収集は大変だ!
次の素材についての当てがない。
ちょっと考えたのは上位精霊ではあるものの、どこにでもいてどこにもいない存在の探し方がわからなかった。
だから僕達はとりあえず、人の寄り付かないような秘境みたいな場所を当面の間回ることにした。
忍者パペットからの情報も日々増えてはいるのだけれど、こちらも素材として使える程のモンスターではなくて、知識としてそういうモンスターがいるのかと、わかっていれば問題ないような情報ばかりだった。
「まだドラゴンくらいしか、見付からないな~」
「そうね。経験は一杯積めているけれど」
「もういっそのこと、ドラゴンばかり集めるのがいいのかな?」
「なんだかそっちの方が、簡単みたいでそうしたくなっちゃうね」
「クインリーも、召喚で呼ぶと中々強くていいモンスターだけれど、素材として見たらまだまだって感じがするからな~」
「そうだね」
何か効率を上げる為の魔道具を、開発するべきなのかな?
例えば、人工衛星とかどうだろうか?
調査してわかる範囲は狭いけれど、それを世界中に広げちゃうとか・・・・・・できるのならば凄いシステムだけれどもね。
それからも、秘境と言われていそうな場所を二・三箇所程回ってみたけれども、たいした収穫は得られなかったので、本格的に魔道具の開発に乗り出してみる。
この世界の遥か上空から条件に合う存在を探すシステム。
必要な場所を地図のように、上空から撮影して見せてくれるマップシステム。
後は、衛星軌道上からの地表へのビームとかかな?
秘境探索と平行して、開発して行くことにしてみる。昼は探索をして、レイシアが眠っている間に開発を進めれば効率よく活動して行ける。まあジェットエンジンとか、作れないから結局は魔法だけれどね。
その後研究をしていったところ、いろいろと詰め込み過ぎると、重くて上に飛ばせないことがわかったので、とりあえず鳥型パペットの方にプランを変更することにした。
地上を忍者パペットが、上空から鳥型パペットが情報を集める感じかな?
パペットなら直ぐ創れるので、早速創造して上空からの情報収集をやってもらった。こっちの方が余程簡単だったので、初めからこうしておけばよかったな・・・・・・
そんな感じで情報を待ちながら秘境にある遺跡とか、モンスターの巣などを探検していると、次の素材に良さそうなモンスターの発見報告が入って来た。
もちろん速攻で、闇渡りを使ってモンスターの目の前まで移動したよ。
「さすがにでかいな~」
顔だけでも、僕らと変わらないくらいある虎がいた。
「燃えているね」
炎に包まれた虎だった。こんなのは小説とか漫画ではいないな。この世界独自のモンスターかな?
「種族はルイオネルドってやつみたい。LVも結構高くて八十もあるな。素材になりそうかな?」
突然に現れた僕達を警戒するとともに、威嚇し出した虎を前に僕らは会話していた。
「詳しいことはわからないけれど、多分素材としては十分だと思う。拠点魔法陣」
二体目の素材として、十分らしいので前に出て捕獲の準備を始めた。
虎は、魔法陣の展開と前へと出て来た僕を見て、即座に攻撃を仕掛けて来る。
魔法とか使って来るのかなって思っていたのだけれど、接近戦だった。
「シールド」
目の前に現れた不可視の盾が、虎の右前足の攻撃を受けて音を立てて壊れる。
その代わり虎の攻撃自体も完全に勢いを無くして防ぎ切れたようだ。
虎は怒ったような咆哮をあげ、それを受けて全身の炎が強くなる。肉体強化系の魔法かな?
ならこちらも様子見などといっていないで、本格的な攻撃を仕掛けていかないと駄目だろう。
「スタン、スリープ、パラライズ」
ガァァァ!
僕の魔法に対して、咆哮で打ち破って来た。
なるほど、これは強敵であると同時にいい素材になりそうだ。
ただし、捕まえることができたらの話だろうけれどね。通常の魔法では分が悪そうなので、合成魔法を使うことにする。その前に、炎をまとったタックルが来るのでこれを防ぐのが先になりそうだな。
「空間断絶」
前の空間が歪み、そこに虎が突っ込んで来た。
そして、そのままレイシアの魔法陣を通り過ぎた後ろへと何事もなく通過して行った。
虎から見たら、こちらが消えたように見えたに違いない。
消えた僕達を探している姿を後ろに確認できた。
ではその隙を突かせてもらって、畳み掛けさせてもらいますかね。
「幻覚を設定、ここは月面、僕は未知なる狩人、満足に動けぬ世界で、ただただ成すがまま連れていかれろ」
虎には、急に周りが暗闇に閉ざされた月面で、重力が激減したように感じたはずだ。
空気が無くなり体を包んでいた炎も消える。その変化は現実でも起こっていた。
虎は僕から遠ざかろうと一歩だけ動いたつもりで、大ジャンプしたかのように浮かび上がっている感覚になっているのだろう。現実には横に倒れて、足をばたばたさせていた。
そして近付く僕を、顔を背けてなるべく遠ざかりたいって感じでこちらを見ていた。こうなると、虎っていってもでかいだけの猫って感じに見えるな~
多分肉食のエーリアンに見えていて、かなり恐ろしく感じていると思う。垂れた涎とかが強酸になっていて、地面が溶けていると錯覚しているだろうからね。
そんな虎の首に首輪を着けてレビテーションで浮かした後、手を持ってそのまま引っ張って拠点の飼育小屋まで連れて行った。
まだ幻覚を見ている虎は、両手をエーリアンに引かれたまま宇宙船の中に連れ込まれて、どこかへと連れて行かれているように感じていたはずだ。
人間だったのなら嫌だー、とか叫んでいそうだな。
無事に二体目の素材が集まった。
三体目はいつくらいに見付かるのかなって思っていたのだけれど、意外に直ぐ見付かったよ。
お次はリバイアサンという、海にいる竜だそうだ。見た目は魚のでかいやつらしい。
問題は、素材としては十分らしいのだけれどモンスターを入れておく部屋は、陸上生物用だけしかなかったということ。
そこで急遽、捕獲前に水槽のある部屋の製作を始めることにした。
今度の場所は、飼育小屋の下に階段で移動する感じにする。水を入れる前にパペット達がまた凝った水槽と、海の生き物の生きる環境を造っていたよ。
まあそれで水中用パペットも創造して、水質の管理をさせる事にした。
水槽は、一応海用のでかいやつとちょっと小さいやつの二つ。確か淡水魚とかいるから、この機会に造っておこうかと思ったのだ。後から追加して行くよりはいいだろう。
部屋が完成して水で満たされるのを待ってから、今回は僕だけで向かう。相手は海底らしいからレイシアが付いて来るのは無理っぽいからね・・・・・・
それでは早速リバイアサンの前へと影渡りで突入。
目の前に突然現れた僕に、驚いていきなり突撃を仕掛けて来た。
ここは空気が無いので無詠唱魔法を使い、シールドを張って突撃を防ぐ。
ゴンッ
さすが水中なので、体全体に鈍い衝撃のような音が響いた。
まあそれでも突撃を防ぐことはできたのでよかった。シールドは全体にヒビが入っていて、もう次は何の役にも立たない感じだ。
やっぱりこいつも素材として十分な強さがありそうだな。
突撃を止める事で改めて全体の姿が見えたのだけれど、見た目はシーラカンスみたいな感じだった。こいつ完全に魚じゃん。これでも竜になるのかな? って思ったよ。
さて毎回のように、精神に揺さぶりをかけていこうか。
(スリープ、パラライズ、フィアー、スタン、マインドブロー)
無詠唱になるのでほんのわずかでも威力が落ちているのか、それとも素材として強いのか魔法抵抗が高いのか、頭を振って魔法に抵抗して来た。
見た目は魚だけどさすがに竜族、簡単には捕獲させてくれないみたいだ。こうなれば、合成魔法でと思ったのだけれど・・・・・・
空気が無いので幻覚の設定が相手に届かない!
おそらくビームは出せるのだろうけれど、素材を殺す訳にはいかないのでどうしたらいいのか・・・・・・
初の水中戦、舐めていたわ~
しばらくいい案が思い浮かばなくて、フィアーを唱えながら相手が根負けして、精神が弱くならないかなってやってみたのだが。でも相手にもプライドがあるのか全然屈しなかった!
しばらくそんな感じで魔法攻撃をしていたけれど、相手も慣れてしまったのか、こちらに水流を操った魔法攻撃を繰り出して来る余裕が出来てしまった。
やっぱり合成魔法でないと決定打は難しそうだったので、直接首輪を取り付ける方法で行ってみよう。
同じ魔法を使い続けると相手に余裕ができてしまうので、精神支配をやめてスパイダーネットによって体の自由をまず封じて行く。
暴れて拘束を振りほどこうとして来るけれど、魔法の拘束を破る以上の速度で、次々と魔法を叩き込んで行く。
あー、たまに不意打ちでフィアーでも唱えて行くかな、精神の隙間を付ければ有利になれるしね。
そんな感じで、首輪を着けようと考えているヒレの部分以外を魔法の糸で繭のようにぐるぐる巻きにしていった。
僕は魔法の拘束で忙しいので、創造したばかりの水中用パペットを首輪付きで呼び寄せて、取り付ける作業を任せることにした。
二人がかりなので作業は何とか上手く行って、リバイアサンは繭の中でビクビクしていた。
水中戦、いろいろと侮っていたな・・・・・・
環境によっては厳しい戦いになるのだな~。地形効果による作戦の厄介さを思い知った戦いだった。ある程度はゲームで理解していたけれど、リアルとゲームでは厄介さが桁違いだと理解させられたよ。
ゲームによっては呼吸を何とかしたら、ペナルティーが無くなったり、水泳のスキルを学べば問題なく動けたりしたからな~
まあ捕獲には成功したのでパペットを連れて、拠点へと戻る。
水槽に入れて繭を取るとリバイアサンは一応大人しくなって、周りを警戒してはビクビクとしていた。パペットにも恐々としていたかな。
さて一応念の為、レイシアに素材になるかどうかの確認をしておこう。
「どうかな、素材に使えそう?」
帰還の報告ついでに水槽へと連れて来たレイシアに、そう質問をする。
「うん、十分そうだよ」
ホッとしてこれで三体目って思ったのだった。
レイシアは水槽の中のリバイアサンを眺めて、これが竜族? と首をかしげていた。
次の四体目になる素材の当てがない。その日はゆっくりと眠って休憩することにして、以前開発が上手く行かなかった人工衛星の研究を再開した。
情報が手に入るまでの間、時間があるので長々と研究して、姿勢制御機能とかを組み込んだテスト機を造ってみた。
実際に打ち上げたテスト機は、見当違いな所に墜落するか、そのまま宇宙の果てに飛んで行ってしまうか、位置を固定する為の推進機構を断続的に使いながら、フラフラと動き回っていた。
そのテスト結果に何がおかしいのかわからなくて、レイシアにも話を聞いてみたら、何故上手く行かないのかがやっとの事で判明した。大前提が違っていたみたいだな・・・・・・
衛星は地球の周りを回って飛んでいたのだけれど、こっちの世界はそもそもが球体ではなかったよ。
こちらで地動説を唱えていたら、本当に常識外れとなる設定だった!
平らな大地があり、それを支えている神様がいるのだそうな。一応の宇宙空間はあるものの、地球のように太陽の周りを回っている訳ではないのだそうだ。
普通に太陽が巡っているので、球体かと思っていたのだけれど、夜に星を観測してみた結果、見える星に動きがなかったことからこの星? は自転とかもしていないようだね。だから衛星軌道上に待機させようとして打ち上げたテスト機は、上手くその場に留まることができなかったようだった。自転していないのに、重力が普通に存在している理由とかは、どうもよくわからなかったのだけれど、レイシアの説明ではこの大地の下には神様がいるとか言っていたので、おそらく神様が何らかの力でも使っているのだろう。ちなみにレイシアは重力というものがわからなかった。
そんな状態だったので、衛星を上空に留めていると、ピンポイントなビーム攻撃などはできなかったし、情報収集も難しい状況だった。おそらく時間をかければ、開発できるとは思う。姿勢制御型ではなく、ヘリコプターみたいな感じの物が必要なのだろうって思ったよ。
そんな訳で、衛星の開発は打ち切りにすることになってしまった。
僕達は素材の情報集めを、忍者と鳥のパペットに任せて、暇潰しを兼ねてレイシアの経験集めをして過ごす事にした。
まずは近場の町へと向かって、そこを拠点にして依頼でも受けようって感じかな。
僕らはまだ名前も知らないその町の、ギルドへと向かっていた。
大抵のギルドは大通り面していて、大体は町の中心に存在している。これは何か緊急事態が起こった時に、移動時間に差が出ない為の対策なのだそうだ。
例外はあるのだろうが、まずは町の中心を目指せば、普通はギルドを見付けることができる。僕らはギルドの場所を聞く必要もなく、そこへと入って行った。
「あまり町の雰囲気がいいところじゃなさそうだな」
「小さな町みたいだから、仕方ないのかもしれないね」
「依頼も、たいしたものがないかもしれないな。冒険者が少なくて、一杯あるとかってパターンもありそうだけれど」
「まずは見てみないとだね」
僕達はギルドに入ると、まずは依頼を確認しに行った。緊急の依頼というのは特になさそうだけれど、討伐系の依頼はそれなりにありそうだということがわかった。
「経験集めをするのには、問題なさそうなところだな」
「そうね」
僕達は、難易度が高そうなヘカトンケイルという巨人の依頼を受けることにして、依頼表を持って受付に向かった。
相変わらず受付では、できるのかみたいな目で見られたものの、一応は受けさせてもらえて僕らはそのまま討伐へと向かった。
ユニコーンに乗って移動すること八日森に入って二日、打ち捨てられた遺跡にて目標のヘカトンケイルと対峙した。
「召喚、ケンタウロス」
クインリーより上位の者として、新たに呼び出すことに成功した、ケンタウロス。
ステータスでLVを確認したところ、クインリーより少しだけ上のLV56って感じだった。見た目はレイシアが好きそうな白馬に女性の上半身が付いている感じかな。
そしてどうやら、魂術師っていう職業は、魂の波長が合っていれば、自分よりLVが高くても召喚に応じてもらえるってことみたい。まあ、おそらくって感じだけれどもね。
ちなみに呼び出したままの素の状態では、戦力としてクインリーとそんなに違いが無い為、彼女用の武具を作って贈ってみることにした。
ショートランスと言われる投げにも使える片手の槍と、前衛もしてもらいたいのでタワーシールドを持ってもらい。防具はなるべく軽装がいいかと、レザーアーマーで固めている。
それぞれが凝った装飾が施されていて、ショートランスは火の属性と投げた後で、手元へと戻る魔力が込められている。
盾は単純な軽量化とダメージの遮断、鎧には物理と魔法の両方にある程度の遮断効果を持たせた物を渡した。
これで戦闘力はかなりのものになったはず。問題は敵の数で、今回はいいのだけれど、複数の敵を同時に相手する時の対策はまだない。雑魚なら問題ないのだけれどね。
そんな訳でヘカトンケイルとの戦闘では、まず拠点魔法陣を展開して、ケンタウロスが突撃をかけた。
短いとはいえ一応ランスなので、チャージ攻撃で先制ダメージを与え、その後は盾を使っての接近戦へと移行。
レイシアは、攻撃魔法での後方からの支援をして戦っている。
敵の行動やダメージ具合では、二丁拳銃を出して銃撃による攻撃に切り替えて戦う予定になっている。なるべくは自分の魔法で戦うようにして、経験を積むって方針だ。
今回はケンタウロスががんばってくれたこともあり、銃を使うことなく討伐することができたようだった。そんな感じで討伐を終え、ギルドで驚かれながらも次々と依頼をこなして行く。
そんな生活を送っていると、やっと四体目のモンスターの情報が発見された。相手は結構有名な夢魔、魔族か悪魔かになるサキュバスと呼ばれる人型の相手みたいだ。女性の見た目ってのはやりにくいなって思うよ・・・・・・
「ちなみに、サキュバスは素材としては、問題ないのかな?」
「うん、結構強くて厄介な相手だよ」
厄介なのか・・・・・・ただでさえ女性の見た目なので、できれば遠慮したい相手だけれど、仕方ないかな。僕らは早速サキュバスのいる場所へと影渡りで向かうことにした。
そして現れた僕らを、サキュバスは驚いた顔をしてこちらを見た後、にっこりと笑いかけて来たよ。ほんとやりにくい相手だ。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん」
そう言った後、レイシアはその場に崩れ落ちていった。一瞬何がって思ったのだけれど外傷はなく、おそらく夢の世界へと連れて行かれたのではって判断できる。さすが夢魔!
「スリープ、パラライズ、スタン」
負けじと魔法で攻撃を仕掛けて行く。
「くっやるわね。それならあなたもいらっしゃいな」
そう言うと、僕も夢の世界へと誘われてしまった。そして夢の中では、魔法が使えない状況に陥ってしまった。
現実になら魔法は使えるのだけれど、夢の世界はサキュバスのテリトリー。そこへ取り込まれてしまった為に、魔法が使えない設定にされてしまったのだろう。
そしてこの夢の中では、僕に都合がいいように話が進むのか生前の肉体を持っていて、レイシアが僕を誘惑して来ていた。これって、サキュバスが化けているの? それとも操られているレイシア本人?
慣れない女性に接近されて、しかも乱暴に扱うことができない僕は、混乱してしまう。
今まで散々精神を揺さぶって来たのに、ここに来て自分が揺さぶられることになるとは・・・・・・
そこでふと、自分が影の精霊であるということを思い出す。影であると共に精神を司る精霊でもある。
その僕にサキュバスは無防備に接近しているのではないかと考え付くと・・・・・・
確かに夢の中自体は不利な状況ではあるが、外の肉体自体はこっちが相手より強いはずなので、精神を活性化させると同時に、相手を内側から支配するように魔力を放出していった。
その結果、どうやらレイシアの姿に偽装していたらしいサキュバスが、元の姿になって僕の手の中に現れた。
目標が自分から手の中へとやって来たと判断して、魔力の放出に方向性を持たせて、どんどんと魔力を注ぎ込んで行く。僕に対する服従の意思を練り込んだ魔力を、ひたすらに送り込んで行くと、やがて夢の世界が壊れて現実へと帰還することができた。
そして足元にはスヤスヤ眠るレイシアと、気を失ったサキュバスがいた。
最初は焦ったけれど、終わってみればわりと簡単だったかもしれないな。そんな事を考えながら二人を拠点へと運び、レイシアはソファーにでも寝かせておいて、サキュバスは飼育部屋に連れて行って首輪を嵌めると、獣扱いは可哀想かもと思って、彼女用のベッドを作るように指示を出しておいた。
これで後一体の素材で進化の準備が整うな。
何に進化するのかが不安で仕方ないけれど、上手く行くことを願うばかりだ。
また情報が無い状態になってしまった為、サキュバスのいた所の近くで、町を探しギルドの依頼を受ける生活に戻る。
その町もまた暗い雰囲気を感じたけれど、こちらに害が及ばない限りは特に問題が無い為、そのまま依頼を受けては討伐して、報告を繰り返していた。
最近では拠点でのんびりと休めるので、セキュリティの関係からも、町で宿泊することは無くなった。
そしてレイシアは料理にはまったのか、拠点ではいつも作ってくれたご飯を二人で食べていたので、せっかく町に来たのだからたまには楽でもしてもらおうと、今日は町の方でご飯でも食べようかって話になった。
一緒にご飯を食べる関係で、僕は生前の姿を形取り影の姿から色を付けて、モンスターだとわからないように偽装をして付いて行くことになった。
そういえばスライムの頃から、レイシアは一緒にご飯を食べたがっていたな。何でわざわざ偽装してまで? と思わなくもなかったが、まあいつもご飯を作ってくれるので、こういうのもたまにはいいかと思い直して、付き合うことにする。
そして町の食事処で久しぶりに他人がいる環境を味わった。
その周りの人達からの噂をなんとなく聞き耳を立てて、拾い集めてしまう。
まとめるとこんな感じ。
どうやらどこかに魔王が復活して、人間を怪物に変えているらしい。ミュンセルンという町に勇者が現れたらしい。近々他国との戦争が始まるらしい。魔王が現れた影響か、作物の育ちが悪く野菜や麦などの値段が上がるらしい。
そんな話などがあちこちから聞こえた。
そこで少しだけ安堵することができた。だって、僕が勇者や魔王に関係することは、なさそうだとわかったからだ!
やったね! 勇者ルートと魔王ルートを回避することに成功したよ! なるべくなら、こちらに関係ない場所でがんばって欲しいものだ。
そう思っていた次の日のギルドで・・・・・・
「すみません、孤高の乙女のレイシアさんですね。指名で依頼が届いています」
こんな町にもレイシアの名前が伝わっていたみたいだ。しかも依頼の内容が、例の異形退治と来た。
勇者さん、ちゃんと仕事してくださいって言いたいけれども、まあ勇者様一人では手が回らないのだろうな~
そして今回は、討伐数が三体。前の時のような無茶苦茶な依頼ではないだけ、まだましかなって感じがしたよ。レイシアもそう判断したのか、依頼を受けることにしたようだった。
「わかりました」
早速討伐へと向かった街道で、例の異形が商隊を襲っているのを発見。
急遽飛び入りでの討伐活動を始めることになった。
「召喚、ケンタウロス」
拠点の魔法陣は、まだ移動途中なので、ケンタウロスを先に突撃させる。
矢のように突き進んで行くケンタウロスの後、こちらもそのまま商隊に近付き声をかける。
「みなさん下がってください。召喚、クインリー」
相手は強く、ケンタウロスだけではきついと判断、後続の戦力としてクインリーを向かわせた。
そのクインリーと入れ替わるように、商隊で生き残った人達がこちらへと走って来る。
ある程度戦場となる場所に近付いたのと、逃げて来た人達がレイシアと合流したので、ここに拠点を築く。
「拠点魔法陣!」
安らかな魔法の力に癒されて、人心地つく商隊の生き残り達。
まあこちらは戦闘の最中なので、そのまま無視させてもらって、ケンタウロス達の支援を開始する。
異形に普通の魔法は効きにくい。経験を稼いで強くなってはいると思うけれど、元々の魔法がそこまで強くないので、レイシアは無理をしないで二丁拳銃を取り出して、それによって死角に回り込もうとする敵を攻撃していった。
前までとは違い、戦力が充実したレイシアは、多少の時間はかかったものの、僕の力を使わないで異形の討伐に成功する。ケンタウロスと、クインリーが拠点へと帰って来て傷を癒していた。さすがに異業相手に無傷とはいかないな。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
「いえ、依頼を受けて来ているので、元々討伐する予定でした」
「なるほど、そうでしたか」
そう言うと商人の人は苦い表情をする。周辺情報を見落としたって後悔しているようだな。
僕達はその商隊の人達を連れて、町まで一緒に戻って来ることにした。安全になった後で、全滅した訳ではないし他の護衛も付いているのに一緒に戻って来たのは、彼らに討伐の証言をしてもらう為だった。
異形は討伐部位がないので、依頼が終了したかどうかはその後の調査が必要になる。
でも、今回の場合は証明してもらえる商人がいたので、おそらくその場で報酬がもらえるはずだ。
そんな訳で荷物の大半を失い、護衛のパーティーも人数が減って、元気の無くなった商隊の人達を引き連れて、ギルドまで帰って来る。報酬は問題なくもらえたよ。
あくる日、とうとう最後の素材の情報が見付かった!
モンスターの名前は、コーウェルバードと呼ばれている鳥だそうで聖属性、神鳥と呼ばれている鳥だそうだ。
丁度今、巣を作って卵を育てている最中らしく、その卵を既に取って来た後だったそうだ・・・・・・さすが忍者!
でも、最後だと思って入れたこの気合は一体どこへ?
まあそうは思いつつも、今までご苦労だったと忍者と鳥のパペットに伝えると、パペット達は嬉しそうにしていた。
今後は、特に調べて欲しい情報がない限り、のんびりとした情報収集をしてもらい、たまに集めた情報を確認して行くことにする。
結構素材集めは大変だったな、終わってみてそんな風に思ったよ。




