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新しいPTでお金を稼ごう!

 お互いの能力を把握する為に、ちょっとした冒険を積み重ねて一ヶ月が経つ頃、ふと思い出したようにレイシアが声をかけて来た。

 「そういえば、ずっとステータスカード見ていなかったけど、今ってどうなっているのかな?」

 「あー、確かに全然見ていなかったな。今更新する」

 本当に最近はいろいろしていて、ステータスを気にしていなかったよ。ついでに自分のも見ておこう。


 《名前 バグ  種族 シャドウストーカー  年齢 0  職業 魔導師

 LV 65-67  HP 3571-3826  MP 7665-7901

 力 210-212 耐久力 539-545 敏捷 567-570

  器用度 218-220 知力 785-798 精神 1515-1521

 属性 火 水 土 風 闇 生命

 スキル 捕食 腐敗 肉体変化 分裂 無詠唱 自動回復 状態耐性 生命吸収 憑依 影渡り 調査 眷属作製》


 名前 レイシア  種族 ヒューマン  職業 召喚術師

 LV 28-31  HP 140-153  MP 278-298

 力 19-20  耐久力 17  敏捷 35-36

  器用度 48-50  知力 54-60  精神 58-64

 属性 火 水 光 闇 生命

 スキル 錬金術 簡略詠唱 指揮官 召喚武器 調理 上位変換(無生物)


 調査って何だ? 何を調査するのだろう?

 試しにこっそりと使ってみると、頭の中に自分中心に上空から見た地図みたいな物が思い浮かんだ。

 おー、隣にレイシアがいるのがわかり、周りに人がいるのがわかる。

 そして自分に対する友好度、敵愾心みたいなものも把握できるな。これは中々便利っていうか冒険者向きのスキルだ。

 眷属を創るスキルは、夜に学校の木に魔法をかけたから増えたものかも?

 「なんかLVとか力とか、いろいろ上がっているわね。調理ってご飯作る能力? 私、料理なんか作ったことがなかったんだけど、やっぱり冒険しているのなら、自分で作れるようになれって事かしら?」

 「いやいや、何でスキルが突っ込みいれているのだよ」

 「突っ込み? まあいいや、今度何か作ってみるわ。上位変換? なんだか錬金っぽいスキルね」

 「ご飯作るなら、しっかり自分で味見しろよ・・・・・・。無生物ってなっているから何らかの素材集め系のスキルだろうな、生き物は対象じゃないよってことだよ」

 方向音痴のヒロイン系で、ご飯作ったことがない=殺人料理ってフラグは、ぜひ回避したい。

 絶対にレイシアの料理の味見はしないと、心の中で強く思った。

 とりあえず、話が上位変換のスキルに変わったことでもあるし、僕は目に付いた適当な素材になりそうな布切れが側にあることをレイシアに教える。

 「これに上位変換を使えばいいの?」

 「物は試しだろう?」

 「そうね、使ってみるわ。上位変換!」

 レイシアが掌に乗せた布切れは、微かに光ってつやつや光る布に変化した。

 「ちょっと大きめの魔法を使った時みたいに、疲れるわね」

 「なるほど、変換する為にMPを結構使うってことだな」

 「この布、滑々していて、なんか高級感漂う布になっているよ」

 「これが上級素材って奴だろうな。ブレンダがいたら、価値とか素材自体の名前とかいろいろ聞けたかもな」

 「そうかもね」

 ブレンダか、まだ少ししか立っていないのにもう懐かしいな。

 調理以外はチェックできたようで、冒険に出発するようだった。


 現在のレイシアは、ギルドの近くのわりと安めな宿に拠点を置いて活動をしている。もう少し冒険で稼げるようになったら、もうワンランクくらい上の宿屋に移る予定だ。

 今まで、お試しでちまちまとした依頼ばかりだったけれど、これからは自分達パーティーの実力にあった依頼を受けていくと言っていた。今日はその最初の依頼の予定だった。お試し期間が終わったってことだね!

 「それじゃあ行ってみますか! 僕達パーティーならこれくらいは問題なくできる依頼だから、そこまで気負うことはないよ」

 セルドイアの出発の合図で、移動を開始した。

 今から行く依頼は、乗合馬車などで三日程移動した場所にある村に隣接した森で出没が確認できるようになった、魔獣の排除が目的だ。

 敵の名前はわかっていなくて、目撃情報によれば四足歩行の獣で銀色の毛という話なのだそうだ。相手がどんな獣なのかわからないって点が決して油断のできない相手だが、セルドイアの判断はそこまで強くないだろうという判断だそうだ。

 現地の村でもっと詳しく話を聞いたところ、おそらく獣の名前はシルバーウルフじゃないかという結論になった。

 おそらく群れで行動している獣らしいので、一体ではなく少なくとも五体、多ければ十数体いるのではないかという話だ。その日はそのまま村に泊まり、翌朝早速森の中へと入って行く。


 今回はレイシアが狼を二匹呼び出して、リュドセンのサポートをさせている。何気に召喚術は万能だね。

 森に入ってからおおよそ一時間、ゆっくりとした移動なのでそれなりの時間がかかったものの、どうやら痕跡を発見したようだ。

 早速群れの追跡に移る。痕跡の発見からは狼が匂いで追跡できることも大きく影響して、群れの発見まで思っていたよりも早かった。

 狼は大きい固体で三メートルくらいの奴もいて少し手間取りそうな気配がする、数は全部で十二体、討伐の依頼なので逃がさないように気を付けなければいけない。

 メンバーを見て最悪、これは何体か逃げられるなって判断した。なので一つ安全策を打とうと考える。

 「レイシア、状況を見て敵に逃げられそうになったら、シャドウスパイダーを召喚してくれ」

 「そんな使い魔いたかしら?」

 「いやいない。今適当に考えた名前だ。声に出して、そういう召喚の生き物を呼んだってアピールしてくれればいい」

 「うん、わかったわ」

 これでいざとなったら肉体変化のスキルを使って蜘蛛の形で出て行けば、依頼の失敗は無くなるだろう。さてさて、どこまでやれるか後はお手並み拝見だな。


 今回は動きの素早い狼が相手なので、ゴーレムは呼んでいない。その為前衛は二人、狼二体とモラン、リュドセンがアタッカーでザボックは余裕があれば、魔法支援という感じで行動するようだ。レイシアは召喚をこれ以上使わないで魔法攻撃で参加予定。

 「ゴウ!」

 セルドイアの合図で、本人とロンブロクが一緒にシルバーウルフへと突撃して行く。

 群れの中央へ飛び込むと二人は背中合わせでお互いの死角をカバーして、内と外から攻撃を仕掛け出した。

 群れの内は剣での接近戦。外からは木の陰に隠れながらリュドセンが弓で攻撃、レイシアも隠れながら二人の隙を付きそうな狼に魔法攻撃をして行く。

 モランは、短剣で後衛の護衛だった。こっちに気が付いて襲って来る狼を、素早い動きで翻弄して短剣で少しずつダメージを蓄積させている。

 バランスよく的確に戦ってはいるけれど、やっぱり数が多くて攻めきれていない感じだな。

 倒された狼が三体、傷を負った狼が四体になった時・・・・・・あーやっぱりって感じで一番でかい狼をしんがりに、傷付いた狼が壁になって残りの狼を逃がすように動き出した。

 「全力攻撃!」

 逃げに入った時点で全力攻撃って、少し遅いと思うよ。

 「召喚、シャドウスパイダー!」

 レイシアからの合図で、逃げる狼達の少し先に大型の蜘蛛の姿で土の中から登場する。思わずジャジャ~ンって言いたくなる登場シーンだな~

 (スパイダーネット)

 そしてすかさずお尻から糸を出す演出を見せて、蜘蛛の糸を発動!

 一瞬のことだったので、逃げようとしていた狼の全てを糸で捉えることができた。それを確認した僕はそのまま土に帰るように姿を消すと、レイシアの元へと戻ったとさ~

 あ、これなぜ最初に使わなかったかとか、言われそうだな。何か言い訳を考えよう。

 「レイシア、これ以降は魔法を使うな。さっきの召喚で精神力を使い過ぎて、もう魔法は打ち止めってことにしておけ」

 「そうね、わかったわ」

 その後の戦いは、レイシアが抜けてしまったけれど、敵の数が減ったのと全力攻撃を仕掛けたことで、何とか目の前の狼を倒し、後は糸に捕らえられた狼をただ倒して行くだけの作業になった。

 「いや~。レイシアさん、さっきは助かったよ。でも、あんな召喚があるなら先に教えておいて欲しかったな。戦術の幅がそれで結構変わるからね」

 セルドイアの言葉でMPだけでは不足かって考え、レイシアにだけ聞こえる声で助言する。

 「さっきの精神力の話は無しにして、あまり頻繁に呼び寄せると酷い反動が来ることになるので、めったに使えない奥の手って言っておけ」

 軽く頷いて、レイシアはみんなに説明する。

 「えっと、あの使い魔はそんなに頻繁に呼ぶと反動が酷いので、私の奥の手みたいなものなのです。精神力も一杯使うし、なのでそんなに使えないんです」

 「ああ、そういう制約のある魔法なのか。これはすまない、今回は使ってくれて助かったよ」

 そう言って、軽く頭を下げてくれた。

 納得してくれたのでよしとしよう。その後討伐部位を集めている間、凄いなとか聞いたことのない下僕だったとか、制約のある魔法なんかあるのか等々、いろいろな話題を話していた。

 レイシアは適当にええとかそうなのとか言って、流して会話していた。

 まあ僕のことはまだレイシアも秘密にしているようなので、これでいい。

 それにしても、紹介しないっていうのはまだみんなを信用していないって事なのかな? ちょっと疑問に浮かんだのだけれど、理由はそれくらいしか思い浮かばないな・・・・・・


 作業が終了したら軽い休憩をして、直ぐに村へ向けて移動を開始する。帰りは探しながらではないから行きよりは早く進めて、夜になる頃に村に帰ることができた。

 村長に討伐が成功したことを報告して軽いお祝いを受け、その日はゆっくりと村で休んでから翌朝、ギルドへと帰る。

 依頼の結果は正確な敵と数がわかり、依頼料に少し色が付いて結構な実りの冒険になったようだった。

 ただ、まだワンランク上の宿に移るには心もとないって理由で宿は現状維持となった。だからせめて美味しいご飯を食べると言って少しだけ贅沢を楽しんでいた。

 上の宿に泊まれるのは、いつになるのだろうね~


 名前 レイシア  種族 ヒューマン  職業 召喚術師

 LV 31  HP 153-155  MP 298-301

 力 20  耐久力 17-18  敏捷 36

  器用度 50  知力 60-61  精神 64

 属性 火 水 土 光 闇 生命

 スキル 錬金術 簡略詠唱 指揮官 召喚武器 調理 上位変換(無生物)


 冒険に行った後なので、カードの更新を頼まれて確認したら属性が増えていた。各能力値も少しだけど成長していて、どうもそれが嬉しいようで、カードを見ながらニコニコしている。

 料理の事は完全に忘れているな、よしよし。


 一日お休みがあって、次の依頼に出かけることになった。

 依頼の内容は、古城に住み着いた幽霊退治。ふとレイシアを見てみたけれど、別に現代女子のように幽霊怖いって感じじゃなかった。

 平然とした顔をしているのを見ると、勝手なものでヒロインとしては失格と言いたくなるね。

 とにかく、今度の依頼は神官が活躍できそうな依頼だな。幽霊といえば聖なる魔法! そして物理攻撃は効かない! ザボックは支援が得意とか言っていたから、武器に魔法をかけるとかそういうのができるのだろう。活躍に期待だね。

 僕らは乗合馬車に揺られて、一週間の旅に出発した。ちょっといつもよりは遠いな。

 今回は、途中まで別の冒険者パーティーがいる時に山賊が襲って来たのだけれど、冒険者が二パーティーいたので被害無く撃退することができた。

 逆に山賊が持っていたお金を少しだったけれど貰うことができて、ボーナスステージって思わず言いそうになったよ。

 そしてやって来ました、中世ヨーロッパでよく見かける感じの石造りの古城。苔むしていて、夜なんかライトアップしたら感動しそうな雰囲気があった。

 ここで夜まで休憩して、中へと入って行くそうだ。わざわざ夜に行かなくてもと思ったりもしたのだけれど、幽霊が出るのは夜なのだそうだ。まあ敵もいないのに歩き回っても、意味はないよね。


 「さて、それじゃあそろそろ行こうか」

 辺りがかなり暗くなってきたところで、セルドイアから出発の合図が出る。

 「神よ、我が道を照らしたまえ。サンライト」

 あれ? 今回メインで活躍するザボックは、MPの温存をしないと駄目なのでは? 照明の魔法は、そこまで消費しないからなのかな? ちょっとだけ、ここはレイシアに魔法をお願いするのがいいんじゃないかなって思ったよ。

 レイシアはそんなに気にしていないな。

 みんな特に気にすることはなく、城の中へと入って行く。

 そして門を抜けて正面中庭にあたる所に出ると、結構な数の幽霊がいた!

 「神の祝福よここに、マインドアップ!」

 「レイシアさん、よろしくお願いします」

 ザボックがみんなに魔法をかけた後、セルドイアがそう言って来た。

 え、今何って言った。後は任せるとか言わなかったか? ってことはひょっとして今回のメイン、レイシアってことかな? 幽霊全部レイシアの攻撃魔法で倒すってことなら、MPきっついぞ・・・・・・まあそういう意味では、いちいち神官が浄化するのもMPきついって話なのだけれど、そこは神官のお家芸ってやつじゃあ・・・・・・

 「焼き尽くせ、ファイアアロー」

 レイシアは特に疑問も無く、幽霊を捕捉しては魔法を放っていっている。

 あー、これは効率が悪い。召喚で、光属性なり聖属性なりなんか呼べないかな? 光で有名なものって、ウィルオーウィスプって精霊がいたかな。

 「レイシア、ウィルオーウィスプって知らないか?」

 ゲームでは有名どころの精霊だけど、こっちにいるかどうかわからないのでとりあえず確認。

 「ウィル? 何それ、何かの呪文?」

 攻撃の合間にそう言って来た。

 やっぱ通じないか・・・・・・じゃあ別の何か、何か・・・・・・あー、天使とかは聖属性だろうけど、それもこっちにいるものだろうか?

 「じゃあ、エンジェルとかドミニオンとか、プリンシパリティとか、何か天使的なもの思い当たらないか?」

 「うーん、ちょっとわからないよ」

 ぐあー、ゲーム知識が通用しねぇ! 意外と光とか聖属性のモンスターって少ないのだよな・・・・・・

 MPが尽きる前に、何かしら対策練らないと今回の依頼はきついぞ。

 「ならなら、ユニコーンはどうだ? 一角獣の馬なのだが」

 あれも確か聖属性だったはず。ただいたとしてもLVは高そうだよな・・・・・・まあそれは天使も同じだけれど。

 「あ。それなら知っている! 召喚、ユニコーン」

 無事に呼び出すことができたようだ、様子を見るとレイシアをじっと見詰めた後従っていたので、召喚のLVは足りていたようでホッとした。ただ攻撃魔法とか持っていてくれると助かったのだが、角が届くところに降りて来た幽霊しか相手にはしていなくて、上に浮いてしまっているやつは、結局攻撃魔法だったけれどね。

 でも、多少はMP消費を抑えられるだろう。魔法一つ一つでMPを使い捨てていたら、あっという間に無くなるからな~

 セルドイアがよしよしって顔をしていたけれど、全然よくないぞって言いたかったよ。空飛ぶ光属性、光魔法が使えるモンスター。なんかいないかな? パソコンで検索したい・・・・・・

 「なあレイシア、精霊自体はいるのだから、光に属する精霊って何かいないのか?」

 「うーん。中級辺りになんかいたような気がする」

 しばらくうんうんと唸って確かこんなのだったかしら? 小声でとりあえず呼んでみたようだ。

 「召喚、ライトエレメンタル」

 ちゃんと出て来たよ、そしてピカピカと眩しいから、さっさと空に飛ばして欲しいって思った・・・・・・よく考えたらこいつは僕の天敵じゃないか・・・・・・。自分がシャドウだって完全に忘れていたよ・・・・・・

 そっか、エレメンタルがいたな。

 いろいろゲームや小説を知っているつもりでいたけれど、とっさに名前とか言葉が出て来ないものだな~

 まあ、これで地上はユニコーンが、空はエレメンタルが幽霊を殲滅してくれた。MPの温存にも成功したよ。

 セルドイアがよしよしって感じで喜んでいるけど、魔法使い一人に負担かける依頼は受けて来るなよって言いたい。あんたら何もしないのに、報酬だけ貰おうとしているんじゃないのかって疑いたくなったな。


 その後は古城の周りをぐるりと移動して、幽霊を残らず倒す事ができた。

 下僕に任せるだけなので、僕らは散歩しているだけみたいな感じだったけれどね。

 殲滅はできたのだけれど、所詮は幽霊だから壁抜けとか出きるのだよね・・・・・・そう考えてみると今は見当たらないけど、中にいるやつが外に、外にいたやつが中入っていっていたら、すれ違いで討ちもらす敵も出て来るのかもしれないな。

 討伐が終わったら、最後に確認が必要だな。

 「じゃあ、そろそろ中へ行こう。モラン頼む」

 「おう」

 盗賊のモランが、正面脇にある扉に張り付く。

 正面にあるでかい扉は、鉄製で錆び付いていておそらく鍵とかが無くても開かないだろう。それにこういうお城にあるものは、仕掛けで動く感じの物が多い。おそらく中に入って、そういう装置を複数の人力で開けたりするのだと思う。

 でもって今モランが探っている扉は、少人数で入る為の門だ。まあ、あまり身分の高くない人用だね。こっちも鍵などで簡単には開かなくなっているとは思うけれどね。

 「ちっ、錆付いていやがる」

 「駄目そうか?」

 「いや、もう少し待ってくれ」

 道具をいろいろ出して、鍵穴から油なんかを差し込んで、ゴリゴリと作業をしている。専門職だな~。そんな感じで見ていること十分くらいしてから、ガチャリという鈍くて重そうな音が聞こえて来た。モランがやりきったって顔で振り返る。

 「よし、よくやってくれた!」

 まあ結果からいけば、扉の蝶番のところも錆びていて、人の力で開けられるとは思えなかったけれどね~

 ゴーレムが、がんばって開けてくれたよ。


 中に入って、ホール部分の幽霊を殲滅していた時・・・・・・

 「おやおや、騒がしいと思って来てみたらこれはこれは、招かれざるお客人とは我が居城へ土足で入り込んだこと、後悔して貰いましょうか」

 そんな声が、二階部分の階段の上から聞こえて来た。

 古めかしい派手な正装で貴族っぽいいでたちの、顔色が真っ白な男が立っていた。

 みんなが警戒を強めて戦闘態勢を整えると、男の後ろから両隣を通り過ぎ、下にいる僕らにそのままの勢いで襲い掛かって来る女性型の何者かが二人いた。

 「レッサーヴァンパイア!」

 セルドイアが、警戒した声を上げる。

 レッサーってことは下級のヴァンパイアか、上でえらそうにしているやつは普通のヴァンパイアかさらに上級のやつなのだろうな。通りで血の気のない真っ白な顔をしているはずだ。

 そういえばこいつら、聖属性の武器も銀武器も持っていないな・・・・・・何気にピンチなのでは?

 「レイシア、水を持っていないか?」

 「え? あるけど?」

 何で今って疑問に思っている感じがするものの、バックパックから出そうとしてくれる。

 「じゃあ、それを上位変換してみてくれ。それと精神の回復薬は持って来ているか?」

 「ええ、そっちはさすがにちゃんと準備して来たわ。魔術師だから、無いと困るものね。上位変換」

 飲み水として持って来ていた革袋に入れられている水に、スキルを使った。

 「じゃあ、その水を一滴レッサーヴァンパイアにかけてくれ。駄目ならもう一回上位変換だ」

 「わかったわ」

 一滴飛ばしてみるも、特に変化は無さそうだった。ちょっと聖水にするには、無理があったかなって思う。まあ駄目元だったからな~

 「上位変換」

 そしてもう一回飛ばしてみるも、やはり変化無しだった。

 「上位変換」

 ちょっと辛そうにしながらも、さらに上位変換スキルを使用して、一滴飛ばしてみると、煙を上げてレッサーヴァンパイアが怯んだ。よし成功だ!

 「精神を回復しておけ」

 「うん、そうする」

 理由もわからずスキルを使っていたものの、効果が出たと理解できて嬉しそうに指示に従った。

 「後はその水を戦士の剣に振り掛けるといい」

 「うん! セルドイアさん、ロンブロクさん、これを剣に使って!」

 さすがに戦っている最中だと、難しいかな?

 「俺が変わりにやろう」

 そう言うとモランが隣に現れて、中身が聖水に変わった革袋をいつの間にか持って、二人の戦士の元へと滑るように移動して行った。さすが盗賊、動きが素早いのでお任せだな。

 戦闘の合間に息の合ったやり取りで、聖水になった水を剣に振り掛ける。

 その効果は劇的で、まともに戦えるようになった二人は、程なく目の前の二体のレッサーヴァンパイアを倒した。それを見ていた上にいる男が怒ったような声を出す。

 「生意気な侵入者め! 我輩がじきじきに相手をしてくれるわ」

 さらにレッサーヴァンパイアを四体も引き連れて、男が飛び掛って来た。

 こちらの戦士の数が足りないじゃん! セルドイアが降りて来たヴァンパイアを迎え撃ち、ロンブロクが二体のレッサーヴァンパイアを相手取った。

 残りの二体の内の一体を、持ったままの聖水を短剣にかけたモランが相手取る。

 敵が一体こっちに来た為、レイシアがユニコーンを前に出した。これは相手取るというよりは、牽制だな。エレメンタルとユニコーンを指揮して、何とかレッサーヴァンパイアを押し止める。

 他の人が助けに来てくれるまでは、当面これで維持になりそうだ。


 「モラン、こっちにも水をくれ」

 打つ手が無かったリュドセンが、聖水を要求する。

 さすが盗賊って感じでレッサーヴァンパイアと戦いながら、隙を見て後ろに革袋を投げる。それを受け取ったリュドセンは、矢の先に水を振り掛けるとみんなの援護に回った。

 積極的に支援するのはロンブロクで、二体を早く倒してもらって、他の人の援護に向かってもらう作戦だな。後は危険になった時に、レイシアとモランの援護をする感じだ。

 リュドセンの援護射撃により、バランスがこちらに傾き、ロンブロクの前にいたレッサーヴァンパイアの一体が倒されると程なくもう一体が倒れ、次いでレイシアが抑えていたレッサーヴァンパイアも撃破できた。

 下僕は次の相手をヴァンパイアに向けロンブロクはモランの援護、それにより全員でヴァンパイアを囲むように戦うことができるようになる。下僕を含めると五対一になり、さすがのヴァンパイアもだんだんと傷を深くしていった。

 不利を悟ったヴァンパイアは、人間ではありえない筋力を持って包囲を力任せに突破し、レイシアに向かって突撃して来た。

 みんなの援護は間に合いそうにない。僕はとっさに無詠唱魔法を発動させた。

 (メンタルバースト)

 不意打ちによる魔力の暴発、ヴァンパイアの突撃の勢いが無くなりその場でたたらを踏む。

 そこに追いついて来たセルドイアが背中を斬り付けた。元々が強引な突撃だった為、その突撃を防がれたヴァンパイアは、

その後は打つ手もなく倒された。

 「今のは危なかったな、レイシアさん、何かしたのか?」

 セルドイアがそう言って来た。レイシアは首を横に振る。何かしたのは僕で、それも無詠唱だった為レイシアは何もしていないのは本当のことだった。

 まあでも、レイシアには僕が何かしたっていうのは、わかったみたいだけれどね。

 ちょっと嬉しそうにしていた態度で、それが理解出来た。


 その後古城の探索を続け幽霊の掃討も無事に完了して、討ちもらしがないか調査スキルを発動して安全を確認した。

 古城の中を調べていてちょっといい感じのテーブルと椅子を発見したので、みんなが部屋から出た瞬間、こっそり拠点にそれらを送り付けておいたのは内緒だ。

 ベッドも貴族にありそうな豪華な物を見付けたのだけれど、これは趣味じゃないかなって思って、別のベッドを探すことにする。

 結局壊れたベッドしかなかったので、手に入ったのは、テーブルと椅子だけだったよ。後はソファーとベッドで、とりあえず僕の拠点は完成だ! がんばろう。

 そんな感じで、今回の依頼は終了した。

 ヴァンパイアは討伐部位が手に入らなかった為ボーナスはなく、依頼難度が上がった割には安い依頼となってしまった。まあここら辺りは、予想外なことが起きたので仕方がないだろうね。

 全員無事に帰れただけ、よかったと考えるべきだろうな・・・・・・


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