種族間交流
皆で集まり、お茶とデザート用意して話し合いを始める。ちなみにホーラックスはダンジョンを造りにいっている為、ここにはいない。後で差し入れでもしてやろう。
そして何故かいる犬っころも、足元でデザートを食べている。犬って甘いもの食べていいのか?
まあいいか。どうせこいつも分体だから、腹を壊すようなことはないだろう。
「さて、それぞれの種族が担当する食べ物でも決めるか。なるべくなくてもそこまで困らないが、あると食生活が豊かになるようなのがいいな」
「そうね。嗜好品になるのかな?」
「そっち系になりそうだな。完全に必要不可欠になると、それを止められるだけで被害が出るからな。軋轢にならないタイプの食材や、調味料などがいいだろう」
ライフラインを止められるなど、戦争の理由になりやすい事情もないからな。それか簒奪理由にもなる。
火種は無い方がいい。
「~風みたいな、種族限定の味付けもありだわ。バグの作るお好み焼きも美味しかったわ!」
ビゼルが思い出したかのような表情を浮かべる。またそのうち作ってやろう。
「ああ、確かに地域で味が違うのは良くあることだからな。その土地ならではの作物で作った料理っていうのもあるだろうな。その土地では必ず料理に入れる調味料とか、食材とか。そういうので独特な味になったりする」
「なるほど、そういうのを考えればいいのね?」
「そうだ」
これからの話し合いは、それぞれの種族で作ったり育てたりする、独自文化でもある。
まあ何かしらの食材を用意し、現地の者がアレンジして発展させてもいいのだがね。いや普通はそっちが正常だよな。
「僕が担当するのは北極に住む白と黒のエルフだ。彼ら独自のものは薬効効果のある野菜だ」
「それってバグが大根だから?」
すかさず突っ込んで来るな、レイシアよ。
「まあそうだけれど。白エルフには僕の体の面倒をみてもらう意味でも、農業に特化してもらった。畜産もやってもらうが、種族的に野菜を育てると薬効効果を高めるようになる。で、黒エルフは試練用に白エルフと切磋琢磨してもらう為に創った。戦闘種族でこっちは畜産に特化してもらうか」
そうだな。ダークエルフの方に畜産特化してもらい、野菜と肉を交換してもらったらちょうどいいのではないか?
ついでにマシナリーには農具みたいな金属製品を作ってもらって、代わりに肉と野菜を渡すとか。
三種族で完結しそうだな。でもなかなかいい関係になりそうではある。
「バグのところでほとんど揃ってしまうわ」
「ああごめん。でもさっきも言った香辛料とかあるからな。他にも同じ肉でも種類があるだろう? 味の違いが出ればいいのだし、そこまで気にしないでいいと思うぞ」
「ふむ。なるほどだわ」
危ない危ない。協力しようと言って、その全てをこっちで満たしたら意味がないだろう。
まあ実際、全ては無理だろうがな。
「私のところは獣人だから匂いで探すタイプの食材かな? キノコとか?」
レイシアは魔法が使える獣人達か。確かにキノコっていうのはいいが、匂いだけだとのビフィーヌの担当する脳筋獣人達も探せることになるぞ。
そうだな。匂いプラス魔力の違いもあれば、その両方を持つ種族じゃないと探せなくていいかもな。でもってそっくりな見た目のやばいキノコがあるとなかなかいいのではないか。
「じゃあレイシアのところはそれでいくか。絶品キノコで、匂いと魔力的な特徴を持った食材にしよう。で、やばいそっくりなキノコも用意する。まあ一つの食材だけじゃ駄目なので、他にも考えた方がいいかもな」
「確かにそうね」
「では主さま。私のところの脳筋な獣人達は匂いと戦闘力が必要な食材がいいのですか?」
「絶対そうしろって話ではないぞ。他に特徴があればいい。戦闘力って点でいけばレイシアの方も魔法戦力があるからな」
「確かにそうですね」
なかなか難しい問題だ。他の種族でも手に入るなら、排除しても別に問題なくなってしまうからな。種族的な優位性が何かしら欲しいところだ。
「後ドワーフはお酒で決まりだろう。残りはドラゴンと人間かな?」
「あれ? 紗枝の方のエルフは?」
「ああそっちもあったな。でもエルフは食材じゃないけれど、エリクサーっていう薬があるからな。それでいいのではないか?」
「大抵の怪我や病気は神官が癒せるわ。薬に意味はあるの?」
「確かエリクサーは若返りの効果とかなかったか? 万能薬だから、治療方法の無い病気などにも対応出来ると思うしな」
「神官が癒せない病気ね。そんなのあるの?」
「確か前に魔力を使った治療が致命的に悪化させる病気があっただろう。ああいう病気にも効く薬だ」
「なるほど、それならいいわね」
「若返りはかえって争いの元になるわ。何とかしないと駄目だわ」
それは確かに危険だな。しかしエリクサーによる若返り効果は、人生で一度限りとかにしたらどうだ?
さすがに効果が出ないのに欲しがる者はいないだろう。
それとも無理にでも作れと言われるかな? まあそういうやつが出て来たならば、天罰でも落とすかね。
「それでドラゴンは何とでもなりそうだけれど、人間にしか作れないようなものって何?」
「そこが問題だろうな。調味料とか香辛料の類がいいかと思うのだが。作り方がわかれば誰でも作れるようになるよな」
「そうね」
人間が開発した、発見したなどはよくあることだが、人間にしか作り出せないとなると、何があるのだ?
僕も考えてはいるのだが、何も思い浮かばない。
アレンジや新作の開発などは優れているのだがな。ああ後、真似とかもあるか。盗作や贋作。唯一無二な力は無いが、出来る事はいろいろありそうだ。
「フグ、確か毒でも食べていたわね」
「あー、確かにどうやって食べられるようにしたのかわからないが、毒を持ったやつも料理していたな。まあそれも、技術が流出したら真似できるだろうが」
「そうなのよね。どれもこれも技術次第で出来るから、流出するかどうかなのよね」
「うーん。いっそうのこと、技術をっていうか特許を、神が管理してしまえばいいのかもしれないな。そうすれば特許申請したものが流出することは無い」
「いいわね!」
「わらわ達の仕事が増えるわ」
「そうだな。眷族に丸投げするのだが」
眷属達よ、ご苦労だ! そして特許を取得した技術は、神官の立ち合いなく伝授されることがないようにしよう。
まあ人間だけではなくなるのだが、これで技術を持つ者達の安全は、保障されるだろう。
「後はドラゴンだな。竜の鱗じゃないと侵入できない難所に、食材となる獲物を配置したらいいだろう」
「ふむ。魔法で防御しながらでは無理なのかな?」
「そうだな。竜の鱗でのみ、防げるような仕掛けがあるといいかもしれない」
酸の海とかで、結界などで防ごうともガリガリ削るような地形とか。人間では魔力がとても持たないだろう。
竜でもさすがに溶けないか心配だが、魔法防御でどうこうできるものではないって思いたいな。
「とりあえずそれでやってみて、魔法などで攻略されそうなら改めて考えるわ」
「ああ、そうしよう」
「バグ。他にもマシナリーって種族を創ってなかった。そっちは?」
「あいつらは、さっきの特許のシステムを使えばいいだろう。調理道具を作ってくれればいいのではないか?」
「なくてもいいけれど、あると便利な道具よね」
「まあ料理以外もいろいろと、機械は便利だからな。幾らでも技術を生かせるだろう」
これで大方決まったと思う。後は種類を増やして嗜好品として好まれるようにして、お互い侵略出来ないようにしたらいいな。
上手く交流していってくれればいいのだがな。そして美味しい料理を増やしてもらいたい。
その後はデザートなどを楽しみつつ、雑談交じりに今後の事を話し合った。
そして村や町ができて行くのを見つつ、他の町や多種族との交流が始まるのを見守る。時に遅れ気味な道の開拓には口を出したりもした。
《神格 が一つ上がりました》
数年後。元日本人達の町はそれぞれ繋がり、無事に交流するところまで漕ぎつけたようだ。人間同士だが。
これで経済が廻るだろう。後は多種族の方まで道を伸ばしていくのだが、友好的な接触ができるかどうか心配だな。
おそらく武装集団でいきなり向かわない限り、そこそこ友好的なものになると予想しているが、どこにでも馬鹿はいるからな。油断しないようにしよう。
人間達が暮らす場所を見て廻ると、もうそろそろ国へと発展していく気がする。
誰が国王になるのかという問題はあるが、規模は町と周辺の村などの、ごく小規模のものになりそうだな。
交通の不便さがあるので、どうしても距離が離れると、一つの国としてまとまることができないのだろう。問題が起きた時に知らせを出しても、到着するのも準備して向かうのにも時間がかかり過ぎる。
マシナリーが車を作ったらそのうちもっと距離感は変わるだろうな。ファンタジー世界に似つかわしくないけれどな。
上手いことバランスを取って、融合していって欲しいものだ。
冒険者達が拠点の町周辺を開拓してくれるおかげか、神官の需要もある程度でき、順調に信仰を集めることが出来るようになって来た。
今の教会はこちらの手を離れ、独自に信者を増やしている。まあとはいっても狂信者って感じではなく、冒険者が旅の安全を願いつつ癒しの奇跡を使わせてくださいって感じの、どちらかといえば都合のいい信者だ。
だからといって、信仰心がなければ回復は発動しないので、彼らもちゃんとした信者である。まあ戦士とかと兼業になるので、ガチの神官ではないのが増えて来た感じだな。
この世界の神官は、どれだけ神を信じているかによって奇跡の力も変わってくるので、修行というものはあまり意味がない。
いや逆に私生活を捨てるほどのめり込みそうなら、こっちから止めるぞ。
傀儡のような信者は必要ない。聖戦なんかを発動されたくはないぞ。
まあそんな兼業神官の増加によって、開拓地が増えつつあるようだ。当然支配地が広がれば他の種族との接触も増えてくる。
大体何処の種族も、支配地は増やしているから余計だな。次世代も出てくれば当然土地が足りなくなる。
とはいえそこまで急激に必要って訳でもないのだが、冒険者魂が疼くのだろうな。
で、問題はそんな多種族と接触し、試験的な交流が始まり出したころに起こった。
「これって、ティッシュペーパー?」
「ああ、これは間違いなくティッシュだな」
何処からこんな物が出て来たかといえば、ドワーフ族から出回りだしたようだ。とはいえ、交易品の品目には加えられていないらしい。つまり、ドワーフ達が独占して売りに出していないようだ。
あいつらってどちらかといえば土いじりが得意な種族だったはず。ティッシュペーパーは紙と同じで植物が必要なのでは?
ということは、あいつらもどこかから取引して手に入れているという訳かな? だから他所には輸出しない。
「ねえバグ。これは私達も欲しいよ」
「ああちょっと待ってくれ。調べるから」
これを知った経緯は、とある人間の冒険者がドワーフと接触。交流を持って武具の売買を始めたのだが、ここでたまたま発見して聞いたところ、名前だけは教えてもらえたらしい。もちろん名前もティッシュペーパーだ。
どうやらドワーフの一般家庭にはちょっとお高いくらいの値段らしいのだが、金属製の武具を売買している連中は余裕があり、購入することができるみたいだな。
えっとそれでこの鍛冶系のドワーフを辿って行けば、入手先を調べられそうだ。
ふむふむ。鍛冶系のギルドがあってそこで買うことができるらしいな。ただし、今現在ティッシュペーパーを購入したければ、納品クエストをこなさなければ駄目らしい。
クエストを受けた人のみ購入権が与えられると。
こいつら、他のドワーフから文句を言われたりしないのか? いや既に揉めているな。でも需要と供給が釣り合っていないらしく、苦肉の策だとの説明をしている。
どうも他所から買い取っているようだが、基本的にそこまで大量に運んで来たりはしないから、どれだけお金を積んでも量が増えることはないのだそうだ。まあ、相手次第だからそうなるよな。
ていうか、これ持って来ているのは駒田のおっさん達じゃないか。
「レイシアわかったぞ。駒田のおっさん達だ。よくよく考えれば、名前が同じ時点で日本人関係者だったな」
「確かにそうよね」
「ここにいる者達も元日本人だわ。ならばこれも作れないものなのか?」
「作れないかと言われれば、作れるだろうが。どちらかといえば消耗品で、かなりの数が必要になって来る品物だからな。大量に作るとなると、でかい工場とかが必要になって来るのではないか?」
「じゃあ駒田さん達が、工場でも造ったのかな?」
「いや、多分マシナリーだろう。彼らなら大量生産の工場を造れるだろうからな。いちいち手作業では作らないだろう。駒田のおっさん達はどうもそれを金に換えて、マシナリー達に必要な資源を買って来ているみたいだな。まあついでにお酒も買っているようだが」
「それ、お酒がメインじゃない?」
「まあそんな感じだな」
「では直接駒田とやらから買うのだわ!」
「行きましょう!」
レイシアとビゼルが連れ立って転移して行った。
それじゃあ買い物は任せて、こっちは工場の生産能力を見てみようかな。後輸送手段も考えないと、必要量が圧倒的に足りていない。消耗品の大量消費物を、行商人よろしく小さな馬車で運んでいたら、それは足りないだろうよ。
キャラバンみたいな大型のものはなかったのかな?
大型だと馬の数が増えて、管理も大変になるか。やっぱり車が欲しいところだな。
駒田のおっさん達とマシナリー達のいる町へやって来る。
レイシア達はおっさんの家だと思うが、こちらは直接工場を見に行こう。それっぽいものは何処かにあるよな?
大通りを歩いていたのだが、町の外れに大きな建物を発見した。まさしく工場といっていい見た目の建物だな。
コンクリートで造られた建物は、民家数十件分あるのだと言いたいくらい大きい。これは城と同じ規模かもしれないな。
「中に入っても構わないか?」
「もしやバグ様でしょうか。どうぞお通りください!」
工場は壁で囲われ、門を管理している警備の者がいたので聞いてみた。お前誰だって言われなくてよかったよ。
さすがに教会に神像があるので、見間違われたりはしなかったようだ。ちょっとだけホッとする。
できればシンボルだけで止めたかったところだのだが、こういう時は楽になるので助かるな。
せっかく入れるようになったので、入らせていただこう。
「中を案内する者はいるのか?」
こういうところは企業秘密などがある為、勝手に見て回れないことの方が多い。後見学コースも決まっていることがあり、急な来客でも対応できることがあるのだ。
「はい、少々お待ちください」
それにしても自分でマシナリー達を創ったのだが、ロボット、アンドロイドなどより人間っぽい思考や動きをするものだな。まるでヒーロー物の衣装でも着ているかのようだが、その中身は人間味がある。
これなら相手次第で仲良くなれそうだな。
「お待たせいたしました、バグ様。ビフィーヌ様、フォレイヤ様。ようこそいらっしゃいました」
「急な事だが、よろしく頼む」
受付嬢みたいな美人さんが出て来た。まあとはいっても、マシナリーなので外見は機械なのだがね。声は美人さんだった。
「ドワーフの町でティッシュペーパーを見かけてね、ここで作られているのかな?」
「はいそうです。他にもいろいろと生活に必要な物などを、ここで作らせてもらっています」
「どんな物を作っているのだ?」
「基本的には生活に身近な便利道具ですね。ライターとか水の浄化装置とかカセットコンロとか」
それは確かに身近で便利な物だな。まあ、魔法があれば必要ない物でもある。
マシナリーは魔法が使えないので、こういう物は必要になって来るだろう。後、種族的には魔法が使えても、個人的には微妙な魔法しか使えない者も助かるだろうな。
「魔法が苦手な人間には助かるな」
「ええ、特に我々は魔法に適正がありませんから。ではご案内します。こちらへどうぞ」
そう言うと、案内の女性は工場へ向けて歩き出した。
工場長とか会社の社長などと違い会社の歴史や生い立ちなどは説明せず、直ぐに工場の製品加工をしているところへと案内してくれる。
これはロボットアームと呼ばれる流れ作業を行うベルトコンベアだな。
作りかけの製品が流れて来ては、ロボットアームが加工を施していく。日本の工場見学などすると、よく見られる光景だな。ファンタジー観はまるっきり吹き飛ばしてくれたが・・・・・・
これは何を作っているのかな?
カード型にカットされた板に、何かを刻み込んで魔石をセットしている。魔法陣っぽいな。何でここだけファンタジー?
「これは何を作っているので?」
「こちらは濡れた衣服などの水分を取り除く道具です」
「ほう」
地味に欲しいかもしれない道具だな。特に冒険者にはお手軽でいいかもしれない。
ちょっと分厚くはあるが、カードサイズなので収納場所を圧迫しにくいところもいいだろう。雨や湿気の多い場所に行った時に活躍しそうだ。
「これは髪の毛を乾かす時にも使えるのか?」
「ええ、髪にダメージを与えないので使えると思いますよ」
マシナリーには髪の毛が無いので不要な道具だな。髪の毛に見える飾りみたいなものはあるが、どう見ても水を弾く。
衣服も鎧のような皮膚なので、これは完全に人間用の道具なのだろう。
いろいろ見て廻ったが、どれもこれも現代機械類を使っているのに、どこかファンタジー色が窺えた。
「この工場にあるものって、旧時代の技術だけでは作れない物が多いな」
「はい。我々の技術に駒田さん達による知識を組み合わせました。まだまだ過去の偉大な技術には及びませんが、できるだけ近い形で再現できればと考えています」
いやいや。機械と魔法が組み合わさって、技術レベルでいえば既に過去の技術を超えているかもしれないぞ。いい意味で予想外だったな。
ちなみにティッシュペーパーが作られているところもあった。魔法が絡んでいないのでふーんって感じで、見流したけれどね。
機械類は凄いのだが、作られる物がただのちり紙だからな。感動するところがなかった。
そして量産の目処は立っていない。まあこちらの理由は真っ当で、作り過ぎると資源を食い潰してしまうのだ。
まあ必要としている人間の数が桁違いだからな。マシナリーだけでまかなう事はできないだろう。
これなら資源を運び込んで加工してもらうっていうのも手だろうな。
それはおいおい交流がもっと盛んになってからだろう。
「役に立つ日用品が多いのはわかった。車みたいな大型の物は作らないのか?」
「車でしたら既にありますよ。まだ試作段階ですが」
「あるのか。試作って事はもう少しで実用段階なのか?」
「いえ、まだ使えるといえるほどではないですね。それと道の整備もしないと、故障の原因になったり、事故もありますから」
「車だけ先に造っても仕方ないか。もう少しそれぞれの種族が、交流を持ってからだな」
「そうですね。我々はそれまでに車を完成させないとです」
「がんばってくれ」
フォーレグス王国では、車より飛行タイプの移動手段の方が主流だからな。道の整備はそこまで気にしたりはしていない。
せいぜい迷路みたいに無秩序に建物を立て、誰がどこに住んでいるのかわからなくなるのを避けている感じだ。というか、いろいろな種族が混じって暮らしている為、こちらがどのような建物を建てるのか指定しているから問題は起きていない。
今まではホーラックスが、そしてこれからは新国王となったビブナイクスが、その辺りの調整していくだろう。
「主さま。あちらに工場直売の販売コーナーがあるようです」
「お、見てみるか」
「ではごゆっくりとごらんになってくださいませ」
案内の女性に言われ、見学コースの終わりに作られた販売店へと向かう。よく考えられたコースだ。
とりあえず値段や種類などを見せてもらい、それぞれの種族へと紹介させてもらおう。
欲しがったら交易するようにと、話を持ちかけて交流を促していこうと思う。
「やはり電気コンロでは、美味しい中華料理は無理だろうな。それならば魔石を使った魔力コンロの方がいい。後は炊飯器が欲しいところだな」
炊飯器は普通の僕も欲しいと思った。魔法を使うよりもご飯を炊くのが簡単になる。
後でご飯の炊き上がりの味を比べてみよう。
「魔石の安定供給と、一般家庭への電気の供給がネックになりそうですね」
「そうなるな。では、もっとダンジョンを増やして魔石を取れるようにして、電機は雷属性の魔石から変電してエネルギーを取り出す。魔石が少しばかり高く付くかもしれないが、これなら一般家庭にも普及するのではないか?」
「一般家庭の稼ぎにもよるでしょうね」
「まだ国も出来ていないのだ。もう少し様子を見て、経済の概念が出てきたら口を出してみよう」
「はい」
僕達自体は使わないのだが、多種族達に見せる見本として幾つか買って行くことにする。
これでもっと積極的に、多種族との交易を進めてくれるといいのだがな。
後、それぞれの町を繋ぐ道の整備だな。
手間隙かけてやらなければいけないので、早めに行動することが必要だと理解してもらいたい。
街道の整備はなにも車だけではなく、馬車にも必要なことだ。なので無いよりは有った方がいいだろう。
魔物避けも設置するのなら、人の生活圏がそこにあると知らせる意味もあるしな。
モンスターの襲撃イベントは、考えていないぞ。あくまでもモンスター達が考え動いた結果、襲撃は起こり得る。
「あ、バグ達こんな所にいたんだ」
「レイシアか。買い物は済んだのか? 一応ここでも買えるみたいなのだが」
「必要な物は買ったよ」
そう言いつつ二人は店の商品をチェックし始める。品揃えに差があったりするのだろうか? それとも店毎の金額の差とか?
「町の店とほとんど変わらないかな」
「そうか」
「ねえ、バグ。マシナリーの工場をそれぞれの種族の町に建てない?」
「そうだな。資源を持って来るよりも工場自体をそれぞれの町に作った方が、需要と供給的にはいいかもしれないな」
「だよね! マシナリー達もそれぞれの町で、受け入れてもらえるようになるよ!」
いろいろと都合はいいのか。
ただマシナリー達がどう考えているかだな。僕達が強制したりはしたくない。
あくまでも彼らが各町に展開してもいいよと言うのなら、サポートくらいはしようと考えているくらいか。いやもっと積極的に、手伝った方がいいのかな?
種族は違うが、町に普通に店を出す感じで行けば問題ないだろう。
受け入れてもらえなかった場合や、問題が生じた場合は、教会に駆け込めばいいのだしな。
まずは個人レベルでの種族交流ってところだな。
「多種族にとってはマシナリーの工場は歓迎できるものになるだろうが、マシナリーにとってはそこまで利点がないかもしれないな。せいぜいその土地の素材を集められるようになるくらいか? 逆に産業スパイみたいに、技術を奪おうと考えるやからが襲って来るかもしれないから損かもしれない」
「確かにそうね。でも特許があるならそれもないんじゃないの?」
「そうともいえないわ。仲間を人質に技術提供を迫るやからが出ないともいえないわ」
そこだよな。おそらく特許関係は厳しく調べるので大丈夫だと考えているが、何かしら間接的に危害を及ぼそうと考えて、なおかつ実行しようとする者も出て来るかもしれない。
これは考えても仕方ない可能性だ。全てを防ぐ事はできないのだしな。
せいぜいその場その場で対応していくしかない。いたちごっこだ。
「まだ国という考え方が無いのだが、工場を大使館扱いで、治外法権にする方法しかないだろうな。でもって物理的に多種族は入れないようにするとか、同族は危険になったら何処からでも工場内に転移できるとか、そのような安全機構が必要だろう」
「確かに。それなら安全は確保できそうね」
「誘拐ならそれで対処可能だわ。でもいきなり命を狙われた時の安全がまだだわ」
技術が欲しいやつは生きていてもらわないと駄目だが、それ以外の理由から殺害目的の者が出て来るか。そっちは考えてもいなかったな。
マシナリーのライバルなど出て来ることもないだろうが、自称ライバルが逆恨みで襲って来る可能性もあるのか。
さすがビゼル。よくそのような可能性に気が付いたな。
「もうそこまで来ると、フォーレグス王国の結界みたいに、悪意ある者を判別して捕獲する警察みたいなものが必要になってくるな」
「さすがに自警団では、無理そうよね」
「これは安全に関わって来るから、工場の展開はもう少しお預けだな」
「そうね」
「早急に対策を考えるわ!」
二人とも、頼もしい限りだ。




