事情説明
地下施設から外に出たところでフェリスが声をかけて来た。
「マレーアさん。いろいろと迷惑をかけてしまい、申し訳なかったわね。身内の不始末に巻き込んでしまって、ごめんなさい。それと手伝ってくださって助かったわ。ありがとうね」
「ああいえ、フェリスが悪い訳じゃあいんだから、そこまで気にしないでください。今回の事件は偶然巻き込まれただけですから」
突然謝られてびっくりするものの、そもそもは冒険者が負傷者を寝かせていた駐屯地に来た事がそもそもの原因になる。そこにフェリス達の不手際になりそうな要素は存在しなかった。
「いえ、そもそもは私の父が権力志向の強い人で、私とバグに縁が出来た事を利用して上位貴族になろうと勝手に行動した事が、今回の事に繋がってしまったのよ」
「バグって、確かこの弓を作った人よね?」
そう言いつつ背負っていた白い弓を、目の前に持って来る。
こんな所に繋がりがあるなんて、意外な縁ってやつかな? そうなると、私とフェリス達が出会ったのも、必然だったって感じかしら?
「当時バグについて知っている人は、私の友達くらいしかいなかったわ。私はその友人がいたからバグと知り合えたようなものなの。バグは武具や道具に魔法を付加する技術を独自に開発した天才でね。その力を勝手に利用しようとしてバグの怒りに触れて、父は隠居するしかなくなったのよ」
「へー。バグって怒ると怖い人なんですね・・・・・・」
白い弓からは繊細で高貴なイメージしか思い浮かばなかったのに、なんだか作った本人のイメージは正反対なものばかりだわ。頑固で職人気質なドワーフで、怒らせると凄い力の道具を駆使して仕返しして来るとか?
弓には感謝しているけれど、あまり会いたくはないわね・・・・・・
「そうね・・・・・・本当に怒らせたくない人だわ。・・・・・・父は病気って扱いでしばらく隠居していたんだけれど、しばらくして死んだって知らせが届いたのよ」
フェリスが話を戻して再び経緯みたいなものを説明し始めた。弓以外にも何か、意外な繋がりみたいなものでもあるのかな?
「知らせ自体は受けたものの、死体も無ければどんな経緯で亡くなったのか、何が起こって父が死んだのかわからずじまいだったわ。手掛かり何て何も残されていなかったから、結局限りなく死亡に近い行方不明って事になっていたんだけれど・・・・・・ちょっと経った頃、黒騎士から情報を貰ってね。暗躍している事を知ったの」
「はあ、黒騎士ですか」
フェリスさんは元貴族というか、それよりも身分が高そうなので、そういう騎士が部下にいてもおかしくはないかなって思っていると、何となくこちらを探るような視線を見けられた。
何だろうって思って見返したけれど、何でもないって感じで続きを話し出す。
「情報では、野心を満たすの道を断たれた原因はバグだと逆恨みして、恨みを晴らそうと考えたそうだけれど、当時バグについて知っている人なんてほとんどいなくて、その代わりに唯一仲がいいっていう話があった友人を狙う事にしたみたいね。隠居して三年の間に父の死が伝えられたから、その間に裏社会の者と接触でもしたのでしょう。まさかリッチになっているなんて思いもよらなかったわ」
「はあ、まあ普通はリッチになっているなんて、考えもしませんよね」
「・・・・・・ええ。呪いの中核に使われていた古代人も、元はバグ達が発見した研究施設にいた生き残りの被験者だったらしいわ」
「え! そうだったんですか」
そんなところにも変な縁があったのね・・・・・・嫌な繋がりっていうのか、微妙に関係は無いようにも思えるけれど、無関係って程ではないかな?
「初代魔王に対抗する人造兵器の開発実験に使われていた、囚人だったそうよ。ようはキメラ実験ね」
「魔王って・・・・・・そういえば八百年くらい前って言っていましたね」
「ええ、八百年か九百年か、それくらい昔の被害者っていったらいいのかしら? 研究所には狂った実験体の人がもう一人いたみたいだけれど、そっちはバグと友人が倒したそうよ」
「あの古代の人間を倒したんですか! つまりバグは戦闘も出来る生産者だったって事ですか」
あの強さの相手が出来るって、普通なら生産に打ち込む時間が無くなるからそんなに強くなれないはずなのに・・・・・・ああ、ドワーフなら人間より長く生きられるからそういう事もあるのかな? 元々ドワーフは体が丈夫で、戦闘向きだしね。
「元々バグは魔法使いだから戦闘は得意よ。まあ、武器とかも得意っぽかったけれどね」
あれ? ドワーフの魔法使い? ドワーフって、あまり賢くなくて魔法適正はあまりないって種族じゃなかったかな? まるっきりいない訳じゃないから、天才だったなら魔法くらい使えるのかもしれないかな。
よくよく考えれば、魔法が使えなければ魔法武器なんて作れないかー
「まあとにかく、リッチと古代人が手を組んで、悪さをしているって情報を貰ったんで、身内の恥を何とかしようと昔の仲間を誘って調べていたら、マレーアさんに会ったって感じよ」
「なるほど、そうだったんですね。偶然でも会えてよかったです。一人では多分、どうにも出来ませんでしたから」
「こちらこそ、マレーアさんがいなかったら勝てたかどうかわからないわよ。お疲れ様、ありがとうね」
「いえいえ。ところで、あの古代の人間を倒したら呪いって解けますかね?」
呪いについては詳しくはないので、ちょっと不安だったのよね。元凶を倒したら姫様が元気になってくれていればいいんだけれど・・・・・・私に出来る事は目の前の敵を斬る事くらいだから、こういう時どうすればいいのかわからなくて困る。
「そうね・・・・・・大元はいなくなったけれど、解呪はしないと駄目かもしれないわね。今ならたいした抵抗もなく解呪出来ると思うわ」
「フェリス! 解呪って出来ますか?」
今だ姫様はあのままって可能性があると聞いて、私は勢い込んでそう聞いていた。
「! ええ、出来るわよ。乗り掛かった舟だし、一緒に行きましょうか?」
「ぜひお願いします!」
疲れてはいたけれど、私はフェリスに無理をいって、一緒に姫様の下まで来てもらう事にした。
フェリスの仲間であるランドル達にはわるいけれど、姫様が心配な私は挨拶もそこそこ愛馬に乗って、町を出発する。
行きと同じ、六日をかけて国境近くの町まで帰って来た。
この町にはほとんど来た事が無く、滞在した日数でいけば数日くらいしかない町だけれど、なんだか帰って来たって気持ちになる。それもこれもここに姫様がいるからかな? そんな感慨深い気持ちになりつつ、姫様が宿泊されている宿屋へと真っ直ぐ向かった。
宿屋の扉を開き、中へと入ると・・・・・・
「隊長! 戻られたのですね!」
テーブルに着き、一心不乱に祈りを捧げていた近衛騎士副隊長のルドセンが私に気が付き、声をかけて来た。
「ルドセン。姫様の様子はどうか」
「はっ! 隊長が町を出られてから一度もお目覚めにならず、病状も一向に良くなる気配がありません! 依然出血が酷く、このままの状態が続くと体力が持ちそうにないとの主治医からの報告です」
「上に行く!」
姫様が危険な状態だと聞いて、私はフェリスの手を取って、姫様が寝ている寝室まで走る。フェリスはそんな私に黙って付いて来てくれる。
部屋の前に辿り着くと、扉の前に立っていた近衛騎士が二人、慌てて私達の入室を遮って来た。急いでいる時に邪魔をしてとも思うが、これも職務・・・・・・私は事情を部下に説明しようとしたら、部下の方から聞いて来た。
「隊長。そちらの方はいったい?」
「彼女は姫様の呪いを解いてくださる魔法使いだ。元凶を取り除く手伝いもしてもらった。信用出来る人物なので、入室許可を貰いたい」
「しばしお待ちを。今主治医を呼んでまいります」
急いでいるんだがとも思わなくもないが、何かあった時に主治医がいてくれた方がいいわね。魔法使いに治せるものかって、反発しないでいてくれればいいんだけれど・・・・・・あまり期待できないかな・・・・・・
「どこからどう見ても症状は伝染病じゃろうが。いったいどこに目を付けておるんじゃ。全く、呪いっていうものはもっとこう、もがき苦しみながらじわじわーっと死に向かって行くものじゃろうに。今回の病状は今だ発見されたことのない、未知の病原菌に違いないぞ」
ぶつぶつ言いながらも王族お抱えの主治医がやって来た。それにしてもじわじわと苦しむって、嫌な呪いよね・・・・・・確かに呪いっぽいんだけれど・・・・・・
「それで、近衛騎士隊長が連れとるのが呪いだって言っておる者なのか?」
そう言って私の後ろにいるフェリスを胡散臭そうに見て来た。確かに呪いって言われても、そうなのか? って確信を持って言えないんだけれど・・・・・・
「ええ、あれは呪いの症状で間違いありませんわ。それとも何か、打つ手でも見付かりましたか? 治療方法が判明しているのなら、私の出る幕はないのですが」
フェリスにいたいところを突かれ、ぶすっとした表情をする。それがわかれば苦労していないし、姫様も今頃元気に過ごしておられるだろう。だけどそうじゃない。姫様はまだ目も覚ましておられない。ある意味とっとと治せって言っているのも同然の回答よね。
「まずは真偽を確認するのではなく、姫様の回復を優先すべきでは?」
私は一刻も早く姫様に元気になっていただきたく、そう発言した。ようは誰が治療しようが私にとってはどうでもいい事よね。神官や薬剤師などが打つ手がないというのなら、別方向から解決策を見付けて来るべきだと思う。少なくとも姫様の症状が呪いによるものだという人がいるのなら、試してみればいいだけの事だった。
もちろん、そう言って詐欺をする人も中にはいるけれど、少ない日数でも一緒にいてフェリスは信用出来ると判断した。姫様の命がかかっているとはいえ、そう簡単に信じてもいいものかどうか悩むところだけれど、今回は信じてもいいような気がする。
フェリスは答えられない事には沈黙し、嘘や誤魔化しは言わない人だと思いたい。そんな人があてずっぽうや確証もなく、適当な事を言うとは思えなかった。呪いだとわかる何かがあったんじゃないかな? 多分大丈夫だと思う。
「付き添ってもらって構いませんから、早く治療をお願いしてみては? いいですよね? フェリス」
「ええ、別に構いませんよ。呪いを解くだけですので」
フェリスの了解も取れたので、主治医に視線を移す。
部下達はどちらの意見が正しいのか、判断し切れずに戸惑っているようだったけれど、怪しい動きがあれば行動するだけだって判断したようね。何かあれば直ぐ動けるよう準備していた。
「よかろう」
結局主治医が折れて、どうせ無理だろうって感じでしぶしぶ部屋の中へと促した。
一応念の為というか形式的なもので、姫様の寝ているベッドまでフェリスを案内すると、部下の一人と一緒にフェリスの左右に陣取っておかしな真似をしないかどうか見張る役に徹する。一人は外で見張りとして残っている。
あまりにも失礼な態度ではあるけれど、こればかりは姫様の安全が第一なので我慢してもらう。
フェリスもそこはわかっているのか特に何も言わないでいてくれた。
おそらくだけれど、フェリス自身そういう対応には慣れているんだろうね。威厳ある態度とかを見ると、他国の王族と言われても違和感はない。
「じゃあさっさと終わらせますか。カースキャンセラー」
特に気合を入れたようには見えない魔法を姫様へと使った。
結果は特に変化なし? 顔色がよくなった訳でも、目を覚ます訳でもないわね。
フェリスも周りの反応からそれを察したのか、説明してくれる。
「呪いを解いただけなので、今までの疲労が治った訳でも失った血が増えた訳でもないわよ。後は主治医である貴方が、体力の回復を担当するのがいいのではないかしら?」
「ふむ、そうか?」
あっさりし過ぎて、戸惑ったような返事だった。元凶さえなんとかなれば、後は簡単なのかもね。
「それはそうでしょう。私は魔法使いであって、治療を専門にしている神官ではないもの。呪いが解けたかどうかは、今後病状が出なければわかるんじゃなくて?」
「そうですね、フェリス。姫様を助けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ。じゃあ私はこれで失礼するわね。また縁があったら会いましょう」
そう言うとフェリスは止めるのも聞かず、立ち去って行った。
フェリスが出て行き、主治医が姫様の治療を行う。
顔色を窺うと、確かに健康そのものって感じに見えた。疑う訳ではないけれど、これで症状が出なければ完治と判断していいだろうね。その判断は主治医がするはずだけれど・・・・・・
姫様についてはもう出来る事は無いので、私は町で隔離されている他の患者の為に、解呪を使える魔法使いの手配を指示した。それと、最前線で戦っていると考えられる国王陛下にも伝令を送る。
それらが済むと、後は今後の私の身の振り方が決まるまで、自室待機した。
不可抗力だったかもしれないが、姫様をお守りする事が出来なかった事は確かなことなので、おそらくは護衛の任を解かれる事になるだろう。こればかりは責任問題なので仕方がないわね。
これからどうしたものかなー
運がよければ騎士のままでいられるかもしれないけれど、最悪身分剥奪まで考えられる。罪を犯した訳ではないから、牢屋に入れられる事はないだろうけれど、まず間違いなく姫様の傍にはいられないと考えた。
そうなるとフェリス達みたいに冒険者になるのもいいかもしれないわね。
冒険者ギルドは、一般兵士や騎士崩れの者でも受け入れてくれる。さすがに犯罪者は受け入れていないけれど、私は大丈夫だろう。ある程度戦えるので、おそらくは直ぐ活動する事が出来ると思う。実戦経験もあるしね。
しばらくはあちこちの国でも旅をして、どこか忠誠を誓ってもいい国が見付かれば、そこで騎士になってもいいかもしれないなー
そんな事を考えながら、そういえば慌ただしく動き回っていたので、疲れたとベッドに潜り込んだ。
気が付くと私は再び暗闇の空間に来ていた。
マレーアとしての人生は、結局責任を取らされ一介の騎士へと降格。それを機に国を出て冒険者として旅を続けて終わった。寿命を迎える少し前、あの白い弓は力を失ったように壊れ、マレーアも後を追うように人生を終えた。
ずっと見守ってくれていたけれど、役目は終えたって事なんだと思う。
マレーアは気が付かなかったようだけれど、ブレンダは私に事の顛末を説明してくれていたんだと思う。それと黒騎士もブレンダに情報を伝えて、邪魔者を排除しようとしてくれたのかな? 多分そうだと思う。
今まで私とバグの運命を捻じ曲げていた存在が消え、おそらく次の人生からはバグの事を思い出せるんじゃないかって気がする。
それにしても、まさかブレンダの父親が邪魔をしていたなんて思いもしなかった。それも勝手に商売のネタとしてバグの力を頼って、怒ったバグにお仕置きをされてそれでも諦めなくて結局は病気扱いになり・・・・・・自業自得なのにブレンダに家督を譲る事になったのを逆恨みして、私達の事を呪っていたなんてね・・・・・・
でも今まで邪魔していた者は排除された。偶然なのかたまたまなのかわからないけれど、ようやくバグに会いに行けそうだわ。
後は切れた絆を結び直せるかどうか・・・・・・正直これは私達の想い次第って気がする。
多分大丈夫だよね? 邪魔者さえいなければ、私達の絆はこんな事で無くなったりしないよね?
不安はあるけれど微かな希望を胸に、私は新たな転生に身を任せた・・・・・・
今日は朝から大忙しだった。というかここ最近といった方がいいかな?
今私のいるドラグマイア国は、いろいろといわくがある隣国と同盟関係にあるんだけれど・・・・・・最近の忙しさはその同盟が結ばれた記念式典を歓迎して、毎年行われる祭りの真っ最中だからだった。
特に私の実家である食堂では、隣国のフォーレグス王国由来の料理からヒントを得て、独自のレシピを売りに営業していた。これでも結構国内では有名処だって自信があるわ。レシピだけでなく、素材にもこだわりを持っているから当たり前だけどね!
そんな訳でお店は朝から忙しく、足りなくなった食材を求め買い出しに走ったり、贔屓にしてくれているお客さんの所へ出前に出かけたりと、忙しく働いていた。
今は足りなくなった野菜を仕入れに、いつもの農家の所へ向かうところだったんだけれど・・・・・・人混みの中、前方にぽっかりとひらけた空間の中、でかい蛇の尻尾を見かけてギョッとした。
祭りには様々な国の人達がやって来る。その中で一番多くやってくるお客さんは、当然のように同盟国のフォーレグス王国の人達。この国が異色なところは住人がモンスターだという、ちょっと他所では信じられないところだったりする。
国を治める国王様は、なんと魔王なんだって・・・・・・よくこれで仲良く出来るよね・・・・・・そう思われても不思議ではないけれど、今までやって来たお客さんであるモンスターが問題を起こした事は一度もない。
正確には、酔って問題を起こしそうになったりしたモンスター、フォーレグス王国では友好種って言われているそうだけれど、彼らが最後まで暴れる事は出来なかったからだ。
喧嘩になるかなって思っていると、どこからともなくやって来るフォーレグス王国の警備員が、騒ぎを抑えてしまうからだった。ちなみに友好種に絡んだ人間も捕まるので、その後その場が荒れる事もない。
そんな事情があるのでフォーレグス王国絡みの犯罪より、人間同士の検挙率の方が圧倒的に多いみたい。フォーレグス王国の警備員は、人間同士の諍いには介入して来てくれないからね・・・・・・
そんな訳で友好種は安全で、友好的付き合っていけている。
たまにお客さんで来る友好種と会話する機会もあるけれど、姿さえ見なければ人間とほとんど変わりがなかった。普通に人間と同じように喋っているんだもん・・・・・・
で、そんな度々見かける友好種だったけれど、あれ程でかい蛇を見た事はこれまでなかった。
ひょっとして新種の友好種か、ドラゴンのように町にはめったに出て来ない種族の人かな? これからどんどん増えて行くなら、好みとか知っておいた方がいいかもしれないね。うちの店の新しいお客さんになるかもしれないんだから・・・・・・
そう考えて少し話を聞こうと思っていたら、道なりにやって来たその人の全身が見えた。さっきは距離が離れていたので、人波に隠れて蛇の部分しか区別がつかなかったみたい・・・・・・直ぐ傍までやって来て気が付いたんだけれど、蛇の頭の代わりに付いていたのは男性の上半身だった。しかもその顔を見た瞬間、私の脳裏に名前が浮かび上がって来た。
「バグ?」
横を通り過ぎたそのラミア? がこちらに振り向いた。
「記憶があるのか?」
「もちろんよ。私がバグを忘れる訳ないじゃない」
懐かしい声、懐かしい顔・・・・・・私がバグを見間違う訳がないじゃない! 少し記憶が混乱している気がするけれど、バグの事だけは見間違えたりはしない自信があったわ。
ああ、私は転生してバグの元に帰って来られたのね・・・・・・
「バグよ、わらわ達は適当にぶらついて来るわ」
一瞬誰って思い、私の事を忘れて恋人を作っちゃったの? て一瞬考えちゃったけれど、直ぐにビゼル姫の事を思い出した。数少ない女友達の一人だったわ。
「ああ、わかった。一応気を付けろよ」
どこか寂し気に離れて行くビゼル姫に、バグが声をかける。想い出したらビゼル姫とも話がしたくなったけれど、今はバグといろいろな事を話し合いたいって考えた。
なんだか凄く久しぶりなような、それでいて昨日までずっと一緒にいたような、不思議な気持ち。
「今何度目の転生になるか、わかるか?」
「え? たぶん、これが初めてじゃないかな?」
そんなふわふわしたような気分になっていると、バグが突然質問して来たので、反射的に答えていた。私がバグの事を忘れる訳が無いので、多分これが初めての転生よね?
バグに会うまで二十数年くらい時間がかかっているから、エクライとして今まで生きて来た記憶があって、ちょっと記憶が混ざりそうで混乱したけれど・・・・・・あれ? 冒険者だった頃の記憶もある?
エクライとしての記憶の中には、冒険者として活動した事なんて一度もないわ。これはレイシアとしての記憶かな? 微妙に違う気もする。
混乱というよりは誰かの人生と混じってしまったようで戸惑っていると、バグが水晶を手渡して来た。
これは知っている。忘れるはずもない。
バグが初めて要求して最初に作り上げたステータスの魔道具。使い方もちゃんと覚えているわ! 懐かしく思いつつも水晶を手に取りステータスを表示させる。
「えっと見たけれど、これがどうしたの?」
「絆が消えているのに気が付かないか?」
「あ、本当だ! 転生すると、消えちゃうのかしら?」
いつの間にか絆が消えている。
私とバグの繋がりは、ちょっとやそっとじゃ途切れないって信じていたのに・・・・・・地味にショックだった・・・・・・
そう考えつつしばらく呆然としてバグを見ると、バグの方も様変わりしている事に気が付いた。
昔のバグは人間の姿をする事が多かった。初めはモンスターから人間になれなかったからそのままの姿だったけれど、魔法で姿が変えられるようになるとほとんど人間として過ごしていたはず。
バグもいろいろとあったのかな?
「バグは・・・・・・随分と変わったね。ラミア?」
まずは今の種族から確認する事にした。
確かラミアって種族は、下半身が蛇で上半身は女の人じゃなかったかな? またヴァルキリーの時みたいに女性になっていないのは嬉しいけれど・・・・・・いや、あの時もお姉さんが出来たようで楽しかったかな?
「ああ、姿か。人化する必要もないからな。一応種族はナーガという種族だ。レイシアは今現在の自分に付いては、状況を理解しているのか? ここでの暮らしというか、記憶が戻るまでの間の生活とか」
「うーん・・・・・・薄っすらと覚えているかな? 確か名前がエクライって呼ばれていて、今は母と二人で暮らしているみたい。食堂を母と一緒に経営して過ごしているようね」
「そうか、その体としてしっかり人生を過ごしていたのだな」
「そうね。ねえ、せっかくだから今の私の家に来ない?」
「そうだな、立ち話もなんだし、伺おう」
どれがレイシアとしての記憶なのか、エクライとしての記憶なのか微妙にわかり辛いけれど、欲しい記憶というか情報というかは直ぐに想い出せた。
エクライという子の人生で、生まれ育って来た食堂の位置もちゃんと記憶の中にある。
私はバグの手を引っ張るように今の人生での家へと、バグを誘った。




