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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
終章  神が暮らす星
240/240

かつて僕が住んでいた世界

 新たな土地を手に入れた国民は、周辺に散りつつまずは畑などを広げて行った。

 そこにポツポツと村が出来始めている。

 ドラグマイア国側は新たなゲーム会社を設立し、新たな土地に早速幾つかの会社が建ち並んでいた。まだその段階なので、ゲームで遊べるのはもう少し先の事になりそうだな。

 徐々に国土が広がる様子を見ながら、数ヶ月の月日が過ぎると、向こうの世界で異変が起きた。

 異変と言うかフォーレグス王国跡地に設置した起点の世界樹(大根)。それに攻撃を加えている者がいるみたいなのだ。

 何処の馬鹿だと見てみると、どうやらレビルス達のようだな。

 勇者パーティが囲んで、世界樹を攻撃しているのが神の目で見て取れた。

 他にも彼らの周辺では沢山の人間がいて、レビルス達を見守っているみたいだな。難民の子供達も参加しているようだ。

 その野次馬達は、ウルクスダルト国の者だけでなく、フォーレグス王国に敵対意識を持つ者ばかりであった。元グミナラフ魔法王国の生き残りとか喧嘩を売って来て潰れた国などだな。

 それにしても、間引きされまともな者ばかりになったはずなのに、即座にこんなにも不穏なやつが集まるとはね。やはり人間は潜在的に悪い方へと引っ張られる生き物かもしれないな。

 さて、ちょっとばかし用事も思い出したし、ついでに喧嘩を売って来た反乱分子の芽を、摘み取っておこうかな。


 転移で世界樹(大根)の前に跳んで来た僕に気付いたレビルスが、こちらに声をかけて来た。

 「アーゲルト。随分な事をしてくれるな」

 「出て来たか、邪神め! 今までよくも俺達を欺いてくれたな。もう俺達は騙されないぞ」

 生命の神だっていうのに、それを邪神と言って来たか。まあ確かに世界に仇なす人間より、その他の動植物を優先する僕は、人間にとっては邪神みたいなものだろう。

 あーあー、基点として創った分身である世界樹の表面が、ボロボロにされているじゃないか。これは僕が怒ってもサフィーリア神は何も言わないだろうな。何か言って来たら逆にこっちから愚痴愚痴と言ってやろう。

 さてさて、野次馬の人間はかなりの数がここに来ているようだけれど、彼らは神に逆らうって事を理解しているのかね。

 おそらくは理解していないのだろうな。とても残念だ。

 「邪神か。ならお前達にはそれっぽい形の裁きをくれてやろう。リンカーネイション」

 手を前に出し横に大きく振りながら呟くと、野次馬達がばたばたと倒れて行く。

 そしてピクリとも動かないその体からは、さまざまな種類の雑草のような草が生えて来た。

 使った神力は転生。

 植物にも意識は無いが命は等しく存在している。そしてその命は人間と違い、かなり少量なのだ。

 つまり人一人分の魂で複数の植物を生み出す事が出来る。

 通常ならば精霊が宿るほどに成長した魂は、他の小動物などに転生したりもするのだが、こいつらの転生先は今度植物だけだ。魂量が増えたのなら、また分割すればいいしね。

 そしてフォーレグス王国跡地は、ちょうど剥き出しの大地だったので、この地を植物で覆うには都合がいい生贄だったという訳だ。


 「貴様! やはりお前は邪神だったか!」

 ガッ!

 怒りに任せ突撃して来たレビルスの顔面を、軽く叩いて脳震盪を起こさせると、地面に崩れるように座り込んだ。

 そして僕がこの世界に戻って来た用事とはこれだ。

 レビルスが今着込んでいる武器防具。聖剣が無い勇者とその仲間の為に貸し与えた装備を、返してもらうのがここに来た本当の目的である。

 脳震盪を起こしまともに動けないレビルスから装備を剥ぎ取っていると、彼らの仲間が四方八方から襲い掛かって来た。

 僕はそれを見もせずに避けたり、または反撃で軽く叩いて脳震盪を起こしたりして対処しつつ、仲間からも装備を剥ぎ取って行く。全員の装備をちゃんと回収しないとね。

 「俺達の装備を返せ!」

 やっと脳震盪が治まったらしいレビルスが、僕に装備を返せと言って来る。しかしこいつってここまで馬鹿だったか?

 「何故だ? これら装備は僕が魔王討伐に必要だろうと貸し与えた物だ。目的を果たし、もう必要が無いのなら元の持ち主に返すのが道理ではないか。それとも何か? 勇者だと祭り上げられたから、何でも望むものは自分が手に入れられるとでも考えているのか?」

 「それはお前のような邪悪な者を倒す為の装備だ。勇者である俺達に必要な物だ!」

 「そんなに必要な物なら、自分で聖剣でも見付けて来い。他所様の借り物を自分の所有物だなど、お前はいつ勇者から山賊に成り下がったのだ? ああ、恩人に襲い掛かっているのも山賊に成り果てたからか」

 レビルスを軽くあしらいつつ、後衛職の子供も動けなくした後、装備を回収した。

 これで無事目的は果たしたかな。

 後はこの目の前の勇者一行だけだ。


 「くそ、武器さえあれば!」

 殴りかかって来るレビルスとアタッカーの子供達。こいつら何故サブ武器を持っていないのだ? ちゃんと教えたよな?

 よほどの事がなければ武器を失うなんて事はないが、それでも予備は大事だと教えたはずなのだがな。

 ともあれ彼らを軽くあしらっていると、悔し紛れにかそんな事を言って来る。武器があれば勝てるとでも考えているのか?

 さっきまでフル装備で挑んで、あっさりと装備を全て回収されたばかりなのに。

 やはりこいつは頭が良い方ではないのだな。感情的になり過ぎるっていうか。ごり押し過ぎる。

 「武器さえあれば、勝てるとでも思っていたのか?」

 「俺は勇者だ。信じる者がいる限り、お前のようなやからにやられたりはしない!」

 噂を鵜呑みにして、勘違いで襲って来るようなやつが勇者ね。

 まあ多少は付き合ってやるかな。

 聖剣を湖の中から呼び出すと、レビルスの前の地面に突き立てた。

 「お前の望通り、勇者が本来自力で探し出し手に入れるはずだった聖剣だ。受け取れ」

 「馬鹿にしやがって」

 悔しそうに聖剣を手にする。まあ本来は自力で探し出さないと駄目な代物だしな、それをこれから戦おうとする相手に出してもらっては恥ずかしいだろう。

 しかし聖剣は地面から抜かれる事はなかった。ありゃ、これは予想外。


 岩に突き刺さっている訳でもなんでもない、ただの土に突き立てられた聖剣は、びくともせず抜ける気配も見せなかった。これはひょっとしてひょっとすると?

 「どうやらお前は勇者の資格を失ったようだな」

 「そんな馬鹿な!」

 初めは片手で引き抜こうとがんばっていたのを両手に変え、力を込めて必死になっているのを眺める。

 うーんこれは資格を失ったのか、次の魔王になったからもう勇者じゃなくなったのか、どちらなのだろうな。

 あれそういえばこいつら、ハウラスが暴走していたおかげで、魔王システムを理解していなかったのだったな。誰からも聞かされていないので、それの説明も必要なのかな?

 あまり頭がいい連中ではないので、こいつらもハウラスのようにいずれ暴走するのかもしれないな。

 改めて考えると、ハウラスもどちらかといえばあまり頭が良い方ではなかったような。それとも意志の強さとかかな?

 ハウラスもどちらかといえば、正義感だけは結構強かったけれどね。勇者としての意思はどうだったかな。よくわからないぞ。

 「勇者でないのならやはり山賊、いや神に反逆するのだから次期魔王と呼んだ方がいいか」

 「お、俺が魔王だと?」

 「ああ、神に弓引く者はいずれ魔王となってもおかしくはないだろう?」

 実際は魔王を倒したら次期魔王なのだが、知らないのでからかってみると、凄く嫌そうにしていた。

 そういえばこいつらの中にも神官はいたよな。ひょっとしたら神から見放されている可能性を確かめる事が出来るかもしれないな。試してみよう。


 「確かマーリンといったか。神に見放されていないのなら、神の奇跡を使って見せよ」

 これにより聖剣に見捨てられたのかどうか、わかるかもしれない。まあ神に嫌われたら資格無しって訳ではないと思うが、一因になりえるのではないだろうか?

 「え? ・・・・・・慈悲深きサフィーリア神よ、彼の者を癒したまえ、ヒール!」

 一瞬意味がわからないという表情をしたヒーラーの子が、まさかと奇跡の力を行使する。いやしようとしたのだが、祈りを捧げても何も起きなかった。

 さすがに神託を無視していろいろ手助けを依頼した相手に襲い掛かれば、神も見限って当たり前なのか。

 しかし見限られた当のマーリンは、呆然として座り込んだ。信仰を失えば、そうなるか。

 「い、いや、邪神が奇跡の力を妨げているだけだ。やつを倒せばまた直ぐ奇跡の力を授かるはずだ!」

 「ほ、本当に?」

 「ああ、だからここで立ち止まるな。ここが踏ん張りどころだぞ」

 レビルスに励まされ、のろのろと立ち上がったみたいだが、依然としてショックは大きいようだ。まあ神官が神に見限られるなど、あってはならない事なのだろう。よくわからないが。

 しかし自分達の行動が間違っていたのではとは考えないのだろうか? 無理か?


 「まあそこまで言うのなら好きなだけ抗ってみろ。まあ聖剣が使えないのではろくに戦えもしないのだろうがな」

 聖剣は元の場所に送り、代わりに適当な量産品の剣を目の前に出してやる。

 量産品とはいえ、フォーレグス王国で作られている鋼鉄製の剣なので、他所の国ではそこそこ強い部類の剣だろう。

 レビルスはそれを拾い、こちらに襲い掛かって来た。あくまでも自分が正しいと主張したいようだ。

 そしてその剣の腹を素手で横に叩き、その場から動かずにあしらう。

 すると一瞬で実力差に気が付いたのか、悔しそうに歯を食いしばり、何度も何度もいろいろな角度から斬りかかって来た。

 僕はと言えば、斬りかかって来る度に剣の腹を叩いて攻撃をそらし続ける。

 フェイントで殴りかかって来たり、蹴って来たりするが、それも全て払いのける。手は二本あるし、足もあるからな。

 傍から見れば、のんびりと型の稽古でもしているかのように見えているかもしれないな。

 周りを見てみれば、異形と闘えるようになった難民の子供達がそろって、こちらを窺っている。

 どの子の表情も、絶望しているかのように暗いものだった。

 その中でも特に青ざめているやつがいる。曽根だ。


 どれくらい相手をしていただろうか。レビルスに付き合うのもそろそろ終わりでいいかな。

 今までは受け流すばかりだったが、今度はこちらからも手を出して行く。

 受け流してパンチ。受け流してパンチ。

 「うっ。ぐぉ」

 軽く殴っているだけだが、衝撃は体を突き抜け、それなりに重いダメージを体の内部に与えていった。

 レビルスの動きが徐々に鈍って行くのが、傍から見ていてもよくわかる。

 元勇者としての意地なのか、なかなか倒れないところは感心したが、ここから逆転する事はできないだろう。

 子供達もレビルスに触発されてか、支援や上手くレビルスに当たらないよう魔法攻撃をする子も出て来た。しかしそれらの直撃を平然と受け、レビルスを叩いて行く。

 さすがにまるっきり効いていない様子を見て、彼らは勝てない存在なのだと気付いたようだ。

 そんな中、レビルスだけがめげずに攻撃を続けていた。いやもう惰性かもしれない。

 ここで手を止めてしまえば、自分達の間違いを認める事になるからな。それだけは出来ない事なのだろう。


 「僕が邪神というのならお前達がまだ生きている訳がないだろうに。そしてわざわざ抗う為の武器を渡されて、それを手に襲って来る者が勇者の行動なのかね。僕にはとてもお前に勇者の資格があるようには見えないな」

 「そんな・・・・・・」

 言われて気付いたといった表情を浮かべる周りの子供達。

 もし僕の言っている事が正しければ、彼らの行った数々の行動は全て、神への反逆となる。

 必然的に神に見放されても仕方がないと、ようやく悟った感じかな。

 曽根に言いくるめられたとはいえ、今まで助けられた存在によく楯突こうなどと考えたものだ。少しもまさかって思わなかったのかね。

 「嘘だ、絶対に何かあるはずだ。でなければ何故俺達に手助けした。アンデットが歩き回るような国が、邪悪な国じゃないなんて、いくらなんでもおかしいだろう」

 こだわるなー

 周囲の子供達は自分達の間違いを認め始めているのだが、レビルスだけが自分は間違っていないと信じているみたいだ。

 まあ確かにどう見ても魔王側の国ではある。だからといって悪だと言われる覚えはないがな。

 逆に善人面した悪なんてものも世の中には溢れているのだから、やはり自分の目で真実を確かめるのが一番なのだろう。

 悪に見えてそうでないなんて、どこにでもあるよくある話しだからだ。

 噂を信じて調べもしないなど、頭お花畑で操りやすい馬鹿でしかない。どう考えても勇者の器どころか、厄介者で係わり合いになりたくない存在だろうな。

 そんな厄介者を押し付けられた僕達は、全世界から慰謝料でも頂きたいところだ。

 まあ別世界に移住するので、もう関わる事もないだろうがね。


 「そちらの事情など知らんな。だが今後僕はお前達人間に味方する事はないと思え。僕は生命を司る神であるが、その恩恵を人間だけが受けられなくなったと考えていいぞ」

 「「「え?」」」

 その場にいた子供達全員から嘘だろうって感じの反応が帰って来た。

 ふむ、僕がそう宣言した瞬間。何故か世界の有り様が変化したように感じられた。つまり回復の奇跡が使えなくなったのだ。

 ひょっとして他所の神の信者であっても、治療の奇跡が効力を発揮しなくなったりするのだろうか? それはそれで別にいい気もするな。

 地球でも魔法に頼らず、薬や手術によってどうにかこうにかなって来た。そう考えると、うん問題ないな。

 神の目によって、早速世界中の神官が戸惑っている様子が見える。これは完全にとばっちりだな。

 『バグよ。何故回復手段を制限するのですか?』

 おっと、早速神々を代表してサフィーリア神からクレームが来たぞ。

 (逆に聞こう。そちらの要請で魔王討伐まで長い期間手を貸して来たのに、その助けた人間達から邪神よばり。それだけでなく襲い掛かって来たのだがな。逆にふざけているのかと聞きたい。僕に剣を向けて来たのだから、人間達を見限って何が悪い。それに元々僕は回復魔法などという奇跡がない世界から来たのだ。人間は治癒の奇跡など無くとも、なんとでも生きて行ける生き物だ。ならば問題なかろう?)

 『そうですか、しかし一部の者の言い分で、全ての人間に対し制限をかけるというのは、行き過ぎているように思います』

 (ならば何故自分達で止めようとしなかった? 剣を向ける前に止めていれば、こんな事にはならなかった。それに元々僕はモンスター側の存在。人間から攻撃されたのなら守護するのをやめるに決まっているだろう)

 『ではせめて、我々の信者だけでも何とか出来ませんか。純粋に人助けをする良い子達もいるのですから、その者にも罰を与える必要はないでしょう』

 (ならばここまで僕の許しを得に来ればいい。本当にまともな者だというのなら、再び治癒の奇跡が使えるよう取り計らおう)

 『わかりました。では他の神々にもその旨伝えるとしましょう』

 今回魔王退治でしっかり依頼を果たし、それにもかかわらずこの結果になってしまったからなのか、サフィーリア神に対して強気に言い張ってみると、一部譲歩しただけで引き下がった。

 まあこれ以上の譲歩は無理だと判断したのかもしれない。いや多少でも譲歩を引き出せただけ、よかったと判断したのかもしれないな。

 とにかく他の神々に対してはこれで問題なくなった。

 後はレビルス達に魔王システムを話し、さっさと帰るかな。


 「さて最後に、お前達の役目を伝えておこう」

 「・・・・・・役目だと?」

 項垂れていたレビルスが、僕の声に反応して顔を上げて聞いて来る。

 「ああ、魔王が何故誕生するのかだ。興味があったのだろう?」

 「やはりお前が魔王を復活させていたのか!」

 剣を構えるレビルスを冷ややかに見下す。

 「前勇者であるハウラスを殺したお前は、次の魔王となる存在だ。いずれお前の前には次代の勇者が立ち塞がり、世界平和の名の下、殺される時が来る事だろう」

 「な、何を言っているんだ。それに勇者ハウラスを僕が殺した? 彼は遥か昔の勇者だ。俺に殺せる訳がないじゃないか」

 「代々魔王を倒した者が次の魔王となる。つまり勇者ハウラスを倒したのはお前だ。そもそも人間を上手く導けていたのなら、ハウラスは魔王になる事もなかったのだ。今代の勇者、そして魔王を倒した者として次はお前が人間を導き、失敗したのなら魔王となり腐った人間共を間引きする。それがお前の新たな役割になる」

 「何だそれは!」

 「ああ、今回は仲間が五人いたから四天将は五天将になるのか。勇者パーティもがんばってそいつを助けてやるといい。僕と違って本当の人類の敵としてだがな」

 周囲の子供達と違い、勇者パーティの子達は、呆然としてこちらを見て来た。


 勇者パーティの子達は、しばし混乱した後やっと状況を理解したようだ。

 「つまり魔王は人間が堕落した時に復活し、堕落した人間を排除しつつ自らも勇者によって倒される事で、人間がそれ以上増長しないようにするシステムって訳か」

 「そうなるな」

 「では曽根の言っていた事は」

 「ただの推測と願望なのだろう。なあ曽根よ」

 視線を向けると、何とかこの場から逃げようと足掻いている曽根の姿があった。

 だが野次馬が一斉に死に、その骸から生えた草に驚いた姿勢で拘束されたまま、いまだ抜け出せずにいるようだ。

 「ひっ」

 僕やレビルス、そして子供達の視線に晒された曽根は、引きつった声を出して怯える。

 今まで声を出さないで我慢していたのは、今現在の自分の状況を理解していたからだろう。臆病者らしく危険感知能力は高いようだな。

 こっそり抜け出そうとしていたので、拘束させてもらった。

 そして散々周囲を焚き付け扇動した自分が、どうなるかいろいろと想像してしまって、ここで捕まったらどういう目に合うのかと考えて怯えているのだろう。

 ある意味正しい判断だ。


 「お前は何が何でも勇者になりたかったようだな。せっかくだ。望通り勇者っぽい使命を与えてやろう」

 「ひっ、どうするつもりだ」

 状況に怯えつつも勇者と聞いて、僕の話を聞かずにいられなくなったのか、確認して来た。

 まあ勇者っぽい行動だろうが、別に勇者として祭り上げる訳では当然ない。散々引っ掻き回して多くの人間を巻き込んだのだ。そんなご褒美のような使命になるはずはないだろう。

 ああ、引きつった顔なので、ご褒美だとは彼も考えていないのかもな。

 「勇者らしく魔物と戦うだけだ。散々引っ掻き回したのだ、せいぜい今後一生をかけて人間達の役に立て」

 「うわぁーー!」

 僕がそう言うと、曽根の目の前に異形が一体現れ、襲い掛かって行った。

 「デミヒュルス! まだ残っていたのか!」

 レビルスが慌てて剣を構える。

 曽根はといえば異形と対峙して、逃げようと必死になっているのだが逃げ切れずに引き倒されていた。まあその後はどうなるか見なくても、悲鳴でわかるというものだ。

 なぶり殺しにされているのだが、曽根が死ぬ様子はない。

 彼に与えた罰は、例え目の前の異形を倒したとしても、次々と現れる異形と永久に戦うというものだ。

 レビルスが慌てて助けに向かい、異形を倒したようだが、倒された瞬間また次が現れる。

 「これはお前が生み出しているのか!」

 「アホが。異形は人間が変化したものだ。となれば今の時点でそういう堕落した人間がこの世界のどこかにいるに決まっているだろう。異形とはいわばその者の内面を表に出したもの。元々が人間の姿をした魔物のような存在だったのだ。本来の姿に戻したともいえるだろうな。僕はそれ呼び出し変化させているにすぎん」

 「つまりお前が生み出しているんだろうが」

 そう言いつつレビルスは再び異形を退治する。

 するとグチャグチャにされていた曽根がゆっくりとだが再生されていく。死んで終わりではなく、死んでも戦い続ける使命を与えたからな。

 強くなれば痛い思いはしなくて済むようになるだろう。

 ある意味無限に経験値を稼げるお得な使命だ。倒せればだけれど。


 「さてお前が倒してしまっては曽根が勇者になれん。彼には人知れずがんばってもらおうか」

 人目につかないダンジョンの一部。どことも繋がっていない空間に曽根を移動させると、再び異形との戦いが始まった。

 今度は手助けしてくれる者がいない為、せっかく再生しかけていた曽根はまた、グチャグチャにされている。

 僕が最後に見たのは虚空に向かい、助けてって感じの目をした情けない男の表情だった。

 曽根ががんばって異形を倒したのなら、少しは勇者が魔王になる時間稼ぎにはなるだろうな。まあ武器もなければ無理か?

 いやあったところで曽根には倒せないだろう。

 一応あれでもがんばって育てた為、普通より高いレベルになっているのだ。元の素材が悪過ぎて、能力が足りていないだけで・・・・・・

 そうなると肉体強化の魔法とか使えれば何とかなるのではないかな。がんばって習得してもらいたいところだな。

 「これからどうするんだ」

 そんな事を考えていると、レビルスがこちらに聞いて来た。

 「何が言いたいのかわからんが、僕はもうこの世界に干渉しない。後は好きにすればいい、ではな」

 「ま、待て!」

 曽根への制裁も終わったし、レビルス達への説明も終わったので、基点である世界樹(大根)の周辺に結界を張った僕は家族の下へと転移した。

 レビルスが何故か引きとめようとしていたが、そんな事は知った事じゃない。

 やっと諸々の厄介事が片付いたのだ。後はのんびりと暮らそうと思う。


 前の世界で仕事をさせていた、ダンジョン維持を担当している眷族を引き上げさせた。彼らには今後、こちらの世界でダンジョンの管理をしてもらう。

 精霊界を管理していた眷族も、同様に引き上げさせた。こちらの世界に精霊界は無いので、この精霊の眷属にはそのまま二つの惑星の精霊バランスを管理してもらおう。

 神の仕事をさせていた眷属達は一応そのまま継続なのだが、あちらの仕事を殆ど自動にして、こちらの世界をメインに管理してもらう。

 彼らには仕事場としてちゃんと天界を創ってもいいだろうな。

 他にも世界各地を見張らせていた動物型のマジカルドール達も引き上げさせ、こちらにある二つの惑星に分散させ監視させる。

 彼らは場所が変わっただけで、やる事に変わりはないな。

 そして防犯管理をしていたマジカルドールも撤退。今後はこちらで魔道具管理をしてもらおう。


 これで向こうの世界に残っている者は、誰もいなくなった。

 正確には基点として残した分身体くらいなものだろう。

 もはや向こうの世界に関しては興味もないので、あの後どうなったのかは知らない。

 レビルスが責任を追及されたりしているのかどうか、それも今となってはどうでもいい事だ。神の目を使えばいつでも知る事が出来るが、知りたいとも思わないからな。

 生命を司っているからか生物にとって重要な回復に関して、自在に回復行動に干渉できるみたいで、思わず制限してしまった。まあ制限した事に後悔などはしていないがな。

 そう考えると自然治癒力も制限できるのか? と考えたとたん、制限できる事がわかったのだが、さすがにこっちは制限するとやばいだろう。怪我だけでなく病気も治らなくなるって事だからな。

 さすがにそれはどうかと思い、自然に回復する分には制限をかけないことにする。

 後は放置でいいだろう。


 後はフォラウが楽しみにしているゲームでも待ちつつ、各地にダンジョンでも造って行く。

 各地に散って行く国民達を見ながら、眷属達に指示を出す。

 新たに造った惑星は、全て僕の思うがまま。この地に暮らす全ての民がのんびりと、それなりに楽しく過ごして行けるように、ゲームマスター気分でイベントを配置して行こう。

 そこに余計な人間など必要ない。

 しかしこちらに一緒に付いて来た人間にも、やがて傲慢な者が出て来たりもするだろう。

 それは友好種でもやはり、出て来るので個体差だと考えるしかないな。まあ学校でしっかりと教え込んでいけば、少しは減ると思う。

 今思えば、人間からモンスターに転生したのだ。その時点で人間に味方する生き方など、捨ててしまえばよかったのだろう。

 いやそれだとドラグマイア国の者達との付き合いもなかったかな?

 程々に距離を置き、まともだと思う者だけと付き合って行けばいいか。そう考えれば、これからも自分らしく過ごしていけばいいのだと思える。

 まあ家族仲良く、そこに仲間も入れてのんびりと過ごして行ければいい。


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いい点 人々が主人公の言うことを鵜呑みにして行動するのではなく、不信感を抱いたりするところ 一言 とても良い作品をありがとうございます
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