それぞれの成長
「ふう、みんなお疲れ様! 討伐部位を回収して、どこかで休憩しましょう」
ブレンダがもうひとがんばりとみんなに指示を出し、全員で回収作業をして近場の横穴に入ることにした。
全員疲れてはいたけれどもたもたしていたら、また敵が来るかもと思い直してさくさくと作業をする。
「結局、オーガは何体いたよ?」
さほど広くはない部屋の中、壁にもたれてだらけていたランドルがそう問いかける。
「えっと、68体? かしらね」
「うへぇ、って事はここがオーガの住処になっていたって事だな」
「ええ、多分そうでしょうね」
みんなで疲れたーって感じの表情を浮かべる。
ちなみに今も戦闘中もレイスの対応は僕がしていたりする。こっちもいい加減数が多いな。この森って富士の樹海みたいに、自殺かなんかの名所になっているんじゃないのか?
さすがにみんなレイスを倒しているバチバチという音にも慣れて、あっまた来たのかって感じになっていた。
お前ら本来なら休憩できるような環境じゃないのだぞー
まあでも新米パーティーだからこれくらいは、サービスしてやらないときついよね。
いい加減、ベテランとまではいかなくても普通にパーティーできているけれどな。
みんな疲れきっていて、それ程会話もなく軽く睡眠なんかもとって英気を補っていた。MPは寝ないと回復しないから仕方ないだろうけれど、レイスが襲って来るのにほんと神経図太いな~。それとも僕への信頼なのか?
ある程度の大幅な休憩をして、僕らは再び出口へ向かって移動を開始した。
狭い場所でのオーガとの戦闘も大分慣れたので、役割を分担しながら倒し出口はまだかーって思いながら長々と歩き、ようやくのこと僕らは遺跡というか、洞窟を抜けることができた。
森の中のちょっとした崖みたいになっているところに、草などに隠れて開いている出入り口だった。ぱっと通り過ぎるだけなら入り口が見えなくて、気付かれ難い場所かもしれない。
「召喚、ファルコン。偵察をお願い」
洞窟の位置を知るにも自分達がどこにいるのかもわからなくて困っていると、レイシアが鷹を呼び出して位置の確認をさせていた。
大分自分の能力を把握してきたものだな~。いちいち指示などを出さなくても、動けるようになっていっている。ちょっとみんなの成長が見られて感慨深く思えた。
「さて、改めて聞くけれど遺跡の調査する?」
ブレンダは、疲れた顔をしてシリウス達を見ている。
フェザリオとシリウスは顔を見合わせてないなーって苦笑いした後に答えを返した。
「いや、もう帰ってゆっくり休みたい」
「僕もさすがに疲れたよ。ここの調査とかは、学校の判断に任せたいね」
「だよな~」
そんな二人に、ランドルも同意の声を出した。
「現在位置がわかったよ。ここから東に行ったところに、セリアットの町があると思う。森を出てから結構歩くことになると思うけれど」
「そう、ありがとう。じゃあとりあえず森を脱出して野営、明日町に向かって帰りましょうか」
「「了解~」」
みんな疲れた体を動かして、ゆっくりと森の中を歩いて行った。
のろのろと歩いていたので、森を出る頃には周りが真っ暗になっていてそういう意味でもどっと疲れが出てしまった。結局昼前くらいまでみんなで爆睡して町へ向かい、そこでもう一泊してから学校へ向けて、乗合馬車に乗って帰還した。
帰って来てからはギルドには行かずに直接学校へ行き、ゆっくり休んでから朝にギルドへとみんなで向かった。
未発見の遺跡については、学校に報告済みでこれから行くのは、普通にオーガ討伐の依頼完了の報告だ。
今日もいつもの人がいたので、その人に依頼完了の報告をしてみると、オーガの討伐数の多さに驚かれ学校への評価はかなり高くなりますよって言われた。
まあそれくらいの苦労はしただろうね。報告を終えた僕達は、再び学校へ戻って来て食堂でだらけていた。
「そうだ、バグ。ステータスカード書き換えてよ」
のんびり紅茶を飲んでいたブレンダが、ふと思い出したかのようにそう言って来る。
それを聞いたみんなが、自分のカードも取り出して、自分もって感じでテーブルの上に置いた。
「うーん、じゃあ集めてレイシアの袋の中にでも入れてくれ」
影を通じて自室から水晶を引っ張り出し、魔力を通じてそれぞれの情報を水晶に読み込ませて、カードへと情報を送り付けた。魔力から情報を読み取る作業を僕が変わりにすることで、ステータスの更新作業は手を触れずにすることが出来た。魔力を扱う事が上手くなってきた証拠だな。カードへの焼き付けは水晶を使おう。
それぞれのカードへの焼付けも大体一分くらいで終わり、また影を使って水晶をしまい込んでみんなに話しかける。
「書き換えたぞー」
「うん? 水晶渡されていませんわよ」
「こっちで読み取って、データを水晶に送ったから必要ない」
「ふーん、まあとりあえず見てみますか」
何が起こったのかよくわからないって感じで聞き流し、カードを確認している。ついでに自分のステータスも確認しておこうかな。
《名前 バグ 種族 シャドウストーカー 年齢 0 職業 魔導師
LV 64-65 HP 3567-3571 MP 7659-7665
力 210 耐久力 539 敏捷 567 器用度 218 知力 784-785 精神 1513-1515
属性 火 水 土 風 闇 生命
スキル 捕食 腐敗 肉体変化 分裂 無詠唱 自動回復 状態耐性 生命吸収 憑依 影渡り》
新しいスキルの影渡りは、さっき水晶を引っ張り出したりしたスキルだ。
試しに使ってみたけれど、みんなの前に姿を見せなくてすんだので、今の僕にはナイスなタイミングで手に入れたスキルだったな。
このスキルに気が付いたのは、遺跡の中でレイスを一杯倒していた時だ。順調に経験が稼げたおかげかLVが上がっていたので、スキルだけチラッと確認していたんだよね。
名前 レイシア 種族 ヒューマン 職業 召喚術師
LV 27-28 HP 136-140 MP 270-278
力 18-19 耐久力 16-17 敏捷 34-35
器用度 48 知力 52-54 精神 56-58
属性 火 水 光 闇 生命
スキル 錬金術 簡略詠唱 指揮官 召喚武器
名前 ブレンダ 種族 ヒューマン 職業 魔術師
LV 18-21 HP 120-128 MP 199-223
力 26-27 耐久力 24-25 敏捷 21-22
器用度 32-33 知力 45-51 精神 47-55
属性 火 水 土 光
スキル 簡略詠唱 二重詠唱 魔法陣展開
名前 ランドル 種族 ヒューマン 職業 重戦士
LV 13-15 HP 103-124 MP 52-54
力 45-49 耐久力 52-60 敏捷 32-34
器用度 25-26 知力 18 精神 22-23
属性 土
スキル 重装行動 盾強打 挑発 鉄壁
名前 フェザリオ 種族 ヒューマン 職業 神官
LV 11-14 HP 79-83 MP 93-101
力 35-36 耐久力 40-41 敏捷 28-29
器用度 21 知力 40-44 精神 26-29
属性 光 生命
スキル 簡略詠唱 属性攻撃(光) 付加魔法(光)
名前 シリウス 種族 ヒューマン 職業 軽戦士
LV 17-18 HP 154-159 MP 82-83
力 62-63 耐久力 32-34 敏捷 57-58
器用度 36-37 知力 25 精神 19
属性 光
スキル 双剣 連撃
みんなLVアップして新しいスキルなんかも覚えていた。あれだけ激しい冒険をして来たので、軒並み能力値が強化されたのだろうな~
「この鉄壁ってスキル、なんか強そうだけどどんなスキルだ?」
僕も全てを知っている訳じゃないのだけれどな。まあ、予想できる範囲で答えていけばいいのかな?
「多分だけれど、敵から受けるダメージをある程度減らすようなスキルなんじゃないか?」
「それって盾役の戦士には、ぜひとも欲しいようなスキルですわね」
その回答に、ブレンダはいいスキルだと喜んだ。まだ合っているかわからんぞ。
「私は、召喚武器だって」
「そっちはバグに聞くまでもなく、直ぐ思い付くわね。武器を召喚するとかかしら?」
「ええ、多分そうね。召喚、武器!」
・・・・・・特に何も起こらなかった・・・・・・
ちょっと周りの人達も何あの子、目を合わせちゃいけませんって感じで見ていたりする。
可愛そうなので、ちょっと助言をしてあげよう・・・・・・
「魔法はイメージが大切だ。ただ何でもいいから武器っていうのではなくて、どんな武器か明確にイメージするように、呼び出したい武器の名前で言ってみてはどうだ?」
「わかった。召喚、ダガー」
かっこよく決めたかったみたいなのに失敗して、ちょっと恥ずかしそうに赤くなっているのを見ると、可愛いものだなって思う。ドジっ子ってやつだな。
今度はさっきよりも控えめな、小さな呟くような声でそう言うと。レイシアの手の中にダガーが現れた。
おおっ。
周りで、何やっているのだろうって感じで見ていた人達も、一緒になって驚きの声を出している。
「これって、系統でいけば空間操作系かしら。転移系統の魔法はかなり上級魔法だったわよね。属性はなんでしょう? 土辺りかしら?」
「私、土はないよ。火と水と光と、闇が増えている? 後は生命だって」
直ぐに話題が変わったことで、レイシアの調子も元に戻ったようだった。
「増えているって事は、これは闇属性って事かしら?」
みんな腑に落ちないって感じで唸っている。僕からしても属性で分類するなら、金属又は無属性って感じなのだけれどな。
後はあまり考えたくはないのだけれど、このダガーはどこかお店とかに実在していた物で、それを魔法でこっちに持ってきちゃったってパターンだな。
これなら確かに闇だ。しかもやっている行動自体も闇だ!
言わないようにしよう。僕は何も気が付かなかった!
「僕は付加魔法ってやつが増えたよ。これもわかりやすいかもしれないね。付加!」
フェザリオが、少し興奮気味にスキル名を唱える。自信満々で唱えた為かレイシアの持っていたダガーが、ほのかに光るのがわかった。
目に見えて成功したのがわかるな。付加の後ろに付いていた光は省略していたけれど、問題なく光属性の魔法がかかったと思う。フェザリオはそれを見てやったって喜んでいた。
「私のは魔法陣の展開かな。そんなものを展開してなんになるのかしら? 何かしらの儀式魔法なのかな?」
「予想だと魔法の威力向上とか、魔法陣の中ならMP回復力向上とか、何か補助効果があるのだと思うけどな」
「なるほど、それは地味にいいスキルね」
「じゃあちょっと失礼して。魔法陣展開!」
ブレンダを中心として半径三メートル程の、よくわからない記号の付いた魔法陣が展開された。周りで見ていた人が魔法陣をよく見ようとして近付いた時、その人は弾かれたように魔法陣から飛ばされる。おおっ!
見ている人達からどよめきが起きた。
「あー、防御魔法陣か」
「なんかそれだけじゃないみたいね。力が湧いてくるような感じがあるから、MP回復とか威力向上的な効果もありそうよ」
「もろもろの複合魔法陣か。そりゃあ凄いな」
ブレンダは思わずって感じで、ニヤリとしていた。確かにこれは凄く役に立つスキルだな。
「では僕が最後だね。連撃ってあるけどこれはやっぱり、早く攻撃できるとかそういう系統かな?」
「速くって言うよりは、連続でって感じだと思うぞ」
「連続? 連続なら、別に普段から連続で攻撃できるじゃないか」
「まあ少し場所を空けて、試してみたらわかるんじゃないのか?」
「確かに、考えているよりそっちの方が早いかもしれないね」
そう言うと、シリウスは剣を振り回すだけのスペースを確保して。スキルを使った。
「連撃!」
左右に持った剣が、仮想の敵を想定している空間に、途切れることなく襲い掛かっているのがわかる。周りからおおーって声が上がる程素早くそれこそ隙なく襲来する刃に、目の前に敵がいればなす術もなく切り刻まれるであろう事がわかる。
「おお、これは凄いな。速くて確かに連続だ!」
シリウスとしてもこれは満足できるスキルだったらしく、かなり上機嫌だった。
「結局俺以外は、スキルの効果が判明したってことか~」
ランドルがなんとなくいいなって感じで、そう言うと拗ねている。
「ならランドルもスキルを発動して、誰かに叩かれたらいいんじゃないのか?」
「うへぇ~、黙って殴られろってか。まあ、どんなスキルか不明のままよりはいいのかもしれないが、あまり気が進まないな」
予想だと殴る方が痛い目を見るので、勘弁してくれって感じだと思うけれどな。そして黙っていると、シリウスがにっこり笑ってこういう。お約束なやつだな。
「僕が殴ってやるよ」
笑顔のシリウスに複雑な顔を向けながら、仕方ないかって感じでランドルは返事を返した。
「ああ、じゃあ、あまり思いっきりはやめてくれよ」
ちょっと不安そうにそう言って、深呼吸をして気持ちの整理をしているようだ。
ちょっとの間目を瞑って集中して、それからおもむろにスキルを発動させた。
「鉄壁!」
戦士の意地なのか、目はそらすまいって覚悟が見える。
ゴン!
「痛っ!」
微妙に力が入っているのかどうかって感じで殴り付けたシリウスは、自分の腕を抱え込んで座り込んでしまった。
叩かれた方のランドルは、はーなるほどって感じの顔をしてよくわかったって納得していた。
しばらくうずくまっていたシリウスは、涙目で立ち上がりランドルを睨んだ。
「貴様、顔に鉄板でも入れているのか!」
「いやいや、だから鉄壁ってそういうスキルだってば」
ようは鉄のように体を硬化するって言う、一種の魔法だね。
身体的な技術ではなく強化魔法の一種って思えばいい。内心でシリウスは美味しいキャラだなーって思いながら、まあそんなもんだろうと思った。
それから僕らの検証が一通り終わってこれ以上何もないとわかると、周りにいた人達もそれぞれに解散していった。
「ステータスがわかって、持っているスキルの使い道なんかもわかると、戦術っていうのかいろいろと幅が広がるな」
「そうよね。このカードはぜひ冒険者ギルドにも、導入したいシステムだわ」
ランドルの凄いなって感想に、ブレンダがそう評価した。
ランドルは単純にスキルがあるのがわかったのと、それを知ることができるのが凄いなって感じで、ブレンダは全ての人が、ステータスを確認する重要性を考えているようだね。
まあ今のところステータスがわかるのは、僕だけだけれど。
下手にこの話を広げると、厄介事に巻き込まれそうで、なんか嫌だな。
これで僕が人間ならまだ厄介で済みそうだけど、モンスターだと何されるか、わかったものじゃない。っていうか人間でも命にかかわるか?
ますます影の中から出たくなくなったな。このまましばらく引き篭もろう。
日常にそんな風景を交えながら、新スキルを生かした連携など、みんなで試したりしていろいろ工夫して過ごしていると、ある日ミリアレスって言う先生から呼び出しを受けることになった。
ミリアレス先生はこの学校で二番目に偉い先生、教頭みたいな位置の先生らしい。
僕達パーティーは、そろって教頭室へと足を運んだ。
「ブレンダ以下、パーティーメンバー伺いました」
「入ってください」
「「失礼します」」
ブレンダが代表して応対し全員で挨拶して、中に入って行く。
「そちらに座ってください」
そう言って、ミリアレス先生に二つ繋げたソファーを勧められる。これ普段なら向き合うように置かれていたソファーだろうな。わざわざ五人座るようにくっ付けたのか・・・・・・
そして自分用の椅子は普通の普段使っている一人用の椅子だろうね。
「今日、あなた達を呼び出した理由は、未知の遺跡を発見したことにも関係があるのですが、それとは別に今後のあなた達の事も含んだ話がある為です」
「今後というと?」
ブレンダが、話がわからないって感じで先を促がす。
「ギルドでのあなた達の評価が学校側に報告されていてそれを見るに、もう一般冒険者と遜色がない、下手をしたら彼らと比べても新人冒険者とはいえない領域に達していると判断されました。あなた方それぞれがこの学校のどの生徒よりも優れているのではという評価ですね。ですのでまだ学校側では時期ではないのですが、このまま学校を卒業して一般冒険者として活動をしてみてはという意見が出ています」
ようするに、飛び級して卒業みたいなものか。
ブレンダ達は突然過ぎる話で、呆然とした感じだった。そんな生徒達を見ながらミリアレス先生は話を続ける。
「突然過ぎて中々話が飲み込めないかもしれませんが、今回の未知の遺跡の調査を学校の卒業課題とし、無事に依頼完了した場合時期外れではありますが、あなた方を正式な冒険者として認めるよう話が進んでいます」
「卒業ですか」
まだ夢うつつな感じで、ぼんやりした口調でそう繰り返す。
「ええ、これは学校側だけではなく、ギルドからも正式な依頼として発注しているものなので、詳しくはギルドにて依頼内容を確認してください。用件は以上です」
「「失礼しました」」
呆然としながらも何とか挨拶をして、みんなで食堂へと向かう。
みんな心の中ではいきなり過ぎだって感じだね。僕としてもせっかく作った拠点を失いそうで、ちょっと悩んじゃったよ。
まあ実際はそのまま隠れて生活したら、僕だけなら特に問題はないのだけれどね。
レイシア達と行動を共にするとか考えると、不都合とかも出て来る可能性もなくはない。
やっぱり、街中での拠点作りを考えておいた方がよさそうだな。そんな事を考えていた。
「みなさん、とりあえずは依頼を達成することを考えましょう。結局のところ、依頼を達成できなければこの話自体無しでしょうからまずは目の前のことに集中して、その後の事は依頼が終わった後で考えましょう」
ブレンダが自分にも言い聞かせるように、そう意見を出した。
「そうね」「だな」
みんな、とりあえずはそれで納得したようで、目前の依頼に意識を向ける事にしたようだ。




