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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第一章  気付くと僕は、スライムでした。
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召喚術師の少女

 僕が受けた命令は時間稼ぎ・・・・・・他に受けた命令はなかったので、その場で今の自分に何が起きているのかを考える時間ができた。

 スライムになってしまった事が原因なのか、記憶と呼べるものが酷く曖昧なのだが、確か僕はモンスターなどいない世界で普通に人間として生活していた気がする。そしてその記憶で強く印象に残っているのは、信号が赤なのに自分に向かって突き進んで来る車だった気がする。

 あー、思い返してみれば何って事もない、事故で死んでこのモンスター溢れる異世界にスライムとして転生してしまったって事なのか・・・・・・

 普通こういう転生者って英雄とか勇者とか言われる人に転生するものじゃないのかな・・・・・・

 あまりにあんまりな成り行きに、かなりの時間を呆然として立ち尽くしてしまった。足はないけれど・・・・・・


 そんな状態から抜け出せたのは、空気の流れが乱れたからだ。

 何者かがこちらに向かって近付いて来ている! 警戒しながらおそらく何者かが潜んでいるのであろう方向に意識を向ける。そして意識を向けた先から恐る恐るって感じで顔を出したのは、まだ少女といってもいいかもしれない若い人間で、質素なローブとねじくれた杖を両手で握り締めて、ゆっくりと部屋の中に入って来るなんとも気弱そうな人間だった。

 少女は、部屋の真ん中でピクリとも動かなくなったミノタウロスに警戒しながらも近付き、本当に死んでいるのかどうか確かめるかのように、その巨体の周りを一周する。

 「ほんとに死んでいる? 顔が溶けているって事は、おそらくこのスライムが倒したって事で、間違いないのよね?」

 今だミノタウロスの体の上に留まり続けている僕に向かって、語りかけるように独り言のように呟く。いろいろと、納得がいかないような顔をしながらも、少女はミノタウロスから戦利品と思えるアイテムなどを回収しだした。


 「おいで!」

 回収作業が終わると、僕に向かって少女が左手を伸ばして来た。彼女のそのあまりにも短い命令に、わずかな強制力が含まれている事を理解して、足を伸ばして核を移動させて、その手の上へと移動して行く。もちろんご主人である彼女に対して、攻撃する意思を向ける事ができないと本能が言っていた。

 危うく殺されかけた僕としては殺すまでは行かないとしても、少しは痛い思いをさせたいところだったのだが、召喚された者の悲しさというかやはり絶対服従なのかと思ってしまう。

 そんな事をつらつら考えている間に、少女はその部屋を後にして通路を進んでいた。

 びくびくとしながらほんとにゆっくりとした移動なので、次の部屋へと辿り着いたのはさっきいた部屋から、大体二十分くらいたった頃だろうか?

 部屋の中からは何かがいる気配が微かに存在する為か、少女はじっと様子を窺い目視で何もいない事を確認した後も、足元の石を投げるなどしてなかなか警戒をやめなかった。

 あー、モンスターだけじゃなくて、トラップを警戒していたのか。そうすると部屋に入ったらいきなりモンスターが落ちて来るとか、扉が閉まって閉じ込められるなどもあるのかもしれないな。ゲームなどでは、そういうトラップがよくある。

 少女なりに、いろいろと試してみたのか、やっと納得して部屋の中へと入って行った。けれどその部屋にはトラップなど存在していなくて、特に何事も起こる事はなかったが、少女はよほど緊張していたのか座り込んで溜息をついていた。


 まあ、そんな少女の事なんてどうでもいい。それよりもこのダンジョンはいったいなんなのだ?

 そしてこのモンスターがいる世界は何だ? 僕自身がスライムなせいで声が出せないから、疑問に思っても問い掛ける事などできなくて何一つ情報を得ることができない。

 おまけに今の僕は彼女に召喚された為か、自分勝手に動くこともままならない。まあ、死なないならもう少しこの少女の好きにさせるしかないのかな?

 「どうやったら、ここから抜け出せるのよ!」

 (迷子かよ!)

 びっくりしたわー。いきなり召喚された僕なら仕方ないと思うけど、召喚主であるご主人もまた迷っていたなんて・・・・・・

 こりゃ、いつ抜け出せるかわからないから、のんびりと行くしかなさそうだな~

 まあ自分には、選択権すらないけれどね・・・・・・


 あれからどれくらいこのダンジョンの中を彷徨っていたのか、いくつか移動した部屋の中にリザードマンと呼ばれるモンスターがいた。けれど彼女が僕をリザードマンに投げ付け、飛ばされながら足を延ばして相手に取り付くと、ミノタウロスの時と同じように顔を覆って倒す。それを確認したら少女が戦利品を漁るという感じで探索は進んで行った。

 しばらくそうやって探索していると気が付いたよ! この子、方向音痴なのではないかと!

 よくよく見ていると、分かれ道が来るたびに、右にばかり移動していたよ・・・・・・

 あー、ご主人? あなた同じ場所をグルグルと、回っていますよ~

 こんなにも声が出せない事が苦痛とは! 突っ込みすらできない・・・・・・

 仕方がないので次の別れ道に来た時に、足を左の方へと延ばしてみた。紙などにマッピングなどできないので、ダンジョンの壁を溶かすなどして、目印を付けつつ少女を誘導して行く。あー、方眼紙が欲しい・・・・・・あれがあると、マップを作るのが楽になるのだよね~。ゲーマーの血が騒ぐな。

 途中何度も現れるモンスターを全部僕が倒してそのまま進み続けると、ようやく外へと続くかと思われる出口らしきものが見えて来た。

 風の流れから多分外で間違いは無いと思うけれど、僕はこの世界の外を見た事がないのでなんとも判断のしようがない。

 「やっと出られた~」

 そんな事を考えていると、少女は今までの慎重な足取りとは違って転がり出るかのように出口へと走り出した。

 ダンジョンを出て直ぐの外は少しだけ開けた場所になっていたが、その奥は木々がうっそうと茂る森。僕としては絶景でなくとも、それなりに世界観がわかりそうな景色が見たかったのだが、まあ今はダンジョンの外に出られただけでもいいかと考えることにしておこう。

 「お前、結構役に立つわね」

 少女は僕を肩に乗せながら、そんな事を言った。まあスライムだし、使い捨ての駒って思われていたのだろうな~

 そんなことを考えているうちに、少女は森の中へと歩き出した。そして森を進むこと一時間、そこで気が付いた!

 こいつ、方向音痴だったのだ! 木を避ける時にまたも、右へ右へと流れて行くので、延々と同じ場所を彷徨い歩いているようだった・・・・・・

 勘弁してくれよ・・・・・・それ程方向感覚に正確性はないけど、それでもまだましだと思い、足を延ばして何とか少女を誘導して行く。確か右にばかり移動して行く人がメンバーにいるのなら、なるべく左に行くようにすれば真っ直ぐ進むとか聞いた事があった。バランスが重要だろうな。

 やがて辺りが真っ暗闇に包まれる頃になって、やっとの事で森を抜け出すことができた。

 「はぁ~、やっと森を出られたわ・・・・・・ここって迷いの森だったのかしら?」

 お前が方向音痴なだけだよ!

 何だこれ。どうせならもっと優秀なご主人様に召喚されたかったよ。まあ、その時はスライムなんて、文字通り捨て駒にされていたかもしれないけれどね。少女が野営の準備を進めている横で、そんな事を考えていた。

 「召喚、ウルフ! 見張りをしなさい」


 ワフ


 少女が狼を召喚して、見張りを命じた。

 「お前は、敵が近付いて来たら、迎撃を」

 休みは無しか? 不思議と疲れというものも眠気も感じてはいなかったが、それでも一日中働き詰めってどうよ?

 労働基準法違反で訴えてやりたい!

 はぁ、でも強制力が働いていて逆らえないのだよな~。まあ一人きりで見張りをしないでいいだけまだましと思っておこうと考え直し、狼の方へ意識を向けると狼はめっちゃ僕の事を見ていた!

 何んだよお前、ちゃんと見張りしろよ・・・・・・

 お互いに意思疎通できない者同士、ただ互いに見詰め合う事しかできない。なんて不毛な睨み合いか・・・・・・

 どれくらいそうしていたか、わんころなんか気にしないでいいかと、多少ちらちらと様子を窺いつつも、真面目に見張りを続けるのであった。


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