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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第十章  新設、王立冒険者養成学校
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バグの教室

 王子の相手をして疲れた僕は、拠点でのんびりとしていた。

 結局結構な時間がかかってしまったのでレイシアとの合流は出来なくて、子供用のダンジョンへと一人で出かけて行ったようだった。

 ブレンダの方は、おそらくこれで大丈夫だろう。次は王子の方の学校だな~

 校舎の方がそろそろ出来上がるそうで、もう直ぐ開校となるという話が来ていた。

 非常勤務とはいえ、教師なので開校の時の第一回入学式には、参加することになっている。受け持ちの授業が無いだけまだましかもね。

 夕方に戻って来たレイシアと、ご飯を食べて雑談などをしながらその日は終わった。


 ホテルが始まって三日後、時期もいいとかいう話になって、一部建築中の建物があるものの学校の入学式が始まった。

 リンデグルー連合王国にある学校は、種蒔きが終わる六月に入学式があり、五月が卒業式になっているみたいだけれど、マグレイア王国では年の初めの一月に入学というシステムになったようだ。まあこれから半年も待って始めるとか待ち時間が長過ぎるだろうしいいのだけれど、学校というか国によって入学時期がバラバラだなって思ったよ。

 入学時期なんてどうでもいいかと、僕は以前に作られた立派な服を着て参列する。

 ちなみに王子はこっちの方を見て、あれって顔をしていた。多分ヴァルキリーの格好をした僕がいないから、不思議に思ったのだと思う。まだ教えていないしね。

 学校には貴族の子供達が騎士科の方へ、一般生徒が冒険者科へと入ることになっていた。

 まあ、ここはわかっていた部分であるけれど、身分とかそういうので揉めるのだろうな。

 ちなみに人数としては、騎士科で五十人くらい。最初は一クラスか二クラスにするかで意見が分かれていたのだけれど、二クラスにすることでクラス対抗という争う環境を作り、お互いに技術を伸ばして欲しいっていう話になった。

 冒険者科は人数がかなり多くなり、百人を超える人数が集まった。クラスは四クラスで、それぞれに三十人近い人数が在籍することになる。

 そしてどちらの科も、年齢はバラバラであった。

 若い子になると十二歳くらい、上は三十近い生徒がやって来ている。ここら辺りは現代と違う感じだね。年齢による差別とか、そういうのにも気を付けていきたい。

 僕とレイシアは参列するだけで終わり、特に挨拶も何もなしで式を終えた。

 本当は少し挨拶みたいなものをするように言われていたのだけれど、そこまで関わるつもりもなかったので、こんなものだと思う。無理強いしたら非常勤すら断られると判断されて、参列だけで許してもらえたのだろうな。


 やれやれと、式が終わった開放感を味わっていると、王子がこちらにやって来るのがわかった。

 「こんにちは、レイシアさん」

 「こんにちは」

 王子はとりあえずレイシアに挨拶をしていた。そして挨拶もそこそこに・・・・・・

 「あの、今日はバグさんには来てもらえなかったのでしょうか?」

 ちらりとお前は代役か? 見たいな視線を送られる。

 「バグは、僕だが」

 そんな王子に、言ってやった!

 「は? 何を言っているのだ? 彼女は女性だったぞ。羽は生えていたが」

 「進化して、男に戻った」

 王子の頭の上に疑問符が一杯見えるな。もう少しは説明しておいてやるかな。

 「元々はレイシアに下僕として呼ばれたスライムだったのだが、進化して行く過程で、お前の知っているヴァルキリーと言う種族になってな。今はこれだ」

 そう言って自分を示して見せる。それを聞いた王子は崩れるようにして、地面に手を付いていた。

 「僕のバグさんが・・・・・・」

 ・・・・・・あー、もしかして、レイシアに気があったのではなくて、こっちだったのか?

 ネトゲーでよくある、ネカマ状態になっていたので、なんとなく罪悪感が湧いたのだけれど、まあしかし相手は男なので一瞬で忘れる。はっきり言って王子はどうでもいいってのが、僕の中での彼の扱いだ。

 僕達はそんな王子には関わらないで、学校の食堂に向った。今日はここで食事をする予定だった。


 食堂に着くと、早速入学したばかりの生徒達が、思い思いに食事をしているのがわかる。

 さすがに仲良しと思われる集団は、少な目だった。実際に授業が始まってお互いを知るまでは、そうそう友達も出来ないよな~

 そんな中でもリア充的な人達は、集団を作っていたりするのだから、彼らは凄いと思う。

 そんな食堂で、少し身分の高い人用に作られたテーブルの一つに、俯いた男子生徒がいるのを見付けた。

 僕達は料理を持って、そこへと向かう。

 「相席、いいかな?」

 「え? ああ、はいどうぞ」

 僕とレイシアがテーブルに着くと、誰だろうって顔を向けて来る。

 「僕らは非常勤講師だ、それで、君は何でそんなに暗い顔をしているのだ?」

 「あ、えっと。彼らに騎士科ではなく、冒険者科に移るように言われてしまって・・・・・・」

 はぁ、まだ入学したてだというのに、もうこういういじめのようなものが始まっているのか。

 どこの世界にも、そういう人はいるものだな。

 「君自身は、どうしたいのだ?」

 「ぼ、僕は騎士になりたいと思っています」

 「誰にも負ける気はない?」

 「はい!」

 ここだけは、気合が入っている部分だな。向上心があるのはいいことだ。

 おそらく他の生徒より、見込みはある方じゃないかなって思ったよ。レイシアもご飯を食べながら話を聞いていて、微笑ましそうに眺めていた。

 「ならば君は明日から、僕の教室に来てもらおうかな」

 「え?」

 そう言うと、彼は何を言われたのかわからないって顔をした。

 まあここは説明不足なので、説明しておくことにする。

 「おそらく騎士の心構えや礼儀、しきたり、マナーなどは他の先生に習う方がいいだろうけれど、戦闘に関してなら強くしてやれると思うぞ。僕の教室では、教えてもいいと思った生徒を指導する権利が与えられている。君はそれに選ばれたと思ってくれればいい。ある程度強くなったら、また騎士科に戻ればいいだけだからな」

 「はあ、そうですか」

 そんなあいまいな返事をする彼をそのままに、僕達はご飯を食べたのだった。


 翌日レイシアはダンジョン攻略に出かけて、僕は学校へと向った。

 昨日の間に教室を教えておいた彼は、ちゃんと朝来ており不安そうに席に座っていた。まあ部屋に一人きりだと、不安にもなるかな。

 「おはよう」

 「お、おはようございます」

 「まずは着替えて、訓練場に移動してくれ」

 「は、はいわかりました」

 彼を連れて訓練場に移動して、早速訓練をすることにする。

 まずは彼の実力を確認しないとだな。

 彼の戦闘スタイルは、盾と片手剣で戦う歩兵タイプの騎士って感じかな。多少は家などで、習っていたのかもしれない。

 「まずは好きなように攻撃して来てくれ。実力を知りたいから、手加減も寸止めも必要ない」

 「え、でも先生、先生は丸腰では・・・・・・」

 「そう思うのなら、まずは攻撃を当てるなり、武器が必要と思わせるなりしてみてくれ」

 「はあ、わかりました。では行かせてもらいます」

 そう言って、攻撃を仕掛けて来た。

 まずは踏み込んでの上から下への斬り込み。

 間合いがぎりぎり当たるくらいの踏み込みだったので、体を後ろにわずかにずらして、その剣の攻撃範囲から外れた。

 前足はそのまま、後ろ足を半歩動かしただけで、避けられた。

 それを確認した彼は大丈夫そうだと思ったのか、段々と武器に威力を乗せていっている感じだった。その全てを回避する。

 剣筋が素直過ぎて、かわすのはとても楽だったのだ。

 段々と当たらないことに焦ったのか、攻撃が大振りになって行く。そこで気を引き締める意味も込めて、盾に向かって殴り付けた。


 ガン


 鈍い音と共に、盾を持ったまま少し後ろに飛ばされて、信じられないという顔を向けて来た。

 冷静になった彼と、そのまま彼が疲れるまで相手をしてから少しの休憩を取ることにした。

 「結構戦えているから筋は良さそうだな。圧倒的に実戦経験が足りないから、実戦形式でやっていけば強くなれる気がするぞ」

 「ほ、本当ですか!」

 「おお騎士はどうなのか、僕には貴族について知らないからなんとも言えないが、戦闘で行けばかなり強くなれるはずだな。近衛騎士より強くなれる可能性はある」

 「うわー、そんなに強くなれたら凄いな~」

 やる気もあり筋もいい、彼は本当に強くなれる素質を持っているな。僕はそう判断した。元の素直な性格もあるのか、教えれば教えただけ吸収していきそうだったので、その日は実戦形式で戦い方を教えて行く事にした。


 夕方過ぎ、学校が終わって拠点でくつろいでいると、レイシアはいつもよりもちょっと早くに帰って来た。その表情は嬉しそうで、悪いことがあった訳ではなさそうだな。

 「お帰り、なんだか嬉しそうだね」

 「ただいま! とうとうダンジョンをクリア出来たの!」

 「ってことは、ホーラックスを倒せたってこと? やったな!」

 「えへへ、ありがとう~」

 僕はお祝いにと、夕食を作ることにした。

 前世の世界の料理なので、口に合うのかどうかはわからないのだけれど、珍しがってくれればお祝いになるかなって思ったのだ。

 「口に合うかどうかはわからないのだけれど、ダンジョン攻略おめでとう!」

 「ありがとう~」

 僕らはアルタクスを含めた三人で、お祝いした。厳密にはパペット達もいたのだけれどね。あいつらは食事をしないからな~

 その後は、レイシアの武勇伝を彼女が寝るまでの間、聞いて過ごす事になった。彼女が寝た後で、ホーラックスがやって来たのでねぎらおうと声をかける。

 「お疲れ様、ホーラックス」

 「こんな時間だが邪魔する、我が主よ。もう聞いたかと思うが、ダンジョンを攻略された。申し訳ない」

 「いやいやレイシアも、凄く成長できたようでお前には感謝している。今後、ダンジョンはどうなる予定なのだ?」

 「今までのダンジョンを少しだけ強化する。その為、しばし出入りできなくなる予定だ」

 「そうか、ではまた完成したらよろしく頼む」

 「主よ、了解した」

 そのような会話をして、ホーラックスはダンジョンへと戻って行った。しばらくはレイシアもフリーになりそうだし、一緒に学校へ行くのかな?

 そんな事を考えながら、自室で眠りについた。


 翌日、レイシアにはダンジョン改装の話をする。

 「そう、しばらく暇ができたわね」

 「学校に顔を出すか?」

 「そうね、一緒に行こうかな」

 「そうだ、ステータスカードの更新もしておこうか?」

 「お願いするわ」


 名前 レイシア  種族 ヒューマン  職業 魂術師

 LV 65-69  HP 412-487  SP 843-905

 力 41-43  耐久力 36-38  敏捷 66-68

  器用度 74-77  知力 145-152  精神 127-130

 属性 火 水 土 風 光 闇 生命

 スキル 錬金術 無詠唱 指揮官 万能召喚 調理 上位変換(無生物) 進化 拠点魔法陣 意思疎通 亜空間 待機魔法 強化 アルファントの加護 察知(生物) 嘘発見 植物操作 バグの加護(全能力強化) 罠察知


 「かなり上がったな~」

 「多分、バグの加護のおかげで弱いモンスターなら、殴って倒せると思うよ」

 「それはそれで凄いな。僕の加護、そこまで劇的だった?」

 「うん。ここぞって時に、力が沸いて来たよ」

 「なるほど。ついでだし、アルタクスもステータス更新しておこう」


 名前 アルタクス  種族 ハンタースライム  年齢 0-1  職業 盗賊

 LV 36-49  HP 286-409  SP 179-191

 力 107-116  耐久力 93-117  敏捷 22-25

  器用度 164-191  知力 35-46  精神 37-41

 属性 水 土 闇 生命

 スキル 捕食 腐敗 肉体変化 分裂 自動回復 状態耐性 接近 窒息 張付き 強酸 鍵開け 罠感知 罠解除 罠設置 爆薬化 追跡 狙撃 偽装


 「しばらく見ていなかったからか、かなり成長していたな。スキルも一杯増えていたし」

 「もう、普通の人だと勝てないね」

 「多分この国の騎士達で、勝てる奴はいないだろう」

 僕達はステータスも見たことだし、学校へと向った。

 到着した学校では、相変わらずあの人達は誰だ? みたいな視線を向けられている。

 ちなみに服装は普通の平服である。汚れてもかまわない服という条件で、作ってもらった物だ。

 「おはよー。着替えて、訓練場に来てくれ」

 「おはようございます!」

 僕は教室に入るなり、そう声をかけた。

 訓練所で少し待つと、着替え終わって急いで走ったのか息を乱していた。

 「おはよう、グアムル君。今日はよろしくね」

 「彼女はこの教室のもう一人の教師だ、よろしく頼む。それでは早速だが、実践的な訓練を開始しよう。レイシア、リザードマンを呼び出してくれるか」

 「わかった、召喚、リザードマン」

 僕らの前、グアムルに対峙するように、リザードマンが呼び出される。

 さすがにいきなり現れたので、狼狽えているみたいだな。まあ、そのうちに慣れていくか・・・・・・

 「じゃあ、まあ戦っていこう。好きなタイミングで攻撃を仕掛けてくれ」

 「わ、わかりました!」

 ちょっとへっぴり腰で、攻撃を始める。

 ちなみにリザードマンは、子供の相手をするように、剣で攻撃を受け流していっている。全然気合も何も入っていないので、じゃれつく猫でも相手にしているような、気楽な感じだった。

 お前モンスターに舐められているぞ・・・・・・心の中でそう呟いていた。

 まあいつまでもこんなのじゃあ、時間の無駄だからな~

 「お遊びしているんじゃないのだから、気合を入れて攻撃しろよ」

 「はい!」

 言われてやっと気合が入ったのか、恐怖心を押し隠して、改めて攻撃を仕掛けて行く。

 そんな彼に剣の振り方、盾の使い方など、その都度指示を出して教え込んでいった。

 直ぐに強くはなれないだろうけれど、怖くても踏ん張って、がんばっていればいずれ最強の騎士になれそうだな。

 彼に戦い方を仕込みながら、そう思った。


 学校が始まって一週間くらいが過ぎた頃、僕の教室は人数が増えて今では六人が戦い方を学んでいる。

 その全員が、上手くクラスに馴染めなかった子達だった。

 レイシアは、ダンジョン改装が終わったようで、今日から早速ダンジョンに潜っている。

 あまり深く関わらないようにと思っていたのだけれど、なんだかずっと学校へ通っているなと思いつつも、真面目にがんばる彼らを見ていると、まあこれでもいいかとついつい思ってしまうな。

 落ちこぼれの魔法使いとか言われている子なんかもいて、出会った頃のレイシアを思い出してしまう。

 そしてずっと相手をしていられないので、スパルタな指導方法で行こうと考え、パーティーを組ませて初心者ダンジョンに彼らを叩き込んだりもしていた。

 こういうのは、実戦で経験を積むのが成長しやすいのだよね~

 彼らに付いて行きながらも、のんきにそんな事を考えていたりする。才能が無いと言われた子でも、LVが上がればレイシアのようにスキルを手に入れてなんとでもなるだろうし、いずれは冒険者としてモンスターと戦うのなら、実戦を経験させるのに早い遅いの差しかないからな~

 案外、以前の王子パーティーと一緒に潜った経験が、こっちに生かせている。どんな経験も、無駄にならないものだと思った瞬間だったよ。

 彼らの場合は、ダンジョンクリアが目的ではないので程々に撤退して、訓練所で反省会を開く。

 そこで駄目出しとこうすればよかったとか、いろいろな意見を自分達で考え学ばせることで、状況に臨機応変に対応できるような、柔軟な思考を培わせるのだ。

 こういうのは自分達で考えさせないと身にならないし、僕が教えていては人に聞いて当たり前、助けてもらえると思い込む癖が付くから余計危険になるのだよね。僕が手を出すのは命の危険が迫った時だけだ。


 初めの頃は全然前に進めなかった生徒達も、ダンジョンに潜り出して五日位して来ると、それなり動けるようになって来て、段々と効率よく進めるようになって来る。

 何度もモンスターを倒しては帰ってと繰り返すうちに、それぞれがLVアップしているのがステータスを見ることができる僕にはわかった。

 そこで新たに使えるスキルなどを教えたり、気付かせたりして彼らはどんどん強くなっていった。

 途中レイシアもやって来て、一緒にサポートなどをして約一ヶ月、彼らは僕達のサポートが無くても、初心者ダンジョンをクリアすることが出来るまでに成長していた。

 こうして入学当初、落ちこぼれだとか役に立たないとか言われていた生徒は、十分実力を付ける事が出来たので、僕達の臨時教室は終わりを迎えることになった。

 彼らは元々いた自分達の教室へ戻って、戦闘以外の知識を学んでいくことになる。

 残念ながら僕に教えてあげられることは、戦うことだったのでわずか一ヶ月くらいしか一緒にいられなかった。

 まあ、僕達も自分達の日常があるので、これくらいが丁度いいよね。


 専用ダンジョンで経験を積んで、LVの上がったレイシアは、今では十分に異形と戦えるだけの実力を付けていたので、久しぶりに、リンデグルー連合王国へと戻ってみた。

 ギルドに顔を出して依頼を見てみると緊急依頼で、異形の討伐があったので優先的に依頼を受けてこなして行く。

 依頼料がもらえるまでには時間差があるので、そこのギルドでしばらくは難易度の高そうな依頼をこなして、依頼料を手に入れたら次の町へと移動するという感じで、僕達は異形退治を始めた。

 今回の異形討伐は、ブレンダからの依頼である。

 勇者は以前に鼻をへし折った件から、今だに立ち直る気配が無く異形の被害が広がっていて、ここらで何かしらの手を打っておかなければ危険だという話をブレンダがしていたのだ。

 この件に関して、ギルドはレイシアに何かしらの打診をすることができないので、ブレンダから友達として手伝って欲しいという要請という形を取るという話らしい。

 直接冒険者ギルドから言って来なかったらしいのだけれど、流通経路が無くなって困る商業ギルドの方からブレンダに相談を持ちかけられ、ブレンダ自身も同じように自分のお店などに影響があった為に、冒険者ギルドに依頼を出してそれを僕達が受けて、討伐したら冒険者ギルドが依頼料を支払うということになったらしい。

 まあ僕も冒険者ギルドのやり方は気に入らなかったけれど、異形自体は討伐しないと危険だなとは、考えていたのだけれどね。

 ちなみに数が多いところがあれば僕が一人で行って、少ないところはレイシアが一人でと、別れて向かうこともあった。


 各地の異形をあらかた片付けた頃、他国はどんな状況なのかなってふと疑問に思った。

 他国は他国で、勇者とかが出て来ているのかな?

 気になったので、ブレンダに聞いてみることにした。

 「他国の異形はどうなっているのだ?」

 『それは国としては勇者とか、あなた達を派遣して恩を売りたいって感じらしいわよ。ただ、相手も困ってはいるのだけれど、借りを作りたくなくて要請は出していないわね』

 「結局倒せる程の冒険者は、いないって事か?」

 『話を聞くところによれば、そうみたいね。裏の話になるのだけれどギルドを通じて、あなた達に依頼を出したいって感じらしいわ。それで以前のギルド不干渉に引っかかって、その依頼が出せないから、他の国が怒っているみたいね』

 「まあ僕としては怒るくらいなら、兵隊でも出せばいいって思うけれどね」

 『出したところもあるそうよ。ただ数が多いところだったらしくてね、ほとんど壊滅したって話。だから余計に手出しできない状況なのだそうよ』

 「打つ手無しって感じか」

 『他国は、そんな感じらしいわね』

 「ブレンダは、他国との商売はやっていないのか?」

 『一応友好国とは取引があるわよ。ただそこまで大々的にはしていないから、そっちの伝手で依頼が来る事はないわね』

 「ほんとに、打つ手無いのな」

 『そうね。あなた達が他国へ、ぶらりと行かない限りは、どうにもならないでしょうね。一応勇者を派遣するっていうのなら出来るのだろうけれど、複数の異形がいるところとなると、無理そうだわね』

 「それにしても魔王軍って全然攻めて来ないな? 前もこんな感じだったのか?」

 『いえ、以前の魔王はもっと直接的に攻めて来たって話らしいわよ』

 「今回の魔王は、精々異形を出しているだけだよな。その被害っていうのも大体出現地点で暴れているから、被害がそこまで広がっていないし」

 『ああ、それは国のお偉いさん達も、不思議に思っているみたいね』

 「わからない事だらけだな~」

 とりあえず今後の対応だな。

 他国にまで異形を倒しに行くか、そっちは他の人に任せるか。

 考えてみたけれど、僕としての意見はどっちでもいいという結果だった。

 わざわざ倒しに行くっていうのは、面倒ではあるところだけれど、戦いたくはないという程の否定要素はない。しいていえば、利用されるのは嫌だなって感じかな?

 そうなると、国から何かしら言われないように、少し手を打つのがいいか。

 「ブレンダは、友好国とは連絡が付けられるか?」

 『ええ、家の方の関係商人が他国にいるから、そちらから連絡などすることは出来ますわ』

 ああそうか、何も国に連絡を付けなくても、商業ギルドから依頼を出してもらえばいいのかもしれないな。

 「友好国の商業ギルドから、ブレンダ宛に依頼を出してもらうのはできるか? もし出来たとして、それでブレンダの立場が悪くなるとかそういうデメリットがあるか教えてくれ」

 『そうね。多少愚痴のようなものは言われるかもしれないけれど、利益の方が大きいかもしれないわ』

 「ふむ、じゃあとりあえずは、友好国で、異形を討伐でもしてみるかな。レイシアはそれでもいいか?」

 「ええ、私もそれでいいよ」

 ちなみにギルド同士は、特殊な風魔法の伝言というものがあって、それでわずかなタイムラグで、会話が出来るのだそうだ。電話とかではないので、距離に比例してタイムラグは長くなるようだけれどね。おそらく洞窟とかだと使えないな・・・・・・

 いや、精霊魔法ではないから使えるのか? 確か精霊だと人工物のところでは呼べないとか制限があるゲームとかあったはずだ。

 まあその風の魔法で友好国の商業ギルドは、正式にブレンダへと異形討伐依頼を出すことにしたみたいだ。


 緊急時なので、今は口頭の依頼形式になるのだそうだけれど、後日正式な書類による要請書が送られて来るらしい。

 僕達はそれを待たないで、ブレンダに友好国の位置を地図で確認させてもらった。

 そしてブレンダが言っていた、商業ギルドを訪れる。

 「失礼、バグという者だが、ギルド長に取り次いでもらえるか?」

 「少々お待ちください」

 受付で、用件を言ってしばらく待つ。

 すると慌てた様子で、ギルド長自らやって来た。

 「これはこれは、ようこそおいでくださいました、バグ様レイシア様。とりあえず応接室へご案内します。こちらへどうぞ」

 ギルド長に案内されて、応接室に移動した。

 「今から急いで書類を書かせていただきますので、しばしお時間をいただきたい」

 「少しくらい問題ないよ」

 僕はそう言うと、ソファーでのんびりとくつろいだ。

 今ギルド長が書いている書類は、商業ギルドから指名で異形討伐依頼をするというものである。

 冒険者ギルドはこの依頼表を受けて、僕達に依頼を出すので、その書類を作成しているところだった。

 ちなみに、この異形討伐のお金は報酬額こそ決まっているものの、まだどこから出るのかは決まっていない。冒険者ギルド自体から支払われる事は決まっているそうだけれど、以前無理強いしたせいで気軽に依頼を任せられなくなったとかで、そこの支部に支払う責任があるとか言っている人がいるのだそうだ。

 後に正式に決まるまでは商業ギルドで、立て替えられるという話だった。

 この話し合いで、冒険者ギルドとこちらの友好国で、僕らが討伐にやって来たという事が知れ渡ると思われる。

 「書類の方、出来ましたので冒険者ギルドの方へ、ご足労お願いします」

 「はい」

 僕達はギルド長の後に続いて、冒険者ギルドへと向った。

 そして正式に依頼を受けて、異形のいる場所を地図で確認させてもらう。

 この友好国に今いる異形は、わかっている範囲で十六箇所みたい。

 この国の地図をもらって、そのまま空間転移で移動して討伐を開始した。

 十六箇所全部回るのに、一泊二日といった感じかな。数が多ければ僕も参戦して、少数の異形は全部レイシアにお任せにして、経験値稼ぎにさせてもらった。

 ギルドに討伐完了の報告をしに行くと、信じられないという顔をされる。

 まあ、町丸ごとみたいな大規模な異形は、いなかったので軽くこなせたのだけれど、ギルドの方からすれば、移動だけでもかなりの時間が必要だと考えられていたようだ。

 まあ、実際に討伐が完了しているのかどうかの調査は、これから始まるのだろうけれどね。

 とりあえず僕達は、このまま帰還することとなる。

 報酬はいずれブレンダの家を通して、直接僕へと届けられるという話だった。

 「それでは、お疲れ様でした」

 「失礼する」

 僕達は挨拶をして、マグレイア王国へと帰った。


 帰って来た僕達は、その日を拠点でのんびりと過ごした。

 パペット達も呼んで、トランプでババ抜きとかしたのだけれど、こいつら表情がないので強いの何の・・・・・・いつの間にかやり込んでいたのか連敗したよ・・・・・・

 そんな翌日、レイシアはダンジョンに向かい、僕は学校へみんなの様子を窺いに行った。

 生徒達それぞれの教室を見てみたのだけれど、ちゃんと馴染んでいるように見える。

 仲間外れとか、そういうのはなさそうだな。

 その後、学校全体を調査のスキルで見張ってみたけれど、問題行動などは発見できなかった。学校運営、軌道に乗ったって感じかな~

 学校が終わって拠点に帰った後、僕達はお互いに学校やダンジョンの事を報告し合う。特に問題もなく、お互いに順調なようだった。

 レイシアはそのままダンジョンに潜って経験値集めをするようだったので、予定が無くなった僕はたまには一緒に行ってみようと、ダンジョンへと付いて行くことにした。


 それから数日後、学校行事に参加して欲しいという要請が入った。

 どうやらトーナメントによるリーグ戦をして、今現在のそれぞれの実力を知ってもらうという趣旨らしい。

 その優勝者と、僕達が戦うというものらしいのだけれど・・・・・・

 「また、無茶なことを言っているな・・・・・・」

 「今の私達なら、ベテランの冒険者にも負けないわよね?」

 「変わりになりそうなスライムとかでも、出しておくかな?」

 「それは、プライドを粉々にしちゃうと思うよ」

 「じゃあ、ゴブリンとか、そういうのでも駄目だな・・・・・・」

 「私の召喚なら、そこまでプライドに傷は付かないかな?」

 「プライドは、問題ないと思うけれど、実力差は大きいな」

 「そうね」

 この子供相手に、ガチで挑む大人みたいな状況。ほんとに困った話が来たものだな。

 準備を少し整えた後、縫いぐるみを持って学校へと向った。

 トーナメントが行なわれているグランドには露店が立ち並んでいて、僕らはまだ出番が来ていないからと、店で美味しそうな物を買い食いしてから待機場所へと向った。

 僕達が座る席は特別席になっているらしく、トーナメントを正面から見られるところに作られていて、その周りは学校関係者が座っていた。

 あそこに座ると、いろいろと話しかけられて面倒そうだなと思いながらも、まあ仕方ないのかなと考え、待機場所へと移動していく。小脇に縫いぐるみを抱えた僕達が席に付くと、周りから露店回りして遊んでいたなって顔をされたよ。まあ事実ぶらついて来たけれどね。

 さすがに試合をしている生徒がいるところで、話しかけられたりはしなかったのだが、今やっているトーナメントの試合が終わると、早速声がかけられる。

 「遅かったですね、バグ先生。非常勤務ということでしたが、そんなことでは生徒への示しがつきませんよ」

 おそらく学校の関係者らしいその人は、知らない人だった。

 相手はこちらを知っているっていうのは、なんとも気まずいものだな。

 「はあ、話をもらってから準備する時間が必要だったからな。前もって話をしてくれていれば、まだ余裕を持った時間に来られたと思うのだがな」

 「教師であるあなたが、生徒相手に準備をしないといけないとは、実力も知れていそうですな」

 あー、どこぞの貴族様かな? よく知らない、王子とかにも顔が効くやつがいるので、反発しているのかもしれないな。

 この手のやからは無視しておけばいいかなって思ったよ。相手もそれ以上特に突っかかる風でもなく、トーナメントを見出した。


 今目の前で戦っているのは、僕の受け持った六人の生徒達と、騎士科の生徒達みたいだった。

 実力がはっきりとわかる実践的な戦いでは、これ以上見なくても、どちらが勝つのか丸わかりだったよ。

 騎士科の生徒達が時間を追う毎に、一人一人と削られて倒されて行く。

 腰が引けて盾もまともに使えない、よく今まで騎士になろうとか言っていたなって言いたい相手だった。

 これは教師が悪いのかな? 経験も足りていなさそうなので、おそらくは授業内容に問題があるのかもしれないな。

 それに比べると僕の受け持った生徒達は、相手が誰であろうと、油断はしないぞといえる気迫をまとっていた。

 連携もばっちり取れているので、倒す騎士に狙いを絞り、他を牽制して確実に追い詰めて倒していっている。

 最後は騎士二人が、一斉に襲われて、なす術もなく倒されていた。

 「先生、次は全力で当たらせてもらいますよ!」

 勝ったばかりで興奮している様子のグアムルが、そう言って来た。若いな~

 「あー、まあがんばれ」

 まともに相手してもらえるとでも思っているのか、やるぞーってメンバーと声を掛け合っていた。

 そのまま戦っても、全然面白い戦いにはならないのだけれどな~

 そして休憩を挟んで、生徒達が舞台に上がり僕達が呼ばれた。

 「トーナメントを勝ち抜いた生徒には、非常勤講師のバグ先生、レイシア先生と戦ってもらいます。先生どうぞこちらに」

 呼ばれて舞台に上がった僕は、抱えていた縫いぐるみを生徒達の前に置く。

 そしてそれはレイシアから渡された、子供の玩具みたいな武器、ハルバードを受け取った。

 その縫いぐるみは、ミノタウロスの形をしていて、僕の膝程の大きさしかない。

 「バグ先生、これは?」

 司会をしていた生徒が、そう聞いて来る。まさか動くとは思っていなかったようで、少しだけビックリしていた。

 「今回戦うとか何とかで呼ばれたのだけれど、実力差くらい考えて欲しかったよ。だから僕達の代わりに戦う相手をダンジョンマスターに創ってもらって来た。子供用ダンジョンに潜ったやつならお馴染みかもしれないが、そいつらの上位固体だ。言っておくけれど、こいつはちゃんと強いやつだからな。見た目で判断して、痛い目を見ないようにがんばれ」

 「はあ、という訳で、対戦相手のミノタウロスです!」


 ブモー


 ミノタウロスは司会が煩いとばかりに睨んで叫ぶ。

 鳴き声は可愛いけれどね。

 実際の話し、こいつは支配下にある訳でもなんでもない、モンスターなのでちゃんと見ていないと暴れるのだ。

 周りのみんなは、僕が近くにいてミノタウロスが大人しくなっているから、その凶暴性を理解できていない。まあ、戦いが始まれば、わかると思うけれどね~

 「それでは準備いいですか? 初め!」

 司会が開始の合図を出して来たので、ミノタウロスを生徒達の方へと押した。

 言葉は理解できなくてもなんとなくわかったのか、ミノタウロスは生徒達を睨みながらじりじりと迫って行く。

 「気を付けろ、こいつ多分本当に強いぞ」

 「だな先生が強いって言っていたから、確かだと思う。目力が凄いしな」

 生徒達も、そんなミノタウロスに警戒しながら、包囲するように展開して行った。

 初めに仕掛けて行ったのは、ミノタウロスの方だった。

 小さな体をさらに低くして、頭の角を押し出して突撃を繰り出す。

 狙われたのは、正面一番近くにいた、グアムルだった。

 盾で受け流そうとしっかり構えたところへと、ミノタウロスがぶつかる。


 グッ


 ぶつかった場所は盾の下の方、いつも敵から与えられていた場所より遥かに下の部分への攻撃に、上手く受け流せずにふらついてしまう。盾の下の方は一番力が入らない部分である為、足で支えるなど工夫が必要だのだが、そこまで盾の扱いに慣れていないみたいだな。

 体勢が安定していないその隙に、遠心力を利用したハルバードの攻撃が繰り出された。

 盾を迂回するように狙われたグアムルの足に、攻撃が当たる。

 「痛って~」

 刃を潰された武器だったので、そのダメージで怪我はなさそうだった。

 内出血はしているかもしれないけれどね。

 それを見て、実戦だったら足が無くなっていたな。盾の使い方も悪い減点だって思ったよ。

 その後も取り囲もうとしたり、盾を並べて防御しようとしたりしていたけれど、素早い動きで乱戦に持ち込んだり、フェイントなどを駆使して引っ掻き回したりと、モンスターとは思えない動きをして翻弄している。

 「おー、さすがに知能を上げただけあって、いい動きをしているな」

 「普通のじゃあ、駄目だったの?」

 「あいつらだったら、普通のやつなら今頃倒しているさ」

 「へ~、強くなったのね」

 「今までのモンスターは力押しがほとんどだったから、あいつらにとっては、ある意味やりやすかったのだろうな。まあ、トーナメントに出て来た騎士とか、他は見ていないが、そいつらも多分力押しのやつばかりだったのだろう」

 「そうだね」

 「だから、こいつは次のステージの敵ってことだ」

 「なるほど~」

 僕とレイシアは生徒達を見ながら、そんな話をしていた。


 かなりの時間が過ぎ、ミノタウロスに翻弄され続けていた生徒達は、初めての一撃を、ミノタウロスに与えることが出来た。

 それは偶然の一撃だったのか、怒ったミノタウロスに二発目が入るのはかなりかかったのだけれど、そこから生徒達の動きが変わったように思える。

 ミノタウロスのフェイントに、引っかかった振りをしての反撃、わざと体勢を崩しての誘ってからの反撃、生徒達の駆け引きで段々攻撃が当たるようになり、連携が少しずつだけれど上達していった。

 やがては、相手の行動を先読みするなどして、対等に戦えるようになっていき、ダメージを連続で与えることが出来るようになっていった。


 ブモ~~


 やがて、ダメージの蓄積したミノタウロスが、悲しげな声を上げて消えていく。

 それを受けた会場の見学席から、勝者となった生徒へと拍手が鳴り響いた。

 「また一つ、成長できたかな」

 「そうだな。まだまだ駆け出しだけれどね」

 僕は嬉しそうにしているレイシアと、拍手しながらそんな感想を呟いた。


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