち寄った先は既に、住人の全てが病気に感染していたので、街と村に結界を張ってこれ以上の感染を防ぐことにする。
「ブレンダか、こっちは今プラゴルの町ってところへ来ているのだけれど、既に全員が感染している。結界を張って、これ以上の拡大を押さえるようにしているのだけれど、物資などの運び入れとかお願いできるか?」
「ええ、手配するわ」
ブレンダには、今回の物資の配達の為に搬入用の水晶を渡してある。いずれ食料などを送ってくれるだろう。
問題は、病原菌がどうやって広がっていったのかだな・・・・・・
感染経路は空気感染。
だから一先ずはこの町に出入りした人達の調査だな。僕達は、入出管理している警備兵のところへと向った。
「すまんが、町の出入りを記録した物はあるか?」
「まああるにはあるが、あんた達は?」
「現在、国内に蔓延している伝染病の大元がどこかを調査している冒険者だ。最初の病原菌の保菌者を見付けなければ薬が作れないので、その情報を集めに来た」
「そんな話は聞いていないがな?」
「今はまだ潜伏期間みたいなので、病状はまだ表に出ていない状態なのだが、既にこの町の全員が感染しているみたいだ」
「発病もしていない病気を見付けるなど、信じられんな。何かしら証拠はあるのか?」
「この病気はどうやら魔力に反応して進行するので、誰かに魔法をかけてもらうなり近くで魔力を浴びれば、症状が出て来ると思うが・・・・・・まだ治療方法が確立されていないので、あまりお勧めはしない確認方法だな。まあ、あなたの犠牲で多くの人が救われるのなら本望かもしれないがね」
「ぐぅ」
「別にあなた自身でなくても、同僚や部下を生贄にするという方法もあると思うよ。黙っていればバレないしね」
「わ、わかった協力するので、そういうのはやめてくれ・・・・・・」
「では、ここ最近出入りした者を調べて教えてもらいたい」
そうして僕達は町に出入りした人達を把握し、他の町や村などに移動した人などもチェックしていくことにした。
結局のところ順番に追っていては、後手に回ることがわかったので、地図で町の位置を確認して、先に主要な町に結界を張り、感染を免れているところを調べたり、一部だけなら感染者の隔離などを行っていった。
それが終わると、その作業を村へと移して行く。
結界によって動きを止められた行商人は、感染しているかどうかをチェックして、感染者は既に手遅れになっている町へと送ってそこに閉じ込める事にした。
そんなことで時間を使ってしまったからか、発症した者が段々と現れ出した。
教会の方には、ブレンダに頼んで魔法を使った治療をしないように言ってあったのだが、神の力とやらを絶対だと思っているような神官が、魔法を使い続けたことによる死者も出てしまったようだ。
長引かせないようにスキルの精度を調節して、より基に近い形のウィルスをピンポイントで検索できるようにして調査スキルを発動させた。多少の時間はかかってしまったけれど国境を越えた隣国、戦争を仕掛けて来ていた国に潜伏していた異形がスキルに反応したことで、保菌者の存在を発見することになった。
今回は討伐ではなく捕獲してワクチンを作らなければいけないので、戦闘は僕がおこなう。具体的には自爆などをされると厄介なので時間を止めて近付き、相手の意識を奪って動けないように固めた。
ここからは、レイシアの錬金術に任せることになる。
薬の開発をする間、暇になった僕はこの異形についての情報を集めてみたのだけれど、どうやら隣国でマッドサイエンティストと呼ばれる、軍の研究者だったらしい。
今回のウィルスは、元々他国にばら撒くことで何もかもを殺す目的に開発していた薬が、異形になった影響で変質して出来上がったものであったようだ。
戦争を仕掛けて来るだけでも厄介な国が、バイオテロみたいなことまで考えていたって事だろうね。
厄介な国が隣にあったものだな・・・・・・
数日後、レイシアが薬の開発に成功したのを確認してその効果を調査し、問題ないようだったのでパペットに量産を依頼する。
量産された薬はブレンダによって町や村へと配られて、わずかばかりの被害者を出した伝染病は終焉を迎えた。
今回の伝染病に迅速に対応した働きと、隣国との戦の早期終結に貢献したとして、ブレンダの実家であるラングローズ家は、子爵の位だったのが、伯爵家に昇格したようだった。
とりあえず、招かれた祝賀パーティーで、おめでとうとか言っておいたよ。
伝染病騒ぎが落ち着き、再び旅行者などが普通にこちらへとやって来られるようになった。
ちなみに騒ぎの間帰れなくなった人も、結構いたのだけれど事情を説明すると、大抵の人は受け入れてくれて長めのバカンスを楽しんでいたようだった。
ホテルの宿泊代がその間は発生しなかった事もあり、帰りたくないと言い出す客なんかもいたけれど、現実問題としてホテルの宿泊代はちょっとお高い感じなので、しぶしぶとだが大人しく帰って行く。お金を貯めてまた来てくれ・・・・・・
そして今回の伝染病を防いだ件で、マグレイア王国の王宮でも警備は万全という判断が下されて、転送の部屋に待機していた物々しい警備達が撤退することとなった。
後、他所から来るお客さんが結構街中を歩いてくれて、露店などが賑わいお金を使ってくれるので、王国としてはダンジョンを全面的に認めて、何かあれば支援をしようとまで言って来るようになった。ちなみに、ちょっとだけ品質が上がった作物の種から育てられた収穫物は、他所より味が良く街中で買い食いする観光客に喜ばれている。
観光収入にも貢献しているらしく、それなりの援助金がもらえるそうだったのでせっかくだからと、ダンジョンの運営費をもらうことにしたよ。
以前、ここのダンジョンは美味しいとか言われたので、この運営資金を基にして赤字にならない宝物の配置とか、そういう調整をおこなうように、眷属と話し合ってみた。
普通にモンスターから取れる素材とかも、いい資金になるようだけれどね。
翌日、王子から連絡が入った。
内容は、来年度の学校入学者の受け入れに対しての話だそうだ。
ふむ、現代日本だと受験って事になるのだけれど、この冒険者養成学校は未経験者でも受け入れているから、試験って方法で人数は絞れないな。
そして全員を入れるには、教室と教師の数が圧倒的に足りないと思われる。
確かに話し合って、何かしら決めないと駄目だろうな。
結局教師がいない状況では、入学させても意味がないということで、実力を見て素質がありそうな者から入れようということになった。
続いては、どうやって素質を見るのかということなのだが、こちらは擬似的なダンジョンを森にでも造って、それで動きなどを見て選ぼうということになった。
まあ、無難なところで落ち着いた感じだよ。
さらに翌日、珍しいお客さんがこちらに来るとブレンダから連絡が来た。
ブレンダのお店の待機場所で待っていると、そこにやって来たのはケイト先生であった。
「先生、お久しぶりです!」
レイシアにとっては、長い間お世話になった恩師になるので、会えたことに凄く喜んでいる様子だった。
僕としては微妙な感じかな?
まあ今ではスライムから、この人間の姿になるきっかけとなった出来事の元凶である為に、あまり悪感情は持っていないのだけれど、それでも微妙な気持ちにはなってしまう。
まあ、挨拶くらいはしておいても罰は当たらないかもしれない。
「お久しぶり」
「あなたが、あのスライムだったバグさんですか。見た目、すっかり普通の人間ですね」
ケイト先生からしたら、見た目がころころと変わっていて、びっくりって感じのようだな。
「先生、それでこちらにはどのような御用でしょうか?」
レイシアがそう訊ねた。
「えっと、こちらに冒険者の学校を造ったという話が聞こえて来ましたので、視察みたいなものです」
「先生、何かまずいことでもあるんですか?」
今回は、レイシアが積極的に話しかけていたので、黙って成り行きを見ていよう。
「特にそういう話ではないのですが、冒険者が大分こちらの方へと流れ込んでいるようなので、当校でもいろいろと考えさせられたといった感じなのかしらね。まあはっきり言ってしまえば、危機感を持ったというところでしょうか」
「危機感ですか?」
「ええ、私達の学校よりこちらの学校の方が優れていたのなら、内の学校の面子に関わると思っているようです」
「はあ別に国が違うので、そこまで気にしないでいいかと思うのですけれど」
「私達みたいに普通にしている分には問題がないと思うのですが、上に立つ者には何かと事情があるのでしょう」
視察か、王子に連絡を取らないと駄目なのだろうな。ブレンダは連絡してあるのかな? ちょっと聞いてみるか。
「ブレンダ、今大丈夫か?」
『ええ、大丈夫よ』
「ケイト先生が、学校の視察をしたいと言っているのだけれど、こっちの王子には話を通してあるのか?」
『ああ、一応話しはしてあるわよ。学校を回る時は自分が案内するとか言っていたので、学校に行ったら校長室に行ってくれる?』
「何だ手配済みなのか、なら最初に言っておいて欲しかったな」
『ごめんなさい、言い忘れていたのよ』
「まあ了解だ、じゃあ、このまま案内したらいいってことだな?」
『それでお願いできるかしら?』
「問題ないよ」
そう言うと、ブレンダと通信を切った。
「レイシア、校長室で、王子が待っているのだそうだ」
「わかった、じゃあ先生、学校へ案内します」
「よろしくお願いね」
そういうやり取りをして、僕達は学校の校長室へと向った。
「ようこそおいでくださいました、ケイト殿。僕はマグレイア王国第二王子、サリラントといいます。以後お見知りおきを」
「お初にお目にかかります、サリラント王子殿下。リンデグルー連合王国の冒険者養成学校で、魔法を指導しているケイトと申します。この度は王子自ら案内してもらえるとの事で、とても光栄に思います」
こういう敬語とかって苦手だよな~。だから初めから王子とタメ口だったような・・・・・・まあ、出会いが出会いだったから仕方ないのだろうけれど。
ケイト先生の案内を王子に任せた僕達は、教室で授業をしていた。
今回の授業は、生徒が実際に困った状況になった時を聞いて、それの対策をみんなで考えるという感じで進んでいる。
「先生、盗賊が罠の解除に失敗して罠がどういう類の物かもわからない、解除もできない時はどうすればいいですか」
「周囲の状況は?」
「ダンジョンの一本道の通路です」
「それなら、距離をかなり取った後、石を拾ってまずは投げてみるのがいいだろう。落とし穴ならそれで反応することもある。後は、転送系も何とかなるかな、毒ガスだった場合は即座に逃げるのがいいな。後は、敵が落ちて来るとかなら、普通に倒したらいい。失敗しても他の手立てがあるはずだ。なんならその罠に敵を追い込んで、はめてやるのもいいだろうな」
そんな感じで説明とかしていく。
まあ戦術というよりは、その場での思い付きになるのだけれどね。臨機応変に行動しようってやつだ。
後は頭を柔らかくする為に、工房で作って来た将棋とチェスをみんなに配り、ルールを説明して空いている時間などを利用して、遊びながら頭を使う訓練をするように言った。
その後の授業は、ほとんど遊びのような感じになってしまったけれど、まあこれでも実際に考える力は付いてくれるだろう。やり込めば部隊の指揮などにも応用できると思う。
そんな授業ともいえないお遊びをしていると、ケイト先生が王子に案内されてやって来た。
「ここは、僕が気ままにやっているところだから、見学しても意味がないと思うのだけれどな」
「いやいや、特殊だからこそ、視察の意味もあるのでは?」
こっちがそう言うと、王子がそう返答来た。まあそっちがそれでいいのなら、別にいいのだけれどね~
「それで、バグさん、これは遊びなのですか?」
ケイト先生がそう聞いて来る。
「まあ、はっきりと言ってしまえば遊びですね。ただ頭の体操というか、戦術の基本が身に付くのではと思っていますが」
「はあ、どうやってやるのですか?」
興味があるようなので、ケイト先生と王子に説明するついでに、生徒みんなに復習のつもりでもう一度説明をした。
それからしばらくの間、ケイト先生と王子は僕の教室にずっといたので、視察は途中で終わってしまった・・・・・・
やってみて、もう少し初心者向けのものも用意しないと駄目かなと感じたので、拠点に帰ったらオセロも作ろうと考えたよ。
学校が終わりケイト先生は帰るのかと思ったら、ホテルに宿泊するという話だったので、僕達はホテルまで案内することにした。
レイシアは久しぶりに先生と会ったので、今日は一緒に泊まって話をして行くということになった。
それじゃあと拠点に帰ろうとした僕に、ケイト先生が話しかけて来る。
「バグさん、少しお話しませんか?」
なんだか面倒事のような気がしていたのだけれど、まあ聞くだけならいいかと、ロビーにあるソファーのところへと移動した。
「それで、お話というのは?」
「今ならバグさんは人間の姿ですし、正式にリンデグルー連合王国で暮らしませんか?」
「ようは、スカウトということで?」
「そうですね、望むのなら、貴族の身分を貰えるという話もあります」
かなり上の方からの話のようだな。まあ、どうでもいいのだけれど・・・・・・
「僕のメリットはなんだ?」
「後ろ盾が出来るのと正式な身分が得られます。後は定期的な給料がもらえるので、生活が安定するって感じでしょうか」
「失礼かもしれないが、それは必要なものか? 今の僕には衣食住が揃っている」
「正直なところ、私からしたらあまりメリットとしてお勧めできる条件ではないと思っています」
「じゃあそれが答えだな。束縛されて戦争に利用されるデメリットの方があきらかに大きい。はっきり言って僕にとって、メリットになる部分が少しもない条件なので、正式にお断りする」
「まあ、そうでしょうね」
「じゃあ、話も終わりということでいいかな?」
「ええ、時間をとらせてごめんなさいね」
「いえいえ、正式な断りの言葉を聞きたかっただけだろう?」
「まあ役目上はそうですね。私としても、初めから無理な条件だなとは思っていたので」
「それでは、お先に失礼するよ」
「また機会があれば、お会いしましょう」
そう言うと拠点へと帰って来た。忘れないうちにオセロを作らないといけないからね~
その後、学校で流行り出したオセロや将棋、チェスを、ブレンダがどこから嗅ぎ付けて来たのか、販売させて欲しいと言って来た。ブレンダのお店の商品が、どんどん充実して行くな・・・・・・
ケイト先生が帰って行って、僕達の生活もいつもの通りになってのんびりできるかと思ったら、今度は困ったチャンのハウラスがやって来た。
どうも伸び悩んでいるという話なので、ステータスを確認するのだけれど、相変わらずスキルとか変化はないようだ。
負傷しても回復が使えることによって、以前より冒険者らしく戦えているそうだが、持続力は上がっても殲滅力に問題があって、敵に囲まれるときついのだそうだ。
でもなー。スキルがないのでは、戦略の立てようもない気がするのだが・・・・・・
こいつは武器に適正がない状態で戦っているから、肉体能力頼りの攻撃しか手段がない・・・・・・肉体能力か・・・・・・
「お前、居合い斬りを覚えてみるか?」
居合いならスキルでなくても、力任せで何とかなりそうな気もする。スキルではなく身体能力的な技として教え込めば、少しは役に立つのかもしれないな。
「はい! ぜひ教えてください!」
「そうだな、タダでっていうのはなんか嫌だな。思わず唸るような旨い物でも持ってこい、そうしたら教えてやろう」
ある意味必殺技伝授クエストって所か。たまにはこういうイベントを作る側って言うのも楽しいかもしれないな。
「えー。教師なら生徒に教えてくださいよ。何指導放棄しているんですかー」
「あれ? お前理解していないのか? 居合い斬りは僕の専売特許で、僕以外の人間からは教えてもらえない特殊な技なのだぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ、気が変わったので教えるのはやめよう。簡単に楽して強くなんかなれん。がんばってダンジョンに潜って来い」
「そんな! 教えてくださいよ!」
「お前アホだろう? 簡単に強くなれるなんて夢見ているなら、冒険者なんかやめてしまえ! はっきり言ってお前に付きまとわれるのはいい加減迷惑なのだ。こっちは担任じゃないのだからそもそもが、お前に教えなければいけない義務なんか、初めからないのだよ。ちょっと手伝ってやろうかと思えばいい気になりやがって・・・・・・」
その後ハウラスに愚痴愚痴と二時間くらい文句を言ってやった。
よくよく考えたらこいつは僕にとって、ストレスの元なのだ。あまり関わり過ぎないようにした方が、精神衛生的にいいかもしれない。臨時に教師を引き受けた条件も、気になった生徒がいた場合指導するっていう話だった。ハウラスは別に押しかけられて相手しただけで、気になって指導しようと思った訳ではないので、やっぱり教える義務がそもそもなかったと思える。
クレクレ君や構ってちゃんは、ゲームでなくてもやっぱり苦手だな~
数日後、ハウラスは食べ物を持って僕の元へとやって来た。
「先生! 旨いものを持って来ました!」
「おーどれどれ?」
せっかく持って来たので食べてみる、うん確かに他所よりは美味い料理ではある。だが少し上等なだけで感動する程ではないよね?
「ちょっと待っていろよ」
「はい、先生どこへ?」
「準備がいるのだよ。いいから待っていろって・・・・・・」
そう言うと、リビングに造ったキッチンへと転移した。
大豆に似た豆をがんばって調節して、味噌の開発に成功していたので、それを加工して甘味噌にする。
後はお米に似たやつ用意して粒を潰し過ぎないように適度に突いて餅状にし、丸めてお団子にする。続いて炭火焼の七輪を創り出してそれらを持って学校へと戻って来た。
「待たせたな。ちょっと調理するからもう少し待っていろ」
ついでにレイシアにも声をかけておいたので、時期にやって来るだろう。
お団子にしたご飯を棒に挿して形を整え、それに味噌を塗って七輪で焼いて行く。
確か、五平餅とかいわれていたおやつだ。
味噌の焼ける匂いが食欲をそそる。やっぱ日本人は味噌だよね~
そう思いつつも焼いているとレイシアと、後匂いに釣られた生徒達がやって来た。
一番にハウラスに食べさせるのはもったいないので、焼けた五平餅をレイシアに渡す。
「ん~~っ!」
よし、この反応が欲しかった! 予想していた通りとっても満足そうな表情で、夢中になって食べている。
満足がいったのでハウラスにも渡し、せっかくなので集まって来た生徒達にも配ってやった。途中で無くなるのが嫌なので自分も食べながら、とりあえず材料がある分は焼いて行こう。
「ハウラス、美味かったか?」
「はい、物凄く美味しかったです!」
「「先生ご馳走様でした!」」
「おう」
周りの生徒達を帰して、ハウラスに向き合う。
「お前に、持って来るならこれくらいのものを要求したのだけれどな。どうだ?」
「まるで相手にならないものでした」
「じゃあ次ぎ持って来るなら、これくらいのものを探して来いよ。適当にこれくらいでいいやとか、あんまり舐めた真似するな。やるならとことんやってみろ。お前が冒険者になりたいって熱意が、あんなものかと失望したところだったぞ」
「申し訳ありません!」
そう言うと、ハウラスは走って去って行った。
「でも、これと同等のものってこの世にあるのかな?」
最後まで残っていたレイシアが、そう言って来る。
「カレーは、このレベルじゃなかったか?」
そう聞くと、心なしか目をキラキラさせてレイシアは言った。
「あれも美味しかった、確かにこれと同じくらい美味しい食べ物だったよ!」
「な! 探せばあるものなのだよ。ハウラスは人には高い要求するくせに、自分の事は適当に済まそうと怠けるのが気に入らない。生徒じゃなかったら、相手にもしないか殴っていたな」
「バグは厳しいね」
「クレクレ君は、嫌われるのさ」
ちなみにクレクレ君は、ネットゲームでアイテムをもらえるのが当たり前と思い、誰にでもくれと言って来るプレイヤーである。
大抵はクレクレ言うくせに、こちらが交換とか持ちかけても、嫌がったり、きっちり同じ価値じゃなければ拒否して来るのだ。だから、ネットゲームでクレクレ君と呼ばれて、みんなから嫌われる存在だった。
あいつは、それのアイテムじゃないバージョンだな。
構ってちゃんは、特に役に立つ訳でもないのに、人にくっ付いて何かやってもらいたがるやつだ。時にとんでもない行動をして、トラブルを発生させたりもする。相手をしないで放置していると騒ぎ出したり、悪口や変な噂をばら撒いたり・・・・・・
どっちもネットゲームでは嫌われていた。
「まああいつのことはどうでもいい。これ、五平餅って言うおやつなのだけれど、中々だったか?」
「すっごく美味しかったよ!」
「じゃあ、また機会があれば作るよ」
「うん!」
ほんとに気に入ったのだな~
こう素直に喜んでもらえると、作ってよかったって思える。打算とかもないしな。
翌日からしばらく、僕の教室には五平餅が食べたいという生徒達がやって来るようになった。
さすがに面倒になったので、同じくらい美味しいものを持って来たやつには作ってやると言っておいたよ。
しばらくは生徒達の間に、五平餅食べたい集団が徘徊していた。




