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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア  絆
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弓騎士

 「敵襲―」

 街道沿いにある森の端から、複数の人影が出て来るのをいち早く察知して、私は部下に向かって声を張り上げた。私がいち早く気が付けたのは、襲うならこのポイントだろうっていう箇所をあらかじめ調べていたからである。初めから警戒していたがゆえに、誰よりも早く気が付く事が出来たみたいね。

 そしてこちらに向かって来る野盗の先頭にいる男に向けて矢を射る。

 私の矢を受けた先頭の野盗が一人、それにより絶命して崩れ落ちる。おかげで後続の野盗達の勢いが目に見えて落ちるのがわかり、相手がそれ程手練れでない事にほっと安心する。そして相手が若干ひるんだところを部下達が素早く展開して、野盗達を斬り伏せて行くのが見えた。後は任せておけば問題なさそうね。


 私はオードラウゼン国、第一王女であるクリス・ビア・オードラウゼン様付き近衛騎士団長をしている、マレーア・ブルクビハインという。女だてらに騎士を目指すなどと一度は父上と母上に反対されたが、幸運な事にそれなりの実力があったようで、今では姫様専用の近衛騎士としてお仕えしていた。

 現金な事に、近衛騎士に取り立ててもらえた今ではブルクビハイン家の誇りだ何だと周囲に自慢しているみたい。私としては反対を押し切って、実力でこの地位を勝ち取ったんだからごちゃごちゃと言わないで欲しいところだわ。父上に至っては、初めは騎士から遠ざけようと邪魔までしていたのだから余計にそう思う。そんな訳で、今では父上はあまり私に頭が上がらない様子だった。

 しいて愚痴のようなものを聞かされるとしたら私が弓を多用している事を、顔を合わせる度にたしなめて来る。騎士に弓は似合わないとか何とか・・・・・・ずっと反対していた人に、戦い方をとやかく言われたくもない。

 昔父上が行う狩りに付いて行って、弓で獲物を狩っているのを見て気に入ったのが私が弓を使う理由でもあるのに・・・・・・そして今使っている弓は、かつて我が一族の御先祖が冒険者をしていた時に愛用していた物なんだそうだ。そう考えればむしろ弓を使うのは当たり前じゃないの?

 私はそれを姫の近衛騎士になった時に家から持ち出して、愛用していた。

 実際、私は姫様のお傍から離れる訳にもいかないので、とても重宝していたりする。これなら剣を握り振り回さなくても姫様の傍からから離れる事無く、指揮をしながら敵の相手が出来る。


 野盗達を部下が倒したようでやれやれと思っていると、真横から殺気を感じとっさに弓を盾にして防御する。剣を抜く暇がなかったから、仕方なく弓で受け止める事になってしまった。弦が切れ本体まで砕かれたが、新手の襲撃者の攻撃を一発防ぐ役には立ってくれたようだ。

 渾身の一撃だったのか、新手が下がった隙に乗っていた馬から飛び降りつつ剣を引き抜き、姫様の乗る馬車との間に立ち塞がる。油断なく新手を見据えてみれば、野盗にしておくにはもったいない程の気迫を感じた。これは部下ではやられるだけかもしれないわね。

 「正規の軍に手を出す意味をわかってのおこないか」

 「ああ、こっちはしっかりと金を貰っているんでね。それに強い奴とやれるってんなら是非もない」

 「そうか」

 おそらく囮だったんだろう野盗の元に部下が向かったのだが、そういう事態を見越して馬車の警護を続けていた残りの部下が、新手を囲うようにこちらへと向かって来た。囮の囮ってのもあるだろうに・・・・・・それにこいつ相手では包囲も無意味だろう。

 「お前達は馬車を守れ、油断するなよ」

 「へー、てことは直々に相手をしてくれるってんだな?」

 「いいだろう。相手をしてやる」

 部下が下がり、私達は一対一で向かい合った。パッと見でわかる。こいつは相当な手練れで、おそらく何人も斬って来ているんだろう。油断ならないし、隙もなさそうだ。

 だが負ける訳にはいかない。私の後には姫様がいるのだから・・・・・・


 お互いの隙を見付けるべくしばらくにらみ合いになるが、次の瞬間弾かれたように斬撃を繰り出して行く。それは相手も同じようで、まだまだ本気を出してはいない様子だった。自信たっぷりな態度だったが、なるほどたいした腕のようね。

 「これ程の腕があるならば、さぞかし腕の立つ冒険者か兵士になれたんじゃないのか?」

 ただの野盗にしておくには惜しい腕を持っている。それに出来るなら少しでも情報を引き出せればと声をかけてみた。

 「ああ、冒険者はつまらなかったんでね。どうせ戦うのなら頭の足りないモンスターより、人間の方が楽しそうだとは思わないか?」

 「それで野盗か?」

 「ああ、こうしてたまにだが面白い相手に出会えるんでな。結構刺激があって楽しいぞ」

 つまりこいつは戦闘狂ってやつか。付き合わされる周りがいい迷惑だな。

 お望み通り、激しく攻撃を仕掛けて行った。

 左前の構えで左腕に着いていた小さな盾を握り込み、なるべく相手の顔の近くへと構え、利き手である右の剣を見え辛くしてからの剣撃を繰り出して行く。これにより相手には剣の太刀筋を予測しにくくして攻めたてて行く。野盗が少しやり辛そうに、それでも確実に攻撃を捌いていた。

 「で、誰に頼まれての襲撃だ?」

 剣で余裕をなくし、さらに会話で相手のペースを乱して行く。口ぶりから相手は自己主張が強いタイプだろう。無視して戦うって事はないと思う。依頼主について喋るとは思えないけれど・・・・・・

 「はっ、言うわけねえだろうが!」

 やはりそこまで馬鹿ではないか。しかしこちらに回答する間にも対応が乱れる。その隙を突いてただでさえ避けにくい足元へと攻撃を集中する事によって、野盗が余裕をなくして行く。何とか避けたり受け流したりはしているものの、さすがに辛くなって来たのか余裕がなくなっていく。

 「義理立てするような依頼主なのか?」

 「はん。依頼主なんて、ただの口実だ!」

 会話に意識が向くたびに攻撃を変化させ追い打ちをかけて行くと、段々焦って来ているのがわかった。まあこちらも条件はそう変わらないから、言う程余裕がある戦いではないのだけれど、最悪互角には持ち込めているかな。

 「お前、騎士の癖にいやらしい攻撃をしてきやがるな。絶対に泣かしてやる」

 「こっちは女だてらに騎士なんぞやっているんでな。馬鹿正直に正々堂々何てやっていたら、追い落とされるだけだ。まあそこらの騎士なら正々堂々でも返り討ちにするがな」

 これは本当の事。それだけこの野盗が油断ならなくて、戦い方を選んでなんていられない。

 「おもしれえじゃないか。絶対負かす」

 野盗がこちらの盾に隠れるように攻撃を仕掛けて来るようになった。どうやら私の戦法を真似ている感じかな? 確かに付け焼き刃にしてはそれなりに使えるだろう。だけれどこっちは対策もちゃんと持っている。

 今までは死角からの奇襲のように剣を繰り出していたけれど、今度は左手に持った盾を中心に攻め立てる。相手の剣を盾で受けつつそのまま盾で殴り付けて行く。でもって、体勢を崩したら剣でそこを突く。変則的な二刀流みたいな感じだろうか?

 「くっ、こいつなかなかやりやがる」

 「未熟な者が近衛騎士になんぞなれるものか」

 「はっ、確かにな!」

 野盗なんぞに認められても嬉しくはないけれど、それでもしっかり役目を果たせているのは報われるものね。

 しかし私が優位に立てたのはここまでだった。野盗は私の偽二刀流ではなく、本物の二刀流でこちらを押し始めた為、互角かと思われた戦いは少し野盗に有利な状況にされた。

 相手の攻撃を盾と剣で受け流すことが出来たので、そうそう不利にはならなかったけれど、戦いは膠着状態にまで持ち込まれた感じかな。力では野盗の方が少し上。速度は私の方が少し上って感じみたい。最悪お互いが疲れ切ったとしても、このまま戦い続ければ部下がいる分、私の方が有利といったところか・・・・・・そう考えれば多少押され気味でも、私の方に余裕がある。

 しかし曲がりなりにも近衛騎士団長としては、部下の目の前で野盗に押されるっていうのは格好がつかないかもね。そう考えると相手に有利な力勝負のつばぜり合いに持ち込んだ。野党は二刀を十字にしてこちらを押し、こちらは盾の固定から手を放し両手持ちの剣として相手を押して力勝負にする。

 そして予想通り徐々に私を押し始めた野盗が、こちらに声をかけて来た。

 「なんだ、降参か?」

 野盗がいぶかしげにそう呟く。何故そんな感想になるのかわからないが、野盗相手に降参する訳がないだろうに・・・・・・わずかながらに拮抗した隙を突き、私は相手の腹に蹴りを放った。

 「てめぇ! ひ――」

 顔を上げた野盗に振り上げていた剣の柄を叩き込む。卑怯者って言いたかったんだろうね。野盗のくせに・・・・・・

 油断していたのか予想していなかったのか、顔面に叩き込まれた柄が鼻頭を叩いたようで、盛大な鼻血を噴出して野盗が崩れる。後は何だが一方的に叩きのめすことが出来た。

 そこらの騎士と違って、野盗相手に正々堂々何て戦う訳ないじゃない。勝つ為ならなんだってやるわよ!


 「確保!」

 「はっ!」

 動かなくなった野盗を部下に捕縛させる。せっかく生きたまま動けなく出来たので、連れて帰って情報を引き出すのがいいでしょうね。

 後で目が覚めた野盗に・・・・・・

 「お前、それでも騎士か?」

 って言われたけれど、私としては勝てばいいんだって思える。なのでこう言ってやった。

 「騎士のくせして負ける方がかっこ悪いんじゃないのか?」

 「あー、確かにそうだな」

 呆然としていたよ。

 でも国王陛下も同じように考えてくださったはずだ。騎士受勲前の御前試合で気に入られた時に、似た様な事を言われて反論したからな~


 私が国王陛下に初めてお会いしたのは見習い騎士が、騎士へと取り立てられる為の試験試合の時だった。

 その試合で結果の如何によらず、これはって思わせるような戦いを見せる事で騎士へと取り立てられるそうなのだが、やはり上位の成績を上げた者程騎士になれると言われていた。

 トーナメント方式で戦う訳だけれど、負ければ試験官に見てもらえる回数も減るので、やはり上位入賞者が有利なんだろうね。だから私はなおさら上位入賞を目指して、必死に戦っていた。それに女ってマイナス要素もあったので、余計に優勝を目指して戦っていたところもある。

 というのも、家族に反対されて参加しているので、この試験にかけていたといってもいい。これに落ちればほら見ろと、騎士の道から遠い場所に連れて行かれると考えていたわ。だから必死で特訓をして、何がなんでも強くなろうと頑張って来た。

 そのおかげか、トーナメントでも余裕をもって決勝戦まで戦って来られた。

 しかし、さすがに同期の中でもトップクラスの相手に、正々堂々とした戦いでは手も足も出そうになかった。それはそうだろう。相手は名門騎士の出で、幼い頃から英才教育を受けた騎士の中の騎士として育てられて来た青年だったのだから・・・・・・私とは鍛えて来た時間もその密度も、何もかもが違い過ぎたのだから・・・・・・

 だけど私はがむしゃらに食らいついて行く。

 正規の剣が通用しないというのなら、邪道と呼ばれる戦い方でも何でも使って相手を倒す。そう考えて右手に愛用の剣を。左手に短剣をもって戦いを挑んで行った。

 常に正面から挑んで来る青年に対し、私は利き手とは逆のなるべく死角になりそうな足元へと重心を落として回り込もうと動く。そして剣を弾き飛ばす毎に、左手で持った短剣で無防備な胴を攻撃して行った。

 青年の方も、下手に攻撃を仕掛ければ短剣が襲って来る事を学習して、不用意に攻められなくなって膠着状態になって行く。繰り返して行けば相手がこちらの行動を学習してくれるので、そこで今度はこちらから攻めかかって行った。

 青年は両手持ちの剣で戦っているので、懐に潜り込まれる厄介さを理解したはず。短剣の距離での攻防では青年の武器は力を生かし切れないからね。そう考えれば、こちらの攻撃を受け止めるか受け流すか、距離を取ってかわすのが相手の行動パターンになって来るはず。そこに勝機が出て来る。

 まずは普通に右の剣での横払い。それを青年が受け流すのを確認して直ぐ、左の短剣でも同じく横払いの攻撃を仕掛けて行く。こちらのパターンが変わってちょっと迷ったかな?

 相手が身を引いてかわした隙に一気に半回転して、再び右の剣で力の乗った横払いの攻撃を前に進んで繰り出した。

 振り回した勢いを乗せた攻撃を、青年は受け止めきれずに体勢を崩したのでそこに左手の短剣を投擲して、急所の一つである喉を潰しにかかる。

 さすがの反射神経で上体をそらし、青年が短剣を避けるのだけれど、それは致命的な隙を作る事だった。

 私は状態をそらして視界が狭くなった相手の視覚外へと潜り込み、そこから最高速度の突きをみぞうちへと解き放った。私達はまだ見習いの騎士であったので、金属鎧を着ていなかったこともあって、そのダメージはまともに青年へと伝わったみたいね。呼吸が出来ずに崩れ落ちたところで勝負が決まった。

 まあ鎧無しじゃなく、革鎧は来ていたのでたいしたダメージではないでしょうね。せいぜい打ち身かな?


 「お前には正々堂々と騎士らしく戦うって矜持が無いのか? 恥を知れ」

 試合後、対戦相手の青年がそんな事を言って来た。

 「それなら貴方の騎士の剣とやらで、私の邪道な剣を打ち破ればよかったんだ。負けた後で何を言っても負け惜しみでしかないわ」

 そう言い返してやる。

 そもそも私の周りの騎士や、騎士見習い・・・・・・両親なども私の事を女だからってまともに対応してくれる者はいなかった。それどころかこまごまとしたことで足を引っ張ろうと、陰険なやり方ばかりを見て来ているので、騎士道なんてまるっきり見たことがない。そんな彼らが負けたから騎士道を持ち出して来るとか、はっきり言ってそれが騎士道かって言いたくなった。それに比べれば、私の邪道な剣の方が余程価値があると思う。

 そんなやり取りを青年として睨み合っていると、国王陛下がやって来て声をかけてくださった。青年にはもっと言ってやりたいところだけれど、さすがに国王陛下の前では分が悪い。騎士の礼を取って国王の話を聞く事にした。別に礼儀作法に疎い訳ではないので、私にもちゃんと騎士や貴族っぽい行動は出来る。

 「二人ともご苦労だった。まあブルクビハイン嬢は騎士らしくなかったが、一応優勝者だ。褒めてやろう」

 「恐れながら国王陛下。このような騎士にあるまじき者をお認めにならない方がいいかと。後々の国の品位に関わります」

 言うに事欠いて、品位だと言い出した。それなら強い相手を素直に認める事が出来なかったり、女性に優しく出来ないやつのどこに品位があるっていうのか・・・・・・

 「騎士にはそれにふさわしい立ち振る舞いがあります。彼女には荷が重いかと」

 その発言に、何が何でも私の足を引っ張って、邪魔をしたいんだって感じた。だから思わず国王陛下の前だというのについいつもの調子で反論してしまった。

 「お上品な騎士の剣とやらで戦っていても、負けたら意味はない。自分の後ろに守るべき者がありながらそんなプライドにしがみ付いて負けては意味がないだろうが」

 私達騎士は、その背後に国民や要人の盾として戦う事が多い。そんな戦場で騎士道や品位などに拘ってやられれば、後ろにいる者達を守る事は出来ない。結局騎士だ何だといっても勝たなくては意味がないと思う。そうは思っていても、騎士にプライドが大切なことは重々理解していた。それを国王陛下の前でわざわざ言う事ではない。しまったなー

 「はっはっは。確かにブルクビハイン嬢の言う通り、騎士の在り方に拘って負けたんでは本末転倒であるな。しかしお主の考え方は傭兵というか冒険者の理屈に近いものがある。しかし面白い。何やかんやあったようだが、同期の見習いの中トップに立ったのだ。騎士らしさ云々は置いておいても、お主はなかなか見どころがありそうだ。今後も励めよ」

 「はっ! 精一杯頑張らせてもらいます」

 相手の青年はさすがに国王陛下相手に反論する事は出来ず、苦々しい表情をして口を閉ざした。納得は出来ないが、反論して自分の評価を下げるような行動は慎んだんだろうね。


 その後私は正式に騎士に取り立てられ、そこでも女だてらに生意気だ、みたいな扱いを受ける。そして揉めて決闘のようなものをするのだが、どうやら試験の時に気に入られたようでちょくちょく国王陛下が見にやって来た。

 そこで私は格下の相手なら騎士としての優雅な戦いを披露し、同格か自分以上の相手なら彼らが邪道という目潰しや、投げナイフなど何でも使って勝負に挑んで行った。

 全部の戦いで勝てた訳ではないけれど、負ければその後二度と負けないように特訓と、さらなる技を研究する。その度に騎士らしさからは遠ざかっているような気がするけれど、勝つ為の策は何故かいろいろ思い浮かんで来た。変則的な二刀流などもその中の一つかな。これは右手が使えなくなった時の事も考えている。

 いつしか私との決闘には国王陛下だけでなく、クリス王女まで見学に来ていたりして当初の生意気だからとか、騎士の誇りをかけてなどといった理由から、私を理由にして王家の人達に実力を見てもらおうと決闘を挑んで来るようになっていた。

 まあ、逆に私が国王陛下とクリス王女に気に入られる機会が増えて、クリス王女の近衛騎士に抜擢されたんだけれどね。


 さてさて野盗の襲撃を無事に撃退した私達は、そのまま隣国との国境近くの町まで移動して来た。捕らえた野盗は途中にある大きな町の詰め所に引き渡し、背後関係などを洗ってもらうよう手配する。私達は捕まえるか撃退するのが仕事であって、その後の処理は専門じゃないからね。そちらは別の者に任せる事になっている。

 今回の姫様の公務は、隣国との戦争で疲弊している兵士を癒したり激励して士気を高めたり、不安を抱える町民達に声をかけて安心させたりといった比較的危険が無いものでありながら、重要な役割を担っている。

 おかしなちょっかいをかけて来る者はそこまでいないと思われていたけれど・・・・・・いきなり雇われたらしき野盗が出たので、気を引き締めて行かないと駄目でしょうね。

 そんな事を考えながら目的の町まで無事に到着出来た。

 町に着いてそうそう仕事を始める訳もなく、まずは姫様を宿泊予定地へと護衛して行く。長旅でお疲れになっているであろう姫様には早々に休んでもらい、私達は念の為に周囲の安全を確認する作業に入る。

 しかし町に入ってからというもの、何か予感みたいなものがするわ。嫌な感じはしないので、敵が潜んでいるとか危険が迫っているみたいなそういう類ではないと思うけれど、一体この感覚は何だろう? 久しぶりに故郷に帰った時と似た感じとでもいえばいいのかな? そわそわして落ち着かない感じは、どちらかというともっと違う何かのように思える。


 今は職務中なので、なるべく気を引き締めつつ素早く安全確認を終え、部下に見回りのローテーションを組ませる。

 不備がないかどうかの確認を終え姫様に許可を貰い、この何とも言えない感覚を持て余しつつ町の中を見て回る。

 すると足が向いた場所は、武器を集めた天幕のある所だった。

 ここには負傷兵が多く下がって来る町になるのだけれど、そうなると当然武器を破損していたり、落とすなどして紛失している兵士なども多くいる。そういう兵士達の為に後方から武器を補充されていたり、町の武器屋などからかき集められたりして一時的に保管しているのがここになる。

 「護衛任務中、弓を破損した。持って行っても構わないか?」

 「クリス王女付きの近衛騎士隊長殿ですね。問題ありません、どうぞ」

 身分を示す短剣を提示しながら武器管理担当の兵に声をかけると、直ぐ許可が下りた。たまたまになるけれど、弓を壊されていたのでちょうどいい。ここで弓を新調させてもらうとしましょう。

 そう思い弓が置かれている所に向かうと、一際目を引く弓を見付けた。

 「あー、その弓ですか・・・・・・それ、多分飾り用の物ですよ。それか魔法使いが偽装の為に持つ、杖代わりの弓じゃないかって話です」

 「てことは、魔法発動体なのか?」

 「ええ、見た目結構良さそうな弓なんですが、弓をつがえても前に飛ばないんですよ。見てもらえばわかると思うんですが、握りのところに水晶が埋め込まれていて、それが杖の代わりをしているんだと思います。だから弓なのは見た目だけですよ」

 「むー、私はどうも精神力だけは人並み以上にあるんだが、魔法の素質には恵まれなかったみたいなんだよね・・・・・・残念だわ」

 「まあ魔法使いになれる人は、限られていますからね」

 兵士が私の見付けた白い弓について説明してくれたけれど、残念ながら私には不要な物だったみたいだわ。それなのに、まるで吸い込まれるようにその白い弓を手に取っていた。体が勝手に動いたというよりは、弓に吸い寄せられたって感じなのかな? 呪いの武器って感じは受けないんだけれど、何か曰くがありそうな気がした。


 なんだかずっと離れていた半身に、やっと巡り合ったような安心感があった。何だろう、物足りなかった訳でも寂しかった訳でも物足りなく感じていた訳でもないのに、今まで足りなかったものが埋まるような安らぎを感じる。

 使えない弓。ひょっとしたら魔法使いだったのなら価値があったかもしれない弓なのに、なんで私が持ってこんなに安らげるんだろう。

 使い物にならないとは聞いていても、なんとなく持ち手を握ってみると、私の為に作られた弓じゃないのかっていう程フィットする。

 軽く弦を引いてみても、今まで扱って来た弓より優れた弓なんじゃないかなって感想しか沸いて来なかった。本当にこの弓はお飾りなの?

 そう疑問に思っていた時、私の中から力が微かに吸い取られたように感じた。それとともに半透明の矢が、白い弓につがえられているのに気付く。

 ひょっとしてこの弓は、通常の矢を飛ばすのではなく、使用者の精神力を矢に変えて飛ばす類の弓なのでは? それならば普通の矢が飛ばなかったっていう話も、納得できる気がした。

 それにしても、これは素晴らしいんじゃないかな? 私は精神力を結構持っているものの、魔法が使えないから余って勿体なかった。それを有効利用できる弓など、まるで私の為に用意されたような弓じゃないかな?

 しかも通常の矢になるとかさばったり重かったり、弾切れになったりといろいろと扱いが難しいけれど、この弓ならばそういうデメリットが無くなる。まあ精神力が尽きれば、弾切れにはなるでしょうけどね。

 とにかくこの弓は、私の戦い方にぴったりだわ!

 「これを貰って行くわ」

 「魔法の矢を放つ弓でしたか・・・・・・さすがにこれは気が付きませんでした」

 「そうね。何でこれ程の弓がこんなところに埋もれていたのかしら?」

 「さあ? 武器屋にあったそうですが、誰も使えなかったって話ですからね。客寄せ用にされていたんじゃないですか?」

 「ふーん。まあ私達にはありがたかったわね」

 「ですね」

 私はその白い弓を持って、姫様の元へと戻る事にした。護衛が長期間、姫様の傍を離れる訳にはいかないだろうしね。


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